すると頭の中で『マテ』という言葉が響き渡った。
せっかく覚悟を決めたのにそれを濁らせる様な事をするのはやめてほしい限りだ。
その声の主を探すべく首を左右にゆっくり振って確認するが人間らしい生き物は一人もいなかった。
そもそも頭の中で響いた言葉を捜すと言うのも実に変な話ではあるが…
きっとその『マテ』という言葉は自分の心の弱さが映し出された言葉の声に違いないと思ってもう一度、深呼吸をして包丁を首筋に当てたときだった。
また『マテ』という言葉が聞こえてくる。
そして何か気配がする窓のほうを見たときだった。
『ソレ』はいた。
形容しがたかった。
何故なら人間ではないのだ。
顔と目と体が楕円形のような形をしており耳はとんでもなくおたふく耳。
頭にはちょうちんアンコウの触覚のようなものがあり、口は動物のそれではなく、角のような形をしてた。
楕円形の胴体からは鉄板をつなぎ合わせたかのような腕が2本と同じような形をした足が生えていた。
宇宙人…
言ってしまえるならそうなのだろうが、俺の知っている宇宙人と比べると体系が随分と横に広い。
勿論そんな物が突如目の前に現れたらたとえ自殺志願者でもこのような奇声を発するだろう。
「ぎゃあああぁぁぁああああああ!」
なんたる理不尽であろうか。
どうやら楽にも死なせてもらえないらしい。
きっと俺は捕まってキャトルミューティレーションされてしまうのではないか、そんな恐怖と不安に駆られ包丁を手に持ったまま尻餅をついてしまった。
そして奴は普通にガラガラと戸を開けて入ってきた。
まさか自殺後の発見処理が面倒にならないように警察の入り口として玄関と戸の鍵をかけていなかったのが災いするとは思わなかった。
正体不明の生命体は普通に早くも無く遅くもない速度で俺に近づいてくる。
俺はどこにも逃げる場所が無いことを悟ると立ち上がって奴めがけて突進して包丁で突きを繰り出した。
が、宇宙人は繰り出された突きに対して正対し、バシっと両手で刃の部分を受け止めた。
要するに白刃取りである。
俺は受け止められた包丁に腰を抜かして思わず柄の部分からてを離してしまった。
『マァ、落チ着ケ』
頭の中に言葉が響いてきた。
まさか目の前の生き物が直接脳内に話しかけてきているのだろうか。
『トリアエズ、オ前ヲ、ココカラ連レ去ルゾ』
「やっぱ、キャトる気満々じゃねーか!」
俺がそう言い終ると自宅のマンションの外が白く光りだした。
『来イ、イイトコロニ連レテ行ッテヤル』
こいつは知らない人には安易について行ってはいけませんと言う言葉を知らないのだろうか。
ただ俺はこの時、宇宙船の中が見てみたいと言う衝動を抑えることが出来なかった。
どうせこいつが来なかったなら俺は自分の首を包丁でかっきって死んでいたのだ。
毒を食らわば皿まで…と言うのとはちょっと違うかもしれないがキャトられるのも、まぁ珍しい体験かもしれないなと思うと、何だか悪い気がしない。
だから俺は戸惑いながらもその白い光へ足を運んだ。
それからまもなくすると視界に色がつき始めた。
目の前には人間の日本人と思われる人間が男女一人ずつ。
そして背後には先ほどの宇宙人がいた。
『コレデ全員ダ、出発スルゾ』
そうして窓の外を見ると、とんでもない速度で今まで住んでいた地球と言う星から離れていくのが見えた。
宇宙船の中は白というより灰色に近い色をしていて、特に現代アートのような奇妙な余分そうなものは何一つ見えてこなかった。
「おい、宇宙人、俺たちをどうするつもりだ?」
『私達ガ、育ッタ星へ連レテ行ク』
宇宙人が言うには『育てられた星』で本来は『自分たちの星ではない』らしいのだが俺には何の事かイマイチよく分からなかった。
「どうやら僕らを何処かの惑星に案内したいらしいね」
そう言ったのは自分より随分と背の高い身長180cmくらいの痩せ型の男だった。
「あんたは宇宙人じゃないよな、因みに俺は荒尾忠行」
「僕は
男集が自己紹介をしていて、女性が一人、おずおずと自己紹介をしてきた。
「えっと私は
自己紹介の後は釈然としない重い空気に場を縛られていた。
その後は宇宙人に二日間寝泊りする部屋に案内されて驚愕した。
何故なら今まで自分が使っていた部屋と瓜二つだったのだ。
それもそのはず。
彼の説明によれば他の連中も同様、自室を丸々、宇宙船の中に運び込んだらしい。
流石は宇宙人といったところか、もはや何でもありな気がしてきた。
PCの電源を起動して何か出来るか見てみたが、残念ながら流石にインターネットは繋がっていなかった。
