艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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よみずいランドが今週末から開催されましたね、去年に引き続きリアル瑞雲や今年は1/20日向などで大盛況みたいですが、艦これのリアルイベントで運営のやる気のベクトルが毎回明後日の方向へ行くのは何故なんでしょうね。

それとペルソナ5のアニメが始まって毎回ハイテンションで見ていますが、心なしか鴨志田のクソっぷりがゲームより幾分かマイルドになってるような気がしました。


第209話「七海の場合2」

「…と、まぁこれが私が生まれた経緯よ」

 

 

七海はこれまでの自分の事を吹雪に話した、第三次世界大戦の事から榊原との出会い、そしてあの別れの日からこれまでの事も全て…。

 

 

「…第三次世界大戦、私たちが生まれる前は人間同士が戦争をしていたなんて…」

 

 

七海の話を聞いた吹雪は驚きを隠せなかった、七海の正体は人間と戦うために榊原に作られたヒューマノイドで、深海棲艦は七海が作り出したその複製品だった。

 

 

そして、艦娘は榊原が作り出した七海(ヒュース)のアナザータイプ、元々はひとつの存在だったのだ、“深海棲艦”や“艦娘”という名称が違うだけで、本来はこの両者に違いなど初めからどこにも無かった。

 

 

だが、これで様々な深海棲艦や艦娘への“疑問”という点同士が線で繋がる、深海棲艦への対抗手段が艦娘の攻撃しか無いのは、お互いが同じ存在だから、轟沈した艦娘が深海棲艦へと生まれ変わるのは、七海たちが艦娘の身体を回収してヒュースへと作り替えているから、そもそもそんな事が出来たのは、艦娘も深海棲艦も元は同じヒュースだから。

 

 

轟沈した艦娘は七海たちによって深海棲艦へと作り替えられ、また新たな艦娘が作られる、終わりのない敵と味方のループが続いていく。

 

 

詰まるところ、艦娘も深海棲艦も人間の身勝手な都合によって生み出され、これまた人間の身勝手な都合で同族殺しも同然の戦争を強いられている哀れな道具だったのだ。

 

 

「それで、七海は榊原さんにもう一度会って話がしたいって事だよね?」

 

 

「えぇ、だからあなたには博士と私が密会出来るよう取り計らってほしいの」

 

 

七海はそう言って“お願いします”と頭を下げる。

 

 

「…分かった、七海の要求を呑むよ」

 

 

「ほ、本当!?」

 

 

七海の言葉に吹雪は首を縦に振って頷いた、彼女が今までしてきたことは多分間違っている、七海の話を聞いた吹雪は改めてそう確信した。

 

 

榊原が七海たちヒュースを作った目的である“人間を倒す”というのは、あくまでも日本を攻撃する敵国の一部の人間だけだ、しかし“目に映るモノ全てが敵”という一騎当千型に育成された事に加え、余計な知識を一切排除し最低限ギリギリの情報しか与えられなかったが故に“全ての人間を倒し榊原を認めさせる”という一辺倒で不器用な考えに陥ってしまった。

 

 

(でも、それを教えるのは私の役目じゃない)

 

 

おそらくそれを吹雪が言っても彼女は認めようとしないだろう、それは生みの親である榊原の役目であり、責任だ。

 

 

…もっとも、“戦争”などという誰の所為にも出来ない事象の最中に七海を生み出した榊原に、果たして“責任”など問えるのか甚だ疑問ではあるのだが。

 

 

「それじゃあ、三日後の午前0時にベアトリスをあなたの拠点へ向かわせるわ、その時に博士からの返事を聞かせてちょうだい」

 

 

「分かった」

 

 

吹雪は七海に台場鎮守府の詳しい場所を地図に書いて教える。

 

 

「ありがとう吹雪、あなたのおかげで博士に会う希望が持てたわ」

 

 

そう言って七海は吹雪に笑いかける、それを見て吹雪は胸を痛めた、おそらく榊原は七海の望む答えを返さないだろう、それに薄々気付いていながら黙っている自分に対し、罪悪感が芽生えていた。

 

 

「七海様、お話はまとまりそうですか?」

 

 

するとベアトリスがふたり分のお茶を持って部屋に入ってくる。

 

 

「えぇ、博士に密会の話を持って行ってくれるそうよ」

 

 

「そうですか!ついに七海様の悲願が叶いますね!」

 

