艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
…てか最近ネットでよく見る「○○なフレンズなんだね!」の元ネタってもしかしてコレか…?
時は少し遡り、曙が大浴場を出て行ってから10分後の提督室。
「…そうか、曙がそんな事を…」
事の顛末を聞いた海原は何とも言えない表情でふむ…と息を吐く。
「でも、曙の反応が一番自然だと思いますよ、今までが都合よく行き過ぎていただけで、普通はああなると思います」
吹雪はそう言っているが、その表情はやはり浮かないものであった。
「…こう言ってはなんたが、曙は少し変じゃないか?他人から触られるのを極端に嫌がったり、司令殿や我々に数々の暴言を吐いたり、普通じゃないと思うんだが…」
「それについてなんだがな、俺は曙の前世に何か関係があるんじゃないかと考えている」
夕月の疑問に海原がひとつの可能性を出す。
「前世…ですか?」
「あぁ、まず曙の他人に触られたくないという部分だが、触ろうとしたときに何かに怯えるような表情を見せるんだよ、民間人に買われてた時に暴力を振るわれた様子もない、なら前世で何かしらのトラウマがあると思うんだ」
「なるほど…」
「そして暴言についてだが、俺も曙には色々辛辣な言葉を投げられた、でもいずれの言葉も曙の本心とはどこか違う気がするんだよな」
「つまり、思ってもいないことをつい言ってしまってる…と?」
「思ってもいない…とはまた違うと思うんだ、何て言ったらいいか分からないが、本心だけど本心じゃない…みたいな?」
「ふむ…なるほどな、ところで司令殿、ひとつ聞きたいことがある」
「何だ?」
「…前世とは何だ?」
その後、前世の説明を受けた夕月と大鳳がひとしきり驚いていたのは言うまでもない。
◇
「…というわけで、曙の前世について聞きたいんです」
吹雪たちを部屋に返した後、海原は榊原に電話をかけ、曙の前世について聞いてみた。
『前世か…本当はそういう話はかなりデリケートだから易々とは教えられないが、海原君になら特別にいいだろう』
艦娘の前世の話はプライバシーや諸々の事情で簡単には教えてくれない、というのは海原も知っていたのでダメもとだったのだが、案外軽い感じで教えてくれた。
「自分で言うのもアレですけど、所長って随分俺を高く買ってますよね、そんな出来た人間でもないのに」
『いや、実際海原君は信頼できる人間だよ、初めて前世の情報を教えたときからそれはさらに強まった』
「…?」
榊原の言わんとしている事がいまいち理解出来ず、海原は首を傾げる。
『俺が前世の情報を公開しなかった理由はもう一つある、それは知り合いが艦娘になっている可能性があることを知られないようにするためだ』
「知り合い…ですか?」
『艦娘は人間の死体から作られた
「…自分の知っている人間が艦娘として生きているか調べ回って、最悪会いに行く…?」
榊原の問い掛けに海原がそう答えると、榊原はそれを肯定する。
『たとえその艦娘が前世で知り合いだったとしても艦娘である今は“他人”だ、当時の記憶も人格も何一つ残っていないから当然その人のことを艦娘は覚えていない、そんな状態の艦娘に人間が会いに行ってもトラブルになるだけだ、だから前世の情報は何一つ公開していないんだよ』
「…なら尚更ですよ、どうしてそんな重大な情報を俺に?」
『ふむ、ならば逆に聞こう、海原君は艦娘の前世に関する情報を聞いて、俺にそう言うことを調べてもらおうと思ったことはあるかい?』
榊原にそう聞かれ、海原は言葉に詰まる、その質問の答えは正直に言えばYESだ、かつての自分の知り合いが、友達が、家族が、もし艦娘として再び生を受けているのであれば、是非とも見てみたい、でも…
「…はい、全くないと言えば嘘になります、でも、それは知ってはいけないことだと思うんです」
それをする事は許されない、海原は自然とそれを理解していた。
「たとえ死んでしまった人が艦娘として生きていたとしても、もうそれはその人じゃない“他人”です、俺の家族や友達は死んだんです、もう二度と起きあがってくることも話すこともない、俺はそれを認めなければいけないんです、死んだ事実を認められずに故人の面影を艦娘に重ねるのはただの馬鹿ですよ」
海原のその答えを聞いた榊原はそうか、と言って短く息を吐いた、顔は見えないのでその表情はうかがい知れないが、おそらく笑っているだろう。
『…やっぱり君を信じて正解だったよ、そう言ってくれる君にだからこそ、信じてこの情報を教えられるんだ』
「…もったいないお言葉、ありがとうございます」
榊原から多大な信頼を得ている事を改めて自覚した海原は、嬉しくなるのと同時にその信頼を裏切らないように行動しようと心に誓う。
『これから君に言う曙の前世の情報は他言無用だよ、吹雪たちになら話してもいいけど、話すときは慎重にね』
「了解しました」
海原がそう返事をすると、榊原は言葉を選ぶように慎重に話し始めた。
『曙の前世の名前は姫宮朱里、年齢は13才で中学一年生の女の子だ』
「13才?結構な早死にですね、事故にでもあったんですか?」
海原が死因について尋ねると、榊原は少し考えるように間を空ける。
『それが…その死因なんだけどね…』
やがて榊原は言い辛そうに言葉を紡ぐと、決定的な事実を口にする。
『姫宮朱里は、実の両親に殺されてるんだよ』
「…は?すみません所長…今、何と…?」
『…姫宮朱里は、実の両親に殺されている、保険金目当てでね』
榊原の口から聞かされた曙…朱里の死因を聞いた海原は言葉を失ってしまった。
『君が動揺するのも無理はない、現に俺もこれを聞いたときは自分の耳を疑ったよ』
そう言って榊原は力無く笑う。
『おまけに朱里は幼い頃からDVや
「つまり曙の攻撃的な態度や言動は…」
『虐待や
榊原の見解を聞いた海原は顎に手を添えて考えを巡らせる、曙の前世…朱里は日常的に両親から虐待を受け、最終的には殺された、今の曙の性格が前世の影響を受けているのであれば、自分はどんな事が出来るだろうか…?
その後も朱里についての情報を榊原から聞いたが、思わず耳を塞ぎたくなるような事ばかりだった。
「…ありがとうございました、後は俺の方で色々考えてみます」
『そうか、くれぐれも慎重にするんだよ、前世の記憶に無闇に突っかかると、取り返しのつかないことになりかねないからね』
「分かりました、肝に銘じます」
海原は電話を切ると、ふぅ…と大きく息を吐く。
「曙の前世…か、川内の時よりも闇が深そうだな」
誰もいない提督室で、海原はそっと呟いた。
「今の話は…?」
その扉の向こうで、曙が海原と榊原との会話を部分的に立ち聞きしていたことに気付かずに…。
次回「叶わなかった邂逅」
昨日の味方は今日の敵。