艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
吹雪が提督室に入ると、Deep Sea Fleetのメンバー全員が揃っていた、海原と三日月たちは吹雪の姿を見た途端、とても驚いたような顔で駆け寄ってくる。
「吹雪さん!もう身体は大丈夫なの!?」
「心配したんですよ?突然深海棲艦みたいになって…」
「でも元気そうで良かったわ」
「ちょ、ちょっと待って!」
聞き捨てならないような単語がいくつも聞こえてきたような気がしたので、吹雪は一度全員に黙るように言う。
「みんな今とんでもないこと言わなかった!?私が深海棲艦になったってどういう事!?」
「…まさか吹雪さん、あの時の事を覚えていないんですか?」
「吹雪ちゃんひとりで戦艦棲艦2体と重巡棲艦3体を倒したんですよ?」
「はいぃ!?」
三日月と大鯨が全く身に覚えのない武勇伝を口にする、ここ最近そんな戦果をあげた覚えは吹雪には無い、もしあるとすれば…
「それってひょっとして、私が腕を駆逐棲艦に食われた後の事…?」
「何だ、覚えてるんじゃない」
マックスの口振りから察するに、吹雪の予想は当たったと考えていいだろう。
「でも、覚えてるのはそこまでなんだよ、腕持って行かれた後は何も…」
吹雪が頭を掻きながら苦笑すると、三日月たちが一斉に何かを考えるような顔をした。
「えーっと…私、あの後どうなったの?みんなの様子だとあまりよくなさそうな感じがするんだけど…」
吹雪が嫌な汗を流し始めると、Deep Sea Fleetを代表して三日月が前に出る。
「吹雪さん、そのことですが…」
三日月はその後のことの詳細を吹雪に聞かせる。
◇
「…そんな、私…」
三日月の説明を受けた吹雪は身を震わせながら絞り出すように言う。
「し、司令官…私どうすれば…」
縋るような目で見つめられた海原は息を詰まらせる、ここで吹雪に浸食率の話を伝えるべきか否か、もしここで話してしまえば吹雪に追い討ちをかける結果になってしまうかもしれない、しかし言わずに放っておけばあとで後悔する事態になるかもしれない、そんなジレンマに駆られていた。
「…吹雪、その事について話がある」
でも、打ち明けるのなら今打ち明けてしまった方がいい、言うのが後になればなるほど、言う方は言いづらいし、聞く方はショックが大きくなる、これはお互いの為なのだと、そう海原は自分に言い聞かせると、榊原の話を吹雪に聞かせる。
◇
「…何ですかこれ…!これじゃ私、本当に深海棲艦じゃないですか!」
吹雪は海原から受け取った資料をシワが出来るほど強く握り締めると、驚きと悲しみと怒りがごちゃ混ぜになったような感情で言う。
「司令官は、この事を私に隠してたんですか?」
吹雪に半ば睨むような視線を向けられ、海原はばつの悪そうな顔をする、内緒にしていた事について言い訳をするつもりは無いし、何か言われるのは覚悟していたが、やはりこうして面と向かって言われるとメンタルがガリガリ削られる。
「…隠していた事については否定しないし素直に謝る、すまなかった、だが申し開きをさせてもらうなら、内容が内容だったし、下手なタイミングで言うとかえって混乱させてしまうと…」
「そんな御託はどうでもいいんです!司令官の事信じてたのに、こんな大事な事隠してたなんて…!」
「待ってくれ吹雪!俺は隠すつもりなんて毛頭無かった、ただタイミングを…!」
「もういいです!何も聞きたくありません!」
吹雪は全てを投げ出すように力任せに言うと、そのまま提督室を出て行ってしまった。
「…吹雪」
海原は悔やむように唇を噛み締める、三日月たちはただそれを黙って見ていることしか出来なかった。
◇
「最低だ…」
吹雪は自室のベッドに籠もってひたすら自己嫌悪に陥っていた、理由はもちろん提督室での一幕である。
自室に戻った直後の吹雪は怒りに満ちていた、その怒りの対象は海原でもなければDeep Sea Fleetのメンバーでもない。
海原の気持ちを分かっていながら、それを無視した自分自身だ。
海原の気持ちが分からないほど吹雪は馬鹿ではない、海原とはそこそこ付き合いも長いし信頼もしている、現にあの時造船所で榊原から直接話を聞いていたら自分はパニックになっていたかもしれない。
