艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
それは置いといて大鯨過去編、三日月編での反省を生かし駆け足で進めます。
「えっ…あなた……今何て……?」
大鯨の発言の意味がまだ脳内で処理しきれなかったので、つい吹雪がリピートをプリーズしてしまう。
『私を、殺して欲しいんです…』
「な…何で……」
『もう…生きていたくないんです、私は艦娘になんて戻りたくない、このまま死んでしまいたい…』
「そんな…」
やっと声が聞けたのに、やっと話が出来たのに、その口から発せられた言葉は“死にたい”、吹雪にとってこれほどショックな事はない。
「…とにかく、みんなにも知らせないと」
吹雪はPitを取り出すと、全員にCメールを送る。
◇
「大鯨がやっと話す気になったと思ったら、いきなり死にたいと来たか、こりゃ前途多難だな」
困ったように海原が頭を掻く、ある程度は予想していたことだが、まさか本当になるとは驚きだ。
「どうしてそんなに生の道を拒む?」
『…私は、裏切られたんです、人間にも、艦娘にも、もう疲れてしまったんです…』
(艦娘にも…?)
ここで海原は引っかかりを見つける、人間に裏切られたというのは分かる、大方横須賀の
「なぁ大鯨、良かったら、俺にワケを聞かせてくれないか?きれい事に聞こえるかもしれないが、俺はお前の問題に真剣に向き合いたいと思ってる、その上で…お前には生きてほしい」
海原が真剣な表情で大鯨を見ると、大鯨は少し考えるような仕草をする、やがて大鯨はゆっくり頷くと、その身の内を語り出した。
◇
大鯨が横須賀の雑用係として引き取られた直後、佐瀬辺は本当に雑用係として大鯨を使っていた、お茶汲みから書類整理、鎮守府内の掃除など、身体の弱っている大鯨でも出来る仕事をやらせていた。
建造されて早々に“死”を迎えるハズだった自分にとって佐瀬辺はまさに救世主のような存在だった、一生この人に付いていこう、大鯨はそう心に決めた。
しかし、着任してから数日間、大鯨は妙な違和感を感じていた、艦娘たちの態度がよそよそしいというか、何かに怯えているような感じで生活しているのだ。
(何なんだろう…?)
大鯨はただ首を傾げる事しか出来なかったが、その理由はすぐに分かった。
大鯨が新たな疑問符を浮かべたその数時間後、出撃任務を終えた艦隊が帰投して提督室に報告に来ていた。
「大破
「ごほっ!申し訳…ありま…せ…ん…」
出撃艦隊旗艦の艦娘、古鷹型重巡洋艦1番艦『
古鷹以外の艦娘は目尻に涙を溜めながらその光景を黙って見ている事しか出来なかった、もし止めに入れば何をされるか分からない、それを知っているから、助けたくても助けられない。
「提督!もうやめてください!随伴艦大破なら仕方ないじゃないですか!」
そう、知っていれば…
「大鯨…テメェ艦娘の分際で俺に意見しようってか!?」
「えっ…きゃあっ!?」
大鯨は佐瀬辺に思い切り突き飛ばされ、壁に背中を強く打ちつける。
「そもそもお前は俺が拾ってやったからこうして生きてられるんだぞ!その恩を仇で返すつもりなのか!?あぁ!?」
「いぎぃ!!」
顔を蹴り飛ばされた大鯨は噴き出す鼻血を押さえながらショート寸前の頭をフル回転させていた、なぜ私は提督に顔を蹴られているんだろうか?なぜ鼻血でエプロンを赤く染める事態になっているのだろうか?提督は私を拾ってくれた、とても慈悲深くて優しい方のはず、それなのになぜ…?。
「なぜ…あなたがこんな事を…?」
「はぁ?ひょっとして俺に拾われたから勘違いしちまったのか?言っとくけどな、俺がお前を拾ったのは
「っ!?そん…な…!」
蹴られたダメージといきなり受けた精神的ショックで大鯨はそのまま気を失ってしまった。
その日から、大鯨にとって地獄の日々が始まった。
◇
「畜生!造船所のやつら、俺に指図するように文句を言いやがって…!何が艦娘を大切に扱えだ!」
佐瀬辺は縛られて床に倒れた大鯨を殴ったり蹴ったりしながら愚痴をこぼす、すでに大鯨の全身には痛々しい痣が何十カ所も出来ていたが、そんな事お構いなしに佐瀬辺は蹴り続ける、当の大鯨は猿ぐつわをされているので声をあげることも出来ない。
「深海棲艦の脅威から
そう言って佐瀬辺はそばにあったポールハンガーを掴むと、自身のストレスを全てぶつけるようにして大鯨に叩きつける。
「ーっ!!!」
大鯨はくぐもった悲鳴を上げ、釣り上げられた鯉のようにのたうち回る。
「やれやれ、もう限界か」
佐瀬辺は舌打ちしながら大鯨を見下ろす、口に回された猿ぐつわは赤く染まっており、鼻や目からも血液が滴り落ちている、血に濡れた目は焦点が定まっておらず、視力が残っているかどうかも定かではない。
佐瀬辺は館内放送で大和を呼び出すと、彼女の前に大鯨を蹴飛ばす。
「ドックに放り込んでおけ、直ったら縛ってここに持って来い」
「…分かりました」
大和はぼそぼそとした声で返事をすると、大鯨を丁寧に抱きかかえて提督室を後にする。
廊下を歩いている途中、すれ違った艦娘たちが大和に抱えられた大鯨を見てひそひそと話している。
「(あの子、またやられたみたいね、可哀想に…)」
「(でも、あの子がいてくれて助かったよ、おかげでこっちは多少平和になったし)」
「(このままアイツの
…(みんなの気持ちも分かるけど、本当に薄情な連中ね)
それを聞いた大和は胸が締め付けられるような気分になる、大鯨が佐瀬辺の
いい身代わり人形がやってきた、その事に罪悪感が無いわけではなかったが、地獄の日々から解放される事への喜びの方が大きく、誰も大鯨を助けようとは思わなかった。
「………」
薄情だと周りを批判している大和自身も、大鯨がやってきてホッとしていたのは事実だった、今も自分の腕の中で苦しんでいる大鯨を助けたい、でも自分が同じ目にあうんじゃないかと思うとそれが怖くて…。
「…ごめん、ごめんね大鯨、私が弱いせいで、ごめんなさい…」
大和は涙を流しながら謝罪の言葉をつぶやき、大鯨を抱える腕により一層力を込める。
「(…ありがとう)」
大鯨が朦朧とする意識の中で大和にかけた言葉は、猿ぐつわに遮られて大和に届くことはなかった。
「Re:ゼロから始める異世界生活」の原作買おうかな、でも2クール目入って結構経つし、一巻から読むのがしんどそう…