艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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艦これアーケードをやってきました、もちろん初期艦は吹雪です。


第20話「三日月の場合5」

「さてと、とりあえずは明日の作戦に備えて色々話し合っておきましょう」

 

所変わってここは第4艦隊に割り当てられた宿舎の部屋だ、ローマの提案で今日は夕食の時間まで会議を行うことになった。

 

 

「まずは配役ね、瑞鶴と加賀は空母だから索敵と空撃、戦闘艦の私と摩耶は砲撃で敵の殲滅、セオリー通りでいけばこんな所かしら」

 

 

「まぁ、それが妥当だろうな、砲雷撃戦の手数が不足気味なのが気になるけど…」

 

 

摩耶もローマの提案には概ね賛成のようだ。

 

 

「砲雷撃なら吹雪と暁もいるじゃない」

 

 

「駆逐艦の小口径砲じゃ駆逐棲艦を落とすのがやっとだろ、そんなんじゃ敵主力艦隊とやり合うなんて無理だぜ」

 

 

「でも駆逐棲艦や軽巡棲艦の露払いなら出来るわよ!」

 

 

 

摩耶の発言に暁が食ってかかる、混血艦(ハーフ)になった今の暁は軽巡並みの基礎能力(ステータス)があるのだ、軽巡棲艦にも十分立ち向かえる。

 

 

「よく言うわね、射程も火力もいちばん弱い駆逐艦のクセに」

 

 

「っ!!もう一度言ってみなさい!」

 

 

暁がローマの胸倉につかみかかろうとする、しかしローマがそれを片手で簡単に止めてしまう。

 

 

「ほら、力も戦艦(わたし)以下じゃない」

 

 

自分の全力を軽くいなされた暁は涙目になり悔しそうに座る。

 

 

「ローマ、大人気ないわよ」

 

 

「当然の事を言っただけです」

 

 

加賀のたしなめも全く意に介していないローマ、これでは中々話が進まない。

 

 

「そう言えば、吹雪は何か得意な戦術はあるの?」

 

 

話の流れを変えようと思った瑞鶴が吹雪に問う。

 

 

「得意な戦術…ですか」

 

 

「そう、砲撃が得意とか、魚雷の扱いが上手いとか、何か無い?」

 

 

「そうですね、砲雷撃戦は並程度に出来ますけど、強いて言えば白兵戦が一番得意です」

 

 

「は、白兵戦…?」

 

 

吹雪の予想外の答えに瑞鶴が素っ頓狂な声を出す。

 

 

「私と暁のいる台場鎮守府では工廠が使えないので建造も開発も出来ないんです、だから新しい兵装を導入する事が出来ないので近接兵装を使った白兵戦を取り入れて戦術の幅を広げてるんですよ」

 

 

「へ、へぇ…吹雪も結構苦労してるのね…って、台場鎮守府?そんな所聞いたこと無いけど、新しくできた鎮守府なの?」

 

 

「それは…」

 

 

瑞鶴の疑問に吹雪が言いよどむ、本来台場鎮守府は提督の左遷場所として作られている場所なので一般的には情報を開示されていない、瑞鶴が知らないのは当然なのだがそれをどう説明しようかと吹雪が悩んでいると…

 

 

「提督の流刑地である陸の孤島、だろ?」

 

 

摩耶がそれを答えて見せた。

 

 

「…どうしてそれを?」

 

 

「噂で聞いた事があるんだよ、問題を起こして処分に困った提督を左遷させるための鎮守府があるって、そこは海沿いに建ってるからいつ深海棲艦が襲ってきてもおかしくない、でも艦娘がいないから身を守る手段もない、そんないつ死ぬか分からない恐怖に耐えられずに海軍を去っていく…そんな自主除隊をさせるための場所だろ?」

 

 

摩耶は台場鎮守府の情報を的確に答えぬいていく、まるで初めから知っていたかのように…。

 

 

「そんな所があるの!?」

 

 

「初めて知りました…」

 

 

「驚きね…」

 

 

瑞鶴や加賀、ローマはとても驚いたような顔をして吹雪と暁を見る。

 

 

「と言うことはあなた達の提督は何かしら問題を起こして台場鎮守府に飛ばされたんでしょ?そんな人が指揮する艦娘なんて一緒の艦隊にいて欲しくないわよ」

 

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

 

ローマの言葉に吹雪が敏感に反応する、心なしか声のトーンが落ち、視線にも殺意に似た何かが宿っている。

 

 

「だからお前らの提督はそんな所に飛ばされるようなポンコツって事だろ?そんなヤツの指揮下にいるお前らに期待なんてできるわけ無い…」

 

 

摩耶がそこまで言い掛けたとき、首筋に何か冷たいものが当たる感触がした。

 

 

「その声帯を真っ二つにされたくなかったら、今すぐその忌々しい口を閉じる事ね」

 

 

その正体はすぐに分かった、暁が鎌の深海棲器を摩耶の喉元に押しつけているのだ。

 

 

「っ!!」

 

 

摩耶がその状況に気付いたとき、全身からどっと冷や汗が流れ出る、砲雷撃戦しかしたことのない摩耶にとって敵と火砲を交える事には相当の耐性がある、しかしこのような武器が直接生身に触れる状況…いわゆる白兵戦には全くの耐性がないので摩耶は一気に恐怖の感情に飲まれていた。

 

 

瑞鶴たちはあまりの急展開に付いてこられず、目を丸くしてこちらをただ見ているだけだった。

 

