コードギアス 反逆のルルーシュ ~全ての命に祝福を~   作:あーさぁ

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Phase17

 

 夜、時おり肌寒い風が窓をガタガタと揺らす部屋、唯一の光源は淡く光を帯びるディスプレイのみ。その傍らのパソコン本体は増設に増設を繰り返されたのか、机上どころか床にまで配線が伸びる巨大な電子機器の塊と成り果てている。

 

「──よし、ノルマ終わりっと。コーヒーでも淹れてくるか」

 

 そんな化け物じみたパソコンへ椅子に座り相対していたカイトは、その言葉と共に立ち上がる。長時間の作業で固まった体をほぐしながら向かうのは、部屋と廊下を繋ぐ扉。

 

 雑多なモノが散乱するお世辞にも綺麗とは言いがたい部屋、その足場を難なく潜り抜けたカイトは自室の扉を開け廊下へと出る。すると暗い自室に慣れていた目が、廊下の光源に刺激され眩しさを覚えた。

 

「──ッ──」

 

 その時だ、ふと横合いの扉が開かれる、その部屋は洗面所であり浴室。時刻は間もなく日を跨ごうかという深夜の頃合いということもあり油断していたのだろう、"お互いに"。

 

「─────あ」

 

「──────え?」

 

 洗面所から出てきたのはカレン、その格好は年頃の男にとっては刺激的すぎる下着姿。カレンの両手にはパジャマと思わしき服が掛けられていることから、おそらく風呂上がりの火照った身体を冷ましがてら廊下で着るつもりだったのだろう。

 

 ほぼ裸に近いカレンが身に付ける下着は共に純白、それは彼女の素肌と引き締まった肢体を際立たせていおり、深夜という時間帯のせいで周囲が仄暗いのに加え、廊下の光源が少ないのも手伝ってか官能的な姿。

 

 予期せぬ相対は時間にして、わずか数秒。しかし二人とも咄嗟には動かない、というより予想外の事態に思考がフリーズしてしまったのだろう。

 

「──ッ──わ、悪い──ッ!!」

 

「────ッ─────ッ!!」

 

 二人が状況を把握したのは、ほぼ同時。カイトが視線を逸らすとカレンは呆けた表情を一変、顔どころか耳まで真っ赤にして慌ただしく洗面所へと飛び込んでいった。

 

 それを見届けてから、カイトは壁へ手を突く。あまりにも予想外で、あまりにも刺激が強いハプニングに遭遇してしまったせいで心臓が早鐘を打ってしまう。おまけに顔と耳が熱い、おそらくカレンと同じように自分の顔と耳も赤くなっているのだろう、と彼は苦笑する。 

 

(おっと、また鉢合わせする前に──)

 

 とはいえ、いつまでも廊下に居るわけにもいかない。気を取り直した彼は踵を返し、リビングへと向かう。

 

「あらあら──」

 

「あれ、まだ起きてたんだ──」

 

 リビングへの扉を開けると、座布団へ腰掛けていた女性がカイトの方へ振り向いた。彼女はカイトの義母であり、カレンの実母。柔らかい物腰と柔和な笑みは、見るものに安心感を与えてくれる。

 

「もう少ししたら寝るつもりだったわ。それより、何かあったの? ずいぶんと顔が熱い赤いようだけど、まさか風邪でも引いた?」

 

 作りかけの造花を置きカイトへと向き直る義母は、カイトの顔を心配そうに覗き込んでくる。心配してくれるのは嬉しかったが、顔が赤い理由を問われるとカイトは視線を外してしまった。風呂上がりで半裸だった妹と鉢合わせした、なんて理由を正直に言えるはずもないだろう。

 

 

「あ、いや、風邪じゃないから大丈夫。えーっと──」

 

「──スケベ」

 

 扉を開けたまま弁明を考えていたカイトだったが、声に気付くと自分の脇を通りすぎていくカレンの後ろ姿が視界の端から入り込んでくる。途中、風呂上がり独特の香りがカイトの鼻腔をくすぐった。

 

「もぉ、聞いてよ母さん。さっき──」

 

「────ッ──ちょ、おまっ──ッ!!」

 

 そのままカレンは横のカイトを指差し、非難するような表情を母へと向けた。その言動を隣で見聞きした瞬間、カイトは絶句。この流れはマズい、このままでは全面的に自分が悪いという流れが生まれてしまう。そう察したカイトが待ったを掛けるも──

 

「あらあら、そうなの──」

 

 時すでに遅く、先ほどの顛末を聞いた母は口元を手で隠し驚いた様子。恨みがましくカレンを見つめるカイトだったが、それに気付いた彼女はしてやったり、と舌を出してきた。

 

「でも、服を着ないで廊下に出たカレンも無防備すぎる気がするわよ。お兄ちゃんだから良かったものの、これがボーイフレンドだったらと思うと──お母さん、心配だわぁ」

 

「────ふぇッ!?」

 

 母強し、カレンの思惑はド正論で論破された。まさにその通り、とカイトは心の中だけで頷く。「ぐぬぬ」と悔しそうに睨んでくるカレンを尻目に、勝ち誇ったようにカイトはドヤ顔で応戦。

 

 その時、カイトのポケットから電子音が聞こえた。取り出すと、それは携帯電話。表示されているのは、"ルルーシュ"という文字。

 

「悪い、ルルーシュからだ──あ、おやすみ二人とも」

 

「あらそう、おやすみ、カイト──」

 

「あ、こらカイ兄ッ!! 卑怯者ォ、逃げるなァッ!!」

 

 ひらひらと母、カレンへ手を振りカイトは踵を返した。背中へカレンの罵声を浴びながら、逃げ込むように自室へ戻ったところで携帯電話のボタンを押す。

 

「よう、ナイスタイミングだルルーシュ──」

 

『──は?』

 

「あ、いや、こっちの話──」

 

 深夜に来たルルーシュの電話、それは偶然ではない。話は生徒会メンバー+αで歓迎会の最中、ルルーシュと話していた時にリヴァルへ呼ばれた頃まで遡る。

 

 慌てた様子だったリヴァルが伝えたかったのは、エリア11の総督であるクロヴィスの死を伝える報道。全員がテレビのニュースへ釘付けだった時に、ルルーシュから『今夜、電話する』と伝えられていたのだ。

 

「いきなり電話するって言われたから色々と思い出してみた。やっぱ昼間に見たニュース、あれが関係してるんだろ──あの