艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
敵編成にヌ級改が加わったせいで制空権が取れなくなりました、基地航空隊を使おうにもボスマスまで届く行動範囲を持つ艦載機が無いので打つ手無し、戦艦タ級の連撃が来ないことを祈るばかりです…。
大和たち連合艦隊は帰投後すぐさま事の顛末を木村に報告する、それを聞いた木村は顔を青ざめさせた。
「姫級の深海棲艦が明日また来るだと!?すぐに大本営に連絡しないと!」
木村は大本営に電話をかける、木村はベアトリスの言っていた言葉を全て信じているワケではない、明日また来るというのはタダの嘘なのかもしれないとどこかで思っているが、本当にやってきたら取り返しのつかない事態になるのは目に見えているし、場合によっては横須賀の全力だけでは手に負えない可能性だってある。
『…なるほど、空母棲姫の言葉を全て信じるわけにはいかないが、無視していいような内容ではないな』
電話越しに状況を把握した南雲元帥はしばらく無言になる、対応策を練っているのだろう。
『…よし』
1分ほど考えた後、南雲はいつもより重苦しい口調でこう告げた。
『今から全主戦力鎮守府に非常事態宣言を発令、提督と主力艦娘を横須賀に緊急召集させよう』
◇
『緊急召集』
文字通り 大本営が非常事態と判断した時のみ発令出来る召集命令だ、通常は事前に日時等をメールやFAXなどで通達して集められるのだが、この緊急召集は各提督のPitなどに直接届けられる、内容は要約すれば“これが来たら如何なる状況でもすぐに来い”という事である。
午前2時の横須賀鎮守府大会議室、普通なら眠っているような時間だが、この大会議室ではそんな雰囲気など微塵も感じさせないほどの物々しさに包まれていた、理由はもちろん緊急召集である。
「ったく、23時にいきなり緊急召集の連絡寄越すとか何なんだよ本当に…」
もちろん海原もそのひとりであり、眠い目を擦って席についていた。
「どうした海原、お前ずいぶん眠そうじゃないか」
海原が眠そうにしていると、後ろの席に座っている奥村がからかい口調で聞いてくる。
「そりゃ眠って10分後に起こされたら眠いに決まってるわ、てかお前こそ眠くねぇのかよ、佐世保からここまで結構距離あったろ」
「俺?リニアの中で仮眠取れたから割とスッキリ」
「畜生、遠方故の利点か…」
全然眠そうにしていない奥村を恨めしそうに睨んでいると、南雲元帥が大会議室に入ってくる。
「提督諸君、夜分遅くの緊急召集に集まってくれてありがとう」
南雲は簡単に挨拶を済ませると、すぐさま本題に入る。
「…という事が先ほど横須賀で起こった」
南雲が軽く状況説明をすると、周りの提督連中がざわめきだす。
「空母棲姫の言葉を信じるべきかどうかは未だ不安が残るが、かと言って無視するような事も出来ない、よって我々は空母棲姫の言葉通り今日深海棲艦が再び攻め込んでくるという前提で迎撃作戦を決行、横須賀鎮守府に作戦本部を臨時設営する」
「(なるほど、だから召集場所が大本営じゃなく横須賀だったのか)」
「(移動する手間を省く為だろうな、新宿から横須賀だと距離あるし)」
召集場所がいつもと違った事への疑問が解けた所で、南雲はもう一つの重大な情報を伝える。
「そしてもう一つ、先ほどの横須賀艦隊の出撃で新種の姫級が2体確認された」
南雲の言葉に室内のざわめきがさらに大きくなる、現在確認されている姫級は
「その新種がこの個体だ、夜偵で撮影したため画質は荒いが、この空母棲姫の手前にいる2体がそうだな」
南雲はスクリーンに映された写真の姫級をレーザーポインターで示す、写真右側に写っているのは簡素な黒色の鎧を身にまとった長い黒髪の深海棲艦で、頭部には黒色の兜を被っている。
写真左側に写っている深海棲艦は大正浪漫を彷彿させる着物を身にまとっており、くせっ毛の黒いセミロングをサイドテールにしている。
「この2体の深海棲艦は機動力に優れているが攻撃力は戦艦棲姫よりは劣るという特徴を持っており、駆逐艦や軽巡洋艦に近い性質を持っていると思われる、よって我々は右側の鎧を『
「(駆逐棲姫に軽巡棲姫…こんなのが一度に攻めてきたら海軍の全戦力を束にしても敵わないんじゃねぇのか…?)」
「(お前らんとこの白兵戦ならいけるんじゃね?)」
「(無茶言うな、飛行場姫1体にボロボロにされたのに5体全部とか無理ゲーにも程があんだろ…)」
奥村と海原がひそひそ話していると、南雲の話は臨時設営本部でのそれぞれの提督の役割分担に移っていた、南雲はそれぞれの提督に役割を振り分ける。
◇
