艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
一方こちらはハチ率いる支援班、シェルター内の救援活動の手伝いと言われて海原と共に中へ入ったのだが、予想以上にひどい状態だった、あちこちに大なり小なり怪我をした人が寝かされており、医師や救護員などがその治療に追われていた。
「で、私たちは何をやればいいのかしら…」
「救援物資を運んだりそれぞれ必要なところへ持って行くのが現時点の仕事かな」
「よし、ならちゃっちゃとやるわよ」
ハチたちはそれぞれ持ち場につき、救援活動の支援にあたる。
「…でも、本当に酷い有様ね、ほとんどが重傷者じゃない」
海原とペアでシェルター内を走り回っていたハチが辺りを見渡して言う、現在救護を受けている負傷者は数百人、そのうち重傷者はゆうに100人を軽く越えている、シェルター内に集まっている数十人の医療関係者では到底手が足りない。
「…ん?」
その時、ハチは負傷者が寝かされているエリアの一角に、
そこには他の負傷者よりも明らかに致命傷を負っている人たちばかりが寝かされており、まさに死まで秒読みといった状態だった、家族らしき人が側で悲しそうに泣いていたり近くの医療関係者に救護を求めていたりしているのだが、誰一人助けに来る様子はない、どう見ても
「提督、あれ…」
ハチが海原にその
「…あいつらの腕に巻いてあるやつがその答えだよ」
不安そうな表情でこちらを見るハチに対し、海原は負傷者の
「提督、あのカードは…?」
「あれは“トリアージ・タッグ”っていって、こういう大規模な災害現場なんかで負傷者の怪我の程度を簡易的に表すモノだ、一番軽傷な人が緑、そこから黄色、赤になるほど怪我が重くなる」
「…じゃあ、そこにいる黒は…?」
ハチは恐る恐るといった様子で海原に聞く、しかし
「黒は“死亡”、もしくは“処置を施してもたすかる見込みのない人”…要は『諦めろ』って事だ」
「っ!!」
海原の決定的な一言にハチはギュッと胸を締め付けられるような気持ちになる。
「残酷な事言うようだけど、今ここにいる連中だけじゃシェルター内の負傷者を全員助けるのはほぼ不可能だ、人も物資も全然足りてないしそうした設備も無い、なら助かりそうにない奴から切り捨てていくしかない、1人の致命傷者に時間をかけて100人の重傷者を死なせるより、1人を切り捨てて100人を救う方が理にかなう」
「…確かに理屈ではそうですけど…」
ハチが納得出来ないといった様子で言う、確かに海原の言うことは筋が通っているが、たとえ理屈がそうだとしても人の情がそれに納得するかと言えば必ずしもそうではない、むしろ人を救う立場の人間なら101人を救うことが一番いい選択肢だ、だが現実はそう甘くない。
「お前が納得できないのも当然だ、人間は理屈で考えて情で動く、今の例えなら101人を救うことが何より良い方法だろう、でも医師の需要に対して人間の供給が圧倒的に足りない状況下で101人を救う事なんて不可能だ、それが人数がより多い目の前の状況なら尚更、こういうプロってのは、時に理屈で考えて理屈で動く冷徹さも求められるんだ」
「…はい、それはもちろん分かってます」
ハチはそう海原に返すが、やはり胸の奥につかえのようなモノが残ってしまう、せめて何か自分に出来ることはないか、そう思い始めたとき…
「でも、だからといって俺たちに出来ることが無いわけじゃない」
海原がさっきまでとは打って変わって明るい口調になって言う。
「今走り回っている連中がひとりでも多くの人たちを助けられるように精一杯協力する事だ、今やっている物資の運搬だってそうだし、グリーンレベルの負傷者の応急処置なら俺たちでも協力できる、流石に黒を減らすことは出来ないが、救い上げる命の数は増やせるはずだ」
海原はそう言うと、持っていた救援物資の段ボールを担ぐと、早歩きで歩き出した。
「行くぞハチ、俺たちみんなでこいつらを助けるんだ」
「…はい!」
海原の言葉を聞いたハチは同様に段ボールを抱えて歩き出した。
次回「エゴ」
人はいつだって自分勝手な