艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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「提督」の英語発音をずっと「アドミラル」だと思ってたんですけど、ウォースパイトの台詞をよく聞くと「アドマイラル」って聞こえるんですよね、ずっと勘違いしていたのか…。

そう言えばウォースパイトの声優さんがTwitterで公開されてましたけど、声が可愛くて個人的に好きです。


第96話「雪風の場合15」

“姫”の持つけん玉に吹雪は目を剥く、今まで戦ってきた深海棲艦に近接兵装を持つ個体はいなかった、しかしこの“姫”は今までの深海棲艦とは違う、けん玉を見た瞬間それを理解した。

 

 

「とりあえずあなたの質問には答えた方が良さそうね、私は吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪、艦娘よ」

 

 

「へぇ、あなたが艦娘?ベアトリス先輩が言ってたより随分おぼこいのね」

 

 

「多分ベアトリスが言ってるのは戦艦の艦娘だと思うわよ、私は駆逐艦だからちゃっちいけど」

 

 

吹雪は金剛などの戦艦娘を想像しながら言う、出来れば自分も戦艦になりたかったが、吹雪の素体がコレなのだから仕方ない。

 

 

「なら私も名乗らないとね、私はエリザベート、ベアトリス先輩たちの中では唯一の陸戦特化型よ」

 

そう言って“姫”…エリザベートはフフン♪と鼻を鳴らしてけん玉を構える。

 

 

「…出来ることならこのまま見逃してほしいんだけど」

 

 

「残念だけどそれは出来ない相談ね、艦娘と分かればあなたたちは私の敵、生きて帰れると思わない…で!」

 

 

言い終わるか言い終わらないかというタイミングでエリザベートが再びけん玉を振るう、バランスボールほどもある鉄球が猛スピードで吹雪目掛けて飛んできた。

 

「うひゃあ!」

 

 

間一髪のタイミングで吹雪たちはそれをかわす、あの質量があの速度でぶつかってきたら致命傷は必至だろう、しかし威力絶大なけん玉にも弱点はある。

 

 

「もらったァ!」

 

それは、けん玉の鉄球を飛ばしている間はエリザベート側が無防備になるという点だ、いくら威力が高くてもかわして懐に潜り込んでしまえば脅威ではない、エリザベートに肉薄して手甲拳(ナックル)を構えた吹雪は自分の攻撃が当たると確信していた。

 

 

「残念、読みが甘いわよ」

 

 

しかし、その吹雪の確信はエリザベートがけん玉を持っていない左手に構えられた主砲によって砕かれる。

 

 

「がああぁっ!!!!!」

 

 

零距離から砲撃を受けた吹雪が勢いよく後方へ吹き飛んだ。

 

 

「自分が得意としている武器はその弱点を知り尽くした上でバトルスタイルを組み立てて副兵装(サブウェポン)を選ぶの、それでこそ使い手と呼べるのよ、私がそれを理解していないとでもおもった?」

 

 

エリザベートはまだ硝煙の上がっている主砲の砲口をぺろりと舐めながら得意げに語る、相手がそれほどの馬鹿であって欲しいと思っていた吹雪だが、そう甘くはなかった。

 

 

次にマックスと暁がエリザベートに向けて砲撃を行ったが、エリザベートはなれた動作でそれをかわしてしまう、行き場を失った砲弾は水路の壁に命中し、外壁がガラガラと崩れる。

 

「やば…!」

 

 

「砲撃は行わない方がいいかもしれないわね、下手に撃ちまくるとかえって自分の首を絞めかねないわ」

 

 

砲撃が不利だと考えたDeep Sea Fleetはそれぞれ得物を構えて白兵戦へと移行する。

 

 

迫り来る鉄球をかわしつつ、マックスが戦鎚(ウォーハンマー)でエリザベートの腹を狙う。

 

 

「甘い!」

 

 

しかし、それはエリザベートの手に向かって戻ってくる鉄球の一撃によって阻止された、突然背中にぶち当たる質量にマックスはくの字になる。

 

 

「かっ…はあっ…!」

 

 

鉄球をモロに食らったマックスは背骨の折れる音を聞きながらエリザベートの後方へ転がっていく、艤装の加護があるにも関わらず背骨を折る大怪我を負ってしまったマックス、これを生身で食らえば間違いなくミンチになるだろう。

 

 

エリザベートが鉄球を再びDeep Sea Fleetに向けて飛ばしてくる、次は吹雪が前に飛び出す。

 

 