ただの情報処理の箱と化したPCだが気持ちを落ち着けるためにPCに入れておいた曲を起動する。
見慣れた風景と音楽に安心感を覚えた俺は深いため息をついた。
しかし、それもつかの間、何故か部屋の前がノックされた。
「柳田ですが少しよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい、どーぞ」
そう言って俺は柳田さんを部屋に案内した。
だが俺の部屋はお世辞にも広いとは言えないので、折りたたみ式のベットを畳んで部屋の四隅に追いやった。
彼は一言「すみません」と言ってカーペットの上に足を組んで座った。
俺はPCの音楽を切って聞く姿勢に入って「何か?」と一言たずねた。
「荒尾さん、一つお伺いしたいのですが…そうですね単刀直入に聞きましょう。こちらに来ることになったのは自殺が原因ですか?」
俺は顔をしかめた。
それは彼らから聞いたのだろうか。
いや、違う。
柳田さんは俺から彼と同じ何かを感じ取ったに違いないからだ。
「そういう柳田さんも、
俺がそう言うと彼は首を縦に振った。
彼は現役の医学生で実技の成績はほどほどだったらしいのだが大学病院では給料が安く医師が多くて手技などの実践経験ができず特殊な疾患が多くて一般的な疾患が学べないなどといった事による心的ストレス、更には実践経験による将来への不安から遺書を書いて寮の窓から飛び降り自殺を図ろうとした所で宇宙人に連れて行かれたらしい。
俺に比べれば随分と立派な自殺の動機である。
因みに自分は数年間働いていた仕事先を対人関係のストレスで悩まされてノイローゼになり数ヶ月間親の元で生きていたのだが寄生虫のような自分の存在に嫌気が差して気づいたら包丁を持って自分の首を切り裂こうとしていたと言う事態だったのだが、まぁ、残念ながら今も生を謳歌している。
「包丁で自殺とは…随分と勇気のある死に方を選びましたね」
本当にきちんと死ねたかどうかは怪しい。
宇宙人を見て絶叫したくらいだ。
もしかしたら臆病風に吹かれてそのまま包丁を置いた可能性だって十分にある。
そんな思いに駆られているときだった。
どこからともなくチャイムのような音が鳴った後、頭の中に直接声が響いてきた。
『先程ノ、場所へ集合シテクレ』
そうして俺たちは最初の場所に呼び出されたのだが薬袋さんだけは自室から出てこようとしなかった。
多分俺たちのように自殺者だとしたら何か思うことがあるだろうと言うことでそっとしておくことにした。
後に説明は柳田さんに任せることでその場を収めた。
宇宙人の話によると次に行く惑星でやってほしいことは俺はブリーダー、柳田さんは引き続き医学を専門とした職業に従事するように頼まれた。
「おいおい、ブリーダーなんて俺はゲームの世界でしかやったことがないぞ、しかもかなりファンタジーな奴」
『モンスターファーム2ダロウ?』
俺は驚きを隠せず開いた口がふさがらなかった。
更に驚くべきことはどうやら今から向かう先は何の冗談かモンスターファームの世界なのだ。
宇宙人の言葉を信じるならモンスターファームの世界そのものはゲームの世界ではなく実際のもっと別の惑星の話で、彼らはその惑星の生活の一部を題材にしたものをゲーム化するようにTECMOのゲーム開発に携わるスタッフ達に催眠学習を施したらしい。
そうしてモンスターファームというゲームが出来たというのだ。
「モンスターファーム…聞いたこと無いけど、どんなゲームなんだい?」
どうやら勉強一筋っぽい柳田さんには少々疎い話かもしれないので俺が簡潔に説明した。
まずモンスターはゲーム内で得るか、CDを使って誕生させる。
それからファーム(農場)に連れて行きそこで育成の方針を決めて、トレーニングや休養、はたまた技を覚えさせるための修行に連れ出したりする。
ただ、モンスターには寿命があり、その寿命の範囲内で大会に出場させて賞金を稼がなければならない。
当然だが寿命を迎えたモンスターは死んでしまうが、その直前に冬眠させることで死を防ぐことが出来て、更にモンスター同士を合体させることによって、初期パラメーターに色がついたり、本来は修行に出さないと覚えていないような技を最初から覚えていたりする。
「まぁ習うより慣れろで俺の部屋にテレビとゲーム機があるからこの説明が終わったら実際に触ってみてください」
「あぁ、それは大変助かるよ」
それと彼女にも一度触らせておいたほうがいいだろうと言うことを提案して、彼女が落ち着いた頃に触らせることにした。
