艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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今回の蛍編は少し長くなりそうです。

あとこの小説では“珍しく”シリアスな展開になりそうです(すっとぼけ。

艦これアーケードのイベント海域の続報が出ましたが、色々ヤバいですね、装甲ギミックに至近弾(砲撃サークルの直撃を避けても余波でカスダメ受ける)とか難易度の跳ね上がりようがすげぇ。


第158話「蛍の場合7」

「まさか今日遭遇した深海棲艦が蛍…曙の親友だったとは、これは少し困ったことになりましたね」

 

 

「ん?どう言うことだ?」

 

 

首を傾げる海原に、吹雪は今日の出撃での事を話す。

 

 

「なるほどな、曙が深海棲艦化した蛍に罵詈雑言を浴びせた…と」

 

 

「蛍は深く心傷ついた様子で泣きながら逃げていきました、再び現れるかは分かりません」

 

 

「そうか、なら今回は中々苦戦しそうだな…」

 

 

海原は小さくため息をつくと、パソコンを立ち上げて文書を作成する。

 

 

「何を作ってるんですか?」

 

 

「曙に関する考察だよ、前世の記憶と今の性格との関係とか、俺なりの考えを書いていってるんだ、こういう情報は整理しておくと考えがまとまりやすい」

 

 

「ほぇ~、提督みたいな事するんですね」

 

 

「提督だからな」

 

 

そんなのどかなやり取りをしつつ、海原はキーボードをカタカタと打ち、吹雪は書類仕事を進めていた。

 

 

 

 

 

 

「…おっと、もうこんな時間なのか」

 

 

気付けば時刻は午後9時を回っており、吹雪も書類仕事を終えて文庫本を読んでいた。

 

 

「そろそろ飯行くか、てか先に食ってて良かったんだぞ?」

 

 

「いえ、私は司令官の秘書艦ですから、司令官のお側にいることが仕事です、それに二人きりにもなれますし」

 

 

「…お前秘書艦の意味わざと履き違えてないか?」

 

 

「気のせいですよー」

 

 

そんな吹雪の棒読みな返事に半ば呆れつつ、海原は吹雪を連れて食堂に向かう。

 

 

 

 

 

「クソ提督、ちょっといいかしら?」

 

 

海原たちが提督室を出て5分程が経った頃、曙が提督室に入ってきた、当然食事に行っているので誰もいない。

 

 

「…いないわね」

 

 

昨日の会話の内容について問いただしてやろうか、などと考えながらやってきたのだが、肝心の当人はいなかった。

 

 

「仕方ないわね、書き置き残して部屋でゲームでも…」

 

 

曙は海原の机にあったメモ帳から一枚抜き取ると、話があるので後で呼べ、と書いてキーボードの上に置いておく。

 

 

「…ん?」

 

 

すると、曙はパソコンの電源が入れっぱなしになっていることに気づく。

 

 

「ったく、こういう所で抜けてるんだから…」

 

 

曙はため息を吐きながら何気なしにパソコンのディスプレイを見やる。

 

 

『曙に関する考察』

 

 

「…えっ?」

 

 

そこには書きかけの文書が表示されており、タイトルには自分の名前が書かれていた。

 

 

 

「…ちょっとだけ、ちょっとだけだし…」

 

 

見てはいけないものだというのはすぐに気付いたが、自分の名前が書いてあるという事に対する好奇心に負けてしまい、曙は文書に目を通す。

 

 

「えーと、何々…?」

 

 

曙は文書を読み進める、読み進めて読み進めて読み進めて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督室を飛び出した。

 

 

その足で自室に駆け込むと、ベッドに潜り込んで身体をガタガタと震わせる。

 

 

「…何よあれ…!何なのよあれ…!?」

 

 

未だに脳裏に焼き付いている文書の内容がぐるぐると頭の中を回る。

 

 

『現在曙は極端に攻撃的な態度や特定の仕草に対して拒絶反応を起こすといったやや不可解な点がいくつか見受けられる』

 

 

『この不可解な点の原因について色々な可能性を考えた結果、曙の前世…姫宮朱里の記憶が影響しているのではないかというのが個人的には有力だ』

 

 

『姫宮朱里は生前両親から虐待を受け、その末に殺害されている、その時の記憶が現在の曙に何かしらの影響を及ぼしているのではないかと俺は考えている』

 

 

『別段日常生活に致命的な悪影響が及ぶ訳ではないが、仮にこれが戦闘行為などの妨げになりうる場合…』

 

 

『然るべき対応をする事も考える必要がある』

 

 

 

「そもそも私って人間だったの…?それに両親に殺されたってどういうこと…!?てか然るべき対応って何なの!?」

 

 

曙の中に良くない考えがぐちゃぐちゃと渦巻き始める、そして行き着いた最悪の結末が…

 

 

 

「もしかして私…解体されちゃうの…?」

 

 

曙は勢い良くベッドから起き上がると、自分の両腕を掴んで身を震わせる、提督に対する態度は最悪、その上まともにコミュニケーションやスキンシップが出来ず、それが戦闘に影響するとなれば役立たずもいいところだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、解体されるのだけは嫌だ。

 

 

 

いや、それよりも曙が一番衝撃を受けた事がある、文書の最後に書いてあった一文だ。

 

 

『曙が深海棲艦化した蛍に辛辣な言葉を浴びせたらしく、蛍への再接触をはかる必要があるだろう』

 

 

ここの文面を読んで曙は吹雪の言っていたことを思い返す、吹雪たちは“轟沈した艦娘”の“面影”を見ることが出来る、と。

 

 

…ならば同じく轟沈した蛍も深海棲艦として彷徨っているのではないか?。

 

 

そして今日自分はその深海棲艦になった蛍に言ったのではないか?お前は敵だ…と。

 

 

「っ!?」

 

 

その事実を自覚した瞬間、曙は部屋を飛び出してトイレに駆け込み、思い切り吐いた。

 

 

 

「ぅおぇ…!オボェ…!」

 

 

自分が蛍に敵だと言ってしまった、その事実を自覚すればするほど胃を雑巾絞りされたかのような猛烈な吐き気に襲われ、吐瀉物を口からぶちまける。

 

 

(私が…蛍に言った…私が…蛍に砲を向けた…私が…私が…!私が!)

 

 

親友にしてしまった事に対する途方もない罪悪感と、これから自分がどうなってしまうのかという途方もない不安感に押し潰されそうになり、曙は更に吐き続けた。




次回「憔悴(しょうすい)

心は簡単にすり減り、壊れていく。

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