艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「昨夜は申し訳ありませんでした!」
提督室に入るなりそんな事を良いながら土下座をする曙を見て、海原は口をポカンと開けて見ていた。
「あの時は私の早合点で提督に大変なご迷惑をおかけしてしまいました、お詫びのしようもございません!」
どうやら昨日のセックス紛いの事を謝罪しているようだ。
「別に気にしてないよ、あの時はお前の変化に気付いてやれなかった俺に落ち度があるんだから、お前が責任感じる必要は無いさ、だから顔上げろ」
海原はそう言って曙の行動を許した。
「…ありがとうございます、提督」
曙は立ち上がって海原に敬礼する。
「別に無理に畏まらなくてもいいんだぞ?敬語なんて使わなくても良いし、今まで通りクソ提督で呼んでみろ」
海原の言葉に曙は首を横に振って答える。
「もう過去を理由に甘えるのは止めにするって決めたの、過去に捕らわれて自分勝手に振る舞っていた私を、あなたは叱咤することなく救ってくれた、あなただけじゃない、ここの艦娘たちにも私は大きすぎるほど迷惑をかけた、でもみんなは私の事を心配してくれた、私はそんなみんなの恩に報いたいの、タメ口でいいならそうするけど、それでも私はそんなあなたに尊敬と敬意を持って接するわ、提督」
曙はそう言うと、再び海原に敬礼をする。
「…そうか、何があったかは言及しないが、お前もずいぶんと成長したな」
海原はそう言って曙の頭を撫でようとするが、すぐに慌てて手を引っ込める、曙が着任した初日に撫でようとしてトラウマを呼び起こしてしまったからだ、また同じ事をしてしまえば本末転倒だろう。
「………」
しかし曙はそんな海原の思いとは反対に、頬を赤らめて少し背伸びをする、まるで撫でてほしいと言っているかのように…。
「…これから改めてよろしくな、曙」
それを察した海原は曙の頭に手を置き、優しく撫でる。
「はい、よろしくお願いします、提督」
曙は心底満足そうな笑顔で、そう返した。
ちなみにこのすぐ後に吹雪にこの光景を見られ、しばらくいじられたのはまた別のお話。
◇
海原とのやりとりの後、曙がDeep Sea Fleetのメンバーを提督室に集めてほしいとお願いをしたので、海原が放送をかけて吹雪たちを提督室に集合させた。
「どうしたのさ曙、話がある…なんて急に畏まって」
集まったDeep Sea Fleetを代表して吹雪が曙に聞く、一方で吹雪にそう聞かれた曙は、Deep Sea Fleetを前にして腰を折り…
「蛍を助けるのに協力してください!」
そうお願いをした。
「蛍を…?」
突然そんな事を言われて固まってしまう吹雪、他のメンバーも同様に困惑しているようだ。
「私は前、深海棲艦になった蛍を助けようとした吹雪たちにひどいことを言った、それだけじゃなく蛍にもひどいことを言ってしまった、私がこんな事を頼める立場じゃ無いって事は分かってる、だけど私は蛍を助けたいの、だからお願い!蛍を助けてください!お願いします!」
曙は再び土下座をして吹雪たちにお願いをする、あんな事を言っておきながら今更虫のいい発言だというのは重々承知している、でもどうしても蛍を助けたい、
「…本当に、曙ってバカだよね」
「…えっ?」
予想とは違った返答が返ってきたので、曙は顔を上げる。
「曙はもう私たちの、台場鎮守府の仲間なんだよ?仲間を助けるのに一々お願いしたり土下座なんてしなくてもいいじゃん、それに蛍は元々助けるつもりだったし、逆に曙が協力してくれるなら願ったり叶ったりだよ」
「そうよ、過去は過去、お互い水に流しましょ」
吹雪たちは誰一人曙の事を咎めず、笑ってそれを許してくれた、その優しさに、曙は自然と涙を流していた。
「ほらほら、泣いてる場合じゃないよ、蛍を助けるんでしょ?だったらみんなで力を合わせて頑張ろうよ!」
「そうですよ、曙さんはもう私たちの仲間なんですから、一緒に頑張りましょう?」
