艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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最近になって艦隊名を変えました、新艦隊名は「風雲!香取先生」です、太鼓の達人のオリジナル楽曲「風雲!バチお先生」が元ネタ。

最近は異世界モノの小説やアニメが流行ってるらしいので自分も何かネタを出せないかと頭を捻ってみましたが、まず異世界に飛ばされる理由付けで悩むという体たらくを発揮することになりました。

…個人的にスキルやステータスはあまり使いたくない派です。


第212話「七海の場合5」

「ふう、なんか色々な事があったけど、ようやく台場に帰れるよ」

 

 

翌日の午前中、吹雪は七海たちの拠点から台場鎮守府へと戻るため、単艦で海路を進んでいた。

 

 

「とりあえず戻ったら司令官やみんなに今回のことちゃんと説明しておかないとだけど、みんなから何て言われるかな…」

 

 

帰還後の事を想像しながら吹雪は頭を悩ませる、七海に拉致されてから一度も連絡を寄越さなかったのは状況的に考えれば不自然ではないが、暁からバレたと電話が来たときはイヤな汗が顔を伝ったものだ。

 

 

「司令官は怒ってなかったって言ってたけど、連絡できる状況でそれをしなかったっていうのは流石に指摘されるかもなぁ…」

 

 

とりあえず覚悟はしておこう、そんな事を思いながら吹雪は台場への帰路を行くのだった。

 

 

 

 

幸い道中敵と遭遇することもなく(七海が手を回してくれたのかもしれない)スムーズに進むことが出来、昼前には無事に台場鎮守府へと帰ることが出来た。

 

 

「…何か入りづらいな」

 

 

ほんの数日留守にしていただけなのに、玄関をくぐるのに無駄な緊張感が全身を苛んだ、状況が状況なだけに仕方ない事だが。

 

 

「はぁ…ここでウジウジしててもしょうがない!」

 

 

意を決して吹雪は扉を開けて玄関を潜ると、ただいま~…と控え目に声を出す。

 

 

「………」

 

 

声が小さかったせいか、吹雪の声に反応する艦娘はいなかった。

 

 

「…提督室に行ってみよう」

 

 

そう呟いた吹雪が歩き出そうとしたとき…

 

 

「…吹雪?」

 

 

ふと声がしたのでそちらを向くと、ハチがひどく驚いた様子でこちらを見ていた。

 

 

「あ…ハチ、ただい…」

 

 

 

吹雪がただいま、と言おうとしたが、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お帰りなさい、吹雪」

 

 

ハチが涙ぐみながら吹雪を抱きしめ、心の底から安心したような、そして嬉しそうな声色で吹雪を迎えた。

 

 

 

「…ただいま、ハチ」

 

 

あぁ、帰ってきたんだな、改めてそれを実感しながら、吹雪は啜り泣くハチのことを抱きしめ返した。

 

 

 

 

 

 

「司令官、ただいま帰還しました」

 

 

ハチの熱烈とも言える抱擁を堪能した後、すぐさまDeep Sea Fleet全員が集められた提督室で吹雪は海原に帰還報告をする。

 

 

「おう、話は暁からある程度は聞いてるよ、大変だったな、連絡よこさなかった事に関してはお咎め無しってことにするから、気にすんな」

 

 

「…すみません、ありがとうございます」

 

 

見透かされてたか、と吹雪は嬉し恥ずかしと言った様子で海原に返した。

 

 

「それよりも、始原棲姫…七海と所長の密会を取り付ける約束をして来たんだろ?その辺も含めて向こうで何があったかを聞かせてくれ」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

吹雪は向こうであった出来事を頭の中で整理しつつ、事の詳細を報告していく。

 

 

 

 

「…なるほどな、そんな事が…」

 

 

第三次世界大戦、榊原が七海を生み出した目的、七海の真意と目的、そして吹雪自身の正体、その目で見てきた事の全てをみんなの前で打ち明けた。

 

 

「でもそれだと、七海さんのしている事は、榊原所長が七海さんを作った本当の目的とは外れてしまっていますよね…」

 

 

大鯨の言葉に海原たちは一斉に頷く、七海は敵国の人間と戦うために作られた兵士だ、そう言った意味では深海棲艦という増援を生み出して応戦する七海のやり方は正しいと言える、しかしその七海の思考にはひとつだけ欠落があった。

 

 

 

敵と味方の区別を付けていないのである、攻撃してもいい人間、そうでない人間、はたまた守る対象である人間、そういった区別を一切付けず、全ての人間たちを敵として処理しようとしている、この致命的な思考回路の欠落は“自分以外は全て敵”の一騎当千型として育てられた当時の背景が影響したのだろう。

 

 

榊原自身も当然その人間のうちのひとりだし、仮に全ての人間を滅ぼしてしまったら誰も七海の成果を認めることは出来ない、しかし七海の未成熟な頭にはそこまでの考えは及んでいないのだろう

 

 

「何にせよ、まずは所長に七海の事を話さなきゃ始まらないな、早速連絡を取ってみるか」

 

 

海原は造船所の電話番号へとダイヤルし、榊原のいる所長室へと繋いでもらう。

 

 

『やあ海原くん、どうしたんだい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…所長、始原棲姫…七海の事についてお話ししたいことがあります」

 

 

 

 

「すみません所長、突然押し掛けるような真似を…」

 

 

「いや、気にしないでくれ、しかし最初に海原くんから七海の話を聞いたときは耳を疑ったよ、まさか君の所の吹雪と七海が会って話をしていたとは…」

 

 

電話の後、海原は吹雪を連れて造船所の所長室を訪れていた、部屋の外では潮風に人払いを徹底させているので誰かに聞かれる心配は無いだろう。

 

 

「それで、七海が俺と話がしたいってことだよね?」

 

 

「はい、三日後にベアトリス…空母棲姫が台場鎮守府に返事を聞きに来るので、所長のお返事を聞いてきて欲しいとの事でした」

 

 

「…そうか」

 

 

それを聞き、榊原はふぅ…と息を吐いて俯く、七海と会って話が出来る、これは千載一遇の願ってもないチャンスだ、返事はOK以外に無いだろう。

 

 

だが、それは七海に自分が今までしてきた行いを全否定する事でもある、こんな戦争はすぐにでも終わらせるべきだ、しかし全ての真実を告げられて、彼女の心はそれに耐えられるのだろうか、そんな自分勝手な葛藤が頭の中に浮かぶ。

 

 

「…七海に伝えてくれ、是非会って話がしたい、答えはOKだと」

 

 

だが、そんな事で悩むのは許されない、七海には…彼女には全てを伝えなければならない、例えそれが未だ自分に愛を向けている彼女を絶望させることになったとしても。

 

 

「わかりました、ベアトリスにはそう伝えておきます、七海からの返事はまた追って連絡しますね」

 

 

「あぁ、頼んだよ」

 

 

榊原からの返事を聞いた海原は今後の簡単な打合せをして、所長室を後にした。

 

 

「…七海、やっと君に会えるんだね」

 

 

自分以外誰も居なくなった所長室で、榊原は七海の写真を見つめていた。

 

 

 

 

「榊原の奴、とうとう尻尾を出したな」

 

 

今までの会話を盗聴で聞いていた南雲はニヤリと笑みを浮かべ、“計画”をより具体的に練っていく。




次回「再会」

色濃い硝煙の中、怪物と狂人は再び出会う。

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