コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~ 作:あーさぁ
「へぇ、ここで暮らしてんのか──」
クラブハウスで催された歓迎会に出席していたところ、ルルーシュに声を掛けられ連れ出されたカイトは道すがら世間話。しかしルルーシュはといえば、カイトの質問には応えるものの自分から発言しようとしない。
黙ったままクラブハウスを並び歩く二人は、反響する靴音と、時おり外から聞こえてくる運動部の掛け声を流し聞きながら歩き続ける。
「───お前は──」
しかし、ふと気付けばルルーシュは足を止めていた。少し離れてしまったカイトは振り返り、直立のまま顔を俯かせていたルルーシュへと視線を送る。
「──"本当のお前"は、どれだ?」
「質問の意図が分からないね、俺は俺だけど?」
「はぐらかすな。お前の第一印象は頼りないテロリスト、次に会った学園では昼行灯な先輩。しかし屋上でのお前は、どちらでもない。まるで別人のようだった──分かりやすく言おう。お前は力も知恵もあるくせに、わざと道化を演じているんじゃないか?」
「──買い被りだよ」
「─────」
一向に自分の言葉を信じようとしないルルーシュは、黙ってカイトを見つめてくる。カイトの言葉に隠された真意を読み取ろうとしているのか、目線を逸らそうともしない。
──その睨み合い、先に根を上げたのはカイトだった
「俺は別に演じてるワケじゃないよ、テロをしてる時も学園に居る時も、ほとんど素で皆に接してる。ただ、強いて言うなら──俺にも譲れないものがあるってだけ。頭のいいルルーシュのことだ、そこまで言えば屋上の時のコトも何となく分かるんじゃない?」
「────────妹、か」
そう、カイトは自分が持つ全てを妹であるカレンへと注ぐ。本当の心を、生まれ持つ能力を、存在意義でさえ。それが家族愛なのか博愛なのか、はたまた自責の念かは分からない。しかしカイトは、いかなる時でも妹を優先する決意と覚悟があった。
「理由を聞いても──?」
「俺は、本当の兄貴じゃないんだ。俺はシュタットフェルト家の当主と本妻の間に生まれた生粋のブリタニア人、カレンは日本人の母親を持つハーフ、つまり腹違いの兄妹ってワケさ──」
のらりくらりとルルーシュの追求から逃れるのを諦めたカイトは溜め息を吐き、廊下の横、ガラスを通して外へと視線を向けた。外へ特に何かがあったわけではない、その瞳はおそらく過ぎ去った過去へと向けられているのだろう。
「カレンには血の繋がった本当の兄貴が居た、もちろん俺も本当の兄貴のように慕ってた。俺達がテロリストになったのも、リーダーだった兄貴の影響だ。けど、行方が分からなくなってな、たぶん死んだんだろうって皆も思ってる──」
カイトの独白を、ルルーシュは黙って聞いている。記憶の引き出しを開け、過去を思い返して哀愁を漂わせるカイトよりも、その顔は痛々しく見える。
カイトが明かした身内、それも腹違いの兄の死。その事実は、少なからずルルーシュの心へ自責の刃を突き立てていく。腹違いとはいえルルーシュは兄を、クロヴィスを殺してしまったから。
「その兄貴と交わした約束がある、"一緒にカレンを守ろう"ってのがさ──だから、その約束を破るわけにはいかない。たとえどんな手を使っても、俺がどうなろうとも、カレンを傷付けるモノ、傷付けるかもしれないモノには容赦しない」
「──口を挟むようだが、ならば何故、命の危険があるテロリストなど続けさせている?」
「それがカレンの意思だからだよ。優先順位の違いさ、俺はカレンを守る、それは絶対。でも、それは俺の意思であって決意。俺がもっとも優先するのはカレンの意思──だから、俺はカレンにテロリストをやめろとは言わない」
つまるところ、彼の中にある"優先順位"は"自身"が最上ではないのだ。普通の人間ならば時と場合によっては優先順位が変動することもあるが、カイトは決して優先順位を変えない。
「──その果てに、お前が死ぬことになってもか?」
「ああ、もちろん──」
カイトは、ルルーシュの質問に即答する。いつ、いかなる時も、たとえ彼自身が死の縁に立たされようとも決して覆ることはない"約束"という鎖で縛られた優先順位。
