艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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とある少女の、二度と思い起こされることのない記憶の破片の物語。

書いたまま放置してた番外編を投稿。


番外編「片桐雪穂」

「うわぁ~、結構積もったなぁ」

 

 

辺り一面に広がる銀世界を前に少女…片桐雪穂(かたぎりゆきほ)が感嘆の声をあげる。

 

 

「昨日は寒波の影響で雪降るとか言ってたけど、ここまで降るとは思わなかったよ」

 

 

雪穂は部屋の窓を開けると、上半身を乗り出して雪景色を堪能する。

 

 

「…うへぇ、当たり前だけど寒いや、こんな日に学校行きたくないな…」

 

 

雪景色を見ることが出来てラッキーだったが、それと同時に今日が平日な事にアンラッキーな雪穂だった。

 

 

「雪穂!朝ご飯出来てるわよ!」

 

 

「はーい!今行く!」

 

 

母親に呼ばれた雪穂は朝食を食べるため、自室を出て家族の待つリビングへと向かう。

 

 

 

 

「くううぅ…やっぱり寒い…」

 

 

朝食を食べ終えた雪穂は学校へ向かうが、積雪の影響で気温がかなり低く、家を出た瞬間Uターンしたくなる衝動に襲われる。

 

 

「雪穂、おはよう」

 

 

そんなUターン衝動に耐えながら雪道を歩いていると、後ろから雪穂の友人である北瀬凛花(きたせりんか)が小走りでやってきた。

 

 

「おはよう凛花、雪積もってるのに走ったら転ぶわよ」

 

 

「大丈夫だよ、すでに一回転んでるから」

 

 

「その時点ですでに大丈夫じゃないでしょ…」

 

 

雪穂は凛花に呆れつつふたり並んで学校までの道のりを歩く。

 

 

「というか、こんな天気なのに雪穂はリアクション薄いよね、普通雪が降ったら辺り構わず走り回って喜びを表現しそうなモンだけど」

 

 

「中学生にもなって雪で騒ぐヤツなんていないわよ」

 

 

「私は騒ぐよ?」

 

 

「じゃああんたは年中脳内お花畑なのね」

 

 

「ひどーい!」

 

 

そんな何気ない会話をしながら歩いていると…

 

 

「おはよう!片桐」

 

 

雪穂と同じ中学校で先輩でもある男子生徒…鞍馬啓太(くらまけいた)に声をかけられる。

 

 

「お、おはようございます!鞍馬先輩!」

 

 

「今日もクソ寒いな、凍えちまいそうだよ」

 

 

「ほ、本当にそうですよね!私も朝から凍えそうです!」

 

 

雪穂はぎこちない様子で鞍馬と会話する、雪穂は鞍馬に想いを寄せている相手なのだが、未だにそれを伝える勇気が出ずに告白出来ないでいる。

 

 

「おっと、部活の朝練に遅れちまうな、じゃ!」

 

 

鞍馬はそう言うと小走りで去っていった。

 

 

「鞍馬先輩…いつ見てもかっこいいよねぇ…」

 

 

「出たよ雪穂の乙女モード…」

 

 

鞍馬を見てうっとりしている雪穂に凛花は呆れ顔で言った。

 

 

 

 

「よーし、それじゃこの間の小テスト返すぞ」

 

 

その日の3時間目、数学の授業で行われた小テストの返却が行われた。

 

 

「うっ…」

 

 

雪穂は自分のテスト用紙に赤字で書かれた点数に思わず言葉を失う。

 

 

「雪穂ー、数学の点数どうだった…って21点!?何この絶望的な数字!?」

 

 

凛花は雪穂の点数を見て目を見張る。

 

 

「勉強はしてたんだけど、全然出来なかったよ…」

 

 

雪穂は落胆しながら机に突っ伏す。

 

 

「でも鞍馬先輩と同じ志望校の高校に行きたいんでしょ?ならもっと点数上げないとマズいんじゃない?先輩の志望校そこそこの偏差値だって言うし…」

 

 

「そうなんだよね…よし!次の学期末テストまでになんとか挽回しよう!早速今日の放課後から勉強だー!」

 

 

雪穂はえいえいおー!のポーズをとって気合いを入れ直す。

 

 

「…というか、一緒の高校に行きたいほど好きならさっさと告白すればいいじゃん、このままなあなあでいたらいつか他の誰かが告白したりして機会を逃すかもよ、ひょっとしたら明日にでもそれが来るかもしれないし」

 

 

「そんなこと…分かってるわよ…」

 

 

それが出来たら苦労はしない、心の中でそう愚痴る雪穂だった。

 

 

 

 

 

 

 

放課後、委員会の仕事があって一緒に帰れないという凛花と別れた雪穂はひとりで下校する。

 

 

「告白、かぁ…そりゃしたいけど、やっぱり恥ずかしいよなぁ…」

 

 

そう思いつつも、今日凛花に言われた事がずっと雪穂の中で引っかかり続けていた、鞍馬は男女問わず仲良くできる人間であり、そのおかげか彼に好意を寄せる女子もそれなりにいると聞く、このままでは本当に他の誰かに先を越されるかもしれない。

 

 

「…勇気、出さなきゃな」

 

 

自分の中の憧れだけで、自分の中の片思いだけで終わるのは嫌だ、好きになったからには、何が何でも手に入れたい。

 

 

「よし、来週バレンタインデーだし、チョコと一緒に告白しよう、そうしよう」

 

 

そうと決まれば週末は材料の買い出しに行こう、などと頭の中で計画を練っていたとき…

 

 

「お、片桐じゃん」

 

 

「く、鞍馬先輩!?」

 

 

後ろから鞍馬に声をかけられた、雪穂と鞍馬は途中まで帰り道が同じなのだ。

 

 

「良かったら途中まで一緒に帰ろうぜ、部活連中がこぞって用あるって言いやがってよ、嫌だったか?」

 

 

「い、いえいえ!全然大丈夫です!はい!」

 

 

何とか平静さを保ちつつ、雪穂と鞍馬は並んで下校道を歩く。

 

 

(…き、気まずい!何か話さないと…!)

 

 

互いに無言で歩くというその空気に耐えられなくなった雪穂は、何か話題はないかと必死で頭を働かせていた。

 

 

「そういやさ片桐」

 

 

「は、はい!何でしょう!?」

 

 

「お前って、今好きな奴とかいるの?」

 

 

「…えっ?」

 

 

突然そんな事を聞かれ、雪穂は思わず思考停止してしまう。

 

 

「好きな男とか、いる?」

 

 

再び鞍馬にそう聞かれ、雪穂はどう答えたものかと悩んだが…

 

 

 

「…はい、いますよ」

 

 

出来れば、自分のこの気持ちに気づいてほしい、その密かな願いと共に雪穂はそう答えた。

 

 

「っ!!そうか…悪かったな、変なこと聞いて、今のは忘れてくれ」

 

 

雪穂の答えを聞いた鞍馬はそう素っ気なく返す、その目には一瞬だけ絶望の色が灯ったが、雪穂はそれに気づかなかった。

 

 

好きな人と一緒に帰り道を歩く、このささやかな幸せを感じる時が、少しでも長く続きますように。

 

 

そんな事を考えながら、雪穂は鞍馬と一緒に歩いていく。

 




この番外編の内容が本編に大きく関わることはたぶんないと思います。

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