艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「敵陣営から正体不明の深海棲艦が出撃!最大限の警戒をしてください!」
七海が出撃するなり前衛艦隊は警戒態勢を強める、何せ七海は艦種はおろか能力も不明、実力未知数の敵ほど恐ろしいモノはない。
「食らえっ!」
七海の主砲が火を噴き、正確な狙いでレオ隊のローマに命中する。
「ぐあっ!」
この一撃でローマは中破のダメージを負い、艤装能力が下がってしまった。
「嘘!?ローマさんが一撃で中破!?」
「あいつ戦艦棲艦!?」
レオ隊のみならず他の艦隊の艦娘たちも名波の能力に目を剥いた。
「
次の砲撃を警戒していた艦娘たちだが、ここで七海の艤装に変化が起こる、今まで展開させていた大口径主砲を格納させ、巡洋艦レベルの中口径主砲と副砲、そして魚雷発射管を展開させる。
「はっ!」
七海が再び砲撃を行い、間髪入れずに大量の魚雷を扇状に撃ちだして雷撃を行う。
「雷撃!?」
「戦艦じゃないの…?」
砲撃は前衛の艦娘たちを掠める程度の被害で収まったが、そのすぐ後に飛んできた雷撃があちらこちらの艦娘に命中、中破、もしくは大破する艦娘が続出した。
「何なのよあの深海棲艦は!?」
「高火力の主砲に雷撃って…!チートでしょ!」
砲撃と雷撃を使い分けながらこちらの戦力を確実に削っていく七海に艦娘たちは焦りの色を見せていた、だが七海のスペックはこれだけに留まらない。
「
七海は
「なっ…!?艦載機!?」
「あの深海棲艦、様々な艦種の装備をリアルタイムで換装しながら戦う能力があるみたいね」
「なおチートでしょ!?」
ローマの推理に暁が信じられないモノを見たといった顔をする、そんな事をしている間にも七海は砲撃、雷撃、空撃をリアルタイムで切り替えながら猛攻を続けていく。
「調子に…乗ってんじゃ…!ないわよ!」
七海の攻撃にイラついた暁は深海棲器で七海の弾丸を切り裂くと、先手必勝で突撃、吹雪もそれに続く。
「よし!あいつらの白兵戦能力ならいけるかも…!」
2体の実力を知っている摩耶は突破口を開けるのではないかと期待を大にしていたのだが…
「残念…白兵戦は私の十八番なの」
七海は艤装から黒い刀身の日本刀を取り出すと、吹雪と暁の攻撃を簡単に受け止める。
「んな…!?」
「うそ…!?」
「私の本分は一騎当千、ふたり相手なんて欠伸しながらでも出来るわ」
そう言うと七海は日本刀を素早く捌いて吹雪と暁に切りかかる。
「ぐっ…!」
「強い…!」
「あまりヒュースを舐めないでもらいたいわね!」
七海はさらに攻撃の手を強める、2対1という数的有利があるにも関わらず七海になかなか刃を届かせることが出来ない。
「吹雪!暁!どけ!」
「「っ!!」」
突如後ろから聞こえてきた摩耶の声に敏感に反応した吹雪たちは素早く左右に飛び退く。
「きゃああっ!」
すると、今まで吹雪たちがいたところに弾丸の雨が降り注ぎ、七海に強力な砲撃を浴びせる、2体が白兵戦を行っている時に前衛艦隊の艦娘たちが砲撃準備をしてタイミングを合わせていたのだ。
「七海様!?」
「大丈夫ですか!?」
大ダメージを負った七海をベアトリスとシャーロットが介抱し、素早く後ろに下がる。
「ここは撤退しましょう!準備をし直せば機会はまたやってきます!」
「でも…ここでやらないと計画が…博士の悲願が…!」
「確かにそれも七海様の大切な目的です!ですが我々にとって七海様の事もそれと同様に、いえ…それ以上に大切なんです!」
「どうかお聞き入れください…!」
ベアトリスとシャーロットの必死の懇願に七海は考えるように俯いた後、分かったわ、とベアトリスたちの言うことを聞き入れた。
「総員撤退!直ちに戦線離脱だ!」
ベアトリスがそう号令をかけると、七海含め深海陣営が撤退していく、艦娘たちは逃すかと追撃を行おうとするが、突如海底から大量の輸送棲艦が姿を現し立ちはだかる、撤退の時間稼ぎの為の壁役と言ったところだろうか、全くもって用意周到な連中だ。
「…待って下さい!あなたは何者なんですか!?なぜこんな意味のない争いをするんですか!?」
去り際に吹雪が七海にこう問いかけると、七海はちらりと後ろを振り向き、こう答えた。
「…そうね、あなたたちの言葉を借りるなら、私は深海棲艦の祖であり始原、始まりの深海棲艦と言ったところかしら」
「…始まりの…深海棲艦…」
「それと、この戦いを意味のないことだとあなたは言うけれど、意味はあるわ、私たちの目的は人間を殺すこと、それだけよ」
「どうしてそんな目的を…?」
「どうしてか?そんなの決まってるじゃない…」
「それが
「っ!?」
七海の言葉を聞いた吹雪は言葉を失ってしまった、目的がくだらないから?悪だから?そんな事はどうでも良かった。
「深海棲艦は…人間が作った…?」
七海の口から飛び出した深海棲艦の真実に、吹雪の思考は止まってしまう。
「…吹雪さん?」
暁に呼ばれて吹雪はハッと我に返る、すでに七海たちは撤退し、壁として現れた輸送棲艦も何処かえ姿を消していた。
「帰投命令出たわよ?帰りましょ?」
「…うん、そうだね」
横須賀の桟橋に帰るまで、吹雪の頭の中から七海の言葉が消えることは無かった。
◇
榊原は造船所の所長室で一枚の写真を眺めていた、今日の海戦で早瀬が艤装に映していたカメラ映像のスクリーンショットだ、早瀬の艤装で映した映像は全て常時録画され、後からじっくり見たり気になる部分を切り取ってスクリーンショットに残すことが出来る。
その写真に写っているのは艦娘のカメラが偶然捉えた七海の姿だ、多少遠目ではあるが、榊原にはそれが七海だとはっきり分かる。
「やっぱりお前だったのか…」
榊原はそう呟くと、机の引き出しから写真立てを取り出す、その写真には
「…七海」
◇
「七海様、お加減はいかがですか?」
「ありがとう、シャーロットに治療してもらったからもう大丈夫、あとはしばらく休めば回復するわ」
「それは良かったです、七海様の身にもしものことがあれば、私は…」
「もう、あなたは相変わらず心配性ね」
ベッドで横になりながら七海はベアトリスの過保護な反応を見て可笑しそうに笑う。
「ベアトリス、悪いんだけど、そこの机の写真立てを取ってくれる?」
「はい、これですね?どうぞ」
七海はベッドから起き上がるとベアトリスから写真立てを受け取り、自分の隣に写っている若い男性を指先で撫でる。
「博士、今回は失敗してしまいましたが、絶対にあなたの願を叶えてみせます、ですから、どうか待っていて下さい」
「その写真の男性は、七海様の大切な方なのですか?いつもその写真を見ているようですが…」
写真の男性について詳しく知らないベアトリスが七海に問う。
「えぇそうよ、
「
次回「ヒューマノイド・ソルジャー」
次回より第四章に入ります、chapter14は七海の過去回想の予定。
深海棲艦の正体は見破ってた人結構いるんじゃないでしょうか。