艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
今更気付いたんですが、西方海域のカスガダマ沖海戦のボス艦隊名って「敵東方中枢艦隊」なんですね、西方海域なのに東方艦隊ってこれいかに。
ボロボロになった暁たちがやっとの思いで地上に戻ると、そこには世紀末的な光景が広がっていた、ビルなどの建物はあちこちが崩れて瓦礫の山と化しており、中には倒壊しているモノもあった、アスファルトもほとんどが吹き飛んで下の土が露出しており、まともに歩ける部分を探す方が難しいくらいだった。
「大和さんたち、こんな状態で戦ってたんだ…」
「それであのユリアナを負かすんですから、凄いもんですよね」
敵が去って変わり果てた町並みを見て暁たちは立ち尽くしていた。
「暁!それにみんな!」
「無事だった!?」
すると、支援班としてシェルターに残っていたハチたちがこちらに駆けてくるのが見えた。
「ハチ!シェルターの避難住民は?」
「全員無事ですよ、今海軍のお偉いさんや陸自の人たちが帰宅の手伝いをしています、この周辺に住んでいて帰れそうにない帰宅困難者は近くの指定避難所でしばらく過ごすことになるそうです」
「そう…大変なのはこれからって所ね」
「ところで暁、さっきから吹雪の姿が見えないようだけど、どうしたの?」
マックスからそれを聞かれ、暁は答えに詰まった、吹雪が連れて行かれたのはそのまま伝えるほかないが、たぶんみんなは、特に海原はショックを受けるだろう、そう考えるととても気が重い。
「…とりあえず、司令官と
◇
暁たちは海原と南雲のいるシェルターへ移動すると、怪我の手当を受けながら渋谷駅での事を手短に説明する、構内に七海とエリザベートが伏兵として待機していたこと、そしてその2体によって吹雪がさらわれてしまったこと。
「吹雪が始原棲姫と飛行場姫に連れて行かれた…!?」
暁の説明を聞いた海原は目を剥いた、海原だけではない、支援班のDeep Sea Fleetメンバー、そしてシェルター内にいた大和や武蔵などの吹雪を知る艦娘達も驚きを隠せなかった。
「そんな…!吹雪が…嘘でしょ!?」
「…残念だけど、本当よ」
「信じられん…あの吹雪だぞ?
それぞれの艦娘が吹雪が連れて行かれた事に対して“まさかあの吹雪が”という思いを抱いていた、それだけみんなが吹雪という艦娘を評価していたのだろう。
「……………」
みんなが絶望に近い空気に包まれている中、探索班の艦娘たちは不思議と冷静だった、その主な理由は吹雪をさらった“理由”である。
あの時、七海が吹雪をさらったのは“榊原を知っているか”という七海の質問にイエスと答えたからというのが大きい、つまり七海は吹雪から榊原の情報を得ようとしてさらったのだ。
(もし本当に所長の情報のためにさらったんだとしたら、七海が吹雪さんに危害を加える可能性は低い)
(それに吹雪さんの事です、暁さんのような無理に抵抗して事を悪くする馬鹿じゃない)
(なら、吹雪が生きて帰ってこられる可能性も十分にある)
暁たちはそれぞれそんな事を考えながら報告を続けたが、七海を生み出したのは榊原だということは言わなかった、これは深海棲艦の誕生の秘密、さらに言えば艦娘が生まれ、この10年に渡る戦争が始まるきっかけを作り出した話だ、機密情報なんて生易しいレベルではない。
それに、この事を今南雲に伝えれば、海軍や警察は榊原を捕らえ“深海棲艦を作り出した狂気の大罪人”として扱うだろう。
別に榊原のしたことが許される事だと言うつもりはない、でもこのまま榊原が捕らえられるのは好ましいことではない、そう暁たちは思ったのだ。
自分たちは七海の事を何も知らない、榊原がなぜ七海を生み出したのか、そして七海や榊原が何を感じて、何を思っているのか、それを知るまでは榊原が捕まってはいけない。
(司令官や他のみんなには悪いけど、この事はまだ言うべきじゃない)
(吹雪さんはきっと帰ってくる)
(だからそれまでは…)
この『世界の秘密』は、仕舞っておこう…。
