艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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少し駆け足かもしれませんが三日月編完結です。

次回はどんな艦娘が出るでしょうか…



第50話「三日月の場合35」

吹雪たちは突然現れた瑞鶴を見て固まっていた、いつの間に後を付けられていたのだろうか?後ろを確認しながら小屋に向かったはずなのに全く気づかなかった。

 

 

「こっそりこんな所に来るもんだから猫でも拾ってきたのかと思ったけど、それを見る限りじゃ違うみたいね」

 

 

そう言って瑞鶴は三日月を、特に左腕の部分を見る。

 

 

「そんな険しい顔しなくても他言する気は無いわよ、何か訳ありなんでしょ?あんたたちの様子を見れば分かるわ」

 

 

 

瑞鶴は吹雪たちの事を糾弾するわけでもなく、ただそう言うだけだった。

 

 

「瑞鶴さん…」

 

 

「良かったら瑞鶴に聞かせてよ、力になれるかもしれないわ」

 

 

瑞鶴の言葉を聞いて、吹雪はなんて優しい艦娘なんだろうと感動していた、普通なら怪しむはずなのに、何も言わずに聞いてくれる。

 

 

「…実は…」

 

 

瑞鶴の事は信頼しているし、大丈夫だろうと思った吹雪は三日月の事、そして自分たちの一部の事をかいつまみながら話した。

 

 

「…なるほどね、深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)…そんな事があるなんて驚きだわ」

 

 

瑞鶴は吹雪のとなりで話を聞いていたが、それほど驚いているようには見えなかった。

 

 

 

「言う割にはそんなに驚いてないみたいですけど…」

 

 

「まぁ、吹雪と暁を見たらちょっと納得しちゃったからね、いくら近接兵装使ってるって言ってもあんたたち強すぎるし」

 

 

「あはは…やっぱり…」

 

 

やはり自分たちのオーバースペックはばれていたらしい。

 

 

「でも驚いてるのは本当よ、そんな事があるなんて聞いたこともないし、なにより艦娘が深海棲艦になるなんて…少しショックかな」

 

 

「ショック…ですか?」

 

 

「だって、今まで敵として戦ってた深海棲艦が実は仲間の艦娘かも…なんて考えたら、とても戦えないわよ」

 

 

瑞鶴は悲しそうな顔で俯いた、艦娘か深海棲艦かの違いが分かる吹雪たちとは違い、瑞鶴は深海棲艦はみんな深海棲艦としか認識出来ないし、“面影”も見えなければ声も聞こえない、そんな中でかつての仲間かもしれない深海棲艦と戦うのはとても辛い経験になるだろう。

 

 

「瑞鶴さんは気にしなくてもいいと思いますよ、艦娘だったとしても、今は敵である深海棲艦なんですから、普通に敵として倒せばいいんですよ」

 

 

「…そう言う吹雪は、辛くないの?」

 

 

「私…ですか?」

 

 

「うん、台場の艦娘だけだったらいいとしても、今後今回みたいな大規模作戦が行われて連合艦隊を組んだとき、深海棲艦化した艦娘と遭遇しても思うように助けられないんだよ?」

 

 

瑞鶴が吹雪に問いかけたことは、吹雪に限らず台場鎮守府のメンバー全員が懸念していた事だった、今回の三日月の場合はたまたま無人島にいたこともあってこっそり助けることが出来た(瑞鶴には見つかったが)、しかし今後瑞鶴の言ったような状況になる事も大いにありえる。

 

 

「…もしそうなったらそれは確かに辛いです、でも…それでも助けたいです、方法はまだ分からないですけど、絶対に助けます」

 

 

吹雪の真っ直ぐな目を見て、瑞鶴はどこか納得したような顔をする。

 

 

「…うん、その意思の強さがあったら、この先どんな事があっても乗り越えていけるよ」

 

 

瑞鶴は微笑みながら吹雪に言った。

 

 

 

「…ありがとうございます、少しスッキリしました」

 

 

 

「お礼なら瑞鶴だけじゃなくて、みんなにも言ってあげたら?」

 

 

 