「お、おい吹雪!暁を止めてくれ!お前が旗艦(リーダー)だろ!!」

 

 

普段の威勢のいい性格はどこへやら、摩耶は涙目になって吹雪に訴えかける。

 

 

「…暁、深海棲器をしまって」

 

 

「…分かった」

 

 

暁は不服そうに鎌を格納すると、吹雪の隣に座る。

 

 

「言っとくけど、次司令官や台場の仲間を侮辱したらぶっ殺すから」

 

 

暁は殺意に満ちた目で摩耶を睨み付ける。

 

 

(こりゃ中々個性的な子たちが来たわね…)

 

 

瑞鶴は苦笑しながら心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

「んー!美味しい!やっぱり大本営のカレーは格別ね!」

 

 

その日の夕食の時間、第4艦隊のメンバーは食堂でカレーを食べていた、大本営のカレーは絶対に一度は食べておいた方がいい、という瑞鶴の熱弁により全員がカレーを注文することになったのだ。

 

 

「確かにこれはなかなかの味ね、瑞鶴が推すのも頷けるわ」

 

 

「おお!こりゃうめぇ!」

 

 

「…なるほど、確かに美味しいです」

 

 

大本営お手製のカレーは第4艦隊のメンバーにも好評だったようだ。

 

 

「とりあえず明日の配役の復習だけど…」

 

 

ここでローマが昼間の会議の内容を持ち出す、途中でギスギスした空気になってしまったが、どうにか話をまとめる事には成功したのだ。

 

 

「まずは吹雪と暁が白兵戦で敵を牽制して動きを止める、次に私たち主力艦が砲撃と空撃で敵を仕留める、基本的にはこんな流れでいいわね?」

 

 

「いいと思うわよ、さすがに白兵戦が加わるのは予想外だったけど…」

 

 

「私も異論はありません」

 

 

「反対じゃないけど、本当に牽制出来るのか?お前ら」

 

 

「それに関しては問題ありませんよ、たとえ戦艦棲艦が相手でも役目を果たせます」

 

 

「ずいぶん大きく出たねぇ、まぁせいぜい足引っ張らない程度に頼むぜ」

 

 

摩耶はお茶を飲みながら吹雪に言う、ある程度は吹雪たちの事を認めてくれるようになった摩耶だが、やはりまだ半信半疑といった様子である。

 

 

その後は他愛のない会話をしながら時間を潰していく。

 

 

 

 

 

 

 

時刻は日付が変わる頃、南雲藤和は執務室である人物を待っていた。

 

 

「失礼します、南雲元帥」

 

 

そう言ってノックもせずに入ってきたのはひとりの男だった、名前は榊原啓介(さかきばらけいすけ)、歳は30代半ばだが老け顔のせいで年齢以上に年上に見られがちなのが悩みだ。

 

一見頼りなさそうな見た目をしているが、実は艦娘開発の先駆者であり第一人者でもある、彼が立ち上げた艦娘開発部署『造船所』は今や深海棲艦との戦いにおいて欠かせない存在となっている、ちなみに艦娘開発の技術詳細などは複製や悪用を避けるため造船所の人間のみしか知ることが出来ないブラックボックスとなっている。

 

「新しい艦娘の建造を進めているという話を聞いたが、詳細を聞きたい」

 

 

「はい、建造予定の艦娘は…陽炎型駆逐艦8番艦『雪風』、秋月型駆逐艦1番艦『秋月』、マエストラーレ型駆逐艦3番艦『リベッチオ』の3体です』

 

 

榊原は手元の資料を読みながら南雲に説明する。

 

 

「建造状況は?」

 

 

「雪風と秋月はすでに建造が完了して覚醒しています、リベッチオは個体の組織形成が8割方終わっている状況ですね」

 

 

「そうか分かった、夜遅くにすまないね」

 

 

「いえ、また進展がありましたら報告に参ります」

 

 

榊原はそう言って一礼する。

 

 

「しかし、建造だの造船所だの、艦娘はまるで在りし日の艦艇の生まれ変わりみたいだな」

 

 

「いえ、『艦娘』というのは対深海棲艦用の生体兵器につけられた便宜上の()()です、実際は生まれ変わりでもなければかつての艦艇とも全く関係ありません」

 

 

「なるほど、そう言えば『深海棲艦』という名前も君がつけた便宜上の例えだったね、君は本当にユニークな発想を思いつく」

 

 

愉快そうに笑う南雲に榊原は恐れ入ります、と軽く頭を下げる。

 

 

「分かった、夜遅くにすまないね、ゆっくり休んでくれ」

 

 

「はい、失礼します」

 

 

榊原は南雲に一礼して執務室を後にする。

 

 

「………」

 

 

造船所に戻る通路を歩いている榊原はポケットから携帯を取り出すとある番号に電話をかける。

 

 

「…榊原だ、あぁ、例の件は何か分かったか?」

 

 

榊原は電話相手の話を聞いて顔を曇らせる、その様子を見るといい返答ではないようだ。

 

 

「分かった、引き続き調査を続けてくれ」

 

 

榊原は電話を切ると携帯をポケットにしまう。

 

 

「…………」

 

 

榊原の表情は造船所に戻るまでずっと曇ったままだった。




ちなみに艦これアーケードですが、吹雪以外では叢雲と暁をゲットしました、叢雲がキラカードでおっかなびっくり。

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