艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
榊原にひっぱたかれた七海は頬を手で押さえながら呆然と榊原を見ていた、ジーンとした痛みが遅れて頬に伝わるが、それすらも知覚から追い出されるような光景を七海は見ていた。
(…怖い)
榊原の表情を見た七海が最初に浮かべた感想がそれだった、つまるところ、榊原は怒っているのだ、それも今まで見てきた中でも一番のレベルで。
「俺があんな別れ方で納得すると、本気で思っていたのか!?」
「…えっ?」
榊原の怒号とも言える声に七海は素っ頓狂な声を出す。
「俺は10年前のあの日以来ずっとお前を探してた、造船所の所長として働きながらお前を捜索するための艦隊を秘密裏に編成して、あちこちの海域へ向かわせた、それこそ毎日、日本中の海域の隅々まで、でもお前に関する有力な情報は見つからなかった、去年の東京湾沖海戦までは」
「敵艦隊の中に七海の姿を見て、俺は目を疑ったよ、何せ今まで俺たちが戦ってきた深海棲艦の将になっていたんだからな、でもそんな予感は薄々感じていたんだ、深海棲艦のつくりがヒュースにそっくりだったから、そんな漠然としたモノがあの時確信に変わったよ、この10年間俺たち人類を脅かしていた深海棲艦という敵は七海が作り出し、それを俺が作った艦娘と戦っていた、つまり俺と七海はお互いの存在を知らないまま戦争をしていたって訳だ、滑稽にも程がある」
そう自嘲気味に笑う榊原に、七海はなんと声をかければよいか分からず、口をわずかに上下させながら固まってしまう。
「やっと…やっとお前に会えるんだって思っていたのに、何が“責任をとって退場する“だ!そんなこと…俺が納得できるわけが無いだろうが!」
「で、ですが私は結果的に博士にとって不本意な結果になる行動をしてきました、博士を否定する人間に、博士のしてきたことが間違っていなかったと証明したかったのに、それが全て間違っていたなら、博士のお役に立てないなら、私がいる意味が無いじゃないですか!死んで責任を取るしか無いじゃないですか!」
「馬鹿野郎!やっぱお前は何も分かってねぇ!たとえそれで世間から責任を取ったと認められたとしても、俺はお前の事を認めねぇぞ!」
「な…なぜですか…!なぜそこまで…!?」
「まだ分らねぇのか!そんなもん決まってんだろ…!」
「お前の事が、大切だからだ!」
「…へっ?」
七海がその言葉の意味を理解した時には、七海は榊原に抱きしめられていた。
「確かにお前を作ったのは第三次世界大戦に投入するための兵隊を確保するのが目的で、お前の面倒を俺が見る事になったのはほぼ成り行きみたいなもんだ、でもお前と一緒に過ごす内に俺の中で少しずつ気持ちが変わっていった、一言で言えば情が移ったんだ、好きになったんだよ」
「…博士……」
「だから七海、俺を置いていくな、あの時断腸の思いでお前を逃がして、10年越しにやっと再会できたんだ、もうどこにも行かずに…俺の側にいてくれ」
「………………」
その榊原の言葉が
「…ごめんなさい
「私は、そんなあなたを愛しています、
それは七海にとって、最大かつ最高の自己存在証明だ。
「…俺もだよ、七海」
この時、周りにいた連中はこの光景を微笑ましく見ていたのだが…
((…何か起きづらい!!))
とうに目が覚めていたベアトリスたちが気まずそうに寝たふりをしていたのはまた別の話。
◇
その後、偶然を装って起き上がったベアトリスたちと共に身体検査が行われたが、七海が開発しただけあってか、活動に支障をきたすような異常は見つからなかった、しかし流石にアルビノよろしくな肌は目立つと判断されたのか、全体的な再調整が榊原と七海の共同で行われた。
そして目を覚ましてから二週間が経った頃…
「それではこれより着任式を始めます、まず…七海型護衛艦1番艦『七海』」
「はい」
「同じく2番艦…ベアトリス改め『
「はい」
「同じく3番艦…シャーロット改め『
「はい」
『同じく4番館…エリザベート改め『
「はい」
「同じく5番艦…メアリー改め『
「はい」
「同じく6番艦…マーガレット改め『
「はい」
「現時刻をもって、以上の6体を『七海型護衛艦』として艦隊に迎え入れます、残党狩りも含め、一日でも早く平和な海を取り戻すことに尽力して下さい、それが果たされたとき、真の意味であなたたちの責任が果たされます」
「了解!!」
次回「この
この時代、この時、この瞬間、私たちは確かに存在していました。
ちなみに榊原の言っていた七海捜索艦隊ですが、20話の最後に榊原が電話で話していた相手が捜索艦隊の旗艦艦娘です、いずれその辺の描写をしようと伏線だけ張っていたのですが、この話を書くまで忘れてました。特にメンバー等の設定は無いですが、水雷戦隊と潜水艦が主なメンバーです。