艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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いつから深海棲艦は提督(プレイヤー)を攻撃しないと錯覚していた?


第31話「三日月の場合16」

室蘭鎮守府にも6月がやってきた、本州では一般的に梅雨の季節に入るが、北海道に梅雨は無いので比較的落ち着いた天気が続いている。

 

 

「…それにしてもあいつら遅いな、好きな菓子買ってきていいって言ったから悩んでんのか?」

 

 

時計を見ながら海原は三日月に言う、雪風、秋月、夕月、夏潮の4体には近くの港町へ夕飯の買い出しに行かせている、往復するだけなら一時間も掛からない距離なのに2時間半経っても帰ってこない。

 

 

「もしかして道に迷ってるんじゃないでしょうか、全員あそこに行くのは初めてですし」

 

 

「…Pitのひとつでも持たせときゃ良かったな…」

 

 

「司令官、もしかして心配してるんですか?」

 

 

海原がぼそりと呟いたのを聞いて三日月は驚いたような顔をする、普段艦娘を道具扱いしている彼だけにとても意外だ。

 

「べっ…別に心配してる訳じゃねぇよ!なんかの事故や事件に巻き込まれたら面倒だなって思っただけだ!」

 

 

海原は慌てて否定するが、顔がほんの少し赤くなっているのを見るとあながち間違いではないらしい。

 

 

「そうですか、ふふっ、そうですか~」

 

 

「…なんか名も無き悪意をそれに感じるんだが」

 

 

海原は三日月をじろりと睨むが、三日月は何のことでしょう?とかわしてしまう。

 

 

(こいつといると調子狂うなぁ…)

 

 

などと心の中でぼやくと席を立って窓の外を見る、あくまでもこれは気分転換のタメであってあいつらが心配だから外を見ているわけではないということを強調しておく。

 

 

「…ったく、もう夕方だってのに、どこほっつき歩いてんだか」

 

 

そう呟きながら鎮守府へ続く石畳の道を見るが、雪風たちの姿は無い。

 

 

「…ん?」

 

 

仕事を再開しようと窓から視線を外しかけたとき、海原はある場所に目が止まった。

 

 

「あれは…?」

 

 

それは石畳の反対側に広がっている室蘭鎮守府の埠頭だ、海沿いに建っている(どの鎮守府もそうだが)室蘭鎮守府は立地場所の関係で窓から海が見渡せる。

 

 

その海に黒い物体が浮かんでいるのが見えたのだ。

 

 

(アザラシ…とかじゃねぇよな、深海棲艦の発現で既存の海洋生物はほとんど生き残ってないって聞くし…)

 

 

ならあそこに浮かんでいるのは何か、鋼のように光沢のある身体にエメラルドのような瞳、まるで駆逐棲艦のようだ。

 

 

(って、それじゃあそこにいるのは…!?)

 

 

海原の全身からイヤな汗が流れ始めたのと同時に黒い物体はその口を大きく開け、細長い大砲のような砲身を伸ばし、そして何か弾のようなモノを撃った。

 

 

「伏せろおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!三日月いいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

海原はダッシュで三日月を抱え込むとドアの近くまで一気に転がり込む。

 

 

「きゃっ!司令官!?いったいどうした…」

 

 

 

その直後、ほんの数秒前まで海原が立っていた場所が爆音とともに跡形もなく吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

雪風、秋月、夕月、夏潮の4体は買い出しから戻って鎮守府の門をくぐり、本館へと繋がる石畳を歩いていた。

 

 

 

「…すっかり遅くなってしまいました」

 

 

「こりゃ提督に怒られちゃうかもね~」

 

 

不安そうにオドオドする雪風に対して脳天気な秋月、これでも海原の性格には慣れているので落ち着いている方だ。

 

 

「司令官殿にどう詫びればいいのか…」

 

 

「ぶたれたりしないよね…?」

 

 

