艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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今回の投稿でDeep Sea Fleetの本編は終了です。

三年に渡る物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。

近日中に裏話を綴ったあとがきのようなものを投稿する予定なので、読みたい人だけ読んでみてやってください(笑)。


最終話「証明」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上が、ヒューマノイド・ソルジャーの今日(こんにち)に到るまでの大まかな軌跡である…と」

 

 

吹雪は紙に走らせていたペンを置くと、両手を突き上げて大きく伸びをする。

 

 

『本日より、東京湾及び新お台場海浜公園の海開きが発表されました、制海権奪還宣言が発令されてから、初めての海開きとなります、十数年ぶりに解禁された海水浴に都民のみならず、東京近辺から海水浴客が押し寄せることが予想されており…』

 

「そっか、もうそんな季節だっけ」

 

 

部屋のテレビからたれ流されていたニュースを目にした吹雪は、ふとそんなことを呟いた。

 

 

2053年7月…大本営から深海棲艦の残党を駆逐し終えた事を意味する『制海権奪還宣言』が発令されてから1年が経とうとしていた。

 

 

 

護衛艦として艦隊に加わった七海たちの尽力により、向こう5年は掛かるだろうと予想されていた残党狩りがその半分以下の期間で達成することが出来、2052年8月12日を以て制海権を奪還、海の平和が戻ったと正式に発表された。

 

 

制海権奪還宣言発令からまもなく、造船所からも今後は艦娘の新規建造は一切行わず、既存の艦娘や艤装のメンテナンスのみを行うという声明が発表された、倫理的にも賛否両論ある艦娘の建造を、深海棲艦という脅威が去った後も続ける必要は無いという榊原の判断だ。

 

 

そして全国にあった海軍鎮守府は全て解体され、かつての海上自衛隊基地として再編成された、その際に所属艦娘の配置も任意含め大幅に見直された。

 

 

「…それにしても、台場に居た頃に比べたらだいぶ暇になったぁ、戦う必要が無くなったんだから当然っちゃ当然か、他のみんなも元気にやってると良いけど」

 

 

『まぁいいんじゃない?警察が暇なのは平和な証拠って言うように、海自が暇なのは海が平和って事でしょ、きっと他のみんなも暇してるはずよ』

 

 

なんとなしに呟いた吹雪のぼやきにリーザがそう返す、鎮守府解体や艦娘の配置換えの影響を受け、Deep Sea Fleetのメンバーのほとんどが各地の基地へ異動する事になった、今吹雪がいる横須賀基地にいるDSFメンバーは暁と三日月のみ、ほかのメンバーは各地の基地でそれぞれの任についている。

 

 

『何?今になって寂しいとか思ってるの?』

 

 

「まさか、確かに離れ離れになったのは残念だけど、チャットアプリやグループ通話で連絡はいつでも取れるし、逆に瑞鶴さんや武蔵さんなんかが横須賀(こっち)に来たことを考えれば、決して悪い事じゃないよ」

 

 

『それもそっか、昨日だってグループ通話でずっとだべってたもんね」

 

 

そんな会話をしていると吹雪の部屋のドアが軽くノックされた。

 

 

「吹雪、瑞鶴だけど…入ってもいい?」

 

 

「どうぞー」

 

 

吹雪の返事とともに入ってきたのは瑞鶴と加賀、そして金剛だった。

 

 

「また随分と大所帯ですね」

 

 

「揃いも揃って非番だからね、暇だったから遊びに来たのよ、元台場のみんなと離れて寂しがってるだろうし、なるべくね」

 

 

 

「もうそんなの慣れましたよ、今は瑞鶴さんたちも居ますし、暁や三日月もいるから全然です」

 

 

吹雪はそう言いながら瑞鶴たちにジュースを振る舞い、取り留めのない話をする。

 

 

「そういえば、さっき海原さんが忙しそうに電話しながら歩いてるの見たよ、ここの所ずっとそうだよね」

 

 

「辺境の鎮守府提督が今や横須賀の司令官だものね、あの人も出世したわよ」

 

 

「でもよかったの?吹雪、あの人の秘書艦にならなくて、今秘書艦やってる大和さんも勧めてくれたんでしょう?」

 

 

金剛の問い掛けに、吹雪は黙って首を横に振った、奪還宣言後は当然台場鎮守府も解体されることとなり、海原はこれまでの戦果が正式に認められ横須賀基地の司令官に任命される事となった、その際秘書艦第一候補に挙がっていた大和が吹雪に秘書艦をやらないかと勧めたのだが、吹雪は断っていた。

 

 

