艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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ここまでで三日月未登場ですが 三日月編と言い張ります。


第17話「三日月の場合2」

「きゃああああぁぁ!!!!」

 

 

「吹雪さん!」

 

 

刹那、敵艦載機の空撃を真正面から受けた吹雪は後方へ吹き飛ばされる。

 

 

『大丈夫か吹雪!』

 

 

「はい…中破にはなりましたけど、まだいけます!」

 

 

そう言って吹雪は再び得物を持って立ち上がる。

 

 

「ファイヤー!」

 

 

「その頭潰してあげるわ!」

 

 

その間にもハチと暁が軽母棲艦に攻撃を仕掛ける、ハチは拳銃で軽母棲艦を銃撃し、暁は棘棍棒(メイス)を軽母棲艦の頭部に叩きつけ大破にする。

 

 

(深海棲器の影響もあるけど、やっぱり暁の攻撃力はスゴいなぁ、一撃の威力なら私たちの中で一番だよ)

 

 

そんな事を考えながら吹雪は再び軽母棲艦に接近する、相手はもう艦載機を出せる状態ではないので最早ただの的である。

 

 

「さっきはよくもやってくれたわね!」

 

 

吹雪は最大速力で軽母棲艦に肉薄し…

 

 

「くたばれええええぇ!!!!!」

 

 

その身体に渾身の右ストレートをお見舞いする。

 

 

ボロボロの状態で思い切り殴られた軽母棲艦はその身体を四散させながら後ろに飛んでいき、着水したと同時に沈んでいく。

 

 

「…司令官、旗艦(リーダー)の撃破を確認、戦闘終了します」

 

 

『了解、鎮守府への帰投を許可する、気をつけて帰って来いよ』

 

 

 

 

 

その後は特に敵艦隊に遭遇することもなく、吹雪たちは無事に鎮守府まで帰投することが出来た。

 

 

「お帰り、補給とドックの準備出来てるぜ」

 

 

桟橋までたどり着くと海原が3人を出迎えてくれていた、最早お馴染みの光景である。

 

 

「ありがとうございます、司令官」

 

 

そう言って艤装を解除し、ドックへ向かおうとした吹雪たちだが…

 

 

「ん?吹雪、ちょっといいか?」

 

 

吹雪が海原に呼び止められた。

 

 

「なんですか?」

 

 

「確かお前損傷度合いは中破だったよな?帰投してる間にもうそんなに治ったのか?」

 

 

海原が吹雪を見て首を傾げる、ここで特記しておくが艦娘にも人間のように自然治癒力が備わっている、しかしそれは人間のスペックとほぼ変わらないので中破や大破のダメージを治すにはドック入りが必要なのだ。

 

 

しかし今の吹雪の傷は中破になったときよりも明らかに回復しており、小破レベルまで治っている。

 

 

「はい、混血艦(ハーフ)になってから傷の治りがかなり早くなってるんです、小破未満(カスダメ)なら帰投中に完治しますよ」

 

 

「…それはスゴいな」

 

 

海原は目を丸くして吹雪を見る、ハチや暁も吹雪程ではないが自然治癒力が高まっているらしい。

 

 

「…わかった、ドックに行ってていいぞ」

 

 

海原がそう言うと吹雪は一礼してハチと暁を小走りで追いかける、その背中を見て海原は色々な考えを巡らせていた。

 

 

吹雪たちが混血艦(ハーフ)になってから変わったことは色々ある、先程の自然治癒力の向上や深海棲艦との意思疎通能力、それと練度測定器(レベルスキャナー)で分かったことだが、攻撃力や防御力などの艦娘としての基礎能力(ステータス)が大幅に伸びている、しかも軽巡洋艦と余裕で肩を並べられるレベルだ。

 

 

この能力向上の原因は主にふたつの可能性によるものだと海原は考えている。

 

 

ひとつは混血艦(ハーフ)になったことで深海棲艦と艦娘の能力の長所をそれぞれ受け継いだ可能性、吹雪たちの中を艦娘と深海棲艦が半々で占めており、互いの長所が発現しているというものだ。

 

 

そしてもうひとつは、吹雪たちが日に日に深海棲艦に近付いているという可能性だ、実を言うと艦娘よりも深海棲艦の方が潜在能力(ポテンシャル)生命力(バイタリティ)が高い。

 

 

艦娘がドックで傷を治すのに丸一日掛かるとするなら、深海棲艦はその3/4の時間で治してしまう、艦娘が敵艦隊の主力部隊を撃破しても日にちが経てば復活してしまうのが最たる例だ。

 

 

それを踏まえると、混血艦(ハーフ)となった吹雪たちは深海棲艦の能力を吸収している可能性もあれば、ただ深海棲艦へ少しずつ変化していっているに過ぎないという可能性もある。

 

 

もし吹雪たちが再び深海棲艦となってしまったら、自分はどうすればいいのだろうか…。

 

 

「覚悟しておくべきなんだろうな、“そういう日”がいつか来るって事を…」

 

 

 

楽しそうに談笑する3人を見て、海原は自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 

 

その日の夜、海原はいつも通り先輩提督から押し付けられた書類を片づけていた。

 

 

「…それ、司令官の仕事ではないんですよね?ならやる必要は無いと思うんですけど…」

 

 

その横で控えている秘書艦の吹雪が不機嫌そうな顔で海原に言う、毎度のように“どうせ暇だろ?”などと言われて書類を押し付けてくる先輩提督に嫌悪感を隠そうともしていないのがありありと分かる。

 

 

「確かにそうなんだが、実際ヒマだからな」

 

 

ケラケラと笑いながら海原は書類にペンを走らせる、確かにめんどくさいと言えばめんどくさいのだが慣れてきてしまっているのでそれ程苦痛には感じない。

 

 

「どうせだったら書類ワザと間違った書き方して返してやればいいんじゃないですか?どうせ怒られるのは向こうなんですから」

 

 

「お前なかなかエグい事考えるよな」

 

 

普段が真面目な吹雪なのでこういった言い方や態度をとるのを見ると海原でも少し驚く。

 

 

そんな会話をしていると提督室の卓上の電話が鳴った、音から察するに外線だろう。

 

 

「はい、台場鎮守府提督室」

 

 

『大本営の鹿沼だ、久し振りだな“艦娘殺し”』

 

 

「…クズの右腕が何の用だ」

 

 

電話の相手がとびっきりムカつく奴だったので海原はドスの利いた声で応える、その際に吹雪がビクッと肩を震わせてこちらを見るが、今は気にせず話を進める。

 

 

電話の相手は鹿沼敏久(かぬま としひさ)、鎮守府の本部である大本営直属の司令官であり、全ての司令官のトップである元帥…南雲藤和(なぐもふじかず)の右腕である。

 

 

『昨日の司令官会議で北方方面の海域攻略作戦を行うことが決まった、いくつかの鎮守府から主力部隊を召集し、大規模な特別艦隊を組んで敵主力艦隊を叩く…という内容だ』

 

 

「…そんな事でわざわざ電話をかけてきやがったのか?俺には関係ねぇ話しじゃねぇか」

 

 

 

『人の話は最後まで聞け、それでこっからが本題だ』

 

 

もったいぶるような言い方に海原は苛立ちを隠せない、鹿沼と南雲のふたりとは因縁深い仲なのでそれがさらにイライラを加速させる。

 

 

 

『その北方海域攻略作戦に台場艦隊も参加しろ、これは命令だ』

 

 

海原が鹿沼の言った事の内容を理解したのは、それから10秒程が経ってからだった




鹿沼と南雲と海原とで何があったのかはどこかで書こうと思います。

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