「だりゃあああぁぁぁ!!!!!」

 

 

吹雪は迫ってくる鉄球に手甲拳(ナックル)を打ちつける、鋭い金属音と共に凄まじい衝撃が右手に走った。

 

 

「うぐっ…!」

 

「へぇ、なかなかやるじゃない」

 

 

エリザベートはニヤリと笑うと、けん玉を左手に持ち替え、空いた右手に大振りの太刀を持つ。

 

 

「太刀…!?」

 

「中距離系統しか使えないと思ってたら大間違いよ」

 

 

エリザベートが右足を一歩大きく踏み出して太刀を一閃、吹雪の腹を掠める、直撃こそしなかったが、着ていた服がすっぱりと斬れていた。

 

 

(こいつ、間違いなくやばい!)

 

 

マックスを負傷させた鉄球の威力といい、吹雪の服を裂いた太刀の威力といい、こちらの艤装の加護をほぼ無視で大ダメージを与えてくるエリザベートは相当の手練れだということが分かった。

 

 

エリザベートが鉄球を手元まで戻すと、再びそれを飛ばす、エリザベートに一矢報いるにはあのけん玉をどうにかしないと話にならない。

 

 

暁が棘棍棒(メイス)で鉄球を止める、反動で1mほど後ろにずり下がるが、得物が頑丈なおかげで目立った負傷は負わずに済んだ。

 

 

それをエリザベートが戻す前に吹雪がナギナタでエリザベートに切りかかるが、太刀でそれを止めてしまう。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

さらに三日月が槍斧(ハルバード)をエリザベートに向けて振り下ろす、いくら武器の幅が広くても、このような数の暴力には勝てないだろう、Deep Sea Fleetはそう踏んでいた。

 

 

「…えっ?」

 

 

しかし、三日月が感じたのは骨肉を裂く感覚ではなく、何か硬いものに刃物を打ち付けるようなモノであった。

 

 

「だから、あなたたちは甘いのよ」

 

 

そういうエリザベートの両腕には、腕全体を覆うほどの大きさをした鋼鉄のアームカバーが付けられていた。

 

 

「盾…!?」

 

 

予想外の出来事にその場にいた全員が驚愕する。

 

アームカバーは腕の上部を覆うような作りになっており、大きな一枚板を腕に付けるような光景を想像すると分かりやすいだろう、そのアームカバーには所々に白いラインが入れられており、どこか空港の滑走路を思わせる見た目だった。

 

 

「ぐああぁっ!」

 

 

膠着(こうちゃく)状態になった三日月を突然横殴りの衝撃が襲う、そのまま吹き飛ばされた三日月はコンクリの地面をツーバウンドする。

 

 

一体何が、と吹雪がエリザベートの後方を見る。

 

 

「…黒い、牡丹雪?」

 

 

そこにあったのは、以前ベアトリスが使用したトンデモ性能の艦載機…牡丹雪だった、しかし牡丹雪とはカラーリングが異なっており、機体全体が黒く塗装されている、ライトのような目も赤から淡い緑色になっていた、それが10機ほどエリザベートの後ろに浮かんでいる。

 

 

「『影夜叉(かげやしゃ)』、夜目の利かない牡丹雪の次世代機として作られた半自立型空襲機(サテライト)よ」

 

 

(夜戦特化型…!?)

 

 

吹雪は冷や汗をダラダラと流す、そもそも空母艦娘は夜戦では戦闘に参加できない、艦載機の発艦自体は出来るのだが、艦載機は夜目が利かないので狙いが定まらず味方誤射(フレンドリーファイア)の確率が跳ね上がってしまう、そのため空母艦娘は特別な理由が無い限りは夜戦に参加しないという風潮があるのだ。

 

 

それは空母棲艦の艦載機も同じだと思われてきたが、目の前の艦載機…影夜叉がそれを克服しているのだとしたら、今の状況は圧倒的に不利だ、ただでさえ暗い水路内で視界不良なのに、影夜叉がそれを無視して行動できるなら全滅は必至である。

 

 

「さぁ、楽しい夜会の続きをしましょうか」

 

 

まるで確実に仕留められる豚をなぶる狩人のような調子で、エリザベートは不敵な笑みを浮かべるのだった。




次回「リコリス」

影夜叉は以前ヲ級がタコヤキ艦載機の緑色バージョンを発艦させている画像を見つけたので、そこから来てます、タコヤキの上位互換なんでしょうか…?

てか今のヲ級ってあんなの出すんですね。

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