艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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はっちゃん編はこれにて終了です。


マジではっちゃん来てくれませんかねぇ…


第6話「伊8の場合3」

「…えっ!?会話ですか!!?」

 

 

吹雪は驚いてつい声を大きくしてしまった。

 

 

『向こうの声が分かるならこっちから語りかけるのはそう難しくない、とりあえずやってみろ』

 

 

「簡単に言いますね司令官…」

 

 

吹雪は呆れつつも目の前の伊8に向かって声をかける。

 

 

「あの…伊8さん」

 

 

『…えっ!?』

 

 

すると、伊8は意外にもこちらの呼びかけに素直に反応してくれた、正直言って拍子抜けである。

 

 

『…あなた、私が分かるんですか…?』

 

 

今度は伊8が吹雪に語りかける、頭の中に声が直接響いてくるような…変な感じだ。

 

 

「はい、私は吹雪型駆逐艦の一番艦吹雪と言います、巡潜3型2番艦伊8さんですね?」

 

 

吹雪がそう訪ねると伊8はコクリと頷き、声を殺して涙を流した。

 

 

『…良かった、やっと私の声が届く人に会えた…』

 

 

その様子を見て吹雪は多少の罪悪感を感じる、今から自分はこの娘に残酷な事実を伝えなければいけない、そう考えただけで胸が締め付けられるようだ。

 

 

『ねぇ助けて!私、他の艦娘から狙われてるの、まだ沈んでないのに、ちゃんと艦娘なのに、みんなが私に砲を向けてくるの…』

 

 

「伊8さん」

 

 

耐えられない、これ以上聞いていたら自分は伊8に真実を伝えることは出来ない、吹雪は自分の心に鞭打って必死に口を動かす。

 

 

『単刀直入に言います、あなたは轟沈(しず)んだんです、もう深海棲艦になってしまっているんですよ』

 

 

 

 

『…えっ…?』

 

 

 

それを告げられた伊8は絶望的な表情(かお)をする。

 

 

『そんなハズない…!私は伊8、ちゃんとした艦娘…』

 

 

「下を向いて、自分を見てみたらどうですか?」

 

 

『えっ…?』

 

 

吹雪に言われて伊8は下を向いて海面を覗き込み、水面に映る自分の姿を見る。

 

 

『…そんな…私、もう…』

 

 

深海棲艦となってしまった自身を見て、伊8はポロポロと涙を流し、両手で顔を覆う。

 

「…………」

 

 

吹雪は無言で武装をナギナタから主砲に切り替え、伊8に向けて照準を合わせる。

 

 

『…いいのか?吹雪』

 

 

「…どうせ助からないんです、ならいっそここで楽にしてあげるのが救いってモンですよ」

 

 

口ではそう言うが、本当は胸が張り裂けそうだった、深海棲艦になってずっとひとりでさまよい続けている彼女を轟沈(しず)めてしまうのはとても辛い決断だ。

 

 

それ故に、吹雪は主砲を構えたが引き金を引けずにいた、撃とうとする度に手元が震えて照準がズレてしまい撃つことができない。

 

 

『吹雪さん、もう…私を轟沈(しず)めて下さい』

 

 

 

「っ!?」

 

 

突然伊8からそんな事を言われ、吹雪はビクッと身体を震わせる。

 

 

『私はもう深海棲艦…吹雪さんの敵です、みんなのところにも帰れないし誰とも話すことが出来ない、だったらここであなたに轟沈(しず)められたい…』

 

 

伊8の言葉を聞く度に吹雪の手の震えは大きくなっていく、手元からはカチャカチャと軽い金属音が鳴り、最早撃つどころではない。

 

 

『最期にあなたと話せて良かった、もう未練はありません、撃って下さい』

 

 

 

そう言う伊8の顔はとても満足げで、やり切ったと言わんばかりの笑顔だった。

 

 

「…では、安らかにお眠り下さい」

 

 

吹雪は震える手を何とか抑えると引き金を引こうとする、すると…

 

 

「っ!?これは…!?」

 

 

伊8の身体が淡い光に包まれ、潜水棲艦の身体にヒビが入っていく。

 

 

『な…何だ!?』

 

 

 

ヒビは潜水棲艦の身体中に広がっていき、ついには全身を覆うように広がった、そして…

 

 

