艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
…え?やっぱりありきたりだって?こまけぇこたぁいいんだよ!
でもあの子であってあの子じゃないって地味に切ないですよね。
横須賀に納品する艦娘の建造が終了した、あとは目覚めてから横須賀に寄越すだけなのだが、その前に一つやることがある。
「名前はどうするんだ?」
「そうですねぇ…何がいいかな」
今川はタブレットの艦船リストを見ながら吟味する、する事とは艦娘に名前を付ける作業だ。
ちなみに艦娘を建造する場合、同じ名前の艦娘は複数体存在させない、という造船所のルールがある、もちろん艦娘の名前はただの設定なので同名の艦娘は何体でも存在出来るのだが、名前を呼ぶときに紛らわしいからという理由でそうなっている。
そのため一度付けられた名前はリストにチェックが入れられダブらないようになっている、なおこのルールは
「駆逐艦でまだ使われてない艦娘…」
今川はリストを見ながら呟く、駆逐艦はどこぞのブラック鎮守府のせいで轟沈しやすい艦種なのでリストのチェックの入れ替わりが激しい、責任者の今川でも把握しきれていない部分があるほどだ。
「…あ、この名前はまだだな」
そう言うと今川はタブレットに艦娘の名前を入力していく。
「睦月型駆逐艦3番艦『弥生』、それがお前の名前だ」
今川が名前を入力し終えると、タブレットに繋がっている電極のようなモノを頭に付ける、これは名前などの艦娘の情報を艦娘の脳に刷り込むためのモノだ、一種の洗脳装置と言っても過言ではないだろう。
名付け作業が終わると、すぐに弥生はパチリと目を開けてスッと立ち上がる。
「…はじめまして、私は睦月型駆逐艦…」
そこまで言い掛けたとき、弥生の右腕が落ちた、比喩でもなんでもなく、ナイフで切ったバターのようにするりと落ちた。
続いて左腕、右目と弥生の身体が溶けるようにドロドロと流れ落ちていき、最終的にはヒトの原型を留められずスライムのようになってしまった。
「…建造失敗だな」
「やり直しですね…」
今川ははぁ…とため息をつく、このように建造されても形成が上手くいかず体組織が崩壊してしまうことがある、これは“失敗”として扱われ、建造はやり直しになる。
ちなみに失敗といっても今回の弥生のように全身が崩壊してしまう事もあれば、腕などのパーツの一部のみが欠損するだけの場合もあったりとわりとピンキリだ、どちらにせよ解体処分されるのだが、後者は捨て艦用の艦娘として使うために一部の鎮守府がこっそり引き取っている場合もある。
「そうだ、この間建造した雪風と秋月とリベッチオはどんな様子だ?」
「はい、雪風と秋月は現在佐世保鎮守府へ送る手続きをしていて、リベッチオは艤装の開発が9割方完了しています」
「そうか、雪風たちの様子を見てもいいか?」
「分かりました、こちらへどうぞ」
今川の案内で榊原は建造室を後にする。
◇
榊原と今川は各鎮守府から送られてくる建造データを管理する中央管理室に移動する。
「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です!どうぞよろしくお願いします!」
そう元気よく挨拶するのは陽炎型駆逐艦8番艦の雪風、栗色のショートヘアーに白いセーラーワンピのような服を来ている。
「秋月型駆逐艦1番艦の秋月です!」
2体目は秋月型駆逐艦1番艦の秋月、セミロングの黒髪をポニーテールにした背の少し高い艦娘だ。
この2体には鎮守府へ送られるまでの間ここの仕事を手伝ってもらっている。
「リベッチオは?」
「個体の最終調整に入っています、明日には終わる算段ですよ」
「そうか、わかった」
「そう言えば、雪風と秋月って前にも建造されたことがありましたよね」