「──────お前は、馬鹿だ──ッ!!」
その一途さは、神を盲信する信者のようだ。自分という存在すら稀薄で虚ろ、自身に"個"という価値を見出ださない。ただただ救いを求め手を合わせる信者の如き心、万人から見た彼は狂信者にも映るだろう。
「──ああ、知ってる──」
カイトが思い出したのは幼き日々。貴族の家系に生まれ、父という仮面をかぶる男と、母という仮面をかぶる女に絶望し生きる屍であった頃の記憶。カイト=シュタットフェルトではなく、"シュタットフェルト家の嫡子"でしかなかった日常。
欺瞞と我欲と嘘によって形を整えられただけの、生きていただけの日々。決して晴れぬことはなく、そのまま腐り落ちていくのを待つばかりだった彼は、突如として"光"を得た。
──彼をシュタットフェルト家の嫡子ではなく
──弟と呼び気をかけてくれる義兄
──兄と呼び慕ってくれる義妹
──我が子と可愛がってくれる義母
──かけがえのない
「でも俺が馬鹿となると、ルルーシュも馬鹿って理論になるよね?」
「───は?」
先ほどまでの雰囲気を払拭しようとしてか、カイトが笑いを噛み殺しながら努めて明るい声質をもってルルーシュへ指を指す。
その言葉の意図と意味が分からず、ただ疑問符を浮かべるルルーシュだったが、カイトは悪戯っぽく噛み殺せなくなった笑みのままに言葉を続けた。
「いやだって、お前も妹のナナリーちゃんが最優先だろ?」
「ああ、もちろん────あっ──」
カイトの質問に即答したルルーシュは、はたと気が付いた。妹を最優先にして自分を犠牲にするカイトを馬鹿呼ばわりしたのだが、その思いは自分と同じだったことを。そして、その理論とカイトが言いたいことを察したルルーシュは笑いが堪えられない、腹の奥からせり上がってくる衝動を押さえようとするも敵わない。
「そうだな──俺も、馬鹿だな──」
誰も居ないクラブハウスの廊下に、カイトとルルーシュの笑い声が響く。
この時、ルルーシュの心境に変化が訪れていた。決して気を許すことはないと考え、どうやって処理しようかと悩み、ただの厄介な存在としてしか考えていなかったカイト。彼のことを少しだけ理解できた今となっては、ルルーシュにとってカイトは厄介な存在などではなくなっていた。
──あえて言葉をつけるならば
──"信用するに値する存在"
ほぼ全ての者が抱く様々な欲、それは裏切りを引き起こす起爆剤だ。しかし、彼には欲がない。行動するのも、思考するのも、全ては妹のため。昼休みの屋上でその片鱗を覗き見たルルーシュは、彼が決して"約束"を破らないと理解した。条件はあるものの、越えてはならない一線を守れば彼が自分を裏切ることはないという確信があった。
──ルルーシュは、"仲間"を得た
同時に彼は、頭の中で組み上げていた計画と目的を少しだけ修正した。母の死の真相を究明すること、ブリタニア皇帝への復讐、それを第一として考え練られていた計画は大きく変動した。
(そうだ、俺は、ナナリーのために──)
新たに固められた決意、自分一人では気付くのが遅れていたかもしれない生きる意味、本当に大切なモノ。
いつしか二人の笑いの衝動は緩やかとなり、少しだけ静かになった廊下。改めてルルーシュはカイトを仲間としようと、助けを乞おうと口を開く。
──しかし言葉が紡がれるより先に
──カイトとルルーシュを呼ぶ大きな声が
──廊下へ大きく響き渡った
「おーい、ルルーシュッ!? せんぱーいッ!?」
その声はリヴァルのもの。少しずつ近付いてくる声は、開きかけたルルーシュの口を閉じさせた。
「話は後だ、何かあったらしい──」
声の様子からすると、かなり緊迫した様子だ。何が起こったのかは分からないが、ただ事ではないだろう。そう感じたルルーシュは、話を終わらせ踵を返す。
「みたいだね、とりあえ戻りますか──」
「ええ、そうですね。行きましょうか、"先輩"──」
何故か"先輩"という単語を強調したルルーシュ、少し変わった彼の態度に眉根を寄せるカイトだったが、あえて言葉にすることはなかった。
──そのまま二人は、来た道を戻る
──少しだけ変わった二人の関係
──廊下を並び歩く二人を祝福するように
──窓から差し込む陽光が彼等を照らしていた
~scene out~