 

ベアトリスも自分の事のように嬉しそうにしている、敵ながら良い関係だなと吹雪は内心羨ましくなった。

 

 

(いや、元々敵じゃないのか…)

 

 

そんなことを考えていると、ベアトリスが吹雪の顔をじっと見つめていた。

 

 

「…どうしたの?」

 

 

「いや、お前の顔…どっかで見たことあるんだよな~」

 

 

「そりゃ何度も戦ってるし」

 

 

「いやいや、それよりも前、戦場で相見えるよりも前にどこかで…」

 

 

ベアトリスが記憶の糸を辿りながらうんうん唸っていると…

 

 

「あれじゃないですか?前に侵蝕が途中で止まった“失敗作”の…」

 

 

するといつの間にか開いていたドアにもたれ掛かっていたエリザベートがそう言った。

 

 

「…あぁ!そうか!お前あの時の“失敗作”か!」

 

 

ベアトリスは思い出したように手をポンと叩く。

 

 

「“失敗作”…?」

 

 

エリザベートとベアトリスのやり取りを見て吹雪は疑問符を浮かべる、自分が“失敗作”?どういうことだろうか…?。

 

 

『…ちょっと、私の吹雪を失敗作だなんて言わないでよ』

 

 

その時、リーザが怒気を含んだ声で吹雪の中から訴えかける。

 

 

「うわっ!?こいつの中から声が…!?」

 

 

「…彼女はリーザ、私が深海棲艦になったときに生まれた、私の別人格だよ」

 

 

驚いて目を丸くしているベアトリスたちに吹雪がリーザを軽く紹介する。

 

 

「別人格…って事はそのリーザってのはやっぱり侵蝕の…」

 

 

「そう考えて間違い無さそうね、ならその子は“失敗作”じゃなかったって事かしら」

 

 

『…ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ」

 

 

ベアトリスとエリザベートの会話を遮り、リーザがいつの間にやら“反転”してベアトリスに詰め寄っていた、一瞬のうちに漆黒の肌に白い髪という深海棲艦のような容姿になった吹雪にベアトリスは目を剥く。

 

 

「なっ!?お前…!!」

 

 

「私は吹雪の裏の人格であるリーザ、普段は吹雪に身体と行動権を預けてるけど、裏の私を表に出すとこうなるのよ、つまりこれが吹雪の裏側に潜んでいる深海棲艦としての身体と人格よ!分かったら愛しの吹雪を失敗作だのと侮辱するのは止めて貰おうかしら!」

 

 

リーザはそう言って更にベアトリスに詰め寄った、正直前半の口上と最後の要求が全然一致していないと思ったベアトリスだったが、到底突っ込める雰囲気ではなかった。

 

 

「…驚いたな、まさかこんな形でふたつの人格が同居してるとは」

 

 

「侵蝕で生まれた身体と人格を内側に閉じ込めた…って所かしら、意志の力とでも言うのかな」

 

 

「…あんたたちさっきから何を言ってんのよ」

 

 

『リーザ、一度戻って、私が話すよ』

 

 

リーザが更に問い詰めようとしたが、吹雪が戻るように言った。

 

 

「…分かった』

 

 

リーザは身体と行動権を吹雪に戻し、何時もの艦娘としての吹雪の姿になる。

 

 

「それでベアトリス、失敗作とか侵蝕とか、どういうことなの?」

 

 

「あー、それはだな…口で説明するのは難しいんだが…」

 

 

「だったら生成室に連れて行って生で見ながら説明した方がいいんじゃない?」

 

 

「いやいやいや…それはいくら何でもマズいだろ、コイツにしてみれば艦娘を深海棲艦に作り替える行程を直に見せる事になるんだぞ?流石に酷ってモン…」

 

 

「構わないよ、見せて」

 

 

「だろ…ってえぇ!?」

 

 

吹雪の予想外の返答にベアトリスは素っ頓狂な声を出す。

 

 

「私の今の身体が作られた現場がここにあるのなら、見てみたい、深海棲艦…ヒューマノイド・ソルジャーをもっとよく知る為にも、戦争を終わらせる為にも」

 

 

真っ直ぐな言葉と目を向けられたベアトリスは少し悩んだが、やがて折れた。

 

 

「…分かった、だが艦娘のお前が見たら相当キツい光景になると思うぞ、それだけは覚悟しておけ」

 