それなのに、自分は海原に怒りを覚えてしまった、隠しごとをされたと、信頼していた人物に裏切られたと、そんな事を思ってしまった。
海原の心情を察していながら見当違いの怒りをぶつけてしまった、自分はなんて器の小さい、浅ましい存在なのだろう。
「…司令官、ごめんなさい…」
ここにいない海原の事を思いながら、吹雪は涙を流した。
◇
「元気出して下さい司令官、吹雪さんだって本気であんな事言わないですよ」
「だといいんだがなぁ…」
海原は頬杖を突きながらため息をつく、吹雪を傷つけてしまった事に対する罪悪感で打ちのめされそうになる。
その時、机の上の電話が鳴った。
「はい、台場鎮守府提督室」
『大本営の鹿沼だ』
「アンタかよ、何の用だ」
相手は南雲元帥補佐の鹿沼だった、どうせなら可愛い女の子と話したかったなぁ…などと考えながら海原はやる気のなさそうな返事をする。
『…一応言っておくが俺はお前の上官なんだぞ?』
「アンタを上官だと思った事なんて一度もねぇよ、それで用件は?」
海原の変わらない態度に鹿沼は諦めのため息をつき、用件を話す。
『…秋葉原の歩行者天国に駆逐棲艦が多数出現、アスファルトの路上を自走しながら民間人や街中への攻撃を繰り返している』
「何だと!?」
耳を疑うような鹿沼の発言に海原は思わず椅子から立ちあがる、三日月たちが驚いてこちらを見るがそれを気にしている余裕はない。
「駆逐棲艦が陸上を自走ってどういうことだ!?あんな牙の生えたナマコに陸上を移動出来る能力があるってのか!?」
『牙の生えたナマコってのはどうかと思うが、報告では船体の下部に白い足が生えているらしい、既存の駆逐棲艦の亜種のようなモノだろう』
鹿沼の説明を聞いた海原は息をのむ、戦艦棲艦や重巡棲艦が陸上に上がれるのは実体験があるので知っているが、まさか駆逐棲艦も自らの足を持って大地に降り立つとは思っても見なかった。
と、そこで海原の中にある疑問が浮かぶ。
「…ん?ちょっと待て、秋葉原って海に面してないだろ、その駆逐棲艦はどっから湧いてきやがった?」
そう、秋葉原のある東京都台東区は海に面していない、海からやってくる深海棲艦が歩行者天国にたどり着くには沿岸部から内陸部に向かって進軍する必要があるのだが、そのような報告は一切されていない。
『それは今調査中だが、目撃者の証言では突然街に現れたらしいぞ』
「突然ねぇ…それで俺たちに出撃要請ってワケか?」
『そんなとこだ、あと要請じゃない、命令だ、とっとと艦隊揃えて秋葉に来い』
それだけ言うと鹿沼は電話を切った。
「…なんか大変な事になってきたなぁ」
そうボヤきつつ、海原は三日月に吹雪を呼ぶように指示する。
◇
東京都の地下には水害対策用の地下水路が現在十数カ所存在する、大雨などにより道路が冠水したり、河川が氾濫するような事態になったときにその水を逃がすための巨大な地下空間だ、その水は他の川や東京湾に放水するためにあちこちに水路が伸びている。
その水路の中にひとりの人影があった、身長は170cmほどとやや長身だが、膨らんだ胸元を見るに女性だということが分かる。
その肌は骸骨のように白く、長く伸びるふわっとした髪も肌と同じくらいに白かった、人間ではないのは一目瞭然である。
「ベアトリス先輩、こちらエリザベート、作戦の定時報告に入ります」
『了解~、首尾はどう?』
「とても順調に進んでいます、新型
『普段海上でしか戦ってないからね、陸上戦と海上戦は似ているようで実は天と地ほどの差があるし、そのために陸上戦特化型のエリザベートに任せてるワケだから、頑張ってね』
「はい、ベアトリス先輩の満足するような成果を上げて見せます」
『可愛くて頼りがいのある後輩を持てて私は幸せだよ、それじゃまた連絡してね』
「了解です」
エリザベートは通信機での通話を終えると、それをジャケットのポケットにしまう。
「さてと、それじゃあ私もそろそろ動くとしましょうか」
エリザベートはそう言うと大量の新型
次回「秋葉原防衛戦」
エリザベートもイベントボスをモデルにしてます、ヒントは少ないですが、誰だか分かった人はすごいと思います。
ちなみに地下水路は首都圏外郭放水路をイメージしてます、それが段々と規模を広げて…という脳内設定です。