艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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今回で大鯨編は終了です、次はどんな艦娘が出るでしょうか…

「Re:ゼロから始める異世界生活」にクルシュって女性のキャラが出てくるんですけど、そいつが長月にちょっと似てるんですよ、それを考えたらクルシュが長月にしか見えなくなりました。


第81話「大鯨の場合16」

「お久しぶりです、海原提督」

 

 

「久しぶり、すまないな、急に会いたいなんて言って」

 

 

その翌日の午後、榊原の根回しが良かったのか、思った以上に早く大和が台場鎮守府へやってきた。

 

 

「いえ、お気になさらないで下さい、それにあの時のお詫びもしたかったので…」

 

 

大和の言うあの時というのは、おそらく臨時司令官会議で海原に砲を向けた時のことだろう。

 

 

「別にそんなの気にしてないよ、お前だってあいつの命令で嫌々やってたんだろ?なら大和が罪悪感を感じる必要なんて何一つ無いさ」

 

 

海原が笑いながら言うと、大和は申し訳無さそうな顔でありがとうございます、と頭を下げてお礼を言った。

 

 

「あの、それで海原提督、大鯨ちゃんの事なんですが…」

 

 

お礼を言い終わると大和はおずおずと聞く、大和には大鯨の話を聞くという都合上、事前に台場鎮守府の事や大鯨の事情を説明していた。

 

 

「おっと、そうだったね、なら提督室でゆっくり話し合おう、冷たい飲み物を用意してるんだ」

 

 

「そんなお気を使わなくても…」

 

 

「いいっていいって、それにわざわざこんなクソ暑い中来てくれた客人に冷たい飲み物のひとつも用意できないようじゃ提督なんて務まらないよ」

 

 

「…すみません、ありがとうございます」

 

 

大和はやはり申し訳無さそうに、でもどこか嬉しそうにしながら提督室に向かう海原の背中を追う。

 

 

 

 

「はいどうぞ、口に合うかどうかは分からんが…」

 

 

海原は冷蔵庫から瓶ラムネを出して大和に振る舞う。

 

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

 

大和は軽く頭を下げると出されたラムネを一口飲む、程よい炭酸の刺激とラムネの清涼感が喉を通りとても心地よい。

 

 

「さてと、確か大鯨の話だったよな」

 

 

「はい、深海棲艦になった大鯨ちゃんがここにいると聞いて…」

 

 

そうして話し始めるふたりだったが、その会話を聞いている者がいることにふたりは気づいていなかった。

 

 

 

 

『…吹雪さん、これ、私たち隠れる必要あったんですか?』

 

 

「いや…なんか勢いで」

 

 

吹雪と大鯨は隠れるようにソファの影に寝そべっていた、海原と大和が来る前、吹雪たちは提督室のソファでぐでーっとしながらくつろいでいたのだが、吹雪が思っていたよりも早く大和が来たのでとっさに隠れてしまったのだ。

 

 

「今大鯨と大和を合わせたら話せることも話せないと思ってさ」

 

 

 

『…まぁ、それは確かに認めますけど』

 

 

大鯨は少し恥ずかしそうにしてごにょごにょと呟く。

 

 

 

 

それから大和は大鯨の事について克明に話した、自沈(じさつ)までの大筋は大鯨が話したことと同じだったが、大和自身が感じていたことはやはり本人から聞かねば分からない。

 

 

「私は大鯨ちゃんが苦しんでいるのに何も出来なかったんです、日々暴力を振るわれて傷を作る度にドックに入れていましたけど、それだけしかしてあげられなかった…いや、それしかしようとしなかったんです」

 

 

大和は言葉を紡いでいく毎に身体を震わせ、その目からは涙がこぼれ落ちていく。

 

 

「硫酸事件の時だって、ちょっと勇気を出して提督を止めれば大鯨ちゃんを助けられたのに、私は我が身可愛さに逃げ出して、大鯨ちゃんを心傷(きず)つけてしまった、その日は罪悪感で何度も吐きました」

 

 

『…違う』

 

 

「大鯨ちゃんが自沈(じさつ)したときだって、元を辿れば私が大鯨ちゃんのことをちゃんと見ていればこんな事にはならなかった、私が…大鯨ちゃんを殺したんです」

 

