艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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いつか書くとか言っておきながらずるずると引きずってた番外編を投稿。




番外編「島風の休日」

「…ん?朝か…」

 

 

呉鎮守府所属艦娘、駆逐艦島風は目覚まし時計のアラーム音と共に目を覚まし、むくりと起き上がる。

 

 

「…そっか、今日は非番だっけ」

 

 

現在時刻は午前6時、いつもなら朝一の遠征任務に出る所だが、今日は何も予定が入っていない日…いわゆる非番であった。

 

 

もう少し寝ていれば良かったかな、などと思ったりしながら島風は寝間着からいつも着ている紺色のブレザーに袖を通す。

 

 

顔を洗ってぼーっとしていた頭と目を覚ますと、朝食を取りに食堂へ行く。

 

 

 

 

 

 

 

台場でのマックスの件から約2ヶ月、精神的にも落ち着きを取り戻した島風はしばらくの間“ゆっくり歩く”ことを選んだ、期待に応えることだけが自分の存在意義では無い、マックスのおかげでそれに気づくことが出来たからだ。

 

 

そのためにまず島風が取り組んだのは冷え切った艦娘との関係の修復だ、強くなるために犠牲にしてきた艦娘たちとの関係…特に駆逐艦と再び仲良くなる、そのために島風は積極的にコミュニケーションを取っている。

 

 

最初は何を今更、と突っぱねられる事も多かったが、現在では普通に話すことが出来る艦娘も徐々に増え始め、少しずつではあるが改善に向かっている。

 

 

「あれ?島風今日は非番なの?」

 

 

いつものレバニラ定食を島風が食べていると、トーストとベーコンエッグのセットを持った艦娘…陽炎型駆逐艦1番艦“陽炎”がこちらにやってきた、彼女はマックスとの一件の後島風と一番最初に仲良くなった艦娘で、今では自他共に認める友人の間柄である。

 

 

「そうなんだよ、なのにいつも通りの時間に起きちゃってさ、何だか勿体ない気分」

 

 

「あはは、生活リズムっていうのは簡単には崩れるもんじゃないからね」

 

 

他愛のない会話をしながら2体は朝食を食べる。

 

 

「そうだ島風、今日非番なんでしょ?私と出掛けない?」

 

 

「今日?別に構わないけど、どこに行くの?」

 

 

「幸明堂」

 

 

「幸明堂!?行く行く!」

 

 

幸明堂とは最近街に出来た甘味処だ、なんでもそこのメニューの和風パフェが最高に美味いらしい、以前雑誌の特集記事で見てから行きたいと思っていたので、これは願ってもない機会だ。

 

 

「決まりね、じゃあ今日の正午に鎮守府の正門前で、他にも何体か連れてくるから」

 

 

「オッケー分かった!」

 

 

島風が答えると、先に食べ終えた陽炎が一足先に食堂を後にする。

 

 

「さてと、私も食べたら色々準備しておかないと…」

 

 

手早く残りのレバニラを飲み込んで食器を片付けると、食堂を出て自室へ向かう島風。

 

 

「ん?電話だ、相手は…提督!?」

 

 

着信中のPitのディスプレイには川原木の名前が表示されていた。

 

 

「はい、島風です」

 

 

『川原木だ、お前今鎮守府にいるか?』

 

 

「はい、食堂の辺りです」

 

 

「そうか、悪いんだが、すぐに提督室に来てくれないか?話しておきたいことがあるんだ」

 

 

「分かりました、すぐに行きます」

 

 

島風は通話を切ると、提督室に向かって小走りで移動する。

 

 

「…何かやらかしちゃった、って事じゃないよね…?」

 

 

 

 

「非番なのにすまないな、このあと何か予定はあるか?その後でもいいが…」

 

 

「大丈夫ですよ、陽炎たちと出掛ける予定はありますけど、昼からですし」

 

 

提督室に来た島風はやや緊張した面もちで川原木と話す。

 

 

「早速本題なんだが、島風、お前には近日中に出撃部隊に戻ってもらおうかと思っている」

 

 

「……えっ?出撃部隊に、ですか?」

 

 

予想外の内容に島風は呆けてしまう、マックスとの一件の後、島風はしばらく出撃部隊を外れて遠征組に就きたいと川原木に具申していた。

 

 

先述の通り艦娘たちとのコミュニケーションをはかるためであるが、主な理由は出撃部隊に自分が必要不可欠ではないということに気づいたからだ、周りの期待に応えることだけが自分の存在意義ではない、しばらくは出撃から離れてのんびりと遠征組で心を休めよう、そう思っての離脱だった。

 

 

「出撃部隊の連中が島風に戻ってきてほしいって言ってるんだよ」

 

 

「そう…なんですか?」

 

 

「そんな意外そうな顔する必要もないだろ、お前は立派な主戦力なんだから」

 

 

川原木はそう言うが、島風はどこか浮かない顔をしていた。

 

 

「不安か?戻るのが」

 

 

川原木の問いに島風は首を縦に振って肯定する。

 

 

「…私は今までマックスに負けたくないっていう独りよがりな気持ちでやってきました、それなのに勝手に抜け出して遠征組に入ったのに、また出撃部隊に戻ってきてもいいのでしょうか…」

 

 

島風は不安そうな顔で俯く、今まで自分が必死に訓練に明け暮れて戦果を稼いできたのは、マックスに負けたくないという自分勝手な、それこそ被害妄想と言われても文句は言えないような理由だった、それなのに勝手に遠征組に異動した自分がまた出撃部隊に戻ったりしてもいいのだろうか。

 

 

「なに言ってるの、もちろんよ」

 

 

すると、提督室の戸影から金剛が姿を現した。

 

 