むしろ問題なのは夕月と夏潮の方である、着任して日が浅い2体は初日の海原の第一印象も手伝い、自分はいったいこれからどうなってしまうのかと既にメンタルズタズタである。

 

 

「…大丈夫ですよ、司令官はあれでも優しい人ですから、多分」

 

 

「そうそう、なんだかんだ言って最後には許してくれるよ、多分」

 

 

「元気づけようとしてくれるのはありがたいが、最後の一言で全部台無しになったぞ」

 

 

夕月が苦笑したちょうどその時、鎮守府本館から激しい爆発音が聞こえた。

 

 

「な、何!?」

 

 

「あ!あそこ!鎮守府が爆発してる!」

 

 

秋月が指さす先には、鎮守府の建物が爆発している光景が見えた。

 

 

「…あれ、あそこって提督室の方じゃ…」

 

 

「っ!!急いで戻るよ!」

 

 

敵の攻撃を受けているかもしれない、そんな嫌な予感を感じながら雪風たちは鎮守府へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

間一髪で駆逐棲艦の攻撃を避けることが出来た海原は三日月を抱えたままさっきまで自分が立っていた場所を見る、壁は跡形もなく吹き飛ばされ、その周りに置いてあった家具や執務机なども吹き飛んでいた。

 

 

もし駆逐棲艦の砲撃に気付かずあのまま座っていたら…と考えただけで寒気がする。

 

 

 

「し、司令官!?何事ですか!?」

 

 

わけも分からず海原に抱えられて提督室の床を転がり、さらに部屋の一部が爆発して全く状況が分かっていない三日月はプチパニックだ。

 

 

「敵襲だ、駆逐棲艦がすぐそばの埠頭に侵入してやがる」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

海原の言葉に三日月は驚愕する。

 

 

「そんな…!!でも鎮守府周辺には深海棲艦の接近を感知する大型電探(レーダー)が…!」

 

 

「…それは多分、アレのせいだと思うぞ」

 

 

「?」

 

 

海原が指差した先にあったのは、空母棲艦の艦載機だ、おそらく電探(レーダー)の索敵範囲のギリギリ外から空撃で破壊したのだろう。

 

 

「(どうして空母棲艦の艦載機が…)」

 

 

「(俺たちが死んだかどうかを確かめに来たって所だろうな、上手く行けば敵を帰せるかもしれん、このまま死んだふりしてろ)」

 

 

「(は、はい…)」

 

 

敵艦載機はそのまま海原たちの近くまで飛んできてしばらく浮遊していた、死んでいるのかどうかを確認しているのだろう。

 

 

十数秒経った頃だろうか、敵艦載機はそのまま回れ右をして提督室から出て行った。

 

 

「…行ったみたいだな」

 

 

海原と三日月ははあぁ~、と大きく息を吐いて安堵する、こんなにも生きた心地がしなかったのはいつ以来だろうか。

 

 

「でもどうして深海棲艦がこんな所に…」

 

 

「そりゃ深海棲艦からすればここは敵の本拠地だからな、大元を叩けば勝てるって方程式は向こうにも有効だ」

 

 

「正論ですけど何か釈然としないですね、でも敵が帰ってくれて良かったです、もう攻めてくることも無いでしょうし…」

 

三日月がそう言って海原の方を見ると、壁がなくなり開放感抜群になった大穴から海を見ていた。

 

 

「…司令官?」

 

 

「…三日月、どうやら深海棲艦ってのは俺たちが思ってるより賢いヤツらみたいだぜ」

 

 

 

そう言う海原の視線の先には、戦艦棲艦や空母棲艦をメインにした敵の主力艦隊が姿を現していた。




さぁ、本土防衛戦(デス・ゲーム)の始まりだ。


イムヤが欲しくて潜水艦レシピで建造をぶん回しています。

でもゴーヤとイクしか建造されません。

…イムヤってそんな出にくかったっけ?

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