艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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大鯨をゲットしようと2-5に出撃したら浜風が手に入りました、違う、君じゃないんだ。


尺の都合で前回の次回予告の内容は少しだけ見送りになりそうです、あくまで予告なので許してください…


第197話「渋谷奪還作戦11」

東京サブウェイ藩蔵紋線の運転手、小立遠矢(こたちとおや)は少々憂鬱な気分で電車を運転していた、今日は休日だというのに朝から乗車率が平日並に高かった、おそらく路線周辺で規模の大きなイベントなどが開催されているのだろう、乗客が増えるのは会社としては大きなプラスになるのだがその分ダイヤの微妙な遅れやしょうもないトラブルがよく起こるので小立からすれば迷惑極まりない話である、その上人身事故などの大きな事故が起きる可能性も大きくなるので尚更たまったものではない。

 

 

「そろそろ渋谷だな…」

 

 

あと数分もしないうちに電車は終点の渋谷駅に到着する、そろそろ速度を落とそうか…と小立は1段に入れていたマスコンを切って惰性走行に切り替え、ブレーキレバーを握る手に力を込める。

 

 

「…ん?」

 

 

すると、小立は前方の光景に違和感を覚えた、普通ならトンネルの景色が延々と退屈に流れるだけなのだが、明らかにそれとは違うモノが見える、なにやら大きな足の生えたモノが…。

 

 

「障害物…!」

 

 

そう判断した小立はブレーキレバーを一気に非常ブレーキまで持って行く、電車は60キロ程度出ていたので、この速度でいきなり急ブレーキをかければ乗客への衝撃もかなりのモノになるだろうが、それでも衝突して大惨事になるよりは遥かにマシだ。

 

 

甲高いブレーキ音を響かせながら電車は速度を落としていく、障害物まであと100メートル程しか無いが、速度はまだ40キロも出ている。

 

 

 

残り80メートル…60メートル…40メートル…残り20メートルを切ってもまだ25キロ程出ていた。

 

 

 

「ダメだ…!ぶつかる!!」

 

 

衝突までに止まれないと確信した小立は衝撃に備えようとする、その時彼はその障害物の全容を目の当たりにした、鮮血のように真っ赤な瞳に真っ白な肌と長い髪を持った女性、そしてその女性が乗る…さながらSF映画に出て来るような多脚戦車のような機械…

 

 

しかし、結果から言えば電車がその障害物に衝突する事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝突するはずの先頭車両は、その前半分が跡形もなく吹き飛んでいたのだから。

 

 

 

 

 

 

鹿沼からオファーの電話があった翌日、海原は曙と共にテレビ夕日のある港区の六本木に来ていた。

 

 

「へぇ、これが楽屋ってやつなのね」

 

 

「意外と質素な部屋なんだな」

 

 

番組の開始時間までまだ90分ほどあるため、海原たちは番組スタッフから楽屋(出演者の控え室)に案内されていた。

 

 

「バラエティーとかならここでドッキリが入るけど、やっぱりそういう仕掛けとかあるのかしら?引き出し開けたらアウト~、ってケツバットとか…」

 

 

「いや、ねぇだろ、俺たちが出るのはニュース番組という名のワイドショーだし、そもそも一般人に普通ドッキリなんて出さねぇって」

 

 

置いてあったペットボトルのお茶を飲みながら海原は言う。

 

 

「しっかし、元帥もえげつねぇ事言ってくれるよな、テレビに出るときに曙を一緒に出演させろ…だなんて、正気の沙汰じゃねぇよ」

 

 

「まあ、番組の意向で当事者にも話をさせたいっていうのは昨日のFAXにも書いてあったし、確かにスジは通ってるからね、しょうがないわよ」

 

 

「…お前にはこういうことさせたくなかったんだけどなぁ」

 

 

はぁ…と海原は溜め息を吐くが、曙はそれほど嫌そうな顔はしていなかった。

 

 

「別に提督が気にする事じゃないわ、それにこれで艦娘に対する見方が変わってくれれば私も(やぶさ)かではないし」

 

 

曙がテレビ出演に対して思ったよりも前向きなので海原はひとまず安心する、すると楽屋のドアが控えめにノックされる。

 

 

「どうぞー」

 

 

海原がそう返すと、ドアが開いて女性が入ってくる、絵菜だった。

 

 

「またアンタか、また(コイツ)に根掘り葉掘り聞こうってのか?」

 

 

