艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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艦これ経験者は今回の話で「(゚Д゚;?」なシーンがあるかもしれません。

UA5000超えました!ありがとうございます!


第29話「三日月の場合14」

海原が室蘭鎮守府に着任してから2週間、この日海原は初めて艦娘の建造を行うことになった。

 

 

「せめて戦艦の1体でも来てくれりゃいいんだがな」

 

 

「何を言うんですか!まだ資材の少ないこの状況で戦艦なんて建造したらあっという間に枯渇してしまいます!ここは消費資材の少ない駆逐艦や軽巡洋艦を増やすべきです」

 

 

工廠の建造ドックの前でボヤく海原に三日月がつっこむ、しかし戦艦や空母などの大型艦と設定されている艦娘ほど消費する資材が多くなると言うのは海原も当然知っていた、というよりも小学校一年生で習う常用漢字よりも常識的な知識だ、むしろ知らない方がおかしい。

 

 

「わーってるよ、ちょっと言ってみただけだろ、いちいちしゃしゃり出てくんな」

 

 

そう言って海原は造船所に納める資材を建造ドックに入力する、建造ドックといってもこの鎮守府内で艦娘が造られているわけではない。

 

 

そもそも建造は大本営に併設されている艦娘開発部署である造船所でのみ建造が許されている、艦娘の開発技術が外部に漏洩したり悪用されたりするのを防ぐためだ。

 

 

ではなぜ各鎮守府には建造ドックなどというモノがあるのか?理由はこうだ、各鎮守府の提督が手持ちの資材から建造に使う分をドックに入力する、するとその入力した資材のデータが造船所に送られる、そして造船所はそのデータを元に資材を使い艦娘を建造し鎮守府へと送る、最後に建造した鎮守府は入力した分の資材と引き換えに艦娘を受け取る。

 

 

以上が艦娘建造の基本的な流れである、例えるなら着払いのネット通販をするのと似たような感覚だ。

 

 

「なら今回は少なめの資材で二回建造だ」

 

 

海原は建造ドックに資材データを入力して造船所へと送る、後は数日もすれば建造された艦娘が造船所から送られてくるのでその時に入力した分の資材を支払えばいい。

 

 

「出来れば軽巡洋艦とかが欲しいもんだが…」

 

 

「同じ資材量でも出来る艦娘のクラスはその時々によって変わるみたいですから、難しい所ですね」

 

 

 

 

それから2日後、建造された艦娘が室蘭鎮守府にやってきた。

 

 

「…あの、はじめまして、陽炎型駆逐艦8番艦雪風です」

 

 

まず1体目は陽炎型駆逐艦8番艦の『雪風』、新雪のような長い白髪に赤い目をした艦娘だ、その小さい体躯と相まって雪兎のような印象を抱かせる。

 

 

「秋月型駆逐艦1番艦の秋月だよ!よろしく!」

 

 

2体目は秋月型駆逐艦1番艦の『秋月』、赤紫色のセミロングをツインテールにした元気いっぱいの艦娘である。

 

 

「初めまして、私は室蘭鎮守府の秘書艦の三日月です」

 

 

「室蘭鎮守府の提督の海原充だ」

 

 

それぞれ自己紹介を済ませると、海原は三日月に言ったセリフをそのまま口にする。

 

 

「一つ言っておく、お前らは俺の復讐のためのただの道具だ、お前らの存在価値はそれ以上でも以下でもない」

 

 

「…えっ?」

 

 

「提督…?」

 

 

予想も付かない海原の発言に雪風も秋月も固まってしまう。

 

 

「司令官!あなたはまたそんな…!」

 

 

「お前は黙ってろ!」

 

 

突然の海原の怒号に雪風と秋月はひぃ!と震え上がる、しかし三日月はそれに動じる様子は全くなく、真剣な面もちで海原を見つめていた。

 

 

「俺は深海棲艦に復讐する為に提督になった、お前らはそのための道具だ、駒だ、それを弁えないようだったら叩き潰すからな、それだけは覚えておけ」

 

 

海原はそれだけ言うとさっさと提督室を出て行ってしまった。

 

 

 

「…まぁ、頑張って」

 

 

三日月はすでに半泣きのふたりをなだめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

雪風と秋月が室蘭鎮守府に着任してから3日が経った頃、ついに海原の望んでいた時がきた。

 

 

「ついに俺の所にも深海棲艦が来てくれたぜ!」

 

 

「司令官としてその発言は如何なものかと…」

 

 

「うちの提督は変わってますね」

 

 

「今更だよ」

 

 

雪風と秋月もこの鎮守府の雰囲気に慣れたのか、いちいちビクつかなくなった。

 

 

「ついに、ついに俺の復讐を果たせる…!」

 

 

 

「…水を差すようで悪いんですけど、私たち全員練度(レベル)1ですからね?せいぜい駆逐棲艦を落とすのが関の山ですよ」

 

 

三日月がそう海原に言う、すでに海原が室蘭鎮守府に着任してから3週間近く経っているが、まだ一度も深海棲艦との戦闘はないので練度(レベル)は全員1なのだ。

 

