艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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海原の過去編です、少し長くなるかもしれません。

Q.タイトル「海原の場合」にすればよかったんでない?

A.こまけぇこたぁいいんだよ!


第28話「三日月の場合13」

海原充が提督になったのは今から4年前、海原が21才の時だった。

 

 

 

「海原充、君を正式に日本海軍の提督として就任させる」

 

 

その就任式、海原は南雲元帥から提督の証であるバッジを受け取る。

 

 

「ありがとうございます、この海原、誠心誠意もって任務につかせていただきます」

 

 

(やった…!ついに俺は提督になったんだ!これでついに…!)

 

 

海原は嬉しさのあまり踊り出したくなったが、それを必死にこらえて南雲元帥に敬礼する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(深海棲艦(やつら)()()出来る!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことですか!」

 

 

着任して30分後、海原は大本営の廊下で南雲元帥に怒号を上げていた。

 

 

「言った通りだ、君には北海道に新設される室蘭鎮守府に就いてもらう」

 

 

海原が配属されるのは新規に開設されることになった鎮守府…『室蘭鎮守府』だった、もともと北海道の方には深海棲艦の出現頻度が多くないという理由から大本営からの派遣駐屯の艦隊がいるだけだったのだが、近年になって深海棲艦の活動が活発になってきたのでこの度鎮守府を新設したのだ。

 

 

「北海道といえば深海棲艦の出現報告が少なく、それも現れるのは駆逐棲艦程度だと聞きます! それじゃただの露払いじゃないですか!俺は前線の鎮守府について深海棲艦を根絶やしにしたいんです!」

 

 

「自惚れるな!」

 

 

南雲の渇に海原は一瞬身を震わせる。

 

 

「いくらお前が士官学校を主席で卒業し、仮想戦闘(シミュレーション)での勝率が100パーセントだった神童だとしても、実戦での経験がないお前では戦場ではただの足手まといだ!」

 

 

「なっ…!」

 

 

「実戦では敵は仮想戦闘(シミュレーション)のプログラム通りには動いてはくれない、無論失敗してもやり直しなんてモノは存在しない、戦場の現実(リアル)を知らんお前に艦隊指揮は無理だ!」

 

 

南雲はそれだけ言うと歩き去っていった。

 

 

「…くそっ!せっかく深海棲艦どもに復讐出来ると思ったのに…!」

 

 

海原は悔しさに身をふるわせながら壁を拳で殴りつける。

 

 

 

 

そもそも海原が提督を志そうと思ったのは今から9年前、深海棲艦の艦載機により引き起こされた『幕張大空襲』がきっかけだ。

 

 

空母棲艦の艦載機により幕張エリア全体が火の海と化したのがその名前の由来だ、少数の空母機動部隊で攻め込まれたというのもあり、当時このエリアの警護を担当していた幕張鎮守府が敵艦隊の察知が遅れたのも被害拡大の後押しをした。

 

 

当時千葉県美浜区に住んでいた海原はその大空襲に遭い16才で家族を失うことになってしまった、それ以来海原は深海棲艦への復讐を誓い、その憎悪と復讐心を糧に提督になるための勉強を死に物狂いでやった、提督になれば艦娘を指揮できる…つまり深海棲艦へ復讐出来るからだ。

 

 

その必死の努力のおかげもあり海原は士官学校を主席で卒業、仮想戦闘(シミュレーション)などでも熟練提督を唸らせる程の艦隊指揮能力を発揮させ、周囲からは海軍の神童ともてはやされた。

 

 

そしてやっと提督という地位につき、深海棲艦への…両親を殺した連中への復讐を果たせると、そう思っていた、しかし…

 

 

 

 

 

「こんな辺境で小物を狩るために提督になったんじゃねぇってのに…!」

 

 

海原は室蘭鎮守府の提督室で今日何度目になるか分からない愚痴を呟く。

 

 

コンコン

 

 

その時、提督室のドアが小さな音でノックされた、そう言えば今日は大本営が手配した艦娘がやってくる日だったな…と海原は思い出す。

 

 

「…入れ」

 

 

海原が不機嫌な声で返すと、失礼しますとか細い少女の声と共に扉が開き、1体の艦娘が入ってくる、少し癖のついた長い黒髪に月を思わせる金色の瞳、背は低く140cm程しかない。

 

 

「はじめまして、本日より室蘭鎮守府に着任しました、睦月型駆逐艦10番艦の三日月です」

 

 

黒髪の艦娘…三日月はそう挨拶すると海原に向かって敬礼する。

 

 

「…チッ、駆逐艦かよ、大本営もとんだ小物を寄越したな」

 

 

「あ、あの…?」

 

 

