艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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chapter2「伊8編」

砲雷撃戦を全くと言っていいほどしていませんが 艦これ小説と言い張ります。

UAが増えていてめちゃ驚きました、ありがたい限りです。


第4話「伊8の場合1」

「司令官、夕食の用意が出来ました」

 

 

「ありがとう、ここに置いてくれ」

 

 

「はい!」

 

 

吹雪は海原の夕食が乗ったトレイをデスクの脇に置いた。

 

 

「今日もずっと訓練してたのか?」

 

 

「はい、出撃が無いからといってじっとしてたら身体が鈍りますから、あと暇ですし」

 

 

絶対後者がメインの理由だろうなぁ、などと考えながら海原は味噌汁を啜る。

 

 

吹雪が台場鎮守府に来てから一週間が経った、この一週間吹雪は取りつかれたように深海棲器の自主訓練にのめり込んでいる、新しい武装の開発が出来ない以上この深海棲器を第二の戦力として使いこなさなければいけないと吹雪は考えたからだ。

 

 

ちなみにチョイスした深海棲器は手甲拳(ナックル)とナギナタのふたつ、訓練の甲斐もあり今では普通に接近戦が出来るようになっている。

 

 

ついでに言うと海原も深海棲器の訓練を受けていた事がある、深海棲器は鎮守府が敵艦に襲撃されたときの提督の護身用という意味もあるので定期的に訓練が行われていたのだ、現在でも海原は自主訓練を続けているし、吹雪に深海棲器のレクチャーをしたのも彼だ。

 

 

「大本営に建造と開発の工廠を解放するように要望は出してあるんだけど、ことごとく断られるんだよなぁ…、とりあえずは開発さえ出来れば吹雪に深海棲器なんて持たせなくてもいいのに…」

 

 

「私は結構気に入ってますよ?アレ」

 

 

「マジで?深海棲艦の装甲を素材に使ってるんだぞ?アレ」

 

 

「…マジですか?」

 

 

「マジだ」

 

 

鎮守府の闇を見たような気がして吹雪は顔をひきつらせる。

 

 

 

 

次の日の朝、今日も自主訓練に行こうとした吹雪だったが…

 

 

「吹雪、急で悪いが出撃だ」

 

 

「えっ?出撃ですか?」

 

 

予想外の展開に吹雪が思わず聞き返す。

 

 

「台場鎮守府の近海に深海棲艦が出現したという連絡が入った、吹雪はこれを倒してほしい」

 

 

海原にそう言われると、吹雪は目に見えて顔を輝かせる。

 

 

「はいっ!了解しました!」

 

 

久しぶりの出撃で吹雪は張り切っていた、かつては遠征や海域攻略の捨て艦としてしか使ってもらえなかったが、今日はちゃんとした戦闘要員として参加できる、こんなに嬉しい事はない。

 

 

「吹雪!出撃だ!」

 

 

「はい!吹雪、出ます!」

 

 

吹雪は勢いよく執務室を出て行った。

 

 

 

 

『吹雪、聞こえるか?』

 

 

「はい、問題ありません」

 

 

出撃海域に到着した吹雪はインカム越しに聞こえる海原の応答に答える。

 

 

「司令官、カメラの方は問題ありませんか?」

 

 

『あぁ、よーく見えるぞ』

 

 

今回吹雪の武装には小型のカメラが搭載されており、出撃中の様子がある程度分かるようになっている。

 

 

「っ!!敵艦発見!艦種…潜水棲艦!」

 

 

吹雪の前方に敵艦…潜水棲艦が姿を現した、真っ白な髪を二つ括りにした見てくれをしており、頭には白い帽子を被っている。

 

 

『よし、戦闘開始!迎撃せよ!』

 

 

「了解!」

 

 

吹雪は深海棲器のナギナタを武装から取り出すと、潜水棲艦に向かって進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…助けて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…?」

 

 

突然聞こえた言葉に吹雪は慌てて辺りを見渡すが周りには吹雪と潜水棲艦しかいない。

 

 

「司令官、今何か言いましたか?」

 

 

『いや、何も言ってないぞ』

 

 

「なら誰が…」

 

 

そこまで言って吹雪はハタと気が付く、ここでは自分と敵艦以外は誰もいない、そして海原も何も言っていない、となれば残された可能性はひとつだけだ。

 

 

「もしかして…潜水棲艦(あなた)が…?」

 

 

ありえない、その可能性を考えたときに吹雪は真っ先にそう思った、深海棲艦が人語を話せるという報告は一度も入ったことがないし、深海棲艦が人語を理解できるという報告も聞いたことがない。

 

 

半信半疑といった様子で潜水棲艦をまじまじと見ていると、突然潜水棲艦に変化が現れる。

 

 

「っ!?」

 

 

潜水棲艦の姿に重なるように、もう一人の誰かが浮かび上がったのだ、そのもう一人は実体の無い半透明の状態で浮かんでおり、まるでホログラム映像を見ているようであった。

 

 

そのもう一人は変わった格好をしていた、白い海兵の帽子を被っており、髪は二つ括りにした金髪、そして服装はスクール水着とかなり奇抜ないでたちだ。

 

 

そのスクール水着のもう一人は潜水棲艦の後ろに控えるように浮かんでおり、守護霊のそれを連想させた。

 

 

「あれ…?」

 

 

ここで吹雪はある事に気づいた、そのもう一人と潜水棲艦の姿が妙に似通っているような、そんな気がした、そう思えるほどそのもう一人には潜水棲艦の“面影”があったのだ。

 

 

『どうした吹雪?はやく敵艦を倒せ』

 

 

「えっ!?は、はい!」

 

 

そこまで考えを巡らせていると、急にインカムから海原の声が聞こえてきて吹雪は我に返る。

 

 

(今こんな事を考えていても仕方がない!とにかく敵を倒さないと!)

 

 

 

そう意識を切り替えた吹雪は武装からナギナタを取り出すと、最大速度で潜水棲艦に肉薄する。

 

 

『止めて!私はまだ沈んでない!』

 

 

「っ!?」

 

 

ナギナタを振り上げたと同時に潜水棲艦が叫ぶ、やはりさっきの声の正体はこの潜水棲艦だった。

 

『私はまだ生きてる!沈んでなんかいない!なのにどうしてみんな私を攻撃するの!?どうして私の声が届かないの!?』

 

 

潜水棲艦が泣きじゃくったような声で吹雪に訴えかける、ふともう一人の方を見ると、とても悲しそうな顔をしていた、どうやらこのもう一人(めんどくさいので吹雪は“面影”と仮称することにした)は潜水棲艦の感情と同調しているみたいだ。

 

 

「あなたは一体…」

 

 

『誰か…私を助けてよ!』

 

 

潜水棲艦はありったけの感情を暴発させたような金切り声をあげ、同時に持っていたボロボロの本のようなモノから魚雷が何本も飛び出して吹雪に向かっていく。

 

 

「ぐあああぁっ!」

 

 

『吹雪っ!?』

 

 

雷撃をまともに食らった吹雪はそのまま海面をツーバウンド、一気に小破まで追い込まれる。

 

 

『一度撤退だ!鎮守府まで戻れ!』

 

 

「で、でも…!」

 

 

『いいから戻れ!体制を立て直すんだ!』

 

 

「…分かりました!」

 

 

吹雪は回れ右をすると、潜水棲艦から一気に距離をとるように後退し、その海域から撤退した。

 

 

吹雪の台場鎮守府での初出撃は、『敗北』という結果に終わった。




空母棲艦の先制空撃で駆逐艦が一発大破になったときの脱力感は異常。

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