 

 

『違う』

 

 

「今でも夢に大鯨ちゃんが出て来るんです、何で助けてくれなかったの?ってずっと私に問いかけて来て海に沈めようとするんです、そのたびに私は取り返しのつかない事をしたんだって…」

 

 

『違う…!』

 

 

「大鯨ちゃんの言うとおり、しょせん私は自分の保身しか考えていない偽善者なんですよ」

 

 

『違う!違う違う違う!大和さんは何も悪くない!大和さんは自分だって辛いのに私のために心傷(きず)ついてくれた、でも私はそんな大和さんの気持ちを考えようともせずに、大和さんの優しさを否定した…!大和さんが私を殺したのなら、私は大和さんの心を殺した…!』

 

 

大鯨は涙を流しながら大和の言葉を否定し続ける。

 

 

「…大鯨、そういうのは、本人に直接言った方がいいんじゃないかな」

 

 

吹雪にそう言われると大鯨は少し迷うような顔をしたが、やがて意を決したようにして頷く。

 

 

 

「…司令官、大和さん」

 

 

吹雪は大鯨と一緒にソファの影から姿を現す。

 

 

 

 

 

「吹雪に大鯨!?お前らどうして!?」

 

 

「大鯨…ちゃん…?なの…?」

 

 

変わり果てた姿の大鯨を見て、大和は声にならない声を漏らして涙を浮かべた。

 

 

『大和さん、お久しぶり…というのは少し変ですかね…えへへ…』

 

 

大鯨は苦笑しながら大和に再開の挨拶をする。

 

 

「大鯨ちゃん…ごめんなさい…!謝って許される事じゃないっていうのは分かってる、でも…!」

 

 

『そんな、大和さんが謝る必要なんて何一つ無いですよ!むしろ謝らなければいけないのは私の方です、大和さんだって提督のせいで苦しんでいたのに、その現実から目を背けて自分だけ悲劇のヒロインを演じて、結果大和さんの心を殺してしまった…本当にごめんなさい!』

 

 

大鯨は吹雪に通訳をしてもらいながら自分の気持ちを素直に伝えた、つたなくて上手く伝わらないかもそれないが、これが考えて考えて考え抜いた自分の本心なのだ。

 

 

「大鯨ちゃん…本当にごめんなさい…!私のせいであなたは…!」

 

 

そう言って大和は大鯨を抱きしめた、その身体は文字通り深い海のように冷たかった、大和から見れば大鯨は深海棲艦だ、でもその身体からは確かに大鯨を感じる事が出来た。

 

 

『謝らないでください大和さん!私のせいで大和さんは心を壊してしまって…ごめんなさい!』

 

 

大和と大鯨はお互いに泣きながら謝り合う。

 

 

 

 

 

 

「…良かったですね、仲直り出来て」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

吹雪と海原はお互いに笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、結果は出せたかい?」

 

 

海原は大鯨に向かい合うと、改めて問いかける。

 

 

『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私、艦娘に戻ります、海原提督の言う楽しい思い出を、あなたたちと一緒に作っていきたいです、私は…もう迷いません』

 

 

その日、大鯨は艦娘としての“生の道”を選んだ。

 

 

 

 

「改めまして、潜水母艦大鯨です、これからよろしくお願いします」

 

 

無事に混血艦(ハーフ)として艦娘に戻り台場鎮守府の一員となった大鯨は提督室で敬礼をして着任の挨拶をする。

 

 

「おう、よろしくな」

 

 

「そう言えば大鯨さん、潜水母艦ってどんな艦なの?潜水艦とは違うの?」

 

 

潜水母艦という艦種の知識を持っていない暁が聞く。

 

 

「潜水母艦というのは、簡単に言えば潜水艦専属の補給艦…といった所ですね」

 

 

「潜水艦専属?ということはハチのためにあるような艦って事?」

 

 

「はい、潜水艦の艤装は消費する資材の量が少ないので長距離の遠征任務によく使われるみたいなんですけど、遠出をすると途中の補給が難しくなるので私のような潜水母艦が使われる…というのを造船所の人から聞きました」

