艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
秋葉原にはほとんど行ったことがないので今回の話はGoogleマップの秋葉原駅周辺の地図を見ながら書きました、位置関係とかメチャクチャなところもありますが、その辺は許してください。
「それで、戦況は?」
「見ての通りだ、慣れない陸上戦で予想以上に被害が大きい、正直窓際鎮守府の艦娘擬きの手でも借りたい状況だ」
「…状況は把握しました、では私たちはどのように動けばよろしいでしょうか?」
状況を説明する南雲の言い方は所々シャクに触る部分はあるが、吹雪はそれに対する不満を飲み込んで南雲の指示を仰ぐ。
「一番被害の大きい歩行者天国付近は戦艦や正規空母が抑えているからまだ保つ、だから台場鎮守府には末端の道に逃げ込んだ残党を始末して欲しい、近隣住民の避難は終えているが、ひょっとしたら逃げ遅れがいるかもしれない、それにも気を配りつつやってくれ」
「了解しました、取り急ぎ任務にあたります」
吹雪は南雲に敬礼を返すと、三日月たちを引き連れて秋葉原駅を出て行った。
◇
吹雪たちが向かったのは歩行者天国のある中央通りから少し外れた場所にある大きめの通りだ、歩行者天国は主力部隊が中心となって戦闘を行っているが、それを逃れた残党の駆逐棲艦が駅周辺で暴れているらしい。
「で、今回のターゲットはあの駆逐棲艦…と」
吹雪は眼前の敵艦を見据える、大きさは海上で見る駆逐棲艦と変わらないが、その船体の下部からは白い足が4本生えている、オタマジャクシとカエルの中間の姿を想像すると分かりやすいだろう、その不気味な四肢を動かしながら歩き回って砲撃を行う様子はまるで戦車のようであった。
駆逐棲艦であればそう苦戦はしないだろうと考え吹雪たちは戦闘を開始した、まずは敵の砲弾をかわしたり叩き落としたりながら肉薄、といきたかったのだが…
「うわっ!?」
駆逐棲艦の外れた砲弾がアスファルトや近くに建っていたビルのコンクリをえぐり取り、その破片やら土やら砂塵やらが吹雪たちに降りかかる。
「主力部隊が押されてたのはこれが原因か…!」
海上戦と陸上戦の決定的な違いを早くも理解させられるDeep Sea Fleet、海上戦であれば敵の砲弾をかわしても水柱が上がる程度だが、陸上戦ではアスファルトやその下にある地面の土、おまけに建物やその他建造物など、障害になる遮蔽物があまりにも多すぎる。
そして艦娘が陸上戦をするにあたって最も障害になるものと言えるのが移動方法だ、海上戦では艦娘は常に艤装である水上移動装置を装着して水面を滑るように移動するが、ここは陸上戦なので当然自らの足で歩くなり走るなりして戦う、もちろん力の入れ方や重心の取り方、果てはそれに伴う身体の動かし方などの全てが変わってくる。
スケート靴を履いたこともない人間がプロアイススケーターのように滑れないのと同じで、訓練も無しに全く戦い方の違う陸上戦闘を艦娘がぶっつけ本番でやっても、普段通りに戦うなど無理なのだ。
「
「
しかし、Deep Sea Fleetはその
しかし駆逐棲艦は吹雪と三日月の攻撃を食らっても撃沈せず、再び砲撃の用意をするために口を開ける。
「こいつ…!全体的に強化されてるわよ!攻撃力も防御力も既存の駆逐棲艦の比じゃない!」
「駆逐棲艦って言うよりは駆逐戦車だねこりゃ、殴って分かったけど装甲も相当上がってるみたいだし…」
楽に倒せるなどという甘い考えで戦闘を始めた自分達を呪いつつ、どうしたものかと吹雪は頭を悩ませる。
そうしている間にも駆逐戦車は砲弾の
「せいやああぁぁぁ!」
すると、何を血迷ったか大鯨が駆逐戦車に向かって猛ダッシュで近付いていく。
「大鯨!?」
一体何を、と吹雪は言おうとしたが、その手に握られているモノを見て彼女の思惑を察する。
「これでも食らえええええぇぇぇ!!!!!!」
大鯨はその手に持っているモノ…手榴弾を駆逐戦車の口の中に放り込み、すぐさまライフル銃で駆逐戦車の鼻先を撃ち抜く。
狙撃された駆逐戦車は一瞬ではあるが攻撃動作が遅れ、砲撃のタイミングがわずかにズレた、そしてそのわずかなズレが駆逐戦車にとっては致命的な遅れだということには気付いていなかった。
刹那、耳をつんざくような爆発音とともに、駆逐戦車が内側から爆発する、破裂した手榴弾が駆逐戦車の砲弾に誘爆して大爆発を起こしたのだ。
「お掃除完了…です♪」
