艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「どこ触ってるんですか!もう!」のモーションが特にたまりません。
暁もなかなかいいですよ、「司令官、ごきげんようです」と「本日はお日柄も良く…なのです」が特にいいっす。
それから3日後、摩耶たちが台場鎮守府にやってきた。
「よっ、摩耶様ご一行の到着だぜ!」
「おひさしぶりです摩耶さん!」
「あんた腹の肉増えたんじゃない?」
「その節はお世話になりました」
吹雪、暁、そして作戦中に助けられたら三日月がそれぞれ挨拶する。
「はじめまして、台場鎮守府所属の潜水艦伊8です、気軽にハチとお呼びください」
摩耶とは初対面だったハチがぺこりと挨拶をする。
「おう、よろしくなハチ、それで、お前が腰に下げてるのはやっぱり深海棲器か…?」
摩耶がそう言って指差すのはハチの右腿に付けられているホルスターに入った拳銃と、左の腰に帯刀されている2本の小太刀だ。
「はい、やはり魚雷だけでは心許ないので」
「拳銃は分かるとして、小太刀はリーチが短いんじゃないか?」
「そうでもないですよ?、敵艦の肉を削ぎ落としたり、目玉を抉りとったりするのに重宝します」
(…艦娘って
こともなげにそんな事を言うハチを見てそう思わずにはいられない摩耶だった。
◇
「はじめまして、金剛型戦艦1番艦の金剛と申します、この度はお招きいただきありがとうございます」
そう柔らかな物腰で海原に挨拶をするのは金剛型戦艦1番艦の金剛、色素の薄いプラチナブロンドの長い髪を揺らし、チェーンメイルとラメラーアーマーを身に纏った艦娘だ、その風貌から中世ヨーロッパの騎士を連想させる。
「いやいや、こっちこそこんなクソ暑い中遠いところからありがとう、冷たい飲み物を用意してあるからすぐに提督室に案内するよ」
「まぁ!それはありがとうございます!」
金剛は両手を合わせて嬉しそうに微笑む、大人らしい落ち着いた雰囲気の女性かと思いきや、子供っぽい無邪気な一面もあるらしい。
(暁もこれくらい出来ればレディなんだけどな)
海原はそんな事を思いながら金剛のそばにいる艦娘を見る。
「…島風型駆逐艦1番艦の島風です」
島風は俯きながら元気のない声で海原に挨拶する、濃紺色の半袖ブレザーとスカートを穿いた艦娘で、金剛よりも少し濃いめの長い金髪に黒いカチューシャをつけている。
「ようこそ台場鎮守府へ」
海原は少し屈んで島風に目線を合わせて挨拶するが、島風は目を合わせようとしない。
「ごめんなさい、島風ったら、マックスが轟沈してからずっとこんな感じで…」
金剛が申し訳無さそうに頭を下げる、やはりマックスの轟沈は島風と関係があるらしい、それも精神的に追い詰められるほどの何かが…。
「いや、大丈夫だよ、それじゃあ提督室に…」
そう言って海原が呉組を案内しようとしたとき、島風が唐突に口を開く。
「…マックスに会えるって、本当?」
そう言う島風の声は感情を感じさせるようなモノではなかったが、海原を見つめる目は真剣そのものだった。
「あぁ、会えるかどうかはマックス次第だから確約は出来ないが、可能性は十分にある」
「…そう」
海原がそう答えると、島風はまた無表情に戻ってしまった。
「さて、じゃあ提督室に行こう」
海原は金剛たちを連れて鎮守府へ入っていく。
「………………」
「………………」
そんな中、吹雪と三日月は金剛の後ろ姿をじっと見ていた。
◇
海原は呉組を提督室に通すと、吹雪にアイスコーヒーを振る舞わせる。
「わざわざありがとうございます」
「いえ、こんな無茶な計画に協力してくれてるんですから、これくらいは」
アイスコーヒーを淹れながら吹雪が言う。
「…あの?」
吹雪がいつまでも自分の顔を見ていたので金剛が首を傾げる。
「あっ、すみません、何でもないです!」
吹雪は慌てたようにその場を離れる。
「それじゃあ、早速で悪いがマックスについて少し話を聞かせてもらいたい」
大まかな作戦内容は摩耶から聞いていたので金剛はコクリと頷く。
「はい、簡単に説明しますと…」
「…金剛さん、私から話すよ」
金剛が代理で説明しようとしたが、島風がそれを遮った。
「いいの?」
「うん、これは…私の罪だから」
島風はそう言うと、ゆっくりと語り始めた。
◇
マックス・シュルツは呉鎮守府に所属している駆逐艦だ、主に遠征任務に従事しており出撃にはあまり出ないような艦娘であったが、それでも練度は遠征部隊の中でもかなり高い方に入っていた。
「マックス、今日の遠征は大活躍だったんだって?阿武隈から聞いたわよ」
「そんな、私は特に何も…」
「謙遜しなくてもいいわよ、あなたのおかげで資材をたくさん獲得できて提督がお喜びだって言ってたもの」
金剛が嬉しそうに言うとマックスは恥ずかしそうに
「でも戦闘訓練を監督して思ったんだけど、マックスって砲撃精度も魚雷の扱いも水準以上の実力を持ってるわよね、出撃部隊に入っても十分やっていけると思うわよ」
「それは無理ですよ、だって…」
「私より遅いのに、そんなの無理に決まってるでしょ!」
すると、ベッドで雑誌を読んでいた島風が会話に割り込んでくる、マックスが出撃部隊に入るのは無理だと言っているのは、この島風がいるからだ。
現在出撃部隊の主戦力を担っている島風は建造当初から速力がとても速い艦娘だった、だから当時駆逐艦の中で最も速いとされていた“島風”の名を付けられた、島風自身はそれを誇りに思っており、同時にプライドでもあった。
「島風、そんな言い方はしちゃダメだっていつも言ってるじゃない、艦娘は速さだけじゃないのよ?」
金剛は島風の発言を咎めるように言う、島風とマックスは出会った当時からあまり馬が合わなかった、いや、合わないと言うよりは島風が一方的にマックスをライバル視している、と言う方が正しいだろうか。
「そんな事ない!速い方が敵の致命的な一撃をかわしやすくなるし、敵の照準を
島風はまるでマックスに対抗するかのように言う、当時の戦闘訓練を見て分かったが、マックスの戦闘技術はずば抜けていた、速力は島風に大きく劣っていたが、それを補っても余りあるほどの砲撃の射撃能力と雷撃の魚雷操作能力に長けていた。
島風自身も戦闘能力は出撃部隊に選ばれるほどのモノを持っていたが、島風のそれなどあっという間に追い越してしまうくらいに高かった。
つまりは、自分より遅いくせに戦闘技術に長けているマックスに島風は嫉妬していたのだ、おまけにマックス自身はその戦闘技術に対して
(私より遅いマックスなんて認めないんだから!明日のアレで身の程ってモンを分からせてやる!)
島風はマックスに対抗心を燃やしながらあることを計画していた。
…もっとも、その計画のせいであの悲劇が起こるなんて事は、この時彼女は夢にも思っていなかった。
艦娘図鑑で島風は当時40ノット出せたって言っていたので調べてみたら40ノットは時速で換算すると70kmくらいらしいです。
あのデカい鉄の塊が自動車の法定速度より速いスピードで海の上を進んでるって考えると確かに速いですね。