 

 

といっても私は一度も潜水母艦として使われなかったので詳しくは知らないんですよね…と言って大鯨は苦笑する。

 

 

「大鯨ちゃん」

 

 

すると大和が大鯨のもとへやって来て、その肩に手を置いて言った。

 

 

「これから大鯨ちゃんは色んな事を経験すると思う、それはもちろん楽しいことばかりじゃない、時には辛い思いをしたり、それこそ死にたくなるような事だってあるかもしれない」

 

 

大和はそこまで言うと、一呼吸の間をおいて続ける。

 

 

「でもね、どんなに辛いことがあっても、死ぬことだけは考えちゃだめ、死んでしまえばそこで全てが終わってしまう、生きていれば絶対にチャンスは巡ってくるから、だから…あなたは生きて」

 

 

大和が真剣な眼差しで言うと、大鯨は大和の目を見つめ返して言った。

 

 

「はい、大和さんたちに救って貰ったこの命、決して粗末にはしません」

 

 

「…うん、ありがとう大鯨ちゃん」

 

 

それを聞いた大和は、どこか安心したような表情で大鯨を抱きしめた。

 

 

 

 

「海原提督、本当にありがとうございました」

 

 

「いいっていいって、それより大鯨と仲直り出来て良かったな」

 

 

「はい、それでは私はこれで…」

 

 

大和は深々と頭を下げると、台場鎮守府を後にした。

 

 

 

 

 

大和との別れを済ませた後、大鯨には深海棲器を選んで貰った、混血艦(ハーフ)になった影響なのかは分からないが、弱っていた大鯨の左腕と足腰の身体機能は轟沈前より大幅に向上しており、戦闘に参加出来る程度の力は取り戻していた。

 

 

「だからって非戦闘艦の大鯨を前線で戦わせる訳には…」

 

 

「いえ、私はもう台場鎮守府の一員なんですから、せめて後方支援くらいはこなせるようにならないと」

 

 

(立派だなぁ…)

 

 

そう言って深海棲器を選ぶ大鯨を見て、吹雪は一種の頼もしさを感じた。

 

 

 

そして大鯨が選んだ深海棲器は4つ。

 

 

1つ目は『手榴弾』、手投げタイプの爆弾の深海棲器で、一般的な手榴弾より爆発力が高い。

 

 

2つ目は『アサルトライフル』、中距離からの狙撃に特化した銃の深海棲器だ、銃身を取り替えればスナイパーライフルとしても使える優秀な武器である。

 

 

3つ目は『ククリ』、くの字に湾曲したナイフの深海棲器だ、普通にナイフとしても使えるが、投擲して離れた敵を攻撃する事も出来る。

 

 

4つ目は『和弓』、読んで字の如く弓矢の深海棲器だ、しかも矢の先端は鋭く尖っている上に返しがついているので簡単には抜けないようになっている。

 

 

 

「遠距離系の武器中心だね」

 

 

「はい、私は基礎能力的に前衛は向かないと思ったので…」

 

 

「なるほどね、じゃあ軽くトレーニングしてみようか」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

…その一時間後、提督室で満身創痍(グロッキー)状態の大鯨が発見されるのはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

「…これは本当なのか?佐瀬辺くん」

 

 

南雲元帥は佐瀬辺から渡された写真をもう一度見て再度確認する。

 

 

「はい、うちの艦娘が写真に収めた内容に間違いはありません」

 

 

佐瀬辺は誇らしげに胸を張って言う。

 

 

「…分かった、情報をありがとう」

 

 

「いえいえ、では私はこれで」

 

 

佐瀬辺はそう言って礼をすると元帥の部屋から出て行った。

 

 

 

ひとり残った南雲は補佐の鹿沼に電話をかけると、開口一番にこう言った。

 

 

 

「台場鎮守府の海原と、その所属艦娘を全員大本営に呼び出してくれ」

 

 

佐瀬辺から渡された写真には、身体のあちこちに深海痕を露出させた吹雪たちDeep Sea Fleetの艦娘たちが写っていた。




大鯨の深海棲器のアイデアを送ってくれた皆様、本当にありがとうございました!また機会があればやりたいと思います。

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