「そういえば君もそのモンスターなのかい?」
『アア、ソウダ』
「ちょっと待ってくれ、お前のようなモンスターを俺は見たこと無いんだけど」
俺の疑問にそいつはしれっと俺の実力不足であることを指摘しやがった。
どうやらこいつは8段になると解放できるモンスターの種族らしい。
残念ながら5段どまりの俺が知っているはずもなかった。
どうしてもっとベテランの、もっと言えば4大大会を制覇するような人物を向こう側に送らないのかと言う質問に対し、宇宙人は、そんなことをしたら、ただの予定調和になってしまうので6段以下の人物を連れて行くように命じられているらしい。
だから俺が目の前の宇宙人を知らなくても特に問題は無いと言うことだ。
「君はどうして僕たちをそのモンスターファームの世界に連れて行こうとするんだ?」
柳田さんの質問に宇宙人は答えた。
彼曰く、モンスターファームの世界では各国が覇権をめぐって大きな戦争があり沢山のモンスターや人間が死んだ。
その後、ベビーブームが世界各国で起こり最初に人間が増えて、次に各所に埋蔵されていた円盤石が徐々に発掘されて人間は再びモンスターというパートナーを得ることにより徐々に生活が豊かになった。
だがソレに対する弊害もあった。
それは人間が増えることをやめたのだ。
ある日から人口は徐々に減りだした。
何故なら人としての家族やパートナーという枠にモンスターというものが組み込まれたからである。
それは美しい話かもしれないがモンスターは非常に短命な生き物だ。
モンスターは非常に賢い生き物だがモンスターの生命をモンスターが管理するのは非常に難しい。
人間も人間で特に男はピクシー等の見目麗しいモンスターを手に入れた日には溺愛し、奥さんを欲しがらない傾向にあるそうだ。
そうしたものが拍車をかけて世界は急激に人口減少へと追いやられた。
そこで一つの大陸、I(インターナショナル)m(モンスター)a(アソシエィション)は移民政策ならぬ異星人政策を導入することを決断し、宇宙人(メタルナー)を積極的に再生、育成することを条件にそのメタルナーに異性人の確保をやってもらうという事業を開始した。
そうしてその事業の最初の異性人とやらが俺たち日本人らしい。
「責任重大じゃねーか」
俺のその心配にメタルナーは説明をつけたした。
一応俺たちがモデルケースとして採用されることがあるかもしれないが、高い成績を求められるのではなく、異性人がどのような行動パターンを取るかと言うモノサシでしかなく、出来る限り何時も通りの生活をして欲しいと要求された。
「何時も通りっつってもネットが使えるわけじゃないからそれなりに色々頑張らないとな」
理由も分かったところで話は終わり、俺は再び柳田さんを自室に招いてモンスターファームを触らせてみた。
「ふーむ、アクションゲームのように複雑な操作は必要ない、むしろ自身の運に左右されると言うのは、なんだかポーカーでもやってる気分になるね。ただパラメーターが存在する以上、大きな博打に走るのは難しくなる」
そう言いながら彼は俺と同じように序盤の資金ぶりに四苦八苦していた。
「柳田さん、ゲーム機ごと貰っていただけると助かるのですが…」
「いいのかい、でもどうして?」
「その…なんて言うか、予習も大事だと思うんですけど個人的には先入観に囚われずに頑張ってみたいと思うんです。それに、彼女にも触らせる場合、一秒でも長く一緒にいた柳田さんに指導してもらう方が適任かなと思いまして…」
「あはは、別にそんなに長くいたわけじゃないよ、一番最初に彼女が呼ばれて次に僕が呼ばれてそのすぐ後に君が呼ばれたんだ。けど、分かった、そうまで言うなら引き受けよう」
その後俺はメタルナーに風呂とトイレは無いのかと聞くと場所を教えてもらって早速風呂に入り、二人にも場所を教えて俺はこの日、さっさとベットで寝ることにした。
翌日、顔と髪を洗った後にアナウンスが入り目的地の人間とモンスターが住む惑星に到着して各自、準備が出来次第3人とも降下させるとの連絡が入った。
「いつでも準備良いぜ」
「僕も大丈夫だよ」
「その…宇宙船にずっといるのも変な感じですから…大丈夫です、がんばります」
そうして周囲が再び真っ白な風景に包まれたと思ったら今度は何処かの建物のロビーのような場所にいた。
金髪の髪を中央で分けた青い色をした制服姿、もしくはどこか修道僧のような格好をした女性が近づいてきて言った。
「ようこそImaへ、別の星から遠路遥々ご苦労様でした」
こうして俺たちのモンスターファームの世界での生活が始まった。