艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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そろそろこの小説にも“史実要素無し”みたいなタグを付けるべきなのだろうか…

そう言えばいつかの前書きで書いた“艦娘の記憶を持ったまま深海棲艦になった艦娘のお話”ですが、試しに書いてみようかと構想を練ってたりしてます、書き上がったら投稿してみようと思います(いつになるかは分かりませんが)。


第84話「雪風の場合3」

 

「ら、雷撃処分…?」

 

 

南雲の言葉に海原が言葉を失った、“雷撃処分”、史実では損傷が激しく航行が不可能になった軍艦を魚雷などで意図的に轟沈させて処分する事を言った、正規空母の赤城や戦艦の比叡などがそれに当たると海原は記憶している。

 

 

 

「造船所での処分が出来ないのならこちら側で処分するまでだ」

 

 

「待って下さい元帥!なぜそこまでして…!」

 

 

「佐瀬辺くんの言ったとおりそこの混血艦(ハーフ)は危険極まりない存在だ、即刻始末しなければ我々の安全に関わる」

 

 

海原の反論にも応じず頑なにDeep Sea Fleetの処分を押し進めようとする南雲、その態度にホトホト困り果てた海原は強硬手段に出る。

 

 

 

「…お言葉ですが元帥、吹雪たちを処分してしまってはコレからの艦隊戦に影響が出るかもしれませんよ?」

 

 

「…何が言いたい?」

 

 

 

「こいつらは混血艦(ハーフ)になった影響か基礎能力(ステータス)が高くなっています、その力と俺の艦隊指揮能力を合わせれば来るべき艦隊決戦での活躍をお見せできるかと思います」

 

 

「…それを担保に今回のことを見逃せと?」

 

 

「はい、そもそも俺を台場鎮守府に飛ばしたのは俺の艦隊指揮能力を都合よく利用するためでしょう?なら俺と吹雪たちを都合よく利用するために台場に閉じ込めておけばいい、それに仮に吹雪たちが人間に牙を剥くような事があっても台場周辺は辺境地帯で人も住んでいない、死人が出るとしても俺くらいです」

 

 

海原は自分と吹雪たちの利用価値を悠然と語ってみせる、南雲が海原を海軍から追い出さずに台場鎮守府という窓際に置いているのは彼の優秀な指揮能力を利用するためだ、なら海原がその指揮能力で吹雪たちを使えば大規模作戦などで十二分にその力を利用できる、海原はそのメリットで南雲に勝負を挑む。

 

 

(決して強力なカードではないが、今はコレに賭けるしかない…!)

 

 

海原は焦りを顔の裏に隠して余裕を演じる。

 

 

「…ふむ、確かに海原の言うことにも一理あるな」

 

 

「な、南雲元帥!?一体何を…!?」

 

 

佐瀬辺は困惑した表情で南雲を見る、しかし南雲自身も両者の意見に筋が通っているので痛し痒しな心境だ。

 

 

「…よし、ならばこうしよう」

 

 

1~2分ほど考えた南雲は妥協案を考えたのか、再び口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海原、大演習祭(バトルフェスタ)に出ろ」

 

 

 

 

「バ…大演習祭(バトルフェスタ)にですか…?」

 

 

海原は困惑した様子で南雲を見る、大演習祭(バトルフェスタ)とは毎年10月に開催されている大規模演習の事だ、日本全国の鎮守府の精鋭艦隊たちが大本営に集い、その腕と技術を競い合う。

 

 

元々はただの演習会だったのだが、全国の鎮守府の艦娘たちが来ると言うこともあり、回を重ねるごとに参加している艦娘たちがお祭り騒ぎな状態になっていった、例えるなら文化祭のようなノリである。

 

 

そんな事もあり、いつしかその演習会は大演習祭(バトルフェスタ)と呼ばれ、海域攻略の次に提督たちが力を入れているイベントになった。

 

 

「その大演習祭(バトルフェスタ)の締めに各鎮守府の精鋭を集めた特別艦隊とお前たち台場艦隊との特別試合を組んでやる、その試合で台場艦隊が勝ったらそこの混血艦(ハーフ)どもをお前の好きにして良い」

 

 

