艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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感想で編成例を書いてくれた方ありがとうございました。

駆逐3、軽巡1、航巡2が多かったんですけど、航巡は改装直後の最上しかいなかったので千代田を代役にしてます、航空巡洋艦って何気にレアな事に今更気付く。


第147話「夕月の場合6」

「ゆ、夕月…?」

 

 

差し伸べようとした手を払われた海原は目を見開いて夕月を見る、それは夕月の言葉を聞いていた吹雪たちも同様で、完全に予想外といった顔をしている。

 

 

『沈めたりしないって言ったのに、助けるって言ったのに、どうして司令殿は嘘をついたんですか、どうして私たちを裏切ったんですか!』

 

 

「…………………」

 

 

吹雪経由で告げられた夕月の言葉に海原は何も言えずに俯いた、あの沖ノ鳥島海戦で海原は三日月たちの艦隊に撤退の指示を出せず、轟沈すると分かっている死地へと追いやってしまった。

 

支援艦隊は向かっていたが時間的に間に合わないという予測も作戦本部内では立っていたし、別働隊の轟沈はほぼ確定していた、それなのに海原は絶対に沈ませないと、間に合わない可能性が高かった支援艦隊が来るという嘘を吐いた。

 

 

「夕月、すまなかった、お前を轟沈させる結果になってしまって、お前を助けられなくて、本当にごめん」

 

 

精一杯の謝罪の意思を込めて海原は頭を下げる、

 

 

『…助けると言っておきながら私たちを轟沈させた司令殿を、私は許すつもりはない』

 

 

夕月はそのまま提督室を出て行ってしまった。

 

 

「夕月…」

 

今の海原に、夕月の後を追うことは出来なかった。

 

 

「…司令官…」

 

 

吹雪たちは何と海原に声をかけていいかが分からず、その場で突っ立っていることしか出来なかった。

 

 

「…吹雪、夕月を部屋に案内してやってくれ、お前らも補給に行ってこい」

 

 

「…はい」

 

 

何も出来ない自分にどうしようもない無力さを感じつつ、吹雪たちは提督室を後にした。

 

 

「…夕月、本当にごめん」

 

 

 

 

「司令官、遠征完了です!」

 

 

夕月が来てから約30分後、三日月、雪風、大鯨が遠征から帰投して提督室に戻ってきた。

 

 

「あ、あぁ…ご苦労さん、補給して休んでこい」

 

 

海原は報告書を受け取ると三日月たちを補給に向かわせようとするが、明らかに海原の様子がおかしいことに三日月は敏感に気づいた。

 

 

「…司令官、何かあったのですか?」

 

 

三日月の鋭い指摘に海原はドキリとする、今目の前にいる三日月と雪風は室蘭時代海原の部下だった艦娘だ、当然夕月を知っている。

 

 

(俺を恨んでるって知ったら、どんなリアクションするかな…)

 

 

それが少し心配になったが、海原は吹雪たちが夕月をオモチカエリしたことを遠征艦隊に伝える。

 

 

「ゆ、夕月が…!?」

 

 

「ここにいるんですか…?」

 

 

三日月と雪風は目を剥いて驚いていた、大鯨もまた多かれ少なかれ驚いているが、理由はまた別の所にあった。

 

 

「夕月ちゃんは提督の事を恨んでるんですか?」

 

 

「あぁ、助からないって分かってるのに絶対に沈ませない、なんて嘘をついたからな…」

 

 

「そんな…だってアレは司令官のせいじゃ…」

 

 

「夕月から見れば同じ事だよ、本部では支援艦隊が間に合うかは分からないって見解だったし、三日月たちの轟沈はほぼ確定していた、なのに俺は嘘を吐いてお前らを見殺しにした、夕月が恨むのも当然だ」

 

 

海原の言葉に三日月と雪風はやるせない表情で俯いた、2体も夕月同様海原の言葉を信じて戦った結果轟沈してしまった過去があるが、海原の事は恨んでいない、彼がその嘘を吐くのにどれだけ辛い決断を強いられたか、それが理解できるからだ。

