艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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由良の改二が来てヒャッホウ!な自分ですが、レベルがまだこんなです。

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レベル70越えた辺りからキツくなりますね。


第185話「H/S:0014」

七海覚醒から二ヶ月後

 

 

 

 

榊原は研究所の開発主任室で落ち着かない様子でとある人物を待っていた。

 

 

「博士、暁海…以下2名の製造結果を持ってきました」

 

 

それから数分して七海が主任室に入ってくる、榊原の目的は彼女…もっと正確に言えば彼女の持っているA4用紙数十枚に上る暁海たちの製造結果の報告書だ。

 

 

「ありがとう七海、どれどれ…」

 

 

榊原は戦果報告書に目を通し、それぞれの個体の製造結果に目を通す。

 

 

「…あまり結果は良くないみたいだな」

 

 

「覚醒まで後一歩という所までは来ているのですが、予想外のトラブルが続いています」

 

 

それを聞いた榊原は表情を曇らせる、暁海たちの製造から一月弱は経っているが、作業が難航しており中々覚醒段階までこぎ着けることが出来ないでいた。

 

 

 

「…悪魔の所業はそう都合良くはいかないって事なんだな…」

 

 

そう言うと榊原は何か思い詰めるような顔になる。

 

 

「…どうしました?博士、なにやら物憂いているようですが…」

 

 

それを見た七海は心配そうに榊原の顔を覗き込む、すると榊原は唐突にこんな事を問い掛けた。

 

 

「七海、この世でもっとも恐ろしい兵器は何か分かるかい?」

 

 

「えっ?」

 

 

突然の彼からの問い掛けに、七海は一瞬固まってしまった。

 

 

何の謎かけかと思ったが、榊原は真面目に聞いているようだったので、七海も真面目に考える。

 

 

世の中にはたくさんの兵器がある、細菌やウイルスを使った生物兵器、毒ガスなどを使った化学兵器、数え上げればきりがない。

 

 

その中で七海が最も恐ろしいと思うのは原子爆弾などの核兵器だ、爆風と熱風で全てを吹き飛ばすその威力は言わずもがなだが、内部被爆などの効果で使用後も対象を苦しめ続ける、攻撃性と持続性を併せ持つチートもいいところな兵器だ。

 

 

「なるほど、核兵器か、悪くない選択肢だが正解ではない」

 

 

榊原の不正解という言葉に七海は驚いてしまった、この世に核兵器を超えるモノが存在するのだろうか、七海には思い浮かばなかったので彼に降参だと伝える。

 

 

「答えは簡単だよ、この世で最も恐ろしい兵器、それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「核兵器を含め、今七海が頭の中に挙げていた兵器を全て作り出してしまうことが出来る“人間”そのものさ、言わば人間は“兵器を生み出す生きた兵器”、七海もそう思わないかい?」

 

 

どこか自虐的な榊原の問いかけに、七海は何と答えれば良いか分からなかった。

 

 

「…どうしたのですか?急にそんな事を言い出して…」

 

 

「たまに思うんだよ、俺たちのしていることは、本当に正しいのかなって…」

 

 

「えっ…?」

 

 

榊原の発言の意図が分からず、七海は疑問符を浮かべる。

 

 

「俺たちがやってることは死者に安息の眠りを与えることすら許さず、俺たちの勝手な都合で終わった命を蒸し返す…言わば人の道から外れた行為だ、当然これは許されることじゃない」

 

 

 

「……………」

 

 

榊原の言葉を七海は何も言わずに聞く。

 

 

「政府内部の連中はお前たちの事を人の道から外れた方法で生み出された化け物だの恐ろしい兵器だのって言うようなヤツが幾らかいる、でもそんな化け物を産み出すのを許した政府内部の人間やそれを実際に生み出している俺たちは、それ以上の恐ろしい兵器や化け物なんじゃないか?」

 

 

「…………」

 

 

「俺たちって、結局何やってんだろうな…?」

 

 

自嘲めいた笑いを浮かべながら誰かに問いかけるように榊原は呟く、七海はそんな彼の言葉を聞き終えると、何かを決意したような氷上で口を開く。

 

 

「博士、僭越ながら言わせていただきます、博士がしていることは、私は正しいと思います」

 

 

「?」

 

 

「生まれるはずがなかった私に命を与えてくれたのは博士です、何もないがらんどうの私に人間を殺すという目的を与えてくれたのも博士です、私はそんな博士に感謝していますし恩義も感じています、博士が何を憂いているかは私には分かりません、ですが博士が正しいと思って私を生み出したのなら、博士が正しいと思って人間を殺す目的を与えたのなら、それは私にとっての“正義”です」

 

 

 

「七海…?」

 

 

「この先何があっても私は博士を信じます、博士に向けられる刃は全て私が折ります、ですから博士は自分が正しいと思ったことを私に命じてください、私はあなたのために正義を貫きます」

 

 

七海はそう言うと、主に忠誠を誓う騎士のように榊原に跪く。

 

 

「七海…」

 

 

それを見て、榊原は一抹の“恐怖”を覚えた。

 

 

元々七海には恩義や感謝、正義といった人間らしい感情は強制記憶(インプット)していなかったし積極的に教えようともして来なかった、与えられた任務だけを情に流されずに淡々とこなすための兵士として育てる事を目的としていたからだ。

 

 

もし七海がプログラムで出来たロボットであればそれは正しいだろう、しかし七海は人間を元にしたヒューマノイドであり、人間は教えられていない事でも自らの経験や考えによって勝手に学習していく生き物だ。

 

 

ただし学習した知識やそれに基づく行動に対する善悪というのは他人による外からの教育でしか学習できない、それを受けてこなかった七海は自らの行動の善悪を全て榊原個人にとっての利害によって決めている、それは完全な“依存”と言ってもいいだろう。

 

 

今の七海にとっての“正義”や“目的”とは、榊原にとって利益になることであり、敵の殲滅はそのための“手段”になってしまっていた。

 

 

(俺は…七海の育て方を間違ってしまったのか…?)

 

 

自分に向けられる愛情とも言える行き過ぎた信頼に、榊原は恐怖を隠せなかった。




次回「純真無垢の兵器」

哀しい程に真っ直ぐで、残酷なほどに無垢だった…。

今回の回想部分は141話参照、多分次回でchapter14終わります。

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