艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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資材が回復してきたので、大和型やビスマルクにチャレンジしてみようとマックスを秘書にして大型艦建造を一回だけ回しました。

瑞鳳でした。

持ってなかったので当たりっちゃ当たりなんですが、大型艦建造で出したという事実が言葉にできないモヤモヤを生み出します。


第196話「渋谷奪還作戦10」

「大丈夫かい?」

 

 

解体作業を終えて部屋から出て来た榊原たちだが、所長室に戻るなり絵菜が放心状態で座り込んでしまったため、榊原がコーヒーを淹れた。

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

絵菜はカップを受け取るとゆっくりコーヒーを口に流していく、さっきまで少女が溶けていくというグロテスクかつショッキングな光景を見て身体が震えることもあったが、今では大分落ち着いてきた。

 

 

「しかし君があそこまでショックを受けるとは思わなかったよ、何とも思わないだろうと思って見学を許可したんだけど、これは予想外だったよ」

 

 

「…随分意地悪な事を言うんですね」

 

 

榊原の言葉に絵菜は不機嫌そうな顔で睨む。

 

 

「ごめんごめん、でも正直な事を言うと、君を連れてきたのは君が艦娘を憎んでいると聞いたからどういう反応をするかと気になったからなんだ」

 

 

「…なお意地悪ですね」

 

 

「否定はしないよ」

 

 

榊原が苦笑しながら肩をすくめる、それを見た絵菜はさらに不機嫌そうな顔をするが、それ以上追求しない辺り彼女にも何か思うところがあるのだろう。

 

 

「正直ここに来るまでは艦娘のことを憎んでいました、でも、あの子たちを見ていたら、そんな気持ちが霧散するようにどこかへ消えてしまったんです…」

 

 

「…そうか」

 

 

俯きながらそう言う絵菜に、榊原は特に何かを言うわけではなかった。

 

 

 

「…でも、それを言うなら私も意外だと思いましたよ、艦娘を肯定する立場なのに割とあっさりあの子たちを切り捨てましたよね、もっと親身になって助けると思いましたけど…」

 

 

 

絵菜がそう聞くと、榊原の顔に影が落ちる。

 

 

「…そうだな、ならひとつたとえ話をしよう、3万円で買ったデジタルカメラを5万円で修理に出そうと思うかい?なおカメラは量産品ですぐに同じモノを買い直せる種類とする」

 

 

突然のたとえ話に驚いた様子の絵菜だが、10秒ほど考えるような仕草をした後、口を開く。

 

 

「それだったら新しいカメラを買った方が安上がりですよ、一点モノの貴重なカメラなら修理しますけど、量販店で売っているようなモノならまず修理に出さずに買い換えます」

 

 

絵菜は榊原のたとえ話にそう答える、おそらく大多数の人が絵菜と同じ答えを出すだろう、榊原はその答えを待っていたかのような様子で話を再開する。

 

 

「艦娘もそれと同じなんだよ、艦娘は深海棲艦と戦うことを目的とした量産型の兵器だ、それがままならなくなった個体に時間と労力と金をかける余裕は無いよ」

 

 

「…随分残酷な事を言うんですね、量産品だから個人の意志は尊重されないんですか?」

 

 

「量産品()()()()()だよ、その艦娘が二度と製造できない一点モノであればその貴重さを理由に保護出来るかもしれない、それこそ艦娘個人で見ればそれぞれが一点モノみたいなものだけど、でも艦娘は量産型兵器で目的は深海棲艦との戦闘、重要視されるのは“艦娘個人”ではなく“艦娘”そのものだ、代わりがいるからこそ戦力外を早々に切り捨てて空いた穴を埋めなければいけない、そんな残酷な選択を取らなければいけないんだよ、それは本当に辛く、悲しいことだ」

 

 

榊原は心の底から悲しそうな声で絵菜にそう語って聞かせる、それを見た絵菜は何かを決意したような表情になり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…榊原所長、ご相談したいことが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

七海はベアトリスに案内されて兵装開発施設に足を運んでいた、七海が設計した新兵装の開発をベアトリスにお願いしていたのだが、それが完成したとの報告を受けてやってきたのだ。

 

 

「それでベアトリス、これがそうなのね?」

 

 

 

「はい、移動要塞型特殊歩行兵装…通称“ユミル”です」

 

 

ベアトリスは新兵装…ユミルを七海に紹介する、ユミルを一言で言うなら巨大な駆逐戦車と言ったところか、実物大の戦車のような本体に巨大な足が4本生えており、身体のあちこちから大口径の主砲がいくつも伸びている、ユミルの前面には怪物のような口が鋭い牙を見せつけるようにして存在し、喉の奥には砲門が顔を覗かせている。

