艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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最終章「終戦編」&chapter final「七海編」更新開始。

ご都合主義&ガバガバ設定でお送りしたこの物語もクライマックスになります、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

説明過多な回ですがご容赦ください。


最終章「終戦編」
第208話「七海の場合1」


「所長、例の艦娘売買事件の真犯人ですが、取り調べは順調のようですよ」

 

 

「そうか、とりあえずは一安心だな」

 

 

渋谷奪還作戦から一日経った造船所の所長室、榊原は潮風の報告を聞いてほっと胸をなで下ろす。

 

 

「それにしても、電子書庫(データベース)の内容を改ざんするなんて大胆な事をよく考え付いたもんだね」

 

 

先日の不正売買の艦娘によって起こされた銀行強盗事件、その際に確保した山風と浜風の元配属先の鎮守府の提督が関与を否定していたが、データにも残されているのにそれを否定する事に疑問に思った榊原が独自に調査した。

 

 

その結果、全く別の駐屯基地の司令官がハッカーを雇い電子書庫(データベース)の記録を改ざんし、無関係な人間が容疑者にあがるように仕立てた事が判明した。

 

 

「件の駐屯基地の司令官はハッカーを雇ったようですが、流石にマザーの事には気付かなかったようですね」

 

 

今回の事件の真犯人が判明したきっかけは『マザー』と呼ばれる、簡単に言えば電子書庫(データベース)のバックアップ用サーバーだ。

 

 

電子書庫(データベース)に新たに記録、もしくは更新されたデータは自動的にマザーにバックアップデータとして記録される、その際に『いつどの端末から何のデータを記録、更新したか』というログも全て一緒に記録され、変更前と後のデータをビフォー・アフター形式で確認できるという優れモノだ。

 

 

榊原がマザーのデータをチェックしていた所、山風と浜風の所属先のデータのみが変更されているログを見つけ、そのビフォー・アフターを確認して今回の駐屯基地を特定したのだ、おまけに電子書庫(データベース)とマザーのサーバーはケーブルで繋がっているが別になっており、記録や更新があった時以外はオフラインになっている、そのためハッカーも見逃したのだろう。

 

 

「強盗団の方も全員逮捕されて取り調べも進んでいるようですし、何とか収束に向かっているみたいです」

 

 

「そうか…犠牲になってしまった艦娘の事を考えると胸が痛むけど、解決に向かっているなら良かった」

 

 

榊原はそう言っているが、あの事件で何の罪も無い艦娘が解体される結果となってしまった、こんな事は二度と起きないようにしなければならない。

 

 

「では所長、艦娘の建造状況の確認に行ってきます」

 

 

「あぁ、頼んだよ」

 

 

潮風は所長室を後にする。

 

 

「……………………」

 

 

自分ひとりしかいなくなった所長室で、榊原は窓の外を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海…どこにいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど、じゃあ博士は今は艦娘を開発する組織…造船所の所長をしているのね?」

 

 

七海からの問い掛けに吹雪は頷いて肯定する、七海からの要望通り、吹雪は榊原の情報を全て話した、今どこで何をしているのかはもちろん、世間ではどんな人として認知されているかなども吹雪が知る限り全てだ。

 

 

「うん、榊原さんはちゃんと生きてるよ」

 

 

「…そう、良かった」

 

 

それを聞いて、七海は心底安心したように呟いた、本当に榊原を大切に思っているのだろう。

 

 

「それじゃ、今度は七海について聞かせてよ」

 

 

「…私の?」

 

 

吹雪の思ってもみない発言に七海はポカンとしてしまう。

 

 

「私もあなたのことが知りたいの、どうして榊原さんは七海を作ったのか、深海棲艦も艦娘もいない世界にどうしてあなたが生まれることになったのかを」

 

 

吹雪は七海を真っ直ぐに見て言う、出会った当初は彼女のことを深海棲艦の親玉…敵だとしか思っていなかった、でもこうして少しだが話してみて分かったことがある。

 

 

