艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
…そう言えば明日って4月1日ですね(フフフ
『ちょっと!靴下を洗濯機に入れるときは裏返った状態で入れないでっていつも言ってるでしょ!?』
『うるせぇな!お前はいつもいつも細けぇんだよ!』
『何よその言い方!』
いつものように繰り広げられる夫婦喧嘩に朱里は隣の部屋で耳を塞いで体育座りをしていた、夫婦喧嘩は犬も食わないという言葉を以前国語の授業で聞いたことがあるが、これは犬が食ったら即死レベルの劇薬だろう。
『…くそっ!あいつは何だって…!』
すると父親…
『あ?何だよその目は?』
突然入ってきた勝己にびっくりした朱里は思わず勝己の方を見た、しかしそれが勝己の神経を逆撫でしてしまったらしい。
『えっと…いや…別に…』
『何だその目はって聞いてるんだ!』
勝己は朱里に思い切り平手打ちを食らわせ、朱里の胸ぐらを掴む。
『テメェのその目はいつも気に入らねぇんだよ!このガキが!』
勝己は朱里の顔を容赦なく拳で殴りつける、すでに意識朦朧の状態であるが、勝己は構わず殴り続ける。
(…そう言えば、お父さんから名前を呼ばれた事、一度も無いな…)
そんなやや場違いな思い出と共に、朱里は気を失ってしまった。
◇
「…はっ!?」
曙はベッドから勢い良く飛び起きる。
「…今の夢は…!?」
曙はまた涙を流しながら今の夢の内容を思い返す。
「今のが、姫宮朱里…?人間だったときの私…なの?」
曙がそこまで考えたとき、はたと気づいた。
「あれ?私…夢の内容を覚えてる…?」
今までは何も思い出せずにただ涙を流すだけだったのに、今朝は夢の内容をしっかりと覚えていた、昨夜海原の文書を読んで前世の事を知ったからなのだろうか?。
「…あの子が朱里の記憶…あんなの、辛すぎるよ…」
曙は掛け布団をぎゅっと握り締め、自分の前世の少女に同情するのと同時に、これからあんな夢を見続ける事になるのかと不安になる。
海原に相談してみようかと考えたときもあったが、すぐにその案は捨てた、もしそれを相談すれば、自分が海原の文書を勝手に見たことがバレてしまう、それこそ厳罰モノだろう、かといって吹雪たちに相談しても結局は海原に話が行ってしまう、それに
「…どうしよう、どうしたら…」
考えれば考えるほど頭の中はぐちゃぐちゃになって纏まらない、結局曙は自分で抱え込むという選択肢しか選べなかった。
「…お腹空いた」
腹が鳴った事に気づき、ぐちゃぐちゃなまま考えることを放棄した曙は食堂へと向かった。
「…まだヒリヒリするや」
食べたものと胃酸を吐きすぎて喉が焼け付くような感覚に襲われながら…
◇
「あ、おはよう曙」
食堂に入ると、吹雪と明石が朝食を取っていた。
「…おはよう」
誰かと話す気になれない曙は挨拶だけ返してカウンターへ向かう。
「おはようございます曙さん、今日は唐揚げ定食です!」
大鯨がご飯に味噌汁、そしてメインディッシュの唐揚げが乗ったトレイを差し出す。
「…ありがとう」
曙は抑揚の無い声でトレイを受け取ると、近くの席についてもそもそと食べ始める。
「(…ねぇ、何か曙の様子、変じゃない?)」
「(そうだね、昨日戦闘中に一悶着あったって言うし、それを気にしてるのかもな…)」
「(そうかなぁ…?曙の性格的にそれは無いと思うんだけど…)」
「(なら何か別の原因があるとか…?)」
昨日とは明らかに曙の様子が違うことに気付いた吹雪と明石、思い切って本人に聞いてみることにした。
「なぁ曙」
「……」
明石が声をかけてみるが、ぼーっとしているのか返事がない。
「曙~?」
「…へあっ!?な、何よ明石さん!?」