もはや原型を留めていない駆逐戦車の死骸を前に、大鯨はその場に似合わない笑顔を浮かべていた。
◇
「こちら台場鎮守府、タイムズタワー付近の敵艦を1体撃沈しました」
『了解した、引き続き任務にあたれ』
了解、と返事をして吹雪はPitの通話を切る。
「さてと、それじゃあ駆逐戦車を探しますか」
「もう少し奥の方がいいんじゃないかしら?」
「そうだね、じゃあ向こうの方へ行ってみようか」
吹雪たちは手早く作戦をまとめると、もっと奥の方…首都高速のある方へと向かっていくが…
「主力部隊は真面目に仕事してるのかな…」
「敵が敵ですからねぇ…」
移動してからわずか2分で再び敵艦に遭遇、駆逐戦車が新たに2体都営環状線の踏切に現れた。
今回は前衛と後衛に3体ずつの陣形を作って戦闘を行う、海上と違って道路の広さには限りがあるので6体全員が前に出てしまうとお互いが邪魔になってしまうからだ。
戦闘開始とともに前衛の吹雪、暁、三日月が一斉に砲撃を開始、駆逐戦車には撃たれるとやっかいなので砲撃で怯ませてから近づくようにする。
ちなみに吹雪の主砲はこの前の戦闘で腕ごと敵艦に食われてしまっているので、深海棲器の拳銃を変わりにしている。
3体の一斉砲撃を受けた駆逐戦車のAとBは狙い通り怯んで攻撃動作が遅れた、その隙に吹雪たち前衛が一斉に駆逐戦車を攻撃する。
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吹雪と暁が駆逐戦車A、三日月が駆逐戦車Bに攻撃を行う、そしてさらに後衛のハチ、マックス、大鯨が主砲や拳銃で砲撃を行って追加でダメージを与える。
しかしそれでも駆逐戦車を落とす事は出来ず、駆逐戦車のAとBは大破で止まる、駆逐戦車はダメージに似合わない俊敏さで即座に反撃に移った、前足を器用に使って環状線のレールを掴むと、固定金具もろとも枕木から引き剥がし、鉄パイプを構えるヤンキーよろしくなポーズをとる。
「嫌な予感…!」
吹雪が冷や汗をかいたまさにその時、駆逐戦車がレールをDeep Sea Fleetめがけて振りかぶる。
「うわあああぁぁぁぁ!!!!!!」
「伏せろおおおおおぉぉ!!!!」
間一髪吹雪たちはかわすことに成功したが、近くにあった踏切の警報機が砕け飛び、脇に捨て置かれた自動車のボンネットがえぐり取られた、あんな一撃を食らえば大怪我では済まない。
さらに言うとレール連結部のボルトは外れていないため、駆逐戦車が振り回しているレールは10m強の長さになっている、その様は正に鉄の鞭のようであった、駆逐戦車がレールを振るうたびにアスファルトが砕け散っていき、足場が少しずつ悪くなっている。
「調子に…乗るなああああぁぁぁ!!!!!」
砲撃とレール鞭を交互に使う駆逐戦車に激おこぷんぷん丸な暁が
「
暁が駆逐戦車Aの横っ腹に
「くたばれええええぇぇぇ!!!!!」
撃沈判定となった駆逐戦車Aの亡骸を踏みつけて暁は跳躍、駆逐戦車Bの脳天に
暁の攻撃で駆逐戦車は共に撃沈、完全に沈黙した。
「今回キツすぎるわよ…」
「こんなのがまだ続くって考えただけで気分萎えるわ…」
吹雪たちは全員ため息をつくと、駆逐戦車の撃沈報告をしてさらに移動を開始する。
◇
Deep Sea Fleetが駆逐戦車を倒したのと同時刻、地下水路の中を1体の人型の駆逐棲艦が駆逐戦車を連れて歩いていた。
その駆逐棲艦は駆逐艦娘ほどの背丈をしており、ベアトリスやエリザベートと同じような白い髪を長く伸ばしている。
ベアトリスともエリザベートとも違うその駆逐棲艦は、夢遊病の人間のように朦朧とした意識で妄言のような言葉をぶつぶつ呟きながらフラフラと歩いていた。
『…シれいかン…ウなバらシれイかン…どこデすカ…ドコにいるんでスカ…ドコニ…シレいかン…』
その時、白髪の駆逐棲艦が何かに気付いたように真上を見上げる、何に気付いたのかは分からないが、言葉には出来ない“何か”をその駆逐棲艦は感じていた。
奇しくもその真上の地上には、吹雪たちDeep Sea Fleetが萎えたテンションで南雲に駆逐戦車の撃破報告を行っていたのであった。
『やレ』
白髪の駆逐棲艦は、一切のためらいもなく天井への砲撃を駆逐戦車に指示した。
お気づきだと思いますが、駆逐戦車はゲーム中の駆逐棲艦後期型です、でもゲーム中ではHPがちょっと上がって装備を連装砲に換装してる以外に強化された感じがしません。