 

 

そしてユミルの上部には操縦席が存在し、誰かが乗って動かすというのが基本のスタイルだ。

 

 

「…すごいわね、私の設計よりも数段バージョンアップしてる、それで、パイロットのヒュースの製造状況は?」

 

 

「はい、このために製造されたヒューマノイド・ソルジャー…“ユリアナ”はすでに完成しています、強制記憶(インプット)と覚醒も済んでいるのですぐにでも実践に出せます」

 

 

「…そう、分かったわ」

 

 

「しかし七海様、今回の作戦の拠点が渋谷とありますが、あそこは海もなければ排水用の地下空洞も無いですよ?侵入出来るんですか?」

 

 

作戦要項を事前に読み込んでいたベアトリスは七海に疑問をぶつける。

 

 

「それに関しては大丈夫よ、そのために東京の都心部を調べて回ったんだから」

 

 

「それって、東京駅で迷子になって艦娘に道案内してもらったってアレですか?」

 

 

「…変なことは思い出さなくてよろしい」

 

 

変な記憶を掘り起こされた七海は恥ずかしそうにコホンと咳払いをして話の流れを強引に戻す。

 

 

「何も進入経路は海に直接繋がっている排水路だけじゃないわ、今回に限って言えば、人間は東京に地下空洞を毛細血管のように張り巡らせているもの、今回はそれをちょっと利用させてもらうだけよ…」

 

 

七海はそう言って不敵に笑ったが、ベアトリスはその発言の意図を理解できずにいた。

 

 

 

 

「…おい、今なんて言った?」

 

 

日の入り時刻を迎えた台場鎮守府提督室、そこで海原は耳を疑うような話しを耳にしていた。

 

 

『言ったとおりだ、お前、明日のハイパーKチャンネルに出ろ』

 

 

それがこの、鹿沼からのワイドショー出演オファーである。

 

 

『最近艦娘が悪用される事件が多発してるからな、そのせいで世論が騒がしいからメディアの影響力を使ってそれを沈めるという元帥のお考えだ』

 

 

「…それでテレビ出演ってのはまだ理解できるよ、でも何で俺なんだ?そういうのは上層部の得意分野だろ?」

 

 

『その上層部がめんどくさがってお互い譲り合ってるのが現状なんだ、下手なことを言えば大衆と軍内部の両方から叩かれるからな』

 

 

「…それで切り捨てやすい窓際の俺に押し付けようってハラか、本当に海軍上層部はロクでもねぇ奴らばっかだな」

 

 

『話を最後まで聞け、確かにそういう理由もあるが、お前が選ばれた主な理由はまた別にあるぞ』

 

 

「?」

 

 

『今回の海軍上層部の目的は艦娘に対しての反対感情の沈静化だ、それには艦娘が完全な加害者じゃないって事を世間にアピールする必要がある』

 

 

「…それが俺とどう繋がる?」

 

 

『お前は艦娘のことを第一に考える主義の人間だ、艦娘にとってマイナスになるような事はしないし言わない、そう言った意味ではお前ほどの適任はいない』

 

 

そこまで聞いて海原はようやく鹿沼の発言の意図を理解した、用は自分がテレビに出て艦娘を庇えと言っているのだ。

 

 

「…そう言うことなら出てやってもいい、ただしひとつ言っておく」

 

 

『何だ?』

 

 

「お前の言うとおり俺は艦娘を第一に考えてメディアにコメントする、だが艦娘は庇っても海軍そのものを庇う気はないからな、そもそもこの事件は海軍の司令官が艦娘を不正に民間人に売ったことが発端だ、それに関しては素直に海軍の非を認める、正直海軍の信頼が地に落ちようが知ったこっちゃ無いが、海軍の信頼あっての艦娘の信頼だ、なるべくダメージが少なくなるようにコメントしてやるが、変にごまかすような事はしない、無傷で済むとは思うなよ」

 

 

『別にそれでいい、艦娘を世論から守れれば後はお前に任せる、詳しいことは後でFAXを送る』

 

 

「…了解」

 

 

海原は電話を切ると、椅子の背もたれに背中を預けてふぅ…と息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっかいな事になりやがったぜ…」




次回「敵渋谷陸上泊地強襲作戦」

陸の上に作られた深海棲艦の泊地を強襲、これを破壊せよ!

ちなみに東京駅で迷子になった七海は番外編「瑞鶴と加賀の休日(後編)」を参照。

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