2回目の声かけで気付いた曙は、ビクッと椅子から少し飛び上がって明石を見る。
「いや、何だか様子が変だと思ったから、何かあった?」
「…別に何もないわよ」
それを指摘された曙は気まずそうに顔を逸らす、昨夜のことはとてもじゃないが誰かに言う気にはなれない。
「え~?そんなわけ無いだろ、どう見ても様子おかしいもん」
「何でもないって言ってるでしょ!」
急に声を荒げた曙に明石が驚いて半歩下がる、曙はそれに気付くと、また気まずそうに顔を逸らす。
「…何かあるなら相談に乗るよ?私たち、曙の仲間だから…」
「うるさいわね!半端モノのあんたたちには到底分かんないような事なのよ!構わないでくれる!?」
曙は大声で明石に向かってまくし立てた。
「あ…」
やっちまった、曙がそれに気付いたときには既に遅かった。
「おやおや、曙は今日はご機嫌斜めなようだ、まぁそんな日もあるよね」
しかし明石はそう笑って曙の発言を流した。
「…ちが…私…そんな…」
曙は震える声で弁明を試みようとしたが、言葉が出てこない、何とか言葉を絞り出そうとするが、乾いた雑巾のように何も出てこない。
「勢いで何かを言ってしまうのは誰にだってあることさ、気にしない気にしない」
しかしそんな曙を明石は何も言わずに許した、なぜ許せるのだろうか、自分はあんな事を言ってしまったのに、しかも明石は
「っ!!」
とてつもなくいたたまれない気持ちになった曙はそのまま食堂を飛び出していってしまった。
「…絶対に何かあるな」
「…そうだね」
◇
食堂を飛び出した曙はあてもなく廊下をさまよい歩く、今日の自分のスケジュールは出撃も遠征も入っていない、このまま気ままにブラブラと過ごそうか、などと考えていたとき…。
「よっ、曙」
海原が廊下の向こうからやってきた。
「………」
曙はそれを無視して行こうとするが、海原が曙の手を掴んで止める。
「どうした?何かあったのか?」
「…何でもないわよ、離してくれる?」
「何でも無いって事はないだろ、何かあるなら話してみろ」
「何も無いっていってるじゃない!何でどいつもこいつも私にしつこく構うのよ!」
急に激情した曙に面食らう海原、そんな彼を曙は無視してさっさと行ってしまう。
「…どうしたんだ…?曙のやつ…」
◇
その日を境に曙は前世の記憶の夢を見ることが多くなっていた、ほぼ毎晩のように虐待の夢を見続け、それを誰にも相談できない日々が続いていた。
「…また…か」
いつものように泣きながら目を覚ました曙はのそりと起き上がり、着替えを始める、何度も何度も夢の中で虐待され続けた曙は精神的にかなり参っている状態だった、それによってストレスも溜まっていき、それを他の艦娘や海原に当たってしまうこともしばしばあった。
「…どうしたらいいのよ、本当に…」
本当は全部ぶちまけて楽になりたい、でもそうしたら機密情報を知った罪で罰せられるかもしれない、それに海原の文書に書いてあった“然るべき対応”…これがずっと曙の中で引っかかっていた。
「…やっぱり解体されちゃうのかな」
本当はそうじゃないのかもしれない、でも今の曙はそれ以外考えられない程ネガティブになっていた。
そんな調子で頭を悩ませていたとき、ふとある疑問が頭を過ぎる。
「…ん?待って、クソ提督が私を解体する主な理由って、私の前世の記憶やそこからくる態度…なのよね?」
そこから数分程思考の海に身を沈めた曙は、ひとつの答えに行き着く。
「…そっか、簡単な事じゃない」
解体を回避する方法、それはとてつもなく簡単なことだった…
◇
「…ねぇ、やっぱり最近の曙おかしいよ」
「そうですよね、やはり
「…あ、曙さん来ましたよ」
「おはよっ!みんな!」
答えは簡単だ、
次回「
自分騙してまで好かれたいの?