彼女は敵ではない、いや、敵として片付けてはいけない、彼女を作ったのが榊原であるのなら、それにはちゃんと意味があり、想いがある、それを知らずに敵として片付けるのは許されない、吹雪はそう感じていた。

 

 

「…そうね、私だけ情報をもらうのはフェアじゃないし、博士の情報料として話してあげる、私たち深海棲艦…ヒューマノイド・ソルジャーについて…」

 

 

七海はそう言うと、何から話そうかと自分の身の上を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

『七海…どこにいるんだ?』

 

 

 

「…榊原はまだヒュースの居場所を掴んでいないようだな」

 

 

南雲は所長室を盗聴しながら書類仕事を片付けていた、どうやらまだ榊原はヒュースの居所を掴んでいないらしい。

 

 

(ヒュースの居場所が分かれば即刻部隊を編成して叩き潰す、そうなれば俺の肩の荷も降りる)

 

 

イヤホンで所長室の様子を聞きながら南雲は今までのことを思い返す。

 

 

元々自分は第三次世界大戦を終結させるために動いていた日本政府の重役だった、ヒューマノイド・ソルジャーの事を思い付いたのは徴兵に限界が来ていた時で、自分の鶴の一声で 押し切って実行に移した、当時は日本が劣勢を極めていたため、正直戦争を終わらせることが出来ればどんな手だろうと構わなかった。

 

 

しかしその結果は失敗、研究所は敵国の工作員によって襲撃され、当時開発が成功していた第一号にも逃げられるというお粗末な結末となった。

 

 

しかしそれから2年以上が経ち、今の深海棲艦が現れた、その報告を聞いて南雲は察した、あの第一号は生きている、そして我々人間に宣戦布告をしているのだと。

 

 

しかしそれは南雲にとって何より都合の悪いことだった、もしあの第一号がヒュース計画の立案が自分だということを知っていたら、もしそれを世間に暴露でもされれば、今現在も燎原の如く広がっていく深海棲艦の侵攻が自分のせいで起こっているとバレてしまう、それだけは何としてでも阻止しなければならない、すぐにでも見つけだして始末してしまいたかったが、それを行う兵力も手段も持ち合わせてはいなかった。

 

そんなときだった、当時ヒュース計画の開発主任だった榊原が艦娘という深海棲艦への対抗手段を開発し、それを指揮する海軍を組織するという政府の発表を聞いたのは。

 

 

こいつは使える、そう考えた南雲は当時の自分のコネや権力、持てる全ての力を使って海軍のトップ…元帥の役職に就いた、海軍に入れば深海棲艦の情報を得られやすいし、第一号の居場所も探しやすくなる、それに一番偉い階級なら深海棲艦の情報も不自然無く要求できる、南雲が元帥の座を欲したのもそれが理由だ。

 

 

幸いなことに榊原は自分がヒュース計画の立案者だということを知らないため、予想通り榊原は深海棲艦の情報を自分に持ってきてくれている。

 

 

しかしそれが出来るのは自分が一番偉い元帥だからだ、つまり自分は今の立場を守り続けなければならない、そのために南雲は将来有望な人間…自分のポジションを脅かす危険がある提督を権力で摘み取り、そういった人間を潰すために()()()()()()()()()()()へと追いやっていった。

 

 

一番最近では士官学校で神童と呼ばれていた海原という若造に不祥事を背負わせ、台場鎮守府へ島流しにした、いつも通りすぐに深海棲艦に怯えて海軍を去ると思っていたが、意外なことに妙な艦娘を集めて未だに台場に居座っている、しかし今となってはそんな事どうでもいい。

 

 

榊原が第一号の居場所を突き止めれば全てが終わる、そうなれば後は第一号を抹殺して榊原を深海棲艦の開発者として吊し上げれば全ての責任は榊原に向かい、自分は完全に当事者という蚊帳の外へと行けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それまでは泳がせてやる、精々今のうちに人生を楽しんでおくんだな、榊原)

 

 

南雲は口の端を吊り上げてニヤリと笑い、そのまま所長室の盗聴を続けていた。




次回「手引き」

あの人にどうしても会いたい、そして伝えたい、伝えなければならない。

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