「…で、何で俺の担当がここなんだよ!」
海原が大会議室で納得のいかないといった様子で言う、海原に割り当てられたのは大会議室に設営される中央司令部の総監督だ、これから出撃する各艦隊の状況を逐一把握し的確な指示を出す、まさに艦娘たちの司令塔といった超重大な役割である。
「こういうのは木村がやるもんだろ、あいつここの提督なんだし…」
「海原司令官、その愚痴もう3回目ですよ、いい加減腹を括ってはいかがですか?」
と、口を開けば愚痴しか出てこない海原に対して隣にいる艦娘…駆逐母艦『
駆逐母艦とは補給艦の一種で、史実では主に駆逐艦などの小型艦艇に物資を補給するための艦だ、潜水母艦大鯨の親戚といった所だろうか。
この早瀬も補給艦としての機能を艤装に有しており、戦闘海域での兵站の要として重宝されている、しかしどこまで行っても本質は補給艦なので戦闘力は無いに等しい。
「そうは言いますけどね早瀬さん、俺みたいな窓際鎮守府の外され者がやるよりも主戦力鎮守府のトップである木村がやった方がよっぽど戦果がでると思うわけでございますよ」
「謙遜しなくてもいいんですよ海原司令官、あなたの艦隊指揮能力は群を抜いていると所長が仰ってましたから、そんな方と作戦行動が出来て私も嬉しいです」
「所長…こんな
早瀬からの期待の眼差しに海原は思わず眩しさを感じて目をそらす、長年の台場生活で荒んだ自分の心は早瀬の純粋無垢には強すぎる。
「そういや早瀬、司令部総監督の俺のサポートって事で造船所からお前がやってきたわけだが、お前は何が出来るんだ?」
「私が来て1時間以上経ってようやくそれを聞きますか…」
今更な質問をされて早瀬がため息をつく。
「私の役割は簡単に言えばオペレーターです」
「オペレーター?」
早瀬の発言の意図が分からず海原が首を傾げる。
「さっき海原司令官に配線してもらったそこの機械がありますよね?」
「あぁ、なんかやけにアンテナとかたくさん立ってるコレのことか」
海原は先程までせっせと準備していた大きめの機材を見ながら言う。
「この機械と私の艤装をケーブルで繋いで、こうすれば…」
早瀬は機材と自分の艤装をケーブルで接続し、さらに自身の電探と手のひらに乗るくらいの正方形の機材をケーブルで接続し、電探の電源を入れる。
「うおっ!?」
刹那、海原は目の前で起きた出来事をすぐ理解出来なかった、床に置いた正方形の機材からはまるで映写機のように半透明の立体映像が映し出されて現れた、見えているのはモニターだろうか?監視カメラの親機のように何分割にもなった画面が砂嵐を映している。
「これは…?」
「今回参加する艦娘の電探と艤装内蔵カメラを写す大型モニターです、作戦が始まったら全艦隊の戦闘状況が一斉にここから見ることが出来ます、もっとも艦娘全員となると流石に数が多いので各艦隊
早瀬はそう控え目に言う、戦闘力は皆無の早瀬だが、彼女には他の戦闘艦娘にはない唯一無二の特徴がある、それがこの複数の戦況を同時に把握・認識し思考する事が出来るオペレーション能力だ、その指揮系統能力は他の艦娘の誰よりも秀でている。
「すげぇ…早瀬にこんな能力が…」
「各艦隊の大まかな戦況はここから確認できるので、私はその中で危なくなった部分や急な判断を要するモノをピックアップして海原司令官にお伝えします」
「それを俺がビシッと指示すればいいわけだな?」
「はい!私の力と海原司令官の艦隊指揮能力が合わさればまさに鬼に金棒です!」
(どうしよう…期待がすげー重い!)
早瀬のキラッキラな目で見つめられて海原は再び目を逸らしてしまう、やはり
「そういえば、海原司令官の補佐としてもうひとり駐屯基地から司令官が来るんですよね?」
「あぁ、そろそろ来る頃だと思うぞ」
海原と早瀬がそんな会話をしていると、会議室のドアがノックされてひとりの男が入ってくる、年は20代前半くらいだろうか、顔立ちはかなり整っているが、不健康なのか目つきだけは鋭い。
「失礼します、海原さんの補佐として本日任務に付きます、新潟駐屯基地所属の
伊刈はそう言ってビシッと敬礼する。
次回「深海棲艦の祖」
キャラクター募集でいただいた早瀬と伊刈戒人登場。
早瀬のオペレーション能力は「神のみぞ知るセカイ」の落とし神モードを想像してもらえれば分かりやすいと思います、神のみ知らない人は画像検索してみてね。
○オマケ
【挿絵表示】
ツ級に金剛、霧島、鳥海の攻撃をカスダメで吸われたせいで護衛棲姫倒し損ねた図。
ツ級ウウウウウウウウウウゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!