艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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火事場の馬鹿力というのは今回の三日月のためにあるような言葉なんじゃないか、と思ってしまいました。



第41話「三日月の場合26」

ヨークタウン型航空母艦1番艦のヨークタウンは随伴艦の艦娘を引き連れて巨人の剛腕(タイタン・アームズ)へと向かっていた。

 

 

「お願い…!間に合って!」

 

 

祈る気持ちでケーブルに沿って航行していくが、ここは深海棲艦が出現していない第6ケーブルだ、敵艦隊がいる第3ケーブルへ行くには迂回をしなければいけない。

 

 

「ヨークタウンさん!あまり早く行くと危ないですよ!」

 

 

随伴艦の天龍が速度を落とすように言うが、ヨークタウンにはそんな余裕などなかった。

 

 

『別動隊が戦艦、空母を含む強力な敵艦隊の襲撃を受けている、孤立している艦娘もいるので応援に向かってくれ、合流し次第別動隊は撤退させる』

 

 

そんな通信が入ったのがつい1~2分ほど前のこと、作戦会議では別動隊は全て駆逐艦での編成だった、そんなメンツが戦艦、空母クラスの艦隊と戦っても結果は目に見えている。

 

 

(早く…!早く助けに行かなくちゃ!)

 

 

だからこそヨークタウンは急いでいた、早く行かなければ別動隊の艦娘たちが轟沈してしまうかもしれない、時間が取れずほとんど会話もしていない艦娘だが、共に作戦を遂行する仲間である事には違いないのだ。

 

 

仲間を見殺しにすることだけは、このヨークタウンのプライドにかけて許さない、その一心で彼女は進んでいく。

 

 

 

 

時は少しだけ遡り、大本営中央作戦司令室。

 

 

「今すぐの撤退を認めないとは、どういう事ですか!」

 

 

海原はドン!と机を叩いて南雲に抗議する。

 

 

「現在別動隊と敵艦隊は本島から830m地点で戦っている、別動隊が撤退すれば敵艦隊もそれを追ってくるだろう、そうなればただでさえ本島から近い場所にいる敵艦隊をさらに本島に近付けることになってしまう」

 

 

「なら、向かっている第3艦隊と途中ですれ違うようにして撤退させれば…!」

 

 

「言っただろう!これ以上敵艦隊を本島へ近付けてはならないと!近付かれた上に戦闘など挟めば本島にも被害が及ぶ、それがなぜ分からん!」

 

 

「なら!別動隊は、三日月たちはどうするんですか!迂回中の第3艦隊が到着するまでどうやっても5分はかかります!ほとんど孤立同然の三日月たちでは到底太刀打ち出来ません!」

 

 

南雲と海原の言い合いは次第にヒートアップしていき、周りの提督たちはそれを見ていることしか出来なかった、間に割ってはいる勇気など持ち合わせてはいなかった。

 

 

「…撤退命令を出すなら好きにすればいい、島民2000人あまりの命を危険に晒してもいいのであればな」

 

 

「っ!?それは…」

 

 

南雲に言われ海原はぐうの音も出なかった、三日月たちの命と島民の命、海原はそれを今天秤にかけているのだ。

 

 

「駆逐艦如きの命で島民を守れるのであれば安い犠牲だろう?、なんなら造船所に取り合って()()()()の艦娘を無償で建造してやってもいいぞ?」

 

 

「テメェ!」

 

 

海原は相手が上官であることも忘れ南雲につかみかかる、ちょっと前の自分なら今の南雲の言葉に同意していただろうが、今は違う。

 

 

「あいつらは、俺の部下で、仲間で、家族だ!それ以上三日月を侮辱するんじゃねぇ!」

 

 

血走った眼で睨みつけられているのにも関わらず、南雲はとても落ち着いていた、その様子はまるで聞き飽きた子供の駄々を流す親のようであった。

 

 

「ふん、()()か、艦娘に情を持ちすぎるなと士官学校で散々言われなかったか?」

 

 

「生憎俺は主席(エリート)なんでね、教科書(セオリー)通りにするのは大嫌いなんだよ」

 

 

「…言ってろ、ただし撤退は認めん、これは命令だ」

 

 

「…くそっ!」

 

 

海原は乱暴に椅子に座ると、三日月が持っているインカムの無線回線にアクセスする。

 

 

「三日月、すまないが第3艦隊が来るまで撤退は認められない、このまま時間稼ぎを続けてくれ」

 

 

『…司令官のご命令であれば従いますが、今の状況は小破の私と潜水棲艦のバリケードを突破して中破した夕月、秋月、そして大破した夏潮、雪風です、長くは持ちません、最悪の場合…轟沈の可能性も視野に入るかと』

