艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
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「吹雪、提督が呼んでるわよ」
マックスが吹雪を呼びに自室に行くと、吹雪はベッドに潜り込んで丸くなっていた。
「………」
行きたくない、そう吹雪は言おうとしたが、そのまま何も答えず狸寝入りを決め込む。
「…狸寝入りなら通用しないわよ、私が声をかけて掛け布団が約0.5cmずれたのを見逃すと思って?」
バレテーラ、あっさり見抜かれて吹雪は軽くため息をつく、というかマックスのその無駄に鋭い観察眼は一体何なのだろうか。
「……今更どの面下げて司令官に会えばいいのよ、私の事を思ってくれてる司令官の気持ちを無視して見当違いの怒りをぶつけた私に…」
バレているのなら仕方ない、そう思い知らん振りを諦めた吹雪は布団の中からボソボソとした声で答える。
「そこまで分かってるならやるべき事はひとつよ、提督にそれを伝えて謝れば済む話だわ」
「それは…そうなんだけど…」
そんなもの吹雪が一番分かっている、しかしあんなに海原を痛烈に批判してしまった手前、どうにも顔を出しづらい、もし許してくれなかったらどうしよう、そんな不安さえも湧き上がってしまう。
「提督がその程度であなたを見限るような人ではないのは、あなたが一番理解しているんじゃないかしら?」
「本当にマックスって人の痛いとこ的確に突いてくるよね」
唇を尖らせながら吹雪はベッドから起き上がる。
「痛いと思うのはその事を理解して認めているという事よ、なら提督が怒るとも思えないけど?現に提督は今責任を感じてどうやって吹雪に謝ろうかと三日月たちに相談しているわよ、そんな提督をこのまま放っておくつもり?」
マックスにトドメをさされ、吹雪は胸の奥が痛むのを感じた、自分の浅ましさのせいで海原の心を苦しめている、それは海原を誰よりも慕っている(自称)吹雪にとっては絶対にしてはならない失態だ。
「…ねぇ、私が司令官に会うとき、一緒にいて欲しいって言ったら…怒る?」
吹雪が恐る恐るといった様子でマックスに訊ねると、マックスは怒る様子も無く答えた。
「怒るわけ無いじゃない、ちゃんと吹雪が仲直り出来るまでそばにいるわ」
マックスのその言葉に後押しされたのか、吹雪はベッドから下りると…
「提督室に行くよ、司令官に…ちゃんと謝らないと」
吹雪のその言葉を聞くと、マックスは優しく微笑んで吹雪の手を取って提督室まで導く。
「あぁちなみに、私が吹雪を呼びにきたのは提督が出撃作戦の説明をする為なのよ、だから否応なく全員が見守る中で謝ることになるから寂しくないわよ、だから安心しなさい」
「謀ったなあああぁぁ!!!??」
ものすごい握力のマックスに手を握られながら、吹雪は提督室にひきずられるように向かっていった。
◇
「先ほどは申し訳ありませんでした…!」
提督室に着くなり吹雪は全力で謝罪の気持ちを込めて頭を下げる。
「司令官の私を思う心情を察していながら、自分の矮小な心に身を任せて司令官の心を苦しめてしまいました、お詫びのしようもありません…」
自分の思っている感情の全てをさらけ出して海原に謝罪するが、本当は許してもらえなかったらどうしよう、という不安で今にも倒れそうだった。
どれくらいの時間が経っただろうか、実際はほんの数秒の沈黙だったのだろうが、吹雪にはそれが何分にも感じられた。
海原はゆっくりとした歩みで吹雪に近づく、依然頭を下げたままの吹雪の視界にも海原の靴のつま先が目に入る、ぶたれるのだろうか、そんな不安が頭をよぎる。
「顔を上げてくれ」
その声に従って吹雪は顔を上げる、すると…
「ありがとな」
顔を上げた瞬間に吹雪は海原に頭を撫でられる、その時吹雪の目に映った海原の顔は、笑っていた。
「本当は大事なことを隠してた俺が吹雪に謝んなきゃいけないのに、こうやってお前から謝られてるなんて、情けないな…」
