艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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今回は少し短めです。

イケメンな海原をいつか書いてみたいなぁ。


第42話「三日月の場合27」

ヨークタウンの報告を聞いた海原は放心状態で力なく椅子に崩れ落ちた、三日月たちが轟沈()んだ、その現実は海原にとって何よりも重くのし掛かる。

 

 

「…元帥、第1艦隊、第2艦隊から報告です、敵主力艦隊の撃破に成功したとの事で…」

 

 

奥村がその中で申しわけなさそうに南雲に報告する。

 

 

 

「分かった、第1艦隊、第2艦隊は帰投し次第入居するように伝えてくれ、第3艦隊も帰投するように指示を」

 

 

南雲は淡々と部下たちに指示を出す、たった今艦娘が轟沈したとは思えない落ち着きぶりだ。

 

 

「…いつまでそうして腐っている、艦娘の帰投準備に入るぞ、早く動かんか」

 

 

南雲はいまだ放心状態の海原をたしなめる。

 

 

「…はい」

 

 

悲しむのは後からでも出来る、とりあえず今は、動くか…。

 

 

何かしら働いて気を紛らわせないと、自分が壊れてしまいそうだった。

 

 

 

 

それから1時間後、第1から第3艦隊が全て帰投した、大本営に併設されたドックやら補給施設やらは帰投した18体の艦娘の世話ですったもんだしていた。

 

 

「ふぅ、ようやく一息つける」

 

 

あらかたの作業の手伝いが終わった海原は休憩がてら大本営の中庭を訪れる、気付けば夜になっていて辺りは静かだった。

 

 

「ん?」

 

 

すると、中庭に設置されているベンチに艦娘が座っていることに気づく。

 

 

腰まで届く長い銀色の髪に黒い軍服を着ている、正規空母のヨークタウンだ。

 

 

(たしか三日月たちを助けるために色々頑張ってくれてたんだよな)

 

 

お礼を言っておかないとな、と思っていたので海原はヨークタウンへ近付く。

 

 

「こんばんは」

 

 

海原が声をかけるとヨークタウンがこちらを向く、すらりと整った顔立ちをしており“美人”の部類に入るだろうが、その目は泣きはらしたのか赤く腫れぼったくなっている。

 

 

「っ!失礼しました!お疲れさまです!」

 

 

ヨークタウンは海原が司令官と分かると勢いよく立ち上がって敬礼する。

 

 

「いやいや、かしこまらなくていいよ、座って座って」

 

 

海原の言葉にヨークタウンはすみません…と申しわけなさそうに言うと再びベンチへ腰を下ろす、隣いい?と海原が聞くとヨークタウンは頷いたので海原も座る。

 

「今日は色々頑張ってくれたみたいだな、お疲れさん」

 

 

「…いえ、私は何も…出来ませんでした…」

 

 

ヨークタウンは俯きながら掠れるような声で言った、今日のことを気にしてるようだ。

 

 

「そんなこと無いさ、お前たち艦娘のおかげで敵主力艦隊を撃破出来たんだ、それは誇れる事だぜ」

 

 

「……」

 

 

海原がそう言うと、ヨークタウンは声を押し殺して泣き始めた、何か気に障ることを言っただろうか?。

 

 

「…違うんです…!私が、私がもっと早くたどり着けていれば…!あの子たちは…!」

 

 

「…例の別動隊の事か?」

 

 

ヨークタウンはコクリと頷いた。

 

 

(その艦娘が俺の部下って言ったら変に責任感じさせちまうかな…)

 

 

ヨークタウンの様子を見て海原は迷う、ここで彼女の責任感を煽るようなマネをしていいものか…と。

 

 

(いや、ここはハッキリ伝えた方がいいよな…)

 

彼女をいつまでも悲しませていてはいけない、海原はそう強く思った。

 

 

 

「…ヨークタウン」

 

 

「はい?」

 

 

海原はスッとベンチから立ち上がるとヨークタウンの前に立つ、怪訝そうな顔をしているが、それに構わず海原は頭を下げる。

 

 

「ありがとう、俺の部下の…仲間のことをそこまで思ってくれて」

 

 

「…へっ?俺の…?」

 

 

それを聞いてヨークタウンは察した、あのとき自分が助けられなかった艦娘は、この人の部下なのだと。

 

 

「あの艦娘は俺の所属する室蘭鎮守府の艦娘なんだ、今日はあいつらのために頑張ってくれてありがとう」

 

 

そういうと海原はもう一度頭を下げた、それを見たヨークタウンは再びボロボロと涙を流す。

 

 

「申し訳ありません…!私の、私のせいであなたの部下を…轟沈(ころ)してしまいました、本当に申し訳ありません!」

 

 

そう言うヨークタウンはどこか怯えたような目をしていた、海原に糾弾されると思っているのだろうか?もっとも海原にそんな気は毛頭無いが。

 

 

「何を言うんだ、お前が責任を感じる必要は全くないし、俺もお前を責めるつもりは全くない、むしろ俺の部下のために涙を流してくれる事に感謝してるくらいだ」

 

 

海原はそう言ってヨークタウンの頭を撫でる、これはよく三日月たちにしていた事なのだが、少し馴れ馴れしかっただろうか…。

 

 

「…ありがとう、ありがとうございます…!」

 

 

しかしヨークタウンは嫌がる様子は見せず、そのまま海原に撫でられながら涙を流していた。

 

 

(こんなに悲しんでくれるやつがいるんだから、あいつらは幸せ者だな)

 

 

もし生きていたら見せてやりたかったな、そんな事を考えながら彼女の頭を撫でていた。

 

 

 

 

「見苦しい所を見せてしまってすみません、それと、ありがとうございます」

 

 

その5分後、落ち着いたヨークタウンが顔を赤らめて海原に頭を下げた。

 

 

「気にすんなって、でも、今回の事でお前たち第3艦隊が責任を感じる必要は本当にない、むしろ艦娘として敵艦を倒す任務を全うできたことを誇りに思え、もし第3艦隊の中で責任を感じている艦娘がいたら、そう言ってやってくれ」

 

 

「…あなたは優しいんですね、ついつい甘えてしまいそうです」

 

 

「なんならいつでも甘えに来ていいぞ、俺が究極の癒やしを提供してやる」

 

 

「ふふっ、それは是非ともお願いしたいですね」

 

 

海原の冗談混じりの言葉にヨークタウンはクスクスと笑う。

 

 

「では私はこれで、本当にありがとうございました」

 

 

「あぁ、元気出していけよ!」

 

 

海原はヨークタウンが本館に入っていくまでその後ろ姿を見ていた。

 

 

「…さてと、あいつらがいなくなったのは悲しいけど、あんなに悲しんでくれるやつだっているんだ、俺も前に進まないとな」

 

 

そう言って自分の頬をパチッと叩くと、海原も本館へ戻っていく。




次回か次々回で過去編は終わる予定です。

ぶっちゃけここまで読んで吹雪たちの事忘れてる人いそうだなぁ…

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