そう言って瑞鶴は小屋のドアの方を見る。

 

 

「へ?」

 

 

瑞鶴に釣られてドアの方を見ると、ローマ達が戸の陰に隠れてこちらを見ていた。

 

 

「み、皆さんいつの間に!?」

 

 

「いつって、最初から」

 

「瑞鶴がどうしても後を付けてみようってうるさかったから何となく…」

 

 

 

「そうしたらなんか面白そうな話が聞けて…」

 

 

「全部聞かれてんじゃん!」

 

 

吹雪は赤面しながら頭を抱えた。

 

 

「全然気づかなかったわ…」

 

 

「そうですか?私は何となく気づきましたけど…」

 

 

暁も驚いた顔をしたが、三日月は気づいていたようで、特に驚いてはいなかった。

 

 

「安心しろよ、今の話の内容は絶対に他言しないって約束するぜ」

 

 

摩耶はニカッと笑って言う。

 

 

「私も摩耶と同意見です、今見たことは誰にも言いません」

 

 

「むしろ自分たちの秘密を探すなんて、立派な目的だと思うわ」

 

 

加賀とローマも摩耶に同意し、他言しないと約束してくれた。

 

 

「…みなさん、ありがとうございます」

 

 

「お礼なんかいいって、こういう時に助け合うのが仲間ってモンだろ?」

 

 

お礼を言う三日月に摩耶はそう笑って返す。

 

 

持つべきものは友達だ、この言葉はまさにこのためにあるのだと、吹雪は改めて思った。

 

 

 

 

次の日、集まった連合艦隊が大本営に帰投する日がやってきた、帰りも行きと同じく等間隔に時間を空けて航行する。

 

 

第4艦隊は今回も一番最後に出発する、しかし今度は行きとは少し違うことがある。

 

 

「本当に私も入って良かったんでしょうか…?」

 

 

「いいに決まってるじゃない、どーせ帰るまでは瑞鶴たちだけなんだから」

 

 

「そういう楽観的な考えが慢心に繋がるのよ、特に戦闘ではやめなさいね」

 

 

「分かってますよ加賀先輩」

 

 

瑞鶴は小さく舌を出して謝る、その様子を見て加賀はまったくもう…とため息をこぼした、帰りの航海は三日月も加わっているのだ。

 

 

「今回は敵艦に会うことなく帰りたいぜ、行きは戦闘挟んだせいでめちゃくちゃ時間掛かったからな」

 

 

「そうね、少しだけスピード上げた方がいいかもね」

 

 

そう言って第4艦隊は航行速度を少し速める、また行きの時のように敵艦に遭遇して遅れる…なんて事になるのはごめんだ。

 

 

しかしそんな心配は杞憂に終わり、敵艦と遭遇することなく大本営まで帰る事ができた。

 

 

「今回の作戦の成果は室蘭の提督から聞いている、本当にご苦労だった」

 

 

南雲は帰投した艦娘をグラウンドに集めると開口一番に労いの言葉をかける。

 

 

「(吹雪さん、あいつぶっ殺してきていい?)」

 

 

「(殺れと言いたいし私も混ざりたいところだけど、司令官に迷惑がかかるかもしれないから我慢ね)」

 

 

はーい…と暁は心の底から残念そうな声を出す、目の前にいる男が海原を嵌めた、それだけで南雲に対する殺意がどんどん沸き上がってくる、ちなみに三日月には大本営の外にある公衆トイレの中に隠れてもらっている。

 

 

南雲の話が終わると今回の大規模作戦は終了、解散となり、艦娘たちはそれぞれの鎮守府へと帰って行く。

 

 

「じゃあね吹雪、暁、また会うことがあったらよろしく」

 

 

「提督の許可が下りたら遊びに行くぜ」

 

 

「三日月にもよろしくお伝えください」

 

 

「気をつけて帰ってね」

 

 

瑞鶴たちと別れの挨拶を済ませた吹雪と暁は大本営を出て三日月と合流する。

 

 

「よっ、終わったみたいだな」

 

 

電車に乗るために駅へ向かおうとしたが、海原が突然声をかけてきた、よく見ると大本営前の路肩に車を止めている。

 