「…いえ、今日はそうじゃないの」

 

 

海原が不快感を露わにして絵菜を睨むと、絵菜は申し訳無さそうな顔をして曙を見る、以前の高圧的な態度とは打って変わった絵菜に曙は戸惑いを隠せない。

 

 

「あの…今までごめんなさい」

 

 

絵菜は海原と曙に向かって深々と頭を下げて謝罪をする、その様子にふたりは目を丸くする。

 

 

「ど、どうしたんだいきなり…?」

 

 

「この前、造船所の榊原所長の所へ取材に行ったんです、そこで保護された例の銀行強盗団が違法に売買した艦娘を見てきました、そして、解体されるところも…」

 

 

絵菜は造船所へ取材に行った経緯と、そこで何があったかを克明に話した。

 

 

「…なるほど、それはキツいモノを見てきたな」

 

 

「あの時、私の中の色んな価値観が粉々に砕けました、艦娘は夫を殺した憎い存在だと思っていたのに、あの子たちを見て、全てが変わりました…」

 

 

絵菜は泣きそうな顔で自らの心情を吐露する、そして、一通り語り尽くすと、絵菜は真剣な表情になり…

 

 

「私は、艦娘への見方を変えようと思います、個人的な偏見にまみれた目じゃなく、ジャーナリストとしての公平な目で、そして人としての純粋な目で彼女たちの心と、真摯に…」

 

 

海原の目を真っ直ぐに見て、彼女はためらいなくそう言った。

 

 

「…そうか」

 

 

海原はそれ以上何かを言うことは無かったが、その表情はどこか満足げだった。

 

 

「それともう一つ、今日海原さんが出演するハイパーKチャンネル、私がメインキャスターなんですよ」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「はい、艦娘の解体の映像を公開して艦娘の実情の提示と、彼女たちは本当に悪なのかということを世間に問いかける、そういった内容を予定しています」

 

 

「公開って、随分と思い切ったな」

 

 

「海軍上層部の許可は取っています、艦娘の是非を問うには、これくらいしか出来ませんから…」

 

 

絵菜は苦笑しながら頬を掻く。

 

 

「そういう訳なので海原さん、今日はお互いよろしくお願いします」

 

 

「あぁ、よろしく」

 

 

絵菜は軽く会釈をすると、楽屋を後にした。

 

 

「…良かったな、曙」

 

 

ふたりだけになり静まり返った楽屋に、海原の声がやけに通って聞こえた。

 

 

「…うん」

 

 

曙はそれしか返さなかったが、その声は海原以上に通っており、そう返した彼女の顔は、心の底から嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

番組開始予定時刻が近付いてきたので海原と曙がスタジオに入ると、もうすでにほとんどの出演者が集まっていた、各方面の専門家や有名タレントなど、割とテレビでよく見るバラエティー豊かな面子である。

 

 

「…ニュース番組って聞いたからもっと“堅い”のを想像してたけど、意外とバラエティー色強いのね」

 

 

「ニュースって言ってもワイドショーという名のバラエティーだからな、専門家がマトモな事を言ったりもするが、基本芸能人やタレントが望んでもいない好き勝手な個人論をぺちゃくちゃ喋るだけでうるさいだけだ、最近の選挙特番が良い例だよ、政治と全然関係ないタレントが当たり障りのない質問で政権者をヨイショするばかりで中身なんてありゃしない」

 

 

「すぐ近くに出演者や番組スタッフいるのによく堂々と言えるわよね、本当にそういうところ尊敬するわ…」

 

 

曙は額に手を当てて尊敬半分呆れ半分で言う。

 

 

「俺は艦娘の是非について語りに来ただけで出演者(こいつら)に媚びを売りに来た訳じゃないからな、そもそも望んでここに来た訳じゃねぇし」

 

 

好き放題言っている海原に対して一部の出演者や番組スタッフが睨むような視線を向けるが、海原は全く意に介さない。

 

 

そうこうしている内に開始時間間近になり、出演者及びスタッフも全員配置に付く、海原と曙はスタッフに指示された通り端の方に座る、先ほどの発言を聞いていたのか左右にいる出演者が睨みを利かせているが、海原が全く気にしていないのは言うまでもない。

 

 

「本番5秒前!…3…2…1…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少々不穏な雰囲気の中、番組が始まった。




次回「テレビ論争」

その実態を目の当たりにしたとき、あなたは何を思いますか?

果たしてこの予告通りに話がすすむのか…(おい

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