そう言って雪風たちを見るのは建造部唯一の女性職員である
「あぁ、そう言えばそうだったな、室蘭鎮守府に送ったけど、大規模作戦中に不慮の事故で轟沈したって大本営が…」
今川は当時を思い出しながら言う。
「それにしても前の雪風や秋月とは全然姿が違いますよね、たしか前の雪風は髪が白くておどおどした子じゃありませんでした?」
「姿が違うのは当たり前だよ、艦娘は人工生命だが素体は人間の遺伝子を使ってるんだ、同じ名前の艦娘は存在できても、同じ姿の艦娘は二度と建造出来ないから存在することは出来ないよ」
榊原はどこか懐かしむような目をして雪風たちを見る、たとえ同じ名前だったとしても、その姿や人格、記憶などは全くの別人なのだ、人間も同姓や同名でもその性別や人格や記憶は全く別物になるのと同じ事である、自分が知っている名前なのに相手は自分を全く知らない別人、同じ名前なのに…あの子じゃない、それが榊原に一種の寂しさを感じさせるのだ。
「…あの、どうしました?」
榊原の心中を察したのか、雪風が不安げな顔でこちらを見上げている。
「大丈夫だよ、ありがとう」
榊原はそう優しく言うと、雪風の栗色の髪を撫でる。
◇
次に榊原がやってきたのは解体室、読んで時の如く艦娘の解体を行う部屋だ。
よく漫画やアニメなどで出てくる、ガラス越しに対象を観察する実験施設のような造りをしている。
「誰か解体するのか?」
榊原が声をかけたのは解体部責任者の
「はい、あの艦娘です」
野坂がガラスの向こう側を指さすと、1体の駆逐艦の艦娘が裸で立っていた、睦月型駆逐艦7番艦の文月だ、全ての感情が無くなってしまったかのように虚ろな目をしている。
「横須賀のバカがまたやらかしたんだよ、そのせいで心を壊した結果提督を殺しかけたって…」
「…またあいつか」
榊原は忌々しげに舌打ちをする、横須賀の素行の悪さは造船所内でも有名だった、明らかに人権を無視した艦娘の扱いで何度傷ついた艦娘を見てきたか分からない、国や警察に取り締まるよう何度も申告したが、“艦娘は人間ではないので基本的人権の尊重の例外にある、よって取締る必要も法律を作る必要もない”という理由でつっぱねられてしまっている。
「…すまないな、こんな役を押しつけてしまって」
榊原は野坂に頭を下げる、いくら艦娘が人の形をしたヒトではないモノであったとしても、傷つき悲しむ彼女たちを見るのは辛いものだ、野坂にそんな役をやらせてしまっていることを榊原はいつも申し訳ないと思っている。
「気にしないでくださいよ榊原所長、どうせ誰かがやらなきゃいけない事なんです、所長が我々にそう思ってくれているだけでも救われるってもんです」
野坂は笑いながら言うと、文月解体の準備を進める。
「…解体、開始」
野坂は解体装置のボタンを震える指先で押す、これをやるのは一度や二度ではないが、何度やってもこれだけは慣れない。
ボタンが押されると天井から薄緑色のドロッとした液体が降ってきて、文月の頭にかかる、すると…
「…えっ!?何これ!あたしの身体が…!いやああぁぁぁ!!!!!!助けてえええぇぇぇぇ!!!!!!!!」
先ほど建造失敗した弥生と同じように身体がドロドロと溶けていき、最終的にスライムのような物体になってしまった、この液体は“高速解体材”と言い、生成器に入っていた液体と似た成分のモノだ、人間が触れても無害だが、艦娘が触れると即座に細胞や体組織が分解されてしまう。
「解体完了、処理班は速やかに残骸を回収、破棄するように」
野坂は部下たちに事務的に伝えると、踵を返して解体室から立ち去ろうとする。
「…野坂、近所に美味い店が出来たんだ、今夜一緒にどうだ?」
「…はい、ご一緒させていただきます」
罪もない艦娘の命を奪ってしまった悲しみで涙を流す野坂に、榊原は優しく肩を叩いて言った。
多分次回か次次回辺りで台場パートに戻ります。