艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
艦娘に戻った雪風は今、三日月に膝枕をされながら静かに眠っている、深海棲艦だったときに行った自傷行為の後は残っていなかったが、変わりに
「雪風を艦娘に戻せたのはいいんだけど、ここからどうやって出るかを考えないといけませんね」
雪風の容態を見ながら三日月は言う、残った問題はここからの脱出…地上に戻る事であった、落ちてきた穴から出るのは天井が高すぎるので無理、しかし地上の水を逃がす水路である以上は出入り口のようなモノがどこかにあるはずなのだ。
「出口を探すにしても、どっちにいけばいいかも分からないし、これは下手に動くと危険かもしれませんねぇ」
「でもここでじっとしてても助けが来る可能性は薄いよね、何かしらのアクションを起こす必要はあると思うな」
大鯨もハチも口々に言うが、やはり意見は割れている。
「あ、雪風が目を覚ましました!」
三日月の言葉に全員が雪風を見る。
「…うぅ?」
雪風がゆっくりとまぶたを開ける、その真紅の目が三日月を捉えると…
「っ!?三日月…!?」
勢いよく起き上がり、三日月の顔に自分の顔を思い切りぶつけた。
「…えーと、大丈夫?」
吹雪は心配そうに声をかけるが、2体は顔を押さえて悶絶している事しか出来なかった。
◇
「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風といいます、このたびは助けていただき、本当にありがとうございました」
お互いの顔のダメージが回復した頃、雪風が全員の前で挨拶をした。
「どういたしまして、吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪だよ、これからよろしく」
「はい!」
その後、他のメンバーとの自己紹介を済ませると、雪風は今の自分の現状や台場鎮守府の事などを吹雪たちから聞かされる。
「…つまり、今の私は深海棲艦と艦娘の
「大ざっぱに言うとそんな感じかな、というか
「まぁ…この足を見れば嫌でも受け入れなきゃいけないですし、それで悲観していても何も変わらないので」
そういう雪風を見て、吹雪はしっかりしてるなぁ…という印象を持つ、雪風が前にいた室蘭が元ブラックだったのも影響しているんだろうか。
「それじゃ雪風、ここで提案なんだけど、あなたが良ければ台場鎮守府に…」
「もちろん入ります!」
吹雪がその話しを持ちかけると、雪風は身を乗り出して吹雪の申し出を即答で受ける。
「私がもう一度司令官のお役に立てるんであれば、これほど嬉しい事はありません、是非台場鎮守府にいれてください!」
「う、うん、分かった」
(多分この子、司令官の事好きなんだな…)
一瞬で察した吹雪だった。
◇
「…三日月、本当にこれ使うの?」
「もちろん、雪風の主砲は旧式だから砲撃戦ではあまり活躍出来ないし、
雪風は三日月から借りた深海棲器の
流石に心許なさすぎるということで三日月が深海棲器を雪風に貸したのだが、当の雪風はめちゃくちゃ不安そうである。
「大丈夫だよ、今回の雪風は
「いえ、その護身用の使い方がイマイチ分からないんですが…」
「まぁ、今はレクチャーするような余裕もないし、本当に気休め程度に持っといて」
「不安だ…」
雪風は
「それにしても何も見えてこないね、本当に出口とかあるの?」
すでに30分以上歩いているが、出入り口の明かりなどは見えてこない。
「あるはずだよ、入り口なら排水口みたいな所に出るはずだし、出口なら川なり海なりに出るはず」
「…ねぇ、ちょっと待って」
吹雪がそう言うと、ハチが突然真面目な口調で話を切り出す。
「ひょっとして駆逐戦車たちの進入経路って、この水路じゃないの?」
「…へ?」
それを聞いた吹雪たちは一斉に足を止める。
「そもそもおかしいじゃない、元々地上から湧くように現れたって言われてる駆逐戦車がどうしてこんな地下水路にいるの?それにあんな目立つ駆逐戦車を内陸のアキバに運ぶとすれば手段が限られるわ、海から陸に上がろうとすれば途中で確実に見つかる、かと言って空母棲艦を使って空から運ぶにしても目立ってしまう、つまり誰の目にも付かずにあの駆逐戦車を運ぶには…」
「…地下水路を使って海から直接駆逐戦車を進軍させる…?」
「つまりこの水路全体が、敵の本拠地…?」
そこまで考えた時、吹雪たちは得体の知れない悪寒に襲われ鳥肌が立つ、ハチの推測が正しければ、これからいつ駆逐戦車に遭遇しても不思議じゃない、明るい地上ならともかく、こんな暗い、しかもスペースが限られる地下で戦うなど無理だ。
「…ここからは、あまり音を立てないで静かに歩いていこう」
そうなっては全滅は必至だ、ここは何としても無事に地上に出なければならない、ここからは静かに移動する作戦で行こうとしたが…
「そこにいるのは誰?何者なの?」
暗闇の中から聞こえてきた声によってそれは計画倒れに終わった。
◇
「「っ!?」」
吹雪たちは慌てて声のする方を向くと、闇の中からひとりの人影が這い出るように現れた。
よく見るとその人影は女性だということが分かった、緩くウェーブのかかった長い髪は雪風のような白髪で、それが膝の辺りまで伸びている、黒のライダージャケットに青と黒のチェック柄のスリムジーンズを身に纏っており、パンクファッションの一歩手前…といった感じの奇抜な出で立ちである。
ライダージャケットからはふくよかなバストが激しい自己主張をしており、たいへんけしからん状態だ、恐らく上半身はライダージャケット以外何も着ていないだろう。
そして、ジャケットの袖口から見える白い手がその女性の正体を何よりも分かりやすく表している。
「ベアトリスと同じ言葉を話す深海棲艦、つまり…」
「“姫”級…!」
目の前の“姫”に吹雪たちは戦慄する、先日の緊急会議で新たに制定された艦種…“姫”、圧倒的な能力を持ち、なおかつ人語を使い配下の深海棲艦を統率する知性を持つ、既存の深海棲艦の上位に位置すると言われている特別な艦種だ。
(ヤバい…!これはとてもヤバい!)
吹雪は冷や汗をダラダラ流してこの後の展開を考える、もし目の前の“姫”がベアトリスと同等の、もしくはそれ以上の能力だとすれば、Deep Sea Fleetに勝ち目はない、こいつとは戦ってはならない、戦闘を避けて全力で逃げなければ、ここで全員死ぬ。
吹雪が他のメンバーの方を見ると、全員が吹雪と同じ事を考えていたようで、“逃げよう”という意志がアイコンタクトで伝わる、なら取るべき行動はひとつだろう。
「総員回れ右!逃げろおおおおぉぉ!!!!」
吹雪の合図でDeep Sea Fleetはクルリと180度ターンをして、“姫”からの逃走を図る、そして…
三日月が飛んだ、比喩でも何でもなく、そのまま前方へ飛んでいった。
「…えっ?」
吹雪は何が起きたのか分からずに目を白黒させていた、Deep Sea Fleetと“姫”の間には数mの距離があったはずだ、そして“姫”は艤装のようなモノをなにひとつ身に付けていなかった、つまり…
「もう一度聞くわ、あなたたちは……何者?」
吹雪が振り向いた先には、柄と鉄球の部分が紐で繋がれた、けん玉のようなタイプの
次回「台場艦隊VSエリザベート」
エリザベートの服装は自分の妄想で決めました、画像だと白いボディスーツみたいな格好してましたけど、正直裸にしか見えません。