艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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今回の夏イベで新たに登場した艦娘の「ウォースパイト」ですが、見た目がロイヤル金剛のイメージにドストライクでした、あれで薄手の甲冑来てれば間違いなくロイヤル金剛です(殴


第86話「雪風の場合5」

「あの写真を、君が?」

 

 

突然の青葉のカミングアウトに海原は驚いた顔をする、確かに佐瀬辺はあの時優秀な艦娘が撮影したと言っていた、その艦娘が目の前の青葉、という事なのだろうか。

 

 

「はい、と言ってもそれを命令されたときは軍法会議で使うという事は言われなかったんです、命令の意図も教えてもらえず、かと言って断れば僚艦を解体すると脅され…」

 

 

「なるほどねぇ、なんか納得だわ」

 

 

海原が推測するに、この青葉という艦娘は情報収集能力に秀でているのだろう、それを佐瀬辺に利用されたというわけだ、それも最低の方法で…。

 

 

「申し訳ありませんでした、青葉の写真のせいであなたを貶めるような事に…」

 

 

青葉はきれいに腰を折って頭を下げると、海原に謝罪の言葉を向ける、海原はその青葉の姿勢を見るとゆっくりと立ち上がると…。

 

 

「…え?」

 

 

「話してくれて、ありがとな」

 

 

青葉の頭を優しく撫でた。

 

 

「…怒って、ないんですか?」

 

 

「怒る?何でだ?青葉は佐瀬辺に脅されてやったんだろう?その傷やアザを見れば分かる」

 

 

「いえ、これは確かに司令官にやられたものなんですけど、青葉が口答えをしたのが原因なんです」

 

 

「と言うと?」

 

 

「実は青葉も軍法会議に来ていたんです、と言っても部屋の外で待機していただけだったんですけど、そこで青葉の写真が使われたのを知って司令官に抗議したんです、“青葉は誰かを貶めるために情報係になったんじゃない”って…」

 

傷を指で撫でながら言う青葉を見て、海原は静かに怒りを沸かせていた、青葉の言ったことは至極当然の事だ、なのに佐瀬辺の利己主義な考えで青葉が被害にあうのは間違っている。

 

 

「…あんなやつの言うことなんか気にするな、お前が佐瀬辺に言ったことは正しいよ」

 

 

海原はそう言って再び青葉の頭を撫でる。

 

 

「…ありがとうございます、おかげで少し気が楽になりました」

 

 

「そりゃ良かった、てかそろそろ戻った方が良いんじゃないのか?あまり帰りが遅くなると佐瀬辺に目ぇ付けられるぞ」

 

 

「それもそうですね、ではこの辺でお暇いたします、またお会いしましょう」

 

 

「おう、またな」

 

 

帰って行く青葉の背中を、海原は見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

「佐瀬辺に目ぇ付けられるの覚悟で謝りに来てくれるとか、嬉しい反面申し訳ないぞ…」

 

 

もしこれがきっかけで青葉の傷が増えようモノなら海原は責任を感じてしまう。

 

 

 

 

 

青葉との会話から30分後、検査を終えた吹雪たちが部屋から出てきた。

 

 

「あぁ、お前ら終わったのか?」

 

 

 

「はい、あと榊原所長のご厚意で大鯨さん以外改装してもらいました」

 

 

「マジでか!?本当ですか所長!」

 

 

「あぁ、吹雪から大演習祭(バトルフェスタ)に出ることを聞いてね、せめてもの応援の気持ちだよ、資材は俺の奢りだから気にしないでいいよ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

海原は改めて榊原にお礼を言う、Deep Sea Fleetの改装は以前榊原に混血艦(ハーフ)の相談をしたときから考えていたことだが、まさか榊原の厚意で改装させてもらえるとは思っていなかった。

 

 

「…ん?それより所長、今吹雪が大鯨以外って言ってたんですけど、大鯨は改装出来なかったんですか?」

 

 

「それなんだがね、潜水母艦の大鯨は改装すると軽空母になる設計にしている、元々建造失敗艦の大鯨の身体は艤装を装着して長時間海に出れるほど丈夫じゃない、今は混血艦(ハーフ)の影響で克服したみたいだが、それはあくまでも“潜水母艦”としてだ、軽空母の艤装を装着して海に出れるまでにはなっていない」

 

 

検査結果を見ながら榊原は言う。

 

 

「改装させてやりたいのは山々なんだが、今無理に改装させると大鯨の身体が壊れる可能性が大なんだよ、一応今の身体で扱える範囲での艤装強化は施してあるけど…」

 

 

榊原はそこまで言うと、最後にすまないと付け加えて手のひらを顔の前に持って行く。

 

 

「そんな、強化してもらっただけでもありがたいです、本当にありがとうございます」

 

 

「我々からも感謝の意を、ありがとうございます」

 

 

海原と吹雪たちがそれぞれ榊原に向かって頭を下げる。

 