泣いている自分を優しく励ましてくれる吹雪たちに、曙は胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じた、初めて感じる仲間という雰囲気が、とても心地よくて、暖かかった。
「…うん!よろしく!」
この時、曙はようやく本当の帰るべき
◇
「それじゃあ曙、敵艦隊に蛍の“面影”がいたらそれ以外の敵艦を排除して蛍だけの状況を作る、そうしたら私たちが通訳になって曙が蛍と会話をする、この作戦で行くけど、問題は無い?」
「えぇ、問題ないわ、必ず私が蛍を
その日の午後、蛍の手掛かりを探すためにDeep Sea Fleetは戦闘海域へ出撃していた、今回の布陣は吹雪、曙、篝、夕月、マックス、大鳳だ。
今回の出撃先は前回蛍の“面影”を見かけたのと同じ戦闘海域の地点だ、蛍がまだこの付近を彷徨っているのであれば、再び会敵する可能性は十分にある。
「…蛍と話すの、怖い?」
出撃してからずっと不安そうな顔をしている曙に吹雪が聞く、曙は首を縦に振って答えた。
「私は蛍にひどいことを言った、砲を向けて敵だと言った、知らなかったとはいえ、蛍を心傷つけたのは変わりないよ、そんな私の話を蛍が聞いてくれるのかが、不安で…怖い」
蛍にあってもいないのにすでに泣きそうになっている曙の手を、吹雪が握る。
「大丈夫だよ、ちゃんと気持ちを込めて話せば、きっと蛍にも気持ちは伝わるよ」
「…うん、ありがとね、吹雪」
そう励ましてくれる吹雪を見て、曙も自然と笑顔になる。
「電探に反応あり!艦娘の反応が4体に敵艦の反応が1体、交戦中の艦娘だと思われます!」
篝が電探の反応を艦隊全体に伝える、どうやら敵と交戦している艦娘の艦隊が近くにいるようだ。
「…ひょっとしてこの敵艦が蛍なんじゃ…?」
「一応、遠目で確認だけしてみようか」
Deep Sea Fleetは交戦中の艦娘部隊のもとへと進路を変え、進んでいく。
◇
「…まさか」
「本当に蛍だとはね…」
悪い予感ほど当たるというが、出来ればこういう予感は当たってほしくないものだと吹雪たちはため息をつく。
吹雪たちの目の前では深海棲艦と戦闘をしている艦娘部隊がいる、それ自体は別に気にするような光景ではない。
問題なのはその艦娘部隊が相手取っている深海棲艦が蛍の“面影”持ちだという所だ。
「…どうしようか、余所の艦娘がいるなんて初めての事態だし、かといって諦めるなんて事も出来ないし…」
「見た感じ蛍の方も体力的に限界みたいだから、決断するなら急いだ方がいいわね」
吹雪とマックスが口々に言い合う、蛍は艦娘たちの攻撃をよけながら逃走の機会をうかがっているようだが、すでに蛍は大破相当のダメージを負っており、撃沈も時間の問題だ。
「この際あの艦娘どもを撃ち取って蛍との会話に持って行けば済むのではないか?」
「いやいや、流石によその艦娘と事を構えるのはマズいんじゃ…」
そんな事をぐちぐちと話し合っている時、曙は見てしまった、艦娘部隊の中にいた空母の艦娘が艦載機を放ち、蛍に目掛けて攻撃を仕掛ける光景を…
「駄目ええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
そこからは本能だった、曙は吹雪たちの制止を振り切り全速力で蛍目掛けて突進、続けて主砲として使っている防空砲を撃って艦載機を撃墜し、蛍の前に立ちふさがる。
◇
「…あなた、いったい何なの?」
突然現れて攻撃の邪魔をしただけでなく、敵であるはずの深海棲艦を庇うような行動をとる曙に、艦娘部隊の
「…蛍はやらせない」
曙は艦娘たちに主砲を向ける、曙自身も避けたい事態であったが、蛍を守るため、彼女は艦娘の“敵”になることを選んだ。
「…やれやれ、無鉄砲な仲間を持つと苦労するね」
そこへまた別の艦娘たちがやってきて、曙同様主砲をこちらに向けて敵対の意志を示す。
「その代わり、絶対に結果出してよ!」
その艦娘たち…Deep Sea Fleetの
「…必ず!」
曙は強く頷くと、自分の背後で困惑している蛍に向かって言った。
「今度は、私があなたを助けるからね」
次回「曙光に照らされし蛍」
蛍と曙、2体の過去に鍵はある。