 

「分かった」

 

 

吹雪はベアトリスに連れられ生成室に向かおうとする。

 

 

「待って吹雪、これを返しておくわ」

 

 

部屋を後にしようとした吹雪に七海があるモノを渡す、それは吹雪のPitだった。

 

 

「…返してくれるの?」

 

 

「あなたはもう私たちの協力者だもの、それくらいはしないとね」

 

 

協力者というよりは共犯者だな、と思う吹雪だったが、あえて言わないでおいた。

 

 

 

ベアトリスに連れられて歩きながら早速電源を入れようとした吹雪だったが…

 

 

(……………………)

 

 

PitにGPS機能が付いている事を思い出した、今ここで電源を入れれば吹雪の居場所が知られてしまうだろう、自分が深海棲艦に浚われた事はすでに大本営まで伝わっているハズだ、そんな状態で自分の居場所が台場や大本営に伝われば『吹雪の居場所=深海棲艦のアジト』という認識をされる。

 

 

そうなれば大本営がここへ討伐艦隊を送り込んでくるのは明らかだ、七海との約束を果たす為にもそれは避けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…なら、こっちの居場所がバレないように連絡すればいい)

 

 

もっとも、抜け道を知っている吹雪にとっては取るに足らない問題なのだが。

 

 

吹雪は徐にPitを裏返すと、バッテリーパックカバーに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、手掛かりは無しか…いや、いいんだ、ありがとな」

 

 

海原は痩せ我慢にもなっていない取り繕いで電話を切ると、はあぁ…と大きく溜め息を吐く、吹雪が深海棲艦にさらわれてから丸一日が経ったが、その行方は掴めていない、Pitの電源は切られているようで、GPSでの探索も出来ない、余所の鎮守府の艦娘も捜索に協力してくれているが未だ手掛かり無しだ。

 

 

「…吹雪、どこにいるんだ」

 

 

そう力無く呟きながら海原はパソコンのGPS情報を更新するが、やはり吹雪の場所は移らない。

 

 

「…提督、気をしっかり持って下さい、吹雪さんはきっと無事でいますよ」

 

 

「そうよ、だってあの吹雪よ?簡単にくたっばったりしないって!」

 

 

大鯨と曙が必死に励ましているが、海原の表情は依然浮かばないものであった、海原だけではない、Deep Sea Fleetの艦娘全員が提督室に集まって吉報が来るのを祈るようにして待っていた。

 

 

「………………………」

 

 

そんな中、三日月、暁、篝の3体だけは落ち着いた様子で座っていた、始原棲姫である七海が吹雪をさらった目的と、下手に危害を加える事はないだろうという事を知っているからだ。

 

 

(多分吹雪さんはPitを持っていても電源は入れてないはず、敵と対話しているなら居場所がバレるような事はしないだろうし)

 

 

そう予想をしている暁のポケットに入れているPitがマナーモードで震える。

 

 

(…?)

 

 

取り出してディスプレイを見ると、発信者は吹雪だった。

 

 

「っ!?」

 

 

それを見た暁は飛び上がりそうになるのをこらえて海原の方を見るが、海原が吹雪の居場所を見つけたような様子はない、こうして電話をしてきているという事はPitの電源は入ってるハズなのに、どういうことだろうか?。

 

 

暁は隣に座っている三日月と篝にディスプレイを見せ、提督室のドアを指差す、2体は驚いたような顔をしたが、すぐに小さく頷いた。

 

 

暁は目立たないようにこっそり提督室を出ると、少し離れた廊下で吹雪からの着信に応答する。

 

 

「もしもし、吹雪さん?無事?そう、なら良かったわ、でもどうやってかけてきてたの?」

 

 

 

『……………』

 

 

「なるほどね、そんな抜け道があったなんて知らなかったわ、えぇ、あの事ならまだみんなには言ってない、みんなには悪いけど、吹雪さんが帰ってくるまで秘密にしてるつもり」

 

 

『…………………………』

 

 

「了解、三日月さんと篝さんにも伝えとく、頑張ってね吹雪さん」

 

 

暁は通話を終了すると、提督室に戻ろうと後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今の話、どういうこと?」

 

 

「っ!!」

 

 

 

そこには、視線だけで相手を射殺しそうなほど鋭い眼光でこちらを睨んでいるハチが立っていた。


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