 

「そんな大げさな、艦娘の改装はどこの鎮守府でもやってるじゃないか」

 

 

「工廠が使えないから改装申請も出来なかったので、今回の改装は本当にありがたかったです」

 

 

海原の言葉を聞いた榊原は“あー…”といった様子で苦笑する、通常、艦娘の改装は工廠の端末で改装の申請を出さなければ改装が出来ない、以前は電話での受付も可だったのだが、作業効率や人為的失敗(ヒューマンエラー)などの理由で現在は申請式になっている。

 

 

「それで所長、検査結果の方は…」

 

 

わき道にそれかけた話を海原が戻すと、榊原はそうだったね、と言って検査結果の書かれたレポートを海原に見せながら説明する、ちなみにこれはすでに艦娘たちには伝えているので先に吹雪たちにはエントランスへ向かってもらうことにした。

 

 

「結論から言うと、吹雪たちはこちらで建造するときに使われている材料以外のモノが混ざっている、言わばコンタミネーションが発生している」

 

 

「…それが深海棲艦の成分、ですか」

 

 

「断定するには判断材料が不足しているが、造船所でサンプリングしている深海棲艦の装甲と成分が酷似している所を見ると、その可能性は極めて高いだろうね、深海棲艦との混血艦(ハーフ)というのもほぼ確定だろう」

 

 

そう言うと榊原はレポートのページをめくる、そこには吹雪たちの名前と、その下に円グラフが記載されている。

 

 

「これは艦娘の成分と深海棲艦の成分、それぞれがどれくらいの割合で占められているかを表したものだ、緑が艦娘で赤が深海棲艦ね」

 

 

榊原の説明を聞いた海原はレポートのグラフに目を通す、深海棲艦の成分が占める割合は艦娘ごとにかなりばらつきがある、一番低いとハチの35.1%で、一番高いとマックスの45.8%だ、平均して3割半ばから4割だろうと5()()()円グラフを見て思う。

 

 

 

 

「この数字は時間とともに増えるんでしょうか…?」

 

 

「それはまだ何とも言えない、しかし体調面においての変化が無いのであれば、深海棲艦から艦娘に戻ったときに“剥がれ落ちきらなかった”割合と考える事も出来る」

 

 

それを聞いた海原は考え込むように黙ってしまう、榊原の話が全て真実だと仮定した場合、艦娘化が起きる際に純粋に艦娘に戻りきれず、どうしても残ってしまった深海棲艦としての部分が原因で混血艦(ハーフ)になる、という事になる。

 

 

しかしその場合、そこから再び深海棲艦の浸食が始まる…という可能性もゼロではない、そこまで考えて海原は身震いするのを感じる。

 

 

「まぁ、半分近く深海棲艦としての成分を持っていながら現状何ともないって事を踏まえると、すぐに何かが起きるというのは考えにくいかな、一応念のために定期的に検査を受けることを検討してもらいたい所だけど…」

 

 

「分かりました、来月あたりにもう一度来てみます」

 

 

海原がそう言うと、榊原はありがとうとお礼を言うが、感謝すべきなのはむしろこちらの方だろう。

 

 

「…所長、最後にどうしても聞かなければいけないことがあります」

 

 

「…なんだい?」

 

 

感謝の言葉を述べた直後、海原は突然真剣な顔つきになり、単刀直入に聞いた。

 

 

 

「なぜこのページには吹雪のデータだけが載っていないんですか?」

 

 

海原は円グラフが記載されているページを指差して言う、彼の言うとおり、このページには吹雪のグラフだけが乗っていない、検査忘れ…などというのはありえないだろう。

 

 

「…実はね…」

 

 

 

その質問に対する答えを聞いた海原は、頭の中が真っ白になるのを確かに感じていた。

 

 

 

 

「あ、遅いですよ司令官!」

 

 

吹雪たちの退出から10分後、エントランスに海原の姿が現れた。

 

 

「…悪い悪い、待たせちまったな」

 

 

海原は手を縦にして顔の前に持ってくる動作を挟みながら吹雪たちに謝る。

 

 

「…司令官?浮かない顔をしているみたいですが、どうかされましたか?」

 

 

海原の顔色を見て三日月が心配そうに声をかける。

 

 

「…いや、何でも無いよ、それより早く帰ろうぜ、何だか腹減って来ちまった」

 

 

「…そうですね、今日の夕食は張り切らないと、です!」

 

 

海原は努めて明るく振る舞ったが、それが空元気であることは三日月には見抜かれていた。

 

 

(あんなモン見せられちゃ、それゃショックだよ)

 

 

 

海原は先ほど見せられた吹雪の検査データの事が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○吹雪

・深海棲艦汚染率:97.8%




青葉は二次創作では節操なしのパパラッチみたいに書かれるのをよく見るので、逆に純真なジャーナリストという感じで書きました。

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