艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
翌日、台場組と舞浜組が合同で訓練を行うと言うことで、吹雪たちが舞浜組を引きずって訓練所に向かっていった。
「…それじゃ、いよいよ運命の時ってやつだな」
そう言って海原は電話の受話器を取ると、造船所の電話番号をダイヤルする。
『はい、造船所総合受付です』
呼び出し音3回で相手は出た、受話器の向こうから聞き慣れた女性の声が聞こえる、造船所に足を運んでいるときに何度も顔を合わせた受付嬢だ。
「台場鎮守府の海原といいます」
『あら海原さん、お久しぶりです』
「お久しぶりです、榊原所長とお話ししたいんですが、取り次ぎ願えますか?」
『はい、少々お待ちください』
受付嬢がそう言うと、どこかで聞いたようなクラシックをアレンジした保留音が聞こえてくる。
(…やべぇ、めちゃくちゃ緊張してきた)
榊原が出るまでの間、海原の心臓は早鐘のように鳴っていた、何度も電話で話した相手であるが、今回は内容が内容なだけあって余計に緊張する。
『はいはい榊原』
すると20秒ほどで榊原の声が聞こえてくる。
「お久しぶりです榊原所長、台場の海原です」
『おぉ、海原くん、あれから変わりないか?』
「はい、おかげさまで」
『そうかそうか、それで今日はどんな要件だ?』
「いえ、用というか、艦娘について少し聞きたい事が…」
『君が艦娘について知りたいとはずいぶん珍しいね、どんな艦娘だ?』
「以前横須賀鎮守府に所属していた潜水母艦、大鯨です」
言った、ついに言った、言ったった、もう後戻りは出来ないぞ俺、さあ榊原所長、どう答える!?
『…海原くん、大鯨の情報をどこで知ったんだ?これは造船所の内部データでしか閲覧できない
「えっ?」
予想外の返答が返ってきて、海原は素っ頓狂な声をあげてしまう、
「いや、俺は普通に轟沈リストから大鯨の情報を見つけましたよ?」
『何!?そんなバカな…!』
榊原がそう言うと、受話器の向こうからカチャカチャという音が聞こえてきた、おそらく
『…本当だ、
「
さすがの海原も呆れ気味に言う。
『ははは…返す言葉も無い』
榊原は乾いた笑いを浮かべる。
(…ん?)
ここで海原はあることに気づく、大鯨の情報が
「何か大鯨の情報で表沙汰にしたくない事でもあったんですか?建造失敗艦とも関係が?」
『残念だが、たとえ海原くんでも大鯨の情報は教えられない、こちらの事情があるんだ、察してくれ』
榊原はそう言って話を終わらせようとするが、海原がはいそうですかと納得するわけがない。
(…しょうがねぇ、出来れば使いたくなかったけど…)
ここで海原は最後のカードを切る。
「その大鯨が深海棲艦化していて、なおかつ艦娘に戻せるチャンスがあってもですか?」
海原がそう言うと、電話口の榊原がかすかに動揺したような声を出す、これで榊原は餌をちらつかされてる魚だ、あとはこちらの条件と合わせて榊原に交渉を持ちかければいい。
『それは、いったいどういうことだ?』
「昨日の出撃中にうちの艦娘たちが深海棲艦化した大鯨と会敵しました、
『ちょ、ちょっと待ってくれ、なぜ艦娘たちがその会敵した深海棲艦が大鯨だと認識出来たんだ?そもそも艦娘が深海棲艦になるなんて事例、今まで報告されたことがない』
榊原が海原の言葉を遮って言う、そう言えば響にも同じようなことを言われたなぁ…と呑気にそんなことを考える。
『…海原くん、君は何を知ってるんだ?説明してくれ』
「それなら一度会って話しましょう、大鯨の情報と引き換えに話しますよ」
『それは…』
「表沙汰に出来ない秘密を持っているのはお互い様みたいですし、ここは見たこと、聞いたことをお互い他言しない…というルールでひとつどうでしょう?」
『取り引き、ということか?』
「そう受け取ってもらって構いません」
榊原は少し悩むような声を出すと、意を決したように口を開く。
『分かった、お互い他言無用で話し合おう、午後から台場に向かうよ』
「ありがとうございます、お待ちしています」
海原はそう言って電話を切る。
「……ふうううぅぅ…とりあえず第1関門は突破かな」
緊張の糸が切れたのか、海原は大きく息を吐いて脱力する。
東京急行のボスに出てきた南方棲鬼の艦種がいまいち分からない今日のこの頃。
空撃と砲撃を行うので個人的には航空巡洋艦だと思っています、16inch砲じゃないので航空戦艦では無いはず。