初対面でそんな事を言われて困惑する三日月、しかしそんな彼女に構いもせず海原は三日月の挨拶にこう返した。

 

 

「室蘭鎮守府提督の海原充だ、お前は俺の復讐のための道具でしかないしそれ以上の存在価値もない、それを理解してせいぜい頑張ることだな」

 

 

それが海原と三日月の出会いだった。

 

 

 

 

三日月が着任してから一週間が経った、三日月の海原に対する第一印象は当然だが最悪なものとなった、着任早々“お前は道具だ”などと言われていい気分な訳がない。

 

 

「はぁ、室蘭に来て一週間経つが、深海棲艦なんて一度も来ねぇじゃねぇか」

 

 

海原は提督室の席についてため息をつく、艦隊を指揮する地位を手に入れた、それを行う艦娘(どうぐ)も手に入れた、しかしその復讐相手が来なければ何の意味もない。

 

 

「いいことじゃないですか、それだけここが平和だって証拠です」

 

 

「それじゃ意味ないんだよ!深海棲艦をぶっ殺さねぇと俺が提督になった意味がねぇ!」

 

 

「…なぜ司令官はそこまで深海棲艦を倒すことに執着するんですか?平和な海を取り戻すのなら深海棲艦は来ない方がいいに決まってます」

 

 

三日月は怪訝な顔で海原を見る、この男の言動には理解しがたい部分が多々あった、やたら深海棲艦を倒すことに執念を燃やしていたり、提督としての仕事の一切合切をめんどくさがったり、自分を()()のための道具だと言ったり、数えたらきりがない。

 

 

「ヤツらは、深海棲艦は俺の両親や友人を皆殺しにした!だから俺は深海棲艦に復讐する為だけに提督になったんだ!海の平和だとか人類の安全なんて知ったことか!」

 

 

「…だから私は()()の道具なんですね」

 

 

机を叩いて自分を怒鳴りつける海原に臆する事なく三日月は冷静にそう返す、初めて室蘭に来たときのあの言葉の意味がようやく分かった。

 

 

「あぁそうだ、艦娘なんて深海棲艦と戦うためのただの兵器だ、道具だ、お前は何も考えずに俺の指示に従ってればいいんだよ」

 

 

その言葉を聞いて三日月はすぐに察した、この人は()()()と。

 

 

「司令官、僭越ながら言わせていただきます」

 

 

「あん?」

 

 

「復讐などという()()()()()目的のために司令官になったのであれば、今すぐその地位を下りるべきです!」

 

 

「っ!!んだとテメェ!」

 

 

海原は勢い良く椅子から立ち上がり、飛びかかるような勢いで三日月の肩を掴むと思い切り殴り飛ばす。

 

 

「お前に何が分かる!深海棲艦なんていう訳の分からない連中に大切なモノを奪われたこの悲しみが!苦しみが!お前に分かるか!?」

 

 

飛んでいった三日月の胸ぐらを掴むと、海原は激しい剣幕でまくし立てる。

 

 

「…確かに司令官の境遇は気の毒だと思いますし、大切なモノを奪われる気持ちは建造されたばかりの私にはまだ分かりません、ですが司令官のそのお考えはいつか身を滅ぼします!」

 

 

「こいつ…!」

 

 

逆上した海原は三日月を壁に叩きつける。

 

 

「っ!!」

 

激しい衝撃と痛みで三日月は目を回しそうになるが、なんとか耐え抜いてヨロヨロと立ち上がる。

 

 

「ただの道具の分際で俺に意見するんじゃねぇ!」

 

 

「いいえ、何度でも言わせていただきます!どうか復讐などというお気持ちで自分を動かさないでください!今の司令官は自らを妄執という鎖で縛っているようなものです!」

 

 

「黙れ!」

 

 

海原はさらに三日月へフルスイングの腹パンをお見舞する。

 

「…ごほぁ!」

 

 

三日月は激しく咳き込みながら胃の中身を提督室の床にぶちまけた、少しの間呼吸困難になり、苦しそうにもがきながらなおも咳き込む。

 

 

「ゲェホ!グェホ!オボェ…!」

 

 

「…それ以上痛い目見たくなかったら二度と俺に意見するんじゃねぇ、道具の分際で…」

 

 

海原はそれだけ言うと提督室を出て行った。

 

 

 

「…その()()の言葉であんなに心を乱す司令官も、大概だと思うんですけどね」

 

 

誰もいなくなった提督室で三日月はボソリと呟いた。




誰だって最初からいい人だとは限らないし、海原も例外ではない。

この頃の海原は相当やさぐれてますね、しばらくはこんなクズっぷりな海原をお楽しみください(楽しめるか)。


そう言えば三日月とケッコンしました。
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