そう来たか、と海原は渋い顔をする、大演習祭(バトルフェスタ)で南雲の用意する特別編成の艦隊に勝利すれば吹雪たちの雷撃処分を免れる、これだけ見れば良い条件だ、しかし…

 

 

(問題は勝てるかどうかだ…)

 

 

南雲の事だからきっと戦艦や正規空母などを惜しみなく投入したガチ編成で来るだろう、現在の吹雪たちなら戦艦棲艦に勝つのにはそれほど苦労しない、しかし本能のままに行動する深海棲艦とは違い相手は艦娘だ、深海棲艦ではやらないような緻密な作戦や駆け引きなどもあるだろう、そのような存在とぶつかったとき、Deep Sea Fleetは勝てるだろうか…?

 

 

海原は吹雪たちをチラリと見やる、彼女たちの反応次第では断ることも視野に入れていたが…。

 

 

(…やっぱりな)

 

 

 

吹雪たちに“断る”などという気は毛頭無く、やらせて下さい、とでも言いたそうな目でこちらを見つめていた。

 

 

(本当に手間のかかる部下を持ったモンだよ、俺は)

 

 

 

しかし海原はそれが嬉しくもあり、同時に誇らしくもあった。

 

 

 

「分かりました、海原充、元帥の提案に賛成いたします」

 

 

 

海原が名雲に敬礼をして返事を返すと、南雲はニヤリと不適な笑みを浮かべる。

 

 

「なら決まりだな、大演習祭(バトルフェスタ)での特別試合に勝てれば台場艦隊は存続、負ければ雷撃処分だ、精々本番までに腕を磨いておくんだな」

 

 

そう言うと南雲は軍法会議の解散命令を出し、集まっていた提督たちが次々と部屋から出て行く。

 

 

すると、舞鶴と舞浜の提督が暁とハチを見つめていた、何かしら思うことがあるのだろう。

 

 

しかし暁もハチもそんな提督たちを無視して部屋を出ようとする。

 

 

「話さなくていいのか?」

 

 

 

「話す事なんて何にもないわよ」

 

 

「私も同感です」

 

 

海原はその様子を見て問いかけるが、2体は素っ気なく返す、あのふたりはDeep Sea Fleetの雷撃処分が持ち上がっても反論も何も言わなかった、つまり元部下としての温情も何もないということだ、話すことなど無い。

 

「暁、舞浜に戻ってこないか?台場なんて所はお前には似合わないよ」

 

 

暁が何も言わずに素通りしていくので舞浜の提督が暁に声をかける、舞鶴も何か言いたそうな顔をしているが、舞鶴は一度ハチの再着任を拒否している、その後ろめたさもあるのだろう。

 

 

元提督の言葉を聞いた暁はその場で立ち止まると、舞浜の提督の方を見て、言った。

 

 

「あんたの所に戻る気は無いわ、暁の今の居場所は台場鎮守府よ、それと大演習祭(バトルフェスタ)の時は覚悟しておきなさい、ぶっ潰してあげるわ」

 

 

暁は挑戦的な笑みを浮かべて言い放つ、その迫力に気圧されたのか、舞浜の提督は数歩後ずさる。

 

 

「私も舞鶴には戻りません、私を一度拒絶したこと、よぉく覚えてますからね?」

 

 

ハチも舞鶴の提督を振り向きざまに見る、提督は何と言っていいか分からず、その場で俯くだけであった。

 

 

それだけ言うと暁とハチは今度こそ大会議室を出て行く、海原もそれに続いて部屋を出ようとすると…

「海原、俺が言えた義理じゃねぇが、暁の事頼んだぞ」

 

 

「俺からも頼む、ハチのこと…よろしくな」

 

舞鶴と舞浜の提督が海原に言った、このふたりは以前の軍法会議で海原の有罪判決に賛成した連中でもある、海原にとってはそんな事言われる義理も筋合いも無いのだが…

 

 

 

 

「…安心しろ、お前らの元部下は、俺が必ず守りぬいてやる」

 

 

 

そう言って海原は大会議室を後にした。

 

 

 

「「…ありがとう」」

 

 

 

誰もいなくなった大会議室で、ふたりは同時に小さく呟いた。




完全に榊原が空気になってましたが気にしてはいけません。

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