艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
ここの所遠征要因だった村雨がレベル20になったので改装したらグラフィックが変わった、正直言って男を知ったような見た目になってた、絶対こいつ処女じゃない。
「…えっ?」
曙のあまりの変わりようにその場にいた全員が困惑する。
「大鯨さん、今日のメニューは何ですか?」
「えっ?は、はい!今日は洋風でベーコンエッグにトーストです!」
「わーい!大鯨さんの洋食って美味しいから好きなんですよ」
曙はトレイを受け取ると、近くの席に座ってトーストを頬張る。
「(…本当に曙どうしちゃったの?)」
「(頭でも打ったとか?)」
「(もしくは、自分の中で何かが吹っ切れたとか?)」
「何話してるの?」
吹雪たちがひそひそ話をしていると、曙がコーヒー牛乳(ホット)のカップ片手にこちらに聞き耳を立てていた。
「へっ!?い、いや~、今日の曙が随分ご機嫌だから、何か良いことでもあったのかな~って…」
明石がそう言うと、曙はにっこりと笑ってそれに答えた。
「そうよ、ここの所ずっと悩んでた事があったんだけど、それがすっきり解決したの!中々解決しなくてイライラしちゃってたんだけど、キツく当たっちゃってごめんね」
「へ、へぇ、そうなのか…」
あまりにも明るいテンションの曙に面食らう明石、しかし曙の悩みが解決したのならそれは良いことなのだろう、
「本当に気分が良いわ~、朝食がいつもより美味しい!」
曙は残りの朝食の飲み込むと、手早く食器を片付けて食堂を出て行った。
「…本当に解決したと思う?」
吹雪の問いかけに、残りの艦娘は揃って首を横に振った。
◇
「ク…提督!おはよ!」
続いて曙は提督室にやってきた、とびっきりの明るい挨拶で部屋に入ってくる。
「お、おう、随分と機嫌が良いな…」
「そうなのよ、ずっと悩んでたことが解決したから最高に気分がいいの!」
曙はルンタッタ♪…といった効果音が聞こえてきそうなルンルン気分で小躍りする。
「…お前、本当に解決したのか?」
しかし海原はそんな曙の目をじっと見つめる、その瞳の奥に見えるのは晴れやかさではなく、重苦しい鉛色の曇天模様だったからだ。
「解決したに決まってるじゃない!今日の私はとってもご機嫌よ!」
気持ち悪いくらいにハイテンションの曙を見て疑心を深める海原、しかし曙はそんな海原の心情などどこ吹く風といったように提督室を出て行く。
「…あいつ、大丈夫なのか…?」
◇
「おええぇぇ…」
それから数時間後、曙はトイレの個室にこもり、食べたばかりの昼食を全部吐き出していた、自身の心と
「…ダメだ、これぐらいで根をあげたらダメだ、愛想良く振る舞わないと、クソ提督に好かれないと、解体される…!それだけは嫌だ…!」
口元を吐瀉物塗れにしながら涙目で咳き込む曙、以前までは解体されてもいいや…などと考えていたが、今は解体される訳にはいかない。
「…蛍に会いたい、たとえ深海棲艦になってたとしても会いたい、だからまだ解体される訳にはいかないんだ…!」
しかし、深海棲艦になった蛍に会うには吹雪たちの協力が不可欠だ、しかし一度はああ言ってしまった手前頼みづらいのが現状だ、それに頼んだとしても吹雪たちが承諾してくれるとは限らない。
「そのためには何としてもこの鎮守府の艦娘からの好感度を上げておかないと…!もっと好かれるように…!もっと愛想良く…!」
そう強く思えば思うほど、吐き出す吐瀉物の量が増えていった。
◇
曙が急に愛想良くなってから5日が経った、相変わらず曙は愛想良く振る舞っているが、確実に心身ともに弱っていた。
変わらず前世の悪夢は毎晩のように見続けるし、それに加えて自分を殺して明るく振る舞う心と
「おはよ!吹雪!」