 

 

「大丈夫だ、絶対にお前らを沈めさせたりなんかしない、第3艦隊はすぐに来るから…俺を信じてくれ」

 

 

嘘だ、このまま戦闘を続ければ轟沈は絶対に免れない、たとえ第3艦隊が間に合っても生きて帰れる確率は低いと言わざるを得ないだろう。

 

 

『…何を仰るんですか司令官、私たちは司令官の艦娘で、部下で、家族です、たとえ何があろうと、私たちの司令官(おや)は海原司令官です、この命尽きるまで信じ続けます』

 

 

『三日月の言うとおりだ、司令官殿の言葉なら、どんな奇想天外な言葉だろうと信じます、貴方はそれに値するお人です』

 

 

『そうそう、提督は私たちを信じてどーんと構えてよ!』

 

 

『そうです!私たちは司令官を信じます、だから私たちのことも信じてください!』

 

 

『絶対に提督の所へ帰る事を約束します、安心してください』

 

 

「………」

 

 

海原は泣いていた、家族を死地へ追いやるような親を信じてくれる、我慢など出来るわけがなかった。

 

 

『それじゃあ、全員突撃!』

 

 

『『おおおおぉぉ!!!!!!』』

 

 

それを最後に通信は途絶え、耳障りなノイズだけがスピーカーから流れる。

 

 

「…もしもの事があったら俺がお前の弁護をしよう、せめてもの償いだ」

 

 

南雲はそれだけ言うと奥の部屋へ消えていった。

 

 

「……………………」

 

 

海原は何も言わず、ただ三日月たちの無事を祈って涙を流していた。

 

 

 

 

そして現在、敵艦との戦闘から7分近くが経っているが支援艦隊が来る気配はない、三日月の被害はどんどん拡大していき、とうとう恐れていた最悪の事態が起きてしまった。

 

「…ははは、どうやら私はここまでのようだ…」

 

 

夕月は身体の半分ほどを海水に浸からせながら言った、主砲は完全に破壊され使用不可、左足は敵艦に持って行かれ立ち上がることすら出来ない、そして何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

 

三日月の頭は真っ白になっていた、今まで寝食を共にし、同じ戦場を戦い抜いた仲間が目の前で息絶えようとしている、目の前の光景が現実のモノなのか、三日月は自問自答を繰り返している。

 

 

「そんな顔をするな、司令官殿の所に帰ることが出来なくなってしまったのが心残りだが、せめて…お前だけでも……」

 

 

行くな、三日月は夕月に手を伸ばしたが、それが彼女に届くことはなく、ひどくあっさりと海の中へ吸い込まれていった。

 

 

「夕月!夕月いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

 

 

三日月は海面に向かって夕月の名前を叫ぶが、当然返事は返ってこなかった。

 

 

(こんな所で固まってたらダメ…!早く戦闘を再開しないと!雪風たちだってまだ戦ってるのに…!)

 

三日月はそう自分を奮い立たせて立ち上がる。

 

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「っ!?雪風!?」

 

 

雪風の悲鳴が聞こえ、慌てて声のする方を向いた。

 

 

 

「……へ?」

 

 

そこには、敵空母の空撃を受け、身体が()()()()になって吹き飛ばされる雪風が見えた。

 

 

「ゆ、雪風ェ!」

 

 

敵の攻撃などお構いなしに駆け出した三日月は雪風の()()()を抱き留める。

 

 

「み、三日月…ごめん……やられちゃった………」

 

 

「な、何で雪風が謝るのよ!あなたのせいじゃ…」

 

 

「ごめんね…今まで黙ってたけど、私司令官の事が好きなんだ…」

 

 

「…何よそれ、今はそんな事どうでも…」

 

 

「三日月だって司令官の事好きでしょ?知ってたよ」

 

 

「それは…」

 

 

「本当はこの作戦が終わったら告白でもしてみようかな~、なんて考えてたんだけど、告白権は三日月にあげる事になりそうだね」

 

 

「やめてよ!そんな事言わないでよ!」

 

 

「本当にごめんね…私は先に逝くけど、司令官を……よろ……し…」

 

雪風はそのセリフを言い終える事なく、眠るように息を引き取った。

 

 

「雪風!雪風!」

 

「三日月!気をしっかり持って!」

 

 

「悲しむのは後にしよう!」

 

 

三日月の前に立ち、守るように砲を構える秋月と夏潮、今は戦わなくてはいけない、支援艦隊が到着するまでは何が何でも持ちこたえなければ…。

 

 

「はぁっ!」

 

 

秋月が主砲を撃って戦艦棲艦を砲撃するが、大破になって満足なパフォーマンスが出来ないのでダメージは無いに等しかった。

 

