艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「…ん?あれ?」
次に気が付いた時には吹雪は暗闇の中にひとりで立っていた、周りには何もないただひたすらな暗闇、でもその中にいる吹雪自身の身体だけははっきりと見ることができ、まるで自分にだけスポットライトが当たっているようだった。
「ここはどこ…?それに何で私こんな所に…?」
暗闇の中で吹雪は考えるが…
「…あれ…?そう言えば、私は誰…?どこから来たの…?」
海馬の奥底から記憶を掘り起こそうとするが、後少しで思い出せそうというところで霧のように霧散してしまう。
おかしい、何かがおかしい、吹雪は大切な何かが少しずつ音も立てずに崩れていくような不安に狩られる。
「だ、誰か!誰かいませんか!?」
このままでは自分が自分でいられなくなる、そう感じた吹雪は暗闇の中を駆けだしていた、しかしいくら進んでも何も見えてこない、本当に前に進んでいるのかという疑問すら覚える。
「…あ」
どのくらい走りつづけただろうかと考え始めたとき、前方の方に人影が見えた、その人影も吹雪と同じくスポットライトに当てられているかのように輪郭がはっきりとしていた。
「すみません!ここはど…こ……」
その人影に“ここはどこか”と聞こうとしたが、その人影の姿を見て吹雪は言葉を失ってしまった。
「…私…?」
なぜならそこにいた人影は、髪型、服装、はたまた艤装に至ってまで“吹雪そのもの”だったからだ(俯いたまま立っているので顔は分からない)。
「あの…あなたは誰ですか…?」
そのあまりの瓜二つっぷりに思わず“ここはどこか”より“お前は誰だ”が先に出てしまった。
吹雪の質問が聞こえたのか吹雪に似た人影はこちらへゆっくりと近付いてくる、その様子に若干の恐怖を覚えたが、足が棒になったかのように動くことが出来なかった。
そして人影は吹雪のすぐ目の前に来るとゆっくり顔を上げて…言った。
「私はあなた、あなたはわたしよ」
そう言う人影の顔は、吹雪そのものだった。
◇
「……はっ!!?」
吹雪は勢いよく飛び起きると、息をはずませて慌てた様子で周囲をキョロキョロする。
「今のは…?」
先ほどの光景を思い出しながら吹雪は呟く、夢にしてはイヤにリアルだったが、現実だとしてもイヤに非現実的な出来事だ。
「…それよりもここは?」
それから色々考えてみたが、結局モヤモヤしたモノが胸の中でくすぶるだけだったので一度放棄し現状確認に専念することに。
今自分がいるのは砂浜の上だ、目の前には広大な大海原が広がっており、すぐ後ろを見ると石垣で作られた高台のようなモノが見える。
「…どこかの島に流されたのかな」
今の現状から考えるとそれが一番合理的だと吹雪は思う、だとすれば不幸中の幸いだ、あのまま大破のダメージを負ったまま海を漂流していたら間違いなく命を落としていただろう。
「っ!!そういえば暁は!?暁!!」
先程から暁の姿が見えないのに気づき、慌てて名前を呼ぶ。
「吹雪さーん!」
すると、高台の上から木材を持った暁が石垣を下ってこちらに向かってくるのが見えた。
「暁!無事だったんだね!」
「うん、潜水棲艦に攻撃されたときはどうなるかと思ったけど、なんかこの島に流れ着いたみたいで…」
気を失っていたのでどういう経緯でこの島に流れたのかは分からないが、バラバラに流されなくて本当に良かったと吹雪は思う。
「吹雪さん、ここってどこなのかしら?多分色丹島からはそんなに離れてないと思うんだけど…」
「そうだなぁ…調べてみよっか」
そう言って吹雪はポケットから小型の携帯端末を取り出す、万が一の事を考えて海原が持たせていたものだ。
これは『Pit(Portable Information Terminal)』と呼ばれるモノで、簡単に言えば携帯型情報端末だ、海軍の司令官全員に配布されており携帯電話としての機能はもちろん、GPSや
「防水設計って司令官は言ってたけど、壊れてないといいなぁ…」
不安を残しつつ電源ボタン押す吹雪、しかしそれは杞憂に終わり、あっさりとPitは起動した。
「GPSで現在地を検索…と」
慣れた手つきでPitを操作し、GPSを起動させる。
「…出た!」
吹雪はPitの画面を凝視し、自分たちの現在地を確認する。
「現在地は…
「あまり色丹島から離れてなくて良かったわ」
Pitの画面をのぞき込んでいた暁が安堵する、ここからなら色丹島に戻って戦闘に合流することもベースキャンプに戻ることも可能な場所だ。
「…ねぇ吹雪さん、瑞鶴さんたちには悪いけど、ここで少し休んでいかない?」
「えっ?」
「本当ならすぐにでも戻らなきゃ行けないんだろうけど、この状態じゃかえって足手まといになるんじゃないかしら」
暁はそう言って自身の艤装を見る、確かに今のふたりはかなりのダメージを受けている、一応自然治癒力で暁は中破、吹雪は小破にまで回復しているが、フルパワーを出すには程遠い状態だ。
「瑞鶴さんやローマさんには心配かけるかもしれないけど、ここは少し休んでベストコンディションの状態で戦線復帰する方がいいと思うの」
「…まぁ、それもそうだね」
暁の提案を聞いて吹雪は小さく頷く、暁の話は仲間には迷惑がかかるかもしれないが確かにスジが通っている、万全ではない今の状態で戦線復帰しても満足な戦果はあげられないだろうし、そうなれば完全な足手まといだ。
「分かった、それじゃあダメージが回復しきるまでここで一休みしていこう」
「やったー!」
暁は飛び上がって喜ぶ、自分が休みたかっただけじゃん…と思ったが今回は大目に見よう。
「あ、そうそう、さっき焚き木を拾いに高台の上に上がったらおもしろいもの見つけたわよ」
「へぇ~、何々?」
「“面影”を持った深海棲艦」
◇
「…本当にいた」
「でしょ?」
暁の話を聞いてまさかと思い一緒に高台へ上がったところ、本当に深海棲艦がいた、駆逐棲艦ほどの背丈の深海棲艦が体育座りをしている、まさか陸の上で会うとは思ってもみなかったので驚きを隠せない。
「とりあえず“面影”が誰のモノか調べないと…」
Pitを起動させて
「…あった」
しばらくリストを眺めていると、ひとりの艦娘がヒットした。
○艦娘リスト(轟沈艦)
・名前:
・艦種:駆逐艦
・クラス:睦月型10番艦
・練度:19
・所属:室蘭鎮守府
・着任:2048年4月15日
・轟沈:2048年7月2日
・除隊:2048年7月2日
「着任から轟沈までの期間が短いわね」
「
とりあえず話を聞こうと三日月に近付いたが、ここでふたりは聞き捨てなら無いセリフを聞くことになる。
『海原司令官…今どこにいるんですか…?』
ここに来てついに三日月登場、いやぁ長かった…