艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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この前初風をつついて遊んでた所…

初風「何触ってんのよ!妙高姉さんに言いつけるわよ!」

…妙高お前のオカンかよ。


第155話「蛍の場合4」

『お前!今日レストランの前で一緒にいた男は誰だ!』

 

 

『はぁ?何の話かしら?』

 

 

『とぼけるな!ここに証拠があるんだぞ!』

 

 

『…付け回してたの?趣味悪いわね』

 

 

『そんな事はどうだっていい!こいつは誰なんだ!!』

 

 

『会社の同期よ、ご飯奢るから相談に乗って欲しいって頼まれてね』

 

 

『嘘を吐け!浮気だな!浮気なんだな!?』

 

 

『ちょっと!いきなり浮気呼ばわりは無いんじゃないの!?だったら言わせてもらうけど、昨日あなたと一緒にホテルに入っていったこの女は誰なのよ!?』

 

 

『なっ…!?隠し撮りかよ!何考えてんだ!?』

 

 

『あなたにだけは言われたくない!』

 

 

 

『………』

 

 

また始まった、隣の部屋で大喧嘩をしている両親をふすまの隙間から覗きながら、少女…姫宮朱里(ひめみやあかり)はうんざりした様子でため息をつく。

 

 

『…お腹…空いたな…』

 

 

朱里は空腹に耐えながら両親の喧嘩が終わるまで待つ、いや、正確には両親の機嫌が良くなるまで待たなければならない、両親の…特に母親の機嫌が悪いときに飯をねだるととんでもない目に遭わされる、夕飯に生ゴミを出された去年の誕生日から朱里はそれを学んだ、あの日は一晩中トイレから出られなかったのを今でも覚えている。

 

 

『だいたいお前はいつもそうなんだよ!』

 

 

『そう言うあなただって!』

 

 

喧嘩が始まってから既に一時間が経とうとしているが、両親の喧嘩が終わる気配はまるでない、多分あのふたりは自分が腹を空かしている事など気にもとめていないだろう、そして、今日が朱里の13回目の誕生日であるということも、あのふたりは覚えていない。

 

 

『…うっ…うっ…ひぐっ…』

 

 

朱里は両親にバレないように嗚咽を漏らして泣き出す、物心ついた時から両親の虐待を受け続け、朱里の心は既に壊れかけていた、もう嫌だ、うんざりだ、なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないんだ、そんな理不尽に押しつぶされそうになり、朱里は泣き続けた。

 

 

『おいガキ!さっきからうるせぇぞ!何をピーピー泣いてやがんだ!』

 

 

その時、部屋のふすまが開いて父親がものすごい剣幕で入ってきた、泣き声を聞かれたらしい。

 

 

『ちったぁ静かに出来ねぇのかよ!穀潰しの疫病神がぁ!』

 

 

父親は朱里の頬目掛けて手のひらを思い切り振り下ろす。

 

 

『きゃあっ!』

 

 

朱里は激しい痛みと共に脳が揺さぶられる感覚に襲われる、それと同時に頬がじんじんと焼け付くようにヒリヒリする。

 

 

『そもそも俺たちの仲が悪くなったのも、花李亜(かりあ)が浮気をするようになったのも、全部お前のせいだ!俺たちはただセックスがしたかっただけなのに、勝手にお前が産まれてきて、俺たちの生活を壊したんだ!お前は誰からも望まれずに産まれてきた疫病神なんだよ!』

 

 

父親は朱里を殴りながら大声でまくし立て続ける、この父親の台詞は耳にたこが出来るほど聞かされてきたが、何度聞いても朱里の心を抉る。

 

 

『…お、お母さん…助け…』

 

 

朱里は母親に助けを求めようとするが、正直期待はしていなかった、母親の人となりは虐待されている朱里を助けようともせずに薄ら笑いを浮かべているその様子を見てもらえば察しはつくだろう。

 

 

『私をお母さんだなんて呼ばないで、あんたを娘だと思った事なんて一度もないわ、あんたなんて、産まれて来なきゃ良かったのよ』

 

 

母親は朱里の助けをバッサリ切り捨て、心無い言葉を浴びせる。

 

 

『…ったく、つくづく腹の立つガキだ…!』

 

 

朱里を気の済むまで殴り続けた父親は満足したのか、アザだらけの腫れ上がった顔になった朱里を蹴飛ばして部屋の奥に追いやる。

 

 

『花李亜、このガキに飯食わしとけ、死なれたら世間体に関わる』

 

 

『分かってるわよ、とりあえずまた生ゴミでもあげときましょう、犬用のフードカップどこ行ったかしら…』

 

 

娘を虐待するときだけは仲が良くなる両親はゴミを見るような目で朱里を一別すると、ふすまを閉めて部屋を出ていく。

 

 

『………』

 

 

既に虫の息になっている朱里は虐待のダメージと空腹で、だんだんと意識が遠のいていった。

 

 

 

『…助けて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?はっ!」

 

 

曙は勢いよくベッドから起き上がると、慌てたように辺りをキョロキョロと見渡す。

 

 

「…あれ、私…」

 

 

なぜ自分はベッドで寝ていたのだろうか、曙はボーッとする頭を働かせて記憶を整理する。

 

 

「…あぁ、そっか…」

 

 

確か三日月たちから逃げるように大浴場を後にして、その足で自室のベッドに潜り込み、そのまま眠ってしまったのだった。

 

 

「そう言えば何か夢を見てたような気がするけど…何だったっけ…?」

 

 

曙は夢の内容を思い出そうと記憶の糸を手繰り寄せてみるが、内容が全く思い出せない。

 

 

「あれ…?何で私…」

 

 

夢の内容は思い出せないのに、曙の目からは涙がとめどなく流れ落ちていく、まるで覚えていない夢の内容に反応していたかのように…。

 

 

「何なのかしら…」

 

 

いまいち腑に落ちない感覚だが、このまま二度寝するような気分でもなかったので曙はベッドから降りる、ふと窓の外を見れば外はすっかり暗くなっており、空には金色の月が顔をのぞかせていた。

 

 

「23時かぁ…もう誰もいないわよね…」

 

 

別に人恋しくなったわけではないが、そんな事を呟きながら曙は自室を出て提督室に向かう。




次回「葛藤」

灰色で何が悪い。
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