艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
現在イベント海域E-5(輸送)を攻略中ですが、空襲マスで駆逐艦が大破しまくるせいで一度もボスにたどり着けていません、色々やべぇ。
「…ねぇ吹雪さん、本当に暁たちだけ抜けてきて良かったのかな」
「大丈夫だよ、武蔵さんたちには断ってきたし、それに元凶をやった方が効率もいいって言ってたし」
吹雪と暁はひそひそと会話をしながら渋谷駅構内を駆け回っていた、駅からぞろぞろと出て来てはユリアナへの攻撃を妨害してくる駆逐戦車の元を叩くべく、深海棲艦が掘ったという地下鉄のトンネルを調べる為にDeep Sea Fleetの戦闘班は渋谷駅の調査に乗り出した、調査メンバーは吹雪、暁、三日月、篝の4体、残りはユリアナへの対抗戦力温存のために残ってもらっている。
「うわ…スゴいことになってるわね」
「駅構内とは思えないね」
渋谷駅構内は爆破テロにでも遭ったのかと思うほどあちこちが崩れており、床には瓦礫が散乱していた。
「で、駆逐戦車の進入経路になってる藩蔵紋線のホームはどっちでしたっけ?」
「えっと…こっちだね」
事前に頭に叩き込んできた構内の見取り図を思い浮かべながら、吹雪たちは目的のホームへと到着する。
藩蔵紋線のホームは構内同様荒れに荒れていた、壁や床のあちこちには大穴が空いており、一部が崩れて瓦礫の山になっている、天井を支える柱も何本か折れており、崩れてしまわないかが心配だ。
「…なんか、不自然なくらい静かよね」
「本当にここが駆逐戦車の進入経路なんでしょうか…」
吹雪たちは進入経路とされている藩蔵紋線のホームを見渡しながら口々に言う、確かにホームの荒れ具合からここが駆逐戦車の進入経路と見て間違いないのだろうが、肝心の駆逐戦車の姿はどこにもない。
「……………」
そんなホームの様子を見て、吹雪はある種の焦燥感を感じていた、ユリアナとの戦闘中までは駅の入り口から絶えず駆逐戦車が姿を現していた、つまり今この駅構内は駆逐戦車の巣になっているはずだ、しかし自分たちが構内に進入してからここに来るまでの間、駆逐戦車の姿は一体も見ていない、そして、駆逐戦車が駅から姿を消したのは吹雪たちが構内に進入したのとほぼ同じタイミングだ、偶然にしては出来すぎている。
まるで、こちらが駅構内に進入する事を知っていて、このホームにやってくるよう仕向けられているかのような…
「っ!?」
刹那、背後から物凄い殺気を感じた吹雪は素早く真横へ跳んだ。
「吹雪さん!?どうしたの…」
いきなりの吹雪の行動に驚いた暁だったが、次の瞬間、吹雪が立っていた場所に巨大な鉄球が飛んできて、その先にあった壁に穴を空ける。
「なっ…!?」
あまりに突然の出来事に事態が飲み込めず、口をあんぐりと開けていた暁たちだったが…
「あら、私の不意打ちをかわすなんて、中々やるのね」
背後からひどく聞き覚えのある声が聞こえてきて、吹雪たちは後ろを振り向く。
「…あなたたちは…」
そこにいたのは、かつてDeep Sea Fleetの手を散々焼いた飛行場姫ことエリザベート、そして…
「お久しぶりです、粗悪品のみなさん」
始原棲姫と名付けられた始まりの深海棲艦…七海だった。
◇
「提督!夕立と時雨の処置終わりました!」
「了解!ガーゼ交換してウォースパイトの手当に移れ!」
海原たちはシェルター内で艦娘たちの応急手当てに追われていた、戦闘が激しくなるにつれ大破相当の大ダメージを受けて運び込まれてくる艦娘が増えていき、高速修復材を使用しても人手が足りなくなる状態にまでなっている。
「えーっと、ウォースパイトさんの容態は…」
「…あ、あの…!」
そんな中、各艦娘の損傷度合いを見ながらてんてこ舞いだったハチにひとりの女性が声をかけた。
「私にも、何かお手伝いさせてください!」
「…えっ!?」
女性の思わぬ申し出に、ハチは目を丸くしてしまう。
「私たちを守るために艦娘さんたちはそんなに傷ついているんですよね?なら私も艦娘さんのために何かしたいんです!」
女性は真っ直ぐな眼差しでハチを見る、正直申し出はとてもありがたいのだが、民間人に艦娘の手当を手伝わせてもいいのだろうか…?。
「よし、ならお言葉に甘えさせてもらうぜ」
すると、女性の話を聞いていた海原がそれを承諾し、高速修復材の入ったバケツとガーゼを渡す。
「このガーゼにバケツの中の液体を染み込ませて艦娘の損傷箇所を撫でるように拭いてほしい、といっても勝手なんか分からないだろうから基本はこの金髪の艦娘の手当を手伝ってくれ」
「は、はい!分かりました!」
女性はガーゼと修復材を受け取ると、早速作業に取り掛かる。
「…いいんですか提督?民間人に手当を手伝わせたりなんかして…」
「猫の手も借りたいのは事実だからな、それに、さっきまで艦娘のことを毛嫌いしていた人たちがこうして艦娘のために何かしようとしてくれてるんなら、それは大きな一歩だ」
そう言って海原は周りを見渡す、女性の申し出を聞いていた他の避難住民たちがそれに触発されたのか、救護作業の手伝いを申し出る人がぽつぽつとだが出始めている、中には先程まで救護所の設営に反対していた人も混じっていた。
「もしこれが戦場の艦娘のリアルを見た結果なら、世間の艦娘に対する認知を変えるきっかけになると思う、それは今の艦娘の現状にとって良いことだと思うぞ」
「…そうですね、私もそう思います」
正直、今の艦娘に対する世間の風当たりは強い、特に曙や違法売買艦娘が巻き込まれた事件以降はさらにそれが強まっている、敵視していると言っても過言ではないだろう。
「俺も何か手伝うよ!」
「こっちの段ボールを手伝ってくれ!」
「分かった!任せろ!」
しかし今この瞬間、それが少しずつだが変わろうとしていた、艦娘に対する認知が人間を傷つける“敵”ではなく、人間を守る“味方”になりつつある、確かにそれは海原の言うとおり大きな一歩と言えるだろう。
「さてと、私も頑張らなくちゃ」
変わりつつある何かに心が温かくなるのを感じながら、ハチは手伝いを申し出た女性と共に手当てを再開した。
「そういえば名前を名乗っていませんでしたね、私は伊8と言います、ハチと呼んで下さい」
「ハチさんですね、私は
「分かりました、一緒に頑張りましょう暁さん!」
「はい!ハチさん!」
◇
「…それで、どうだ?うまく行ったか?」
作戦司令本部から少し離れた場所で、南雲は携帯で誰かに電話をかけていた。
「そうか、なら速やかにその場から離れろ、決して証拠は残すんじゃないぞ」
『…………』
電話口から微かに聞こえるのは女の声だった、いや、女と言うにはもう少し幼い…少女と呼べるくらいの年齢の声色だろうか。
「お前がそれを知る必要はない、さっさとその場から立ち去れ」
南雲は少女の質問と思われる声をバッサリ斬り捨てると、さっさと電話を切ってしまう。
「さて、あとはゆっくり泳がせるか」
南雲は不気味な笑みを浮かべると、何事も無かったかのように本部へと戻っていった。
次回「“博士”と“所長”」
自分の正しさを、怪物は今一度考える。
霜月暁2回目の登場。