「確かに私は台場で司令官の秘書艦でしたけど、それはあくまでも台場だったから出来たことです、試しに大和さんにここでの秘書艦の仕事を見せて貰ったんですけど、とても私じゃ勤まらないですよ」

 

 

『そう言ってるけど、最近は大和から仕事終わりに個人レッスンしてもらってるでしょ?十分そのポジションねらってるじゃない』

 

 

「ち、違うよ!あれは大和さんが“何かあった時の代役(ピンチヒッター)も必要だし、もし良ければ一緒に勉強してみませんか?”って好意で言ってくれてるだけで、断ったら悪いでしょ!」

 

 

 

「でも断らないあたり脈ありね」

 

 

「うふふ、その時はお赤飯炊かないと」

 

 

「ちょ、ちょっと瑞鶴さん!金剛さんも!」

 

 

 

面白そうに笑いながら吹雪をからかう瑞鶴と金剛を加賀は微笑ましそうに眺めていた。

 

 

「そ、そんな事より!榊原所長と七海さん!式の日取りが決まったそうですよ!」

 

 

「えっ、本当!?」

 

 

「それはめでたいわね」

 

 

吹雪の言葉に瑞鶴たちは驚きと喜びの表情を浮かべる、七海型護衛艦は艦隊に加わった後、各地の鎮守府で残党狩りに尽力し、奪還宣言後は七海が榊原の秘書艦として、暁海たちは職員として造船所で働くこととなった、深海棲艦時代にアルビオンやユミルなど大型艤装の製造や調整を行っていたときのノウハウを買われての抜擢だったのだが、今や優秀な現場スタッフとして活躍している。

 

 

ちなみに七海が榊原の秘書艦になるにあたって元秘書艦の潮風と交代する形になったのだが、その際に散々二人の仲をからかわれたのは言うまでもない、そんなふたりが()()する事になったという知らせを聞いたときは驚いたものだ。

 

 

「暁海たちも自分のことのように喜んでくれたみたいだし、良かったわね」

 

 

「でも良く政府が許可したわよね、ヒュースと人間の結婚なんて」

 

 

 

「暁海たちはともかく、七海は人造とはいえ人間とほぼ変わらない生体構造なのであまり問題は無いだろうって判断みたいですよ、それにヒュースは人間の身勝手で生み出された存在だから、せめて本人が満足のいく幸せな生涯を全うさせるのも一種の“責任”だって、周りの人たちからの後押しがあったみたいです、彼女は世間から見れば加害者ですけど、人の欲望から生まれた被害者でもあるって、あと残党狩りも率先して行っていた事もあってか、一応の責任は果たしたと世間的にも認知されてるみたいです」

 

 

 

「なるほど、モノは言いようね」

 

 

金剛が半ば呆れるように言ったが、その表情はどこか嬉しそうだ。

 

 

「で、式はいつなの?」

 

 

「三ヶ月後みたいですよ、招待状は近日中に送るらしいです」

 

 

「三ヶ月後か、予定あけとかないとなぁ…」

 

 

「ところで吹雪、さっきから気になってたんだけど、その紙の束は何?」

 

 

加賀が机の上にある“それ”…さっきまでペンを走らせていた紙の束を指差す。

 

 

「あぁ…これですか、実は本を書こうと思ってるんです」

 

 

「はぁ!?本を!?」

 

 

「吹雪…小説家にでもなるの?」

 

 

「いや、そんな大げさなもんじゃないですよ、簡単に言えば艦娘と深海棲艦…ヒュースの記録です」

 

 

「記録…?」

 

 

吹雪の言葉の意味が理解できず、全員が首を傾げる。

 

 

「新規の艦娘が今後建造されることが無いのは造船所の発表ですでに皆さん知っていると思います、でも私たち艦娘はベースが人間なのでいつかは寿命を迎えて死んでしまいます、今はたくさんの艦娘が生きていますけど、今後何十年と経てば艦娘はいずれこの世界から居なくなってしまいます」

 

 

「そうなれば私たち艦娘がいた記憶も次第に人々の記憶から薄れて、何百年も経てばこの戦争の記憶もいずれは歴史の教科書からも消えてしまい、誰の記憶にも残らない日が来るかもしれません、人間の記憶では10年は長いかもしれませんが、この地球(ほし)の膨大な記憶からすればほんの1ページです」

 

 

「だからせめて、私たちが生きてきた軌跡を何らかの形で残そうって思ったんです、今この時代、この時間、この瞬間、艦娘(わたしたち)は確かに存在していたんだって事を、この地球(ほし)の記憶の1ページに遙か遠い未来まで残り続けるように」

 

 