「ごめんなさい提督、盗み聞きするつもりはなかったのですが、報告に来たら偶然…」

 

 

「気にするな、それよりお前からも島風に言ってやってくれないか?出撃部隊のお前が言った方が説得力がある」

 

 

「はい、もちろんです」

 

 

金剛は笑って返すと、島風の方へと向き直る。

 

 

「あなたに出撃部隊に戻ってきてほしいっていうのは、私含め出撃部隊全員の本心よ」

 

 

「どうして…」

 

 

「あなたが出撃部隊を抜けた後、私からあなたの事を話したのよ、そうしたらみんながあなたにプレッシャーをかけ過ぎたせいだって責任感じちゃって…」

 

 

「そんな、別にみんなのせいじゃ…」

 

 

「だから遠征に勤しみながら艦娘たちの関係修復にあくせくとしているあなたを見て、もう一度出撃部隊に戻ってきてほしいって思ったの、今度は見えない足枷にもがくあなたとじゃなく、心から晴れやかな気持ちで出撃出来るあなたと…」

 

 

「…金剛さん…」

 

 

島風は涙を浮かべながら金剛に抱き付いた、悪いのは自分なのに、自分のせいで一度マックスを沈めたのに、こんな暖かい言葉をかけてもらえるなんて…。

 

 

「…島風、出撃部隊復帰の件、受けてくれるか?」

 

 

川原木は改めて島風に聞く、島風は金剛から離れると…

 

 

「はい!駆逐艦島風、出撃部隊復帰の命を喜んでお受けします!」

 

 

心から笑って敬礼を返した。

 

 

「それと、その件と併せてお前に伝えたい事がある」

 

 

「ほぇ…?何でしょう?」

 

 

「…島風、大演習祭(バトルフェスタ)に出てくれ」

 

 

 

 

「ば…大演習祭(バトルフェスタ)ですか!?」

 

 

島風は目を見開いて驚愕する。

 

 

「戦艦や空母の力押しが大演習祭(バトルフェスタ)のセオリーではあるが、快速かつ雷撃での攻撃力を持つお前なら活躍出来ると思うんだ」

 

 

「で、でも私…大演習祭(バトルフェスタ)なんて出たこと無いですし、みんなの足引っ張っちゃったら…」

 

 

島風はもじもじしながら迷っている素振りを見せる、それを見た川原木は押しの一手を繰り出した。

 

 

「そう言えば台場の海原に聞いたんだが、今年の大演習祭(バトルフェスタ)、あいつらも出るみたいだぞ」

 

 

「っ!?」

 

 

それを聞いた途端、島風の目の色が変わった、今の台場には…

 

 

「鎮守府の艦娘全員連れて行くって言ってたから、マックスに会える可能性大だそ?後輩に活躍見せるチャンスかも…」

 

 

「ううぅ…」

 

 

マックスを引き合いに出されて悔しそうな顔をする島風、散々頭の中で葛藤した末…

 

 

「…分かりました、大演習祭(バトルフェスタ)…出ます」

 

 

「おぉ!そうか!お前ならそう言ってくれると思ったよ!」

 

 

「あんな事言っておいて白々しいですよ!まぁ…マックスに会うチャンス作ってくれたのは嬉しいですけど…」

 

 

島風は恥ずかしそうに川原木を睨むが、本人はどこ吹く風といったようにとぼけてみせる。

 

 

 

 

それから数時間後の正午、島風は鎮守府正門で陽炎を待っていた。

 

 

「お待たせ!島風!」

 

 

陽炎は数分でやってきた、その後ろには野分、初風を連れている。

 

 

「それじゃ行こっか、和風パフェが私たちを呼んでるよ!」

 

 

「テンション高いですね…」

 

 

「元からよ」

 

 

ハイテンションの陽炎に野分と初風は呆れ気味に言った。

 

 

 

 

「お待たせしました、和風パフェでございます」

 

 

甘味処についた陽炎たちは早速和風パフェを注文、宇治金時のように小豆と抹茶…そしていくつかの和菓子を盛り付けたパフェだ。

 

 

「「いただきまーす!」」

 

 

4体は息をそろえてパフェをぱくつく。

 

 

「ふぉー!美味しい!」

 

 

「このあんこがたまらない!」

 

 

「夏みかんの酸味が甘過ぎないようにしているのもいいアクセントですね」

 

 

陽炎たちはパフェに舌鼓を打ちながら談笑を楽しんでいた。

 

 

「………」

 

 

そんな中で、島風は今の自分の状況を不思議に思っていた、こうして仲のいい艦娘と一緒に出掛けて甘いものを食べる、少し前なら絶対有り得なかった光景が、今現実として存在している。

 

 

(これも、マックスのおかげ…なのかな)

 

 

自分のせいでマックスを失ってしまって、でもそれがきっかけで得られるモノもあって、それを考えると何だか不思議な気分だった。

 

 

(次会ったときは、ごめんなさいよりも、ありがとう、かな)

 

 

島風はそう思いながらフッ…と笑う。

 

 

「島風~?どうしたの?パフェ食べないの?」

 

 

「食べないなら私が貰っちゃうよー!」

 

 

「あっ…!ちょっ…!こら!食べるなー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マックス、私のせいであなたが沈むことになってごめんなさい、たとえあなたがもう謝らなくてもいいと言っても、私はいつまでもその気持ちを忘れないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、走るばかりだった私に立ち止まることを、マックスが沈んで以来ひとりで閉じこもっていた私に歩き出す勇気を与えてくれて、本当にありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは、いつまでも私の自慢の後輩で、かけがえのない宝物だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の現在(いま)を、この時をずっと大切にしていこう、そう誓いながら、島風は目の前にある幸せを噛みしめていた。




いやー、こっちの金剛は綺麗ですねー(目そらし
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