◇
その夜、南雲は一度大本営に戻り、今後の渋谷の復興について案を練っていた。
「元帥、失礼します」
すると、部屋のドアがノックされて1体の艦娘が入ってくる、陽炎型駆逐艦4番艦『親潮』、大本営所属の艦娘だ。
「…親潮か、昼間はご苦労だったな」
南雲は書きかけの書類から目を離すと、親潮の方を見て労いの言葉をかける、昼間というのは渋谷奪還作戦中にかけていた電話の件だろうか。
「いえ、それは問題ないのですが…流石に今回のご命令はマズいのでは…?」
「…と言うと?」
そう言ってくる親潮に対し、南雲は少し視線を鋭くして見つめる。
「私は以前から榊原所長の身辺を探れと元帥からご命令を受けて行動してきました、ですが
「…お前がそれを気にする必要はない、お前はただ言われたことだけをしろ、無論お前に不利益を被らせるつもりはない、お前の行動によって生じる責任はすべて俺が取る、だから親潮、お前は何も考えず任務にあたれ」
南雲は有無を言わせぬ気迫で親潮にそう告げた。
「…了解しました」
南雲の気迫に気圧された親潮は何も言うことが出来ず、そのまま部屋を後にした。
「………」
南雲はポケットから小型の受信機を取り出すと、それにイヤホンを挿して耳にはめる、イヤホンからは盗聴器を仕掛けた造船所の所長室の様子が聞こえてくる。
「…今の所は気付かれてはいないようだな、さすがは親潮だ」
南雲はラジオを聴くフリをして所長室の盗聴を続ける。
(おそらく榊原は始原棲姫の正体に気付いている、そしてその行方を追っている、それだけは阻止しなければならない)
(もし深海棲艦の正体が明るみに出るような事があれば榊原は人類の敵を生み出した大罪人のマッドサイエンティストとして扱われるだろう、そうなれば、おそらく俺も…)
「何が何でも榊原よりも先に深海棲…ヒューマノイド・ソルジャーを見つけ出して、始末する、それが俺の
そう言う南雲の顔は、不気味なほどにこやかな笑顔であった。
◇
時を同じくしてこちらは七海のいるヒュース研究所の支部、その中で七海は目覚めた吹雪と向かい合っていた。
「急にこんな所に連れてきてごめんなさいね、別に危害を加えたり何かを強制するつもりは無いわ、あなたが持ってる博士の情報を提供してくれたらすぐに帰してあげるから」
「…その割には随分扱いが雑な気がしますが」
七海の穏やかな口上に対し、吹雪は不機嫌さを隠そうともせずに返す、いきなり眠らせれてこんな所に運ばれてきたと思えば、両手両足を縛られて椅子に座らされてるのだからそれも致し方ないか。
「あなたに暴れられても困るから、そうさせてもらったの」
「…別に逃げだそうだなんて考えてませんよ、自分が置かれてる状況はよく理解してますから大人しく従います、今あなたが言ったことが本当なら、ですけどね」
「…ありがとう」
吹雪は嫌みのつもりで言ったのだが、普通にお礼を言われて少し戸惑う、なんだかやけにしおらしいが、どうしたというのだろうか…?。
「早速博士の情報を…と言いたいところだけど、その前にひとつ聞かせて、南雲藤和という名前に聞き覚えは?」
「っ!?どうしてその名前を…!」
七海の口から南雲の名前が出てきて吹雪は驚く、なぜ彼女の口から海軍元帥の名前が出て来るのだろうか…?。
「…知っているのね、その男を」
「知ってるも何も、今の海軍の元帥…私たち艦娘を指揮する司令官の中で一番偉い人が南雲藤和ですよ」
吹雪がそう言うと、七海は口の端を僅かに歪める。
「…へぇ、あいつが艦娘の指揮官のトップね、笑わせてくれるわ」
心なしか、そう言う七海には怒りの感情が沸き上がっているような気がした。
「…その南雲元帥とあなたがどう関係してるんですか?なぜ南雲元帥の名前をあなたが…?」
「そりゃもちろん知ってるわよ」
「私の…ヒューマノイド・ソルジャー計画のGOサインを出したの、あの人だもん」
次回「密談と密約」
戦争を終わらせるため、世界の秘密をかけた極秘作戦が始まる。
予告はそれっぽいこと書いてますが、実際のスケールは小さいです。