 

「司令官!?」

 

 

「何でここにいるのよ!?」

 

 

「早くお前たちに会いたくて車を飛ばして来ちまった」

 

 

驚愕する吹雪たちに海原は何の悪びれもなく答える。

 

 

「…司令官」

 

 

すると、吹雪の後ろにいた三日月が前へ出る、ずっと会いたいと思っていた司令官(おや)に、ようやく会うことが出来た。

 

 

「お帰り、三日月」

 

 

そう言って海原は三日月の頭を撫でる。

 

 

「はい!ただいまです!司令官!」

 

 

三日月はうれし涙を流しながら敬礼する。

 

 

 

「…良かったわね」

 

 

「…うん」

 

 

吹雪も暁も、その様子を満足そうな顔で見ていた。

 

 

 

 

 

「改めまして、睦月型駆逐艦10番艦の三日月です、どうぞこれからよろしくお願いします」

 

台場鎮守府に戻った後、三日月は提督室で改めて着任の挨拶をする。

 

 

「おう、またよろしくな」

 

 

「はい!また司令官のお役に立てるなんて、本当に夢のようです!」

 

 

「いい子だなぁ…」

 

 

「いい子よねぇ…」

 

 

「いい子ですねぇ…」

 

 

吹雪たちは嬉しそうに敬礼する三日月を見てほんわかとした気分になった、我が鎮守府の癒し系になりそうだ、などと吹雪が考えていると…

 

 

「と言うわけで吹雪さん、私にも深海棲器を選ばせてください、出来ればあの南雲(ジジイ)をブチ殺せそうなやつを」

 

 

「………」

 

 

前言撤回、癒し系になるのはもう少し先の話になりそうだ。

 

 

 

 

挨拶が終わると三日月は武器庫で深海棲器の吟味を始める。

 

 

「じゃあ、これとこれとこれとこれにします」

 

 

三日月が選択した深海棲器は4つ。

 

 

1つ目は斧の杖先が槍のようになっている『槍斧(ハルバード)』、突いて良し、切って良しの優秀な深海棲器だ。

 

 

2つ目は『戦輪(チャクラム)』、本来は投擲用の武器であるが、これは中央部分に持ち手が付いていて剣のような感覚で使える変わったタイプの物だ、しかし剣とは違いどんな体勢でも敵を斬る事が出来るのである程度の利便性もある。

 

 

3つ目は『星球鎚矛(モーニングスター)』、棒の先端に球体が付いており、そこから鋭いトゲがびっしり取り付けられている、暁の棘棍棒(メイス)と似ているがこちらは先端部分にしかトゲが無いのが特徴だ。

 

 

そして4つ目は『騎兵軍刀(サーベル)』、吹雪から借りた太刀の使い心地が良かったらしく、それに似た形状の深海棲器をチョイスした。

 

 

「クセのありそうな武器ばかり選んだね…」

 

 

 

「そうですか?剣よりも使いやすいですよ」

 

 

そう言って三日月は槍斧(ハルバード)を構える。

 

 

 

「それに、あの南雲(ジジイ)にこれの一撃を浴びせたらどんな声で鳴くのかを想像しただけで興奮…」

 

 

 

「はいストップ!それ以上は止めておこうか!」

 

 

何だか物騒な事を口走り始めたので慌てて止める。

 

 

「…とりあえず三日月はしばらく練度向上訓練(レベリング)かな、私が特訓に付き合うから一緒に頑張ろうね」

 

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

吹雪のその言葉を聞いて暁は顔をひきつらせる、あの地獄の訓練をこれから三日月がする事になる…そう考えただけで三日月が気の毒になってきた。

 

 

(三日月…とりあえず死なないで)

 

 

暁は心の中でそう祈りながら合掌していた。

 

 

 

「も、もう許してくださいいいいいいぃぃぃ!!!!!!」

 

 

それからしばらくの間、鎮守府に三日月の悲鳴が聞こえるようになったのは言うまでもない。




次回はDSFの艦娘設定が少し明らかになるかもしれません。

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