「お、おはよう…」
不自然なくらいに明るい曙の挨拶に吹雪は顔をひきつらせながら返す、本人が自覚しているかどうかは知らないが、その顔色は日に日に悪くなり、やつれてきている。
「…ねぇ曙、本当に何があったの?私で良かったら力になるからさ、だから話してみてよ」
流石に見ていられなくなってきた吹雪が曙の手を握ってそう言うが…
「何言ってるのよ吹雪、私に悩みなんて無いわ、元気元気!」
曙はそう言ってガッツポーズをするが、それがそれが虚勢だというのは誰が見ても明らかだった。
「あ、そろそろ遠征行かないと!じゃあね!」
曙はそのまま小走りで行ってしまった。
「…あんた、今日は出撃も遠征も予定入ってないでしょ、それに艦娘のスケジュール管理してるの私と司令官だってこと、知ってるよね?それにすら気が回らないほど憔悴してるってことなの…?」
◇
「…えーっと、クソ提督の文書フォルダーは…これね」
その日の深夜、曙は提督室に忍び込んで海原のパソコンをこっそり弄っていた、目的は海原が作成している自分の考察文書だ。
「…やっぱり続きが作成されてるわね」
曙は早速文書に目を通した。
『最近の曙の精神状態に異常が見受けられる、具体的な例を上げるなら、明らかに無理をして笑顔を作っていたり、何か苦しいことがあるのに無理やり押し込めて明るく振る舞っていたり、どうにも心と行動が
『仮にこれも前世の影響なのであれば、早急に手を打つ必要がある、然るべき対応を行う日も前倒した方がいいだろう』
「…うそ」
ディスプレイに表示された文書を見た曙は凍りついたように動けなくなり、それと同時に全身の血管にドライアイスをぶち込まれたかのような悪寒に襲われた。
「…あれだけ…愛想良く振る舞ってたのに…それでも…ダメだって言うの…?これだけ…自分を殺したのに…それでも足りないの…?」
曙は消え入りそうな声でそう言いながら身を震わせる。
「うっ…!」
曙は今日何度目になるか分からない吐き気に襲われ、手早くパソコンの電源を落としてトイレに駆け込む。
「おげええぇぇ…」
胃の中の夕食をほぼ全て戻した曙は口から涎と胃液をダラダラと垂らしながら脳をフル回転させる、何とか解体を免れる方法は無いのか、手っ取り早く海原に気に入られる方法は無いのか…。
「…やるしかない」
散々悩んだ挙げ句、曙は自分の中の最後の手段を取る事を決めた、自分が考えられる中でも最も効果のある、最悪の手段を…。
◇
「…提督」
次の日の夜、海原がひとりで書類仕事をしていると、曙が静かに提督室に入ってきた、なぜか室内だというのに厚手のコートを着ている。
「ん?曙か、こんな時間にどうした?もう日付が変わるぞ」
「…提督にご奉仕しようと思って」
曙はぼそぼそと呟くように言うと、海原の所までフラフラと歩いてくる。
「奉仕?お茶でも淹れてくれるのか?それとも肩でも揉んでくれるとか?」
ここの所曙の様子が変だったので、こうして自ら歩み寄ってくれることにうれしくなった海原はそう言って曙に聞く。
「…やだなぁ提督、こんな時間にするご奉仕なんて…ひとつしか無いでしょ…?」
そう言って曙は羽織っていたコートを脱ぎ捨てる。
「っ!?」
この時、海原はつい10秒前の自分と過去の自分をぶっ殺してやりたいと心から思った、なぜ曙の様子をもっとよく見ておかなったのか、なぜ無理矢理にでも聞き出そうとしなかったのか、そんな後悔だけが一気に押し寄せる。
「…夜のご奉仕…させていただきます…」
そう言って迫ってくる曙は、下着も何も身に付けていない全裸だった。
「提督…私の身体で、思う存分気持ち良くなってくださいね」
死んだ魚のように濁りきった目で見つめられた海原は、恐怖という感情に全身を支配されていた。
次回「色仕掛け」
漂う色香は腐敗の香り。