なのでこの本はそのきっかけです、と吹雪は恥ずかしそうに笑いながら言った。

 

 

「吹雪…」

 

 

「何か中二臭い」

 

 

「何かにほだされた?」

 

 

「なっ…!?」

 

 

吹雪自身は心底真面目に話したのだが、どうやら新しいからかいのネタを提供してしまったらしい。

 

 

「人がせっかく真剣に話したのにぃ!」

 

 

「ごめんごめん!でもそう言うのは必要よね、艦娘が存在した記憶を未来まで残す…か、私たちも何かそういうの考えないとね」

 

 

「幼稚園や児童館で巡業紙芝居でもやる?」

 

 

「紙芝居って…どこの村よ…」

 

 

金剛の発言に瑞鶴がつっこんだとき、加賀が思い出したように言った。

 

 

「そういえば、講習会の希望者を来週から募集し始めるみたいよ」

 

 

「えっ、もう?思ったより早いわね、まだ社会進出政策も十分じゃない段階なのに」

 

 

「教育するだけなら早すぎる事もないんじゃない?一般常識や義務教育の知識って複雑だし数は多いしで大変だろうし、むしろ時間かけてゆっくり刷り込んだ方がいいわよ」

 

 

「あ、その話もう出てるんですね」

 

 

「艦娘の社会進出…最初聞いたときは私も驚いたわ」

 

 

瑞鶴たちが口々にそんなことを言う、自衛隊を退役して人間社会で生きていくという選択肢を艦娘に与える動きは海軍時代から考えられていた事であり、特に榊原が中心となって社会に向けて艦娘に対する理解を求める運動を積極的に行ってきた。

 

 

その努力の甲斐もあり、現在では一部の企業や公共施設などから艦娘の雇用を認める声があがり始めた、ただし艦娘は基本軍属の兵士として開発されていたこともあり、基礎知識や一般常識などは必要最低限のモノしか強制記憶(インプット)されていない、艦娘たちも自主的に知識を蓄えたりしているが、当然それでは人間社会ではやっていけない。

 

 

そのため社会進出希望の艦娘を対象に学校教育を行う計画が本格的に動き始め、時期はまだ調整中だが数年をかけて教育を行っていく予定だ。

 

 

「みんなの周りでは社会進出希望の艦娘っているの?」

 

 

「うーん…今の所はごく僅かってところね、今までずっと軍にいたし、このまま今の生き方でいいって子が多いみたい、あと曙ちゃんの事件で艦娘への風当たりが強かった頃のイメージが残ってるみたいで、社会に出るのを恐れてるのかも」

 

 

「あぁ…確かにそれはあるかもね、その頃加賀先輩と出掛けたことあったけど、艦娘ってバレて心無い言葉投げられたことあるわよ」

 

 

「そういえばそんな事もあったわね、今となっては懐かしいけど、瑞鶴が色々言われるのが辛かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

そんな他愛もない話が続いていたとき、三日月と暁が勢いよく入ってきた。

 

 

「吹雪さん!司令官から出撃要請よ!」

 

 

「自家用のクルーザーが座礁して転覆しかけてるみたいなんです!私たちで救援に向かえとの事!」

 

 

どうやら海原からの急務の連絡のようだ。

 

 

「分かった、すぐに行くよ、すみません皆さん、続きはまた今度…」

 

 

「行ってらっしゃい、本が出来たら真っ先に買うからね」

 

 

「楽しみにしてるわよー」

 

 

「まだ出すって決めてませんから!」

 

 

「本って何の話?」

 

 

「何でもない!」

 

 

『実はね~』

 

 

「もう!リーザ!」

 

 

吹雪は必死に誤魔化しつつ、暁たちと出撃港へと向かう。

 

 

 

 

 

『それじゃ吹雪たち、民間人の救援任務、頼んだぞ』

 

 

「はい、お任せください司令官!」

 

 

吹雪はインカムから聞こえてくる海原の声に自信満々に答える。

 

 

「それじゃいい?暁、三日月、今日も頑張るわよ!」

 

 

「オーケイ!」

 

 

「いつでも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海上自衛隊横須賀基地第一艦隊…出撃します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し汗ばむ初夏の晴天の空の下、今日も少女たちは海を駆けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『深海棲艦と艦娘…そしてヒューマノイド・ソルジャー、彼女たちがこの世界に存在し、生きていた記憶が未来永劫人々に残ることを願って、私は筆を取ろうと思う、願わくばこの手記がその証のひとつとなれば、本望である』

 

~吹雪の手記より抜粋~

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー ~Fin~

 

 

 

 

 




艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetーこれにて終幕。

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