 

「何言ってんだ、たとえ戦艦棲艦だろうが空母棲艦だろうが轟沈覚悟で戦ってもらうからな、撤退なんてできると思うなよ」

 

 

「なっ…!?」

 

 

「そんな!」

 

 

雪風と秋月が愕然とし、初陣で轟沈してしまうのかと身体をガタガタと震わせ始める。

 

 

「何を言ってるんですか司令官は!私たちは駆逐艦、ましてや練度(レベル)1です!もし本当に戦艦棲艦と戦うことになったら勝つのは不可能です!艦娘の艦種とスペックをもっと理解して戦略を立てて下さい!」

 

 

「黙れ!道具のクセに上官に意見するな!」

 

 

海原は三日月を怒鳴りつけながら蹴り飛ばす、腹の辺りをモロに蹴られた三日月は激しくせき込みながらうずくまる。

 

 

「深海棲艦に復讐出来るならお前らがいくら轟沈しようが俺の知ったこっちゃねぇんだよ、替えの艦娘なんて建造でいくらでも増やせるんだからな」

 

 

「ゲホッ…!あなたという人は…!ゴホッ!」

 

 

三日月の顔を掴みながら悠々と語る海原、雪風と秋月は目尻に涙を浮かべながら目をそらす、こんな光景をこれ以上見ている事なんて出来なかった。

 

 

「とにかくすぐに出撃準備だ、敵前逃亡しようモンなら…どうなるかは分かってるよな?」

 

 

そんな脅しを受けつつ、室蘭鎮守府第1艦隊はオホーツク海近海へと出撃していく。

 

 

 

 

戦艦棲艦や空母棲艦が出て来たらどうしようと気を揉んでいたが、幸いそんな事はなかった、しかし…

 

 

「これ…勝てるのかな…」

 

 

現れた敵艦は重巡棲艦だった、単艦だったので数的にはこちらが有利だが、戦闘力で言うならあちらの方が圧倒的に上だ。

 

 

「砲雷撃戦…始め!」

 

 

室蘭艦隊と重巡棲艦との戦闘が始まった、まずは三日月が主砲を重巡棲艦に向けて発射、命中はしたがほとんど利いてる気がしない。

 

 

「撃ええええぇぇぇ!!!!!」

 

 

「いっけえええぇぇ!!!」

 

 

続いて雪風と秋月が主砲を発射、これも命中したが身体の表面で弾かれてしまいほとんどダメージにならない。

 

 

「これじゃあ撃沈どころか中破すら無理…!」

 

 

なんとか有効なダメージを与えられないかと三日月は考えたが、敵の重巡棲艦はそれを良しとしなかった。

 

 

「っ!?敵艦魚雷発射!回避…!」

 

 

回避行動を取れと言おうとしたが、重巡棲艦が続けて撃ちだした主砲が三日月たちに命中してしまった。

 

 

「あうぅ…!」

 

 

今の砲撃で直撃を受けた雪風が大破、三日月と秋月が中破になる。

 

 

「きゃああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

遅れて重巡棲艦の魚雷が命中、この攻撃が決まって全員が大破になってしまった。

 

 

(やっぱり練度(レベル)1の駆逐艦じゃ重巡棲艦には敵わない…!)

 

 

ここが限界だと感じた三日月は海原に撤退の許可を求めてインカムを使う。

 

 

『はあ?何を寝ぼけたこと言ってんだ、戦闘続行だ、敵艦を撃沈するまで帰投は認めん』

 

 

「なっ…!?」

 

 

しかし、返ってきたのはおおよそ正気とは思えない答えだった。

 

 

「正気ですか司令官!?全員大破なんですよ!この状態で続行しようモノなら全員轟沈してしまいます!」

 

 

『だから何だ?おまえらが轟沈してもまた替えの艦娘を建造すればいいだけだ、思う存分散ってこい』

 

 

淡々と述べる海原の言葉を聞き、三日月はある決意をする。

 

 

(あなたがそうおっしゃるのであれば、こちらにも考えがあります!)

 

 

「…艦隊旗艦(リーダー)より命じます、今すぐ戦線離脱して撤退して下さい」

 

 

「えっ!?」

 

 

「三日月さん!?」

 

 

『テメェ!何勝手なこと言ってやがる!上官の俺に逆らったらどうなるか…!』

 

 

三日月は耳からインカムを外すとそれを握り潰して海へ捨てた。

 

 

「さて、うるさい司令官の声も聞こえなくなりました、私が敵の目くらましをするのでお二人は先頭についてください。

 

 

「は、はい…」

 

 

「分かった…」

 

 

撤退中、大破状態でうまく動けない身体を互いに支え合い、必死で鎮守府へと進んでいく。

 

 

(殺される覚悟はしておいた方がいいかもね…)

 

 

 

そんな中、三日月は鎮守府に戻った後どんな目に遭うのかと少し不安になっていた




海原のクズっぷりがどんどん加速していきますね。

でもぶっちゃけこういうシーンは書いてて楽しいです。

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