艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「ふぅ、今日も今日とて忙しいな」
みなほ銀行新宿支店に勤める銀行員、
「っと、そろそろ昼休みだな、もう一踏ん張りだ」
今日の昼食は何を食べようか…などと考えていたまさにその時、銀行入り口の自動ドアが爆発により吹き飛んだ。
「っ!?」
何事かと片瀬が入り口の方を見ると、中学生程の背丈をした少女が4人勢いよく中へ突入してきた、皆鉄のような材質で出来た四角い箱を持っており、まるで銃を向けるような体勢で箱を構えている。
人の入りがそれなりにあった銀行のフロア内は当然一瞬でパニックになり、あちらこちらで人々が走り回っている。
「っ!!」
その時、少女が構えていた鉄の箱が凄まじい轟音と共に火を噴き、銀行の壁に大穴を開ける、穴は建物を貫通しており、外の景色と突然の爆発に狼狽する歩行者の姿がチラチラと見えた。
「あれ銃器なのか!?どう見ても大砲並の威力じゃねぇか!」
カウンターの影に伏せていた片瀬が驚きのあまり目を剥いた、今の少女の発砲により銀行内の人間は一斉に床に伏せ、一気に水を打ったように静まりかえった。
「全員動くな、騒ぐな、大人しくしろ」
すると今度は入り口から顔を覆面で隠した人間が10人ほど中へ入ってくる、詳しい性別は分からなかったが、背格好から推測するに男だろう。
その中のリーダーと思わしき男が布製の袋をいくつか持って片瀬のいるカウンターへ歩いていく。
「この袋に入るだけ金を入れろ、素早くな」
銃やナイフといった武器の類を一切用いず、リーダーの男はそうシンプルに要求する。
「…………」
片瀬はリーダーの男の言うとおりに金を袋に詰める、今ここで何か騒ぎを起こせば他のお客にも危害が及ぶかもしれない、お客を守るにはこれが一番の選択だ。
(ったくあいつら…!俺が死んだら化けて出てやるからな!)
片瀬は金を袋に詰めながら横目で壁の穴を見る、他の従業員は客を見捨てて我先にと穴から逃げ出してしまったのだ。
「…ほらよ」
そんな仕事仲間への苛立ちを含ませて、片瀬はやや乱暴に袋をリーダーの男に突き返す。
「ありがとよ、それじゃあな」
リーダーは袋を手早く回収すると他の仲間に撤退を指示する、最後に自分が出て行こうとしたとき、入り口付近で待機していた少女たちが縋るような目でリーダーの男を見て、こう言った。
「ねぇ…早くおかわりちょうだいよ…」
「これが終わったら好きなだけやるから我慢しな、それじゃお前ら…」
「掃除だ」
それからすぐに通報を受けた警察が銀行に到着したが、そこに犯人の姿は無く、代わりに原型を留めていない人間だった肉塊がフロア中に紅い花を咲かせていた。
◇
「ふぁあぁ…おはようございます~」
「おはよう吹雪ちゃん、ずいぶん眠そうね」
相互着任会4日目、いつものように眠そうに食堂にやってくるDeep Sea Fleetを見た蒼龍はまたか、といった様子で吹雪に言う。
「やっぱり仕事が何もない台場と比べるとどうしても普段普通の艦娘がやってるような仕事でも疲れるんですよね、慣れないし」
「あんた将来他の鎮守府に異動出来なさそうね」
「異動するつもりもないですけどね」
そう言って吹雪は朝食を注文しようと席を立つ、するとスカートのポケットから小さな紙が落ちた。
「吹雪、何か落ちたよ」
「あ、本当だ、ありがとうございます、昨日計った
「へぇ、吹雪の
「いいですよ」
吹雪の許可を貰った蒼龍は吹雪の測定結果を見る。
○測定結果
・名前:吹雪
・
○
・機動力:S
・攻撃力:D
・防御力:D
「…何て言うか、相変わらずスゴいわね」
「別に普通ですよ、曙だってこれくらいですし、ほら」
「勝手に私のハードル上げるの止めてね!?あと何で私の測定結果持ってるの!?」
勝手に競走馬にされた挙げ句測定結果を勝手に見せられた曙が抗議するが、華麗にスルーされた。
○測定結果
・名前:曙
・
○
・機動力:A
・攻撃力:E
・防御力:E
「ほぇ~、全体的に控えめなのね」
「いやいや蒼龍さん、これが駆逐艦の普通ですからね、攻撃力と防御力Dランクって軽巡の標準位置ですからね、感覚麻痺してきたんじゃないですか?」
何やら吹雪基準で話が進んでいきそうだったので曙が慌てて訂正する。
「朝から相変わらずの盛り上がりようだな」
そんな馬鹿騒ぎをしていると、武蔵が食後のコーヒーを飲みながら吹雪の向かいに座る。
「おはようございます武蔵さん、ニュース見てるんですか?」
Pitでニュースサイトを見ていた武蔵に吹雪が聞く。
「あぁ、ちょっと気になる話題があってな、台場は今月の頭にあった艦娘の違法売買の事件を知ってるか?」
武蔵の問いかけにDeep Sea Fleet…特に曙が反応する、それもそのはず、ここにいる吹雪たちはその事件の目撃者であるし、曙にいたっては事件の加害者だ。
「はい、何でもそれで艦娘に否定的な意見を持つ民間人が増えたとか…」
「その通りだ、しかもその艦娘反対運動は今でも続いてるらしい」
「迷惑な話ですね」
「全くだ、だがこの問題に更に拍車をかける事件が起こったらしくてな、これを見てくれ」
そう言って武蔵はPitの画面を吹雪たちに見せる、そこには昨日の昼頃に起きた銀行強盗事件のニュース記事が表示されていた、10人ほどの男が銀行へ押し入り金を奪い、中の客と従業員を皆殺しにして逃走したらしい。
「…この銀行強盗に艦娘が関わってるんですか?」
「警察はその線が濃厚と発表しているらしい、そしてこれが事実なら非常に由々しき事態になる」
「…と言うと?」
「つまりだ…」
「艦娘の違法な売買行為が“組織”で行われるようになっている、ということだ」
◇
「うぅ…すっかり寒くなりましたね」
「いよいよ冬も本番だね」
一方こちらは台場サイド、三日月と明石が買い出しを終えて帰路についていた。
「…ん?」
「あれは…?」
鎮守府の入り口の所まで帰ってきたとき、門の側に5~6人ほどの人が立っているのに気付く、その内の何人かは大きなカメラを持っており、まるでメディアの取材陣のようであった。
三日月と明石がそのメディアのような集団を見ていると、2体に気付いたマイクを持った女性が小走りで近付いてくる。
「すみません!ここの鎮守府の方ですか?」
「…そうですけど、あなたは…?」
三日月が訝しげな目で女性を見ると、その女性はこう名乗った。
「私、テレビ夕日の報道番組、ハイパーKチャンネルの
その自己紹介に、三日月と明石が唖然としたのは言うまでもない。
次回「無遠慮な人」
誰にでも守られるべきテリトリーは存在する、それは艦娘とて例外ではない。