ハハハ…と苦笑する海原を見て、吹雪は自然と涙がこぼれ落ちる。
「ごめんな…さい、私…司令官の気持ち…分かって…たのに…司令官の心を…苦しめ…て…」
「いいんだよ、気にすんな、そうやってお前が涙を流してくれるのが、俺は嬉しいぜ」
海原が嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる吹雪を抱きしめると、吹雪はごめんなさい、と何度も繰り返しながら海原にしがみついて泣き続けた。
((ひょっとしたら私たち、かなりオジャマムシなんじゃ…))
同じ空間にいる三日月たちがそんな事を感じていたが、今更部屋を出て行くために動く度胸も無いので、なんとか空気になるように頑張っているのだった。
◇
無事に海原と仲直りをした吹雪を加えたDeep Sea Fleet全員を前に、海原は今回の作戦内容を説明する。
「深海棲艦が陸上で自走!?」
説明を聞いた吹雪たちは驚きのあまり目を見張る。
「駆逐棲艦が自らの足で陸を歩くなんて、俄には信じがたい事ですが…」
「でも実際に被害が起きているなら、大本営の頭の腐った妄言ではないと思います」
思い思いに好き勝手なことを言っているDeep Sea Fleetを見て海原が続ける。
「今回の作戦場所は秋葉原の歩行者天国、台場鎮守府としては初めての陸上戦になる、ひとつ言っておくが、海上戦と陸上戦は似ているようで天と地ほどの差がある、くれぐれも気をつけて事にあたってくれ」
海原が念を押して言うと、吹雪たちは不適な笑みをこぼして海原に言う。
「何を言いますか司令官、Deep Sea Fleetは白兵戦特化型の艦隊です、おまけに陸上戦の訓練も余所の鎮守府に負けないくらい積んでいると自負しています、もちろんそれで慢心するつもりもありませんが、簡単に負けるつもりも毛頭ありません」
吹雪たちの言葉に海原はフッ…と口の端を吊り上げる、やっぱり俺は部下に恵まれている、改めて海原は思った。
「なら俺から言うことは何もない、Deep Sea Fleet…出撃だ!」
「「了解!!!」」
◇
台場鎮守府を発った吹雪たちは徒歩とバスを使って秋葉原へと向かう、電車は秋葉原駅が封鎖されているため使えない。
「司令官の話じゃ秋葉原駅が防衛戦の本部って事になってるから、そこに行けば色々話が聞けたりするのかな?」
「そうだと思うわよ、多分大本営の連中がいるだろうから、そいつらとっ捕まえて話聞きましょう」
吹雪の疑問に暁がそう答えつつ、一行は秋葉原駅に到着する。
「あの、大本営から出撃命令を受けて馳せ参じた台場鎮守府ですけど…」
その辺をうろついていた大本営の役員を捕まえて話を聞いてみる、なにやら忙しそうにマットレスを抱えて走っていたが、何をしているのだろうか…?。
「おぉ、増援の娘たちか!今は人手が足りないからありがたい、向こうに南雲元帥がいるから、説明を受けてきてくれ!」
そう言って役員はインフォメーションセンターの方を指差すと、またどこかへせわしなく走っていった。
「…とりあえず行ってみましょうか」
「そうね」
今ひとつ状況が飲み込めないまま、吹雪たちは言われたとおりにインフォメーションセンターへと向かう。
◇
インフォメーションセンターに着いたDeep Sea Fleetは目の前の光景に戦慄していた。
「急患の艦娘が通ります!道を空けてください!」
「艦隊を再編成する!白雪、初霜、川内は
「急患です!長門、羽黒、
そこには、大破になった艦娘たちが何十体も痛々しい姿でマットレスに寝かされ、高速修復材や応急手当てで処置を受けている光景が広がっていた。
そこに戦艦や正規空母の姿が多数見受けられる事や、その奥にいる南雲が焦った様子で各所に指示を出している事から、戦況は絶望的に悪いのだという事をDeep Sea Fleetは嫌でも察してしまった。
参考までにJR東日本の秋葉原駅構内図を見てみたんですけど、図で見ると何が何だかさっぱりですね。