艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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extra chapter「神通隊編」です。

本編に入れる予定だったけど都合でボツになった話を時系列を整理して投稿(またの名をネタの供養)。

瑞鶴の話を書いている時にふと思い出し書きたくなりました。

終わる終わる詐欺みたいですみません(汗


extra chapter
ex.01「神通隊の場合1」


突然だが、人間は様々な欲望を持っている。食欲、物欲、性欲、金銭欲…等々数え始めたら暇がない。

 

 

しかしその中でも『睡眠欲』がもっとも強い欲望なのではないかと考える。とてつもない眠気の前には食欲も性欲も勝てはしない、迷わず眠ることを選ぶだろう。

 

 

「…なぁ吹雪、続きは明日…つうか数時間後にして寝ちまわないか?」

 

 

よってこの場合、朝までに仕上げなければならない書類を前に徹夜覚悟で戦っている海原には眠る権利があるだろう。現在時刻午前1時15分、提督室では海原、吹雪、暁、曙、蛍が机を突きつけあって書類とにらめっこしていた。

 

 

「何言ってるんですか司令官、その書類を朝までに仕上げて大本営に送らないといけないって言ってたのは司令官ですよ?私たちもこうして徹夜覚悟で手伝ってるんですから、ほら!頑張りましょう!」

 

 

吹雪はそう言って3本目のエナジードリンクを飲み干すと、空になったスチール缶を部屋の隅にあるゴミ箱に放り投げる。それなりに距離があったにも関わらず無駄のない軌道を描き、吸い込まれるようにしてスチール缶はゴミ箱に入った。

 

 

「でも吹雪…私もそろそろ限界…少しだけ仮眠させて…」

 

 

「右に同じく…これじゃ逆に進まないよ…」

 

 

 

曙と蛍が今にも閉じそうになっている瞼をこじ開けながら書類に書いてある内容をパソコンのファイルに打ち込んでいく。ちなみに海原たちがやっている仕事の内容は先月中の出撃記録のデータ送信だ。どうやら大本営側で保管しているデータが何らかの原因で消失してしまったようで、すぐにデータを復旧させないと向こうの事務手続きに深刻な影響が出るのだとか。

 

 

「はぁ…しょうがないな、じゃあ30分だけ仮眠してていいよ、時間になったら起こすから」

 

 

吹雪がそう言うや否や曙と蛍は一瞬のうちに机に突っ伏し、すぐに寝息を立て始めた。それを見た吹雪はまったくもう…とため息を吐いて呆れる。

 

 

「タイムリミットはもうすぐだって言うのに…そういえば何でデータをわざわざメール報告用の添付ファイルに打ち込まなきゃいけないんですか?出撃記録の再提出ならこっちの添付ファイルをそのまま送ればいいと思うんですけど…」

 

 

「それはだな、セキュリティや不正防止、諸々の理由でこういう書類系のデータはコピー出来ないようになってるんだよ、メールの添付データはコピーされたものだからな、それに引っかかる」

 

 

「ずいぶんとめんどくさいですね…というかそれなら完全に向こうのミスじゃないですか、それなら少しくらいゴネて期日を延ばせないんですか?」

 

 

「それは無理だ、何せこの出撃記録に関する事務手続きを元に支給資源なんかが決まるからな、延びれば延びるほどこっちの首が締まる」

 

 

「何という負のスパイラル」

 

 

とにかくこの作業を終わらせなければならないのは確定らしく、吹雪は諦めてデータの打ち込み作業に徹する。

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間後、仮眠中だった曙と蛍の口にタバスコを流し込んで起こし、フル稼働で作業を続けてようやく終わらせることができた。

 

 

「…ようやく…終わった…」

 

 

生きる屍のようになった海原がメールの送信手続きを終え、燃え尽きたボクシング選手のごとく真っ白になっていた。

 

 

「もう無理…寝る…今すぐ部屋に戻って寝る」

 

 

「私も…おやすみなさい…」

 

 

曙と蛍は力つきる寸前のゾンビのような挙動で部屋に戻っていく、しばらくは起きてこれないだろう。

 

 

「…俺も少し寝るわ、おやすみ」

 

 

海原も真っ白(に見える)な身体を引きずり、自室に引っ込んでいく。

 

 

「ふぁ…私もそろそろ休もうかな」

 

 

吹雪も欠伸をしながら片付けを始める、燃え尽きている海原たちに比べて吹雪は涼しい顔をしている。伊達に台場の秘書艦はやっておらず、これくらいの徹夜作業は全く経験が無かったわけではない。

 

 

 

「…ん?」

 

 

パソコンの作業ファイルを閉じようとしたとき、ふとたった今まで打ち込んでいた出撃記録が目に入る、最後の記録の日付が2月28日となっている。

 

 

「…あれ…?確か司令官…()()のって言ってたよね…?」

 

 

今は4月、なのでこれでは先々月だ、吹雪が嫌な汗をダラダラと流し始めたとき、海原のパソコンからメールの受信を知らせる通知音が鳴る。

 

 

「…………」

 

 

 

嫌な予感がする、吹雪は震える手で恐る恐るメールを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先ほどメールを確認しましたが、日付が2月のものでした、大本営側で欲しいのは3月の日付のものです、送信し直してください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦りと眠気は判断能力を鈍らせるという話は当然吹雪も知ってはいるが 、こういう場合は大抵やらかした後に気付くものである。

 

 

 

この直後、海原たちがさらなる地獄を見たのは言うまでもない。




ちなみに時系列は218話から3ヶ月ほど経った2051年の4月くらいの話です。

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