 

 

しかしどれだけきれい事で取り繕っても嘘は嘘だ、その嘘を吐いた海原にどんな背景や経緯があったかなどは夕月には関係ない。

 

 

「…私たちの方から、夕月と話してみます、私たちなら、夕月も分かってくれるかもしれませんし」

 

 

「あぁ、頼むよ、すまないな…」

 

 

「気にしないでください、司令官と夕月がすれ違ったままなのは私たちもいやですから」

 

 

三日月たちは提督室を出て行くと、一度大鯨と別れて夕月のいる部屋に向かう。

 

 

 

 

「何かいざ会うってなったら緊張するな…」

 

 

「緊張する必要なんてどこにあるのよ、昔の仲間に会うだけでしょ」

 

 

夕月のいる13号室の前で三日月と雪風は謎の緊張感に苛まれていた、海原のことを恨んでいる夕月に、自分たちは何と言って会えばいいのだろうか。

 

 

ノックをしてみたが返事が無いため、三日月はそのままドアを開けて中に入る。

 

 

「夕月…いる?」

 

 

夕月はベッドの上で体育座りをしていた、その後ろに浮かぶ“面影”はあのときの夕月の姿そのものであり、また会えたことに喜びを感じる。

 

 

『三日月…?雪風…?』

 

 

夕月は2体の姿を確認するなり立ち上がると、慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。

 

 

『三日月!雪風!本当にお前たちなのか!?』

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

「また会えたね、夕月」

 

 

三日月と雪風がそう言って笑うと、夕月は涙を流して2体に抱き付いた。

 

 

『良かった、また会えて…良かった…』

 

 

三日月たちはそんな夕月をただ優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

『…そうか、お前たちもあの後轟沈したのか』

 

 

「うん、でもその後に吹雪さんたちに助けられて、混血艦(ハーフ)だけど艦娘に戻れたの」

 

 

「もちろん司令官のおかげでもあるのよ、こんな私たちを受け入れてくれるおかげで今でも生きていられるし」

 

 

『そう…なのか…』

 

 

そう答える夕月の表情はどんよりとしたモノであった。

 

 

「…やっぱり司令官の事、許せない…?」

 

 

恐る恐るといった様子で三日月が聞くと、夕月は顔を縦に振ってそれを肯定する。

 

 

『司令殿は助かる見込みも無いのに私たちを絶対に沈ませないって嘘を吐いた、初めから私たちを沈めるためにあんな嘘を吐いたんだ、許せるわけがない』

 

 

「それは違うよ!そりゃ確かに司令官は嘘を吐いたけど、司令官だってあの嘘を吐くのにどれだけ辛かったか…」

 

 

『私の方がもっと辛かったぞ!』

 

 

三日月の言葉を遮って夕月が急に声を上げる。

 

 

『痛い思いをして!苦しい思いをして!死ぬ気でもがいたけど叶わなくて!私は轟沈した!深海棲艦になってからは誰からも敵意を向けられて!誰にも声は届かなくて!助けてと言うことすら許されなかった!これだけの目にあった私に許せと言うのか!?助からないと知りながらぬか喜びをさせるような嘘を吐いた司令殿を!?』

 

 

「それは…」

 

 

三日月は何も言えずに俯いてしまった、夕月がどれだけ辛い目にあったかは痛いほど分かる、でも海原の気持ちも分かってほしい、そんな両者の思いに板挟みになってしまい言葉が出なくなってしまった。

 

 

『…悪いが、しばらくひとりにしてくれないか?今は誰にも会いたくない』

 

 

夕月にそう言われ、三日月たちは何も言わずに部屋を後にする。

 

 

「…三日月」

 

 

「…うん、分かってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「絶対に夕月を救う」」

 

 

三日月と雪風は互いにそう心に誓うと、済ませていなかった補給をしに明石の工房へ向かう。




次回「すれ違う心」

分かってる、でもやっぱり許せないよ…

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