 

 

秋月と夏潮は続けて攻撃をしようとしたが、最悪のタイミングで弾切れを起こしてしまった。

 

 

 

「なら…!」

 

 

 

2体は雷撃戦に切り替えようとしたが、戦艦棲艦が4体同時に砲撃を仕掛けてきた。

 

 

「マズい…!」

 

 

今かわしたら三日月に砲弾が当たってしまう、しかし三日月を引っ張ってかわすだけの力は残っていなかった。

 

 

「…夏潮」

 

 

「…うん」

 

 

秋月と夏潮は何かを決意したように頷くと、最後の力を振り絞って三日月を後方へ思い切り突き飛ばした。

 

 

「っ!?何を…!」

 

 

そう問いただそうとしたが、その瞬間に激しい爆発音と閃光が発生して三日月は思わず目を瞑ってしまう、その直後にべちゃっとした粘着質な音と共に何かが自分に降りかかる。

 

 

「何が…?」

 

 

三日月は自分にかかったモノを手に絡ませる、それはドロッとした液体であり、赤色と緑色が混ざった色をしていた。

 

 

そしてその液体の中には、秋月たちが着ていた服の切れ端や肢体などが所々紛れていた。

 

 

「…あ……ああぁぁ…」

 

 

それを見た三日月は察してしまった、2体は三日月を助けるために自らの命を差し出し盾になったのだ、そしてこの液体は、艦娘()()()秋月たちだ。

 

 

 

「………」

 

 

三日月は雪風の上半身を海へ沈めると、秋月たちの液体を垂らしながらゆっくり立ち上がる、ついに自分だけになってしまった、どうすればいい?ドウスレバ…?。

 

 

「ははは…」

 

 

こうしているうちに敵の攻撃は自分に当たり続けて肉や骨を抉っていくが、痛みも何も感じない。

 

 

「あはははははははははハハハハハハハハははははははははははははははははははははハハはははははハハハハハハハハハハハはハはハはハはハはハはハはハはハはハはハ!!!!!!!!」

 

 

 

突然狂ったように笑い出す三日月に敵艦が一瞬怯む。

 

 

 

どうすればいいのか?簡単だ、敵を倒せばいい、どうヤッテ?知るモンか、とにかく殺せばイイ、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス…

 

 

 

 

 

「コロス!」

 

 

 

三日月は主砲を構えて最大速力で敵艦に突撃する、スピードを上げすぎて艤装が悲鳴を上げるが構いはしない。

 

 

戦艦棲艦や空母棲艦が砲撃や空撃を飛ばしてくるが、それを間一髪のタイミングでかわす、途中で右の耳が抉れてしまったが気にしない、まだもうヒトツ残っテルからネ。

 

 

三日月は戦艦棲艦の身体に肉薄し、そのまま飛び乗って肩に着地する、そして…

 

 

「シネ」

 

 

 

 

戦艦棲艦の口に主砲を突っ込み、頭部ごと吹き飛ばした。

 

 

 

「きゃはははははははhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!」

 

 

 

 

それからは文字通りの地獄絵図だった、敵艦の頭を潰し、ハラワタを引き裂き、肉を喰い千切り、狂った艦娘はその欲望のままに行動する。

 

 

「コロス…コロス…コロス…」

 

 

三日月はニタァ…と不気味な笑みを浮かべながら残りの敵艦に近づいていく、すでに三日月は左手を失い右の脇腹には大穴を空けているが、尚も止まることはない。

 

 

「コロス……コロ……ス………コ………………ロ……………………」

 

 

しかしこれだけのダメージを受けて生きていられるわけもなく、とうとう三日月は活動限界を迎えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ア……アァ……」

 

 

 

その身体はどんどんと海中へと沈み込んでいく、その時ヨークタウン含む支援艦隊がやって来るのが見えたが一足遅かった、ヨークタウンは絶望的な顔でこちらに近づいて手を伸ばしたが、それより早く体全体が海の中へと吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官……支援艦隊が来るまで、耐え抜いて見せました、ですが申し訳ありません……あなたのもとへは……帰れそうにありません…………

 

 

 

 

 

 

三日月はそのまま水底に吸い込まれ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、第3艦隊の奮闘により巨人の剛腕(タイタン・アームズ)の敵艦隊を撃破する事に成功した。

 

 

 

「こちらヨークタウン、敵艦隊の撃破に成功しました、ですが……別動隊の救助に失敗…轟沈してしまいました…」

 

 

ヨークタウンは泣きじゃくりながら報告の通信を入れた。




轟沈シーンは自分のイメージで書いたので普通に戦死するような感じになってしまいました。


あとヨークタウンの容姿に関する描写が全くなくてすみません(汗

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