パリン!という音と共に潜水棲艦の身体が卵の殻のように弾け飛び、漆黒の欠片となって四方八方に飛んでいく。

 

 

 

「…伊8さん…?」

 

 

 

そしてその殻の内側には、轟沈(しず)む前の“面影”と何も変わらない伊8の姿があった。

 

 

 

 

「まさか深海棲艦から艦娘が生まれるとは思わなかったな」

 

 

「私も予想外でした」

 

 

海原と吹雪はそう言いながら伊8をまじまじと見る、あの後吹雪は気を失っている伊8を抱えて台場鎮守府へと帰還、その後修復中に目を覚ましたので執務室に連れてきたのだ。

 

 

「あ、あの…そんなに見られると恥ずかしいです」

 

 

伊8は海原と吹雪に見つめられて身体をモジモジさせている。

 

 

「でも、修復してもやっぱり“それ”は治らなかったな」

 

 

海原の言う“それ”とは、伊8の右腕にある黒い痣だ、駆逐棲艦の装甲のような色をしたそれは伊8の二の腕全体を覆うように広がっている。

 

 

「深海棲艦だったときの名残のようなモノが残ってるんでしょうか?さしずめ深海棲艦との“混血艦(ハーフ)”といったところですかね」

 

 

「…だとしたら嫌な名残です」

 

 

伊8は不機嫌そうな顔で自分の腕を見つめる、そりゃ自分の身体にそんなものが残っていたら誰だって嫌だろう。

 

 

「そう言えば自己紹介をきちんとしていませんでしたね、元舞鶴鎮守府所属、巡潜3型2番艦の潜水艦娘『伊8』です、どうぞ気軽にハチと呼んで下さい」

 

 

伊8…ハチは丁寧にお辞儀をして自己紹介をした。

 

 

「吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です、よろしくお願いしますハチさん」

 

 

「台場鎮守府司令官の海原充だ、取り合えずはお前を助けられて良かったよ」

 

 

続いて吹雪と海原が自己紹介をする。

 

 

「それで、私の今後はどうなるんでしょうか…?」

 

 

ハチが不安そうな顔で海原に質問する、吹雪同様ハチは轟沈(しず)んだ時点で舞鶴鎮守府から除隊されていて現在無所属(ノラ)となっている、ハチ自身は戻りたいと思っているが舞鶴の提督が同意してくれなければそれは叶わない。

 

 

「そう言われると思って舞鶴の提督に連絡を取ったんだが…」

 

 

海原が歯切れの悪い調子で言いよどむ、その様子で舞鶴の提督がどんな返事をしたのかあらかた予想がついてしまった。

 

 

「拒否…ですか…」

 

 

「轟沈して生還した艦娘、奇跡の生還と言えば聞こえは良いが、見方によっては“曰く付き”ということにもなる、それに元深海棲艦ともなれば何が起きるか分からない」

 

 

海原はなるべくハチを落胆させないように慎重に話すように心掛ける。

 

 

 

「…そう、ですよね」

 

 

しかし、そんな海原の努力も虚しくハチは今にも泣きそうな顔で俯いている(海原が口下手なせいでもあるのだが)。

 

 

「まぁ、だからというわけではないが、良かったらうちの鎮守府に所属しないか?」

 

 

「…えっ?」

 

 

海原の提案にハチは目を丸くする、吹雪は最初から海原がそう言うのを分かっていたのでクスッと小さく笑うだけだった。

 

 

「ここだったらお前が深海棲艦との混血艦(ハーフ)だって事を知ってるから気を使う必要も無いし、台場鎮守府の性質上ここに来る奴なんていないからバレる心配もない、どうだ?うちに来ないか?」

 

 

そう言って海原はハチに右手を差し出す。

 

 

「……………」

 

 

ハチはしばらく熟考するように顎に手を当てて半目になる、やがて決意したのかハチは海原の顔を見て、言った。

 

 

「…そうですね、舞鶴に戻れないとなると行く宛も無いですし…はい、潜水艦伊8、台場鎮守府への着任を希望します」

 

 

 

それからすぐ後、伊8は台場鎮守府の艦娘として正式に登録された。

 

 

 

 

○台場鎮守府現戦力

 

•駆逐艦 吹雪Lv.38

 

•潜水艦 伊8 Lv.35←new!




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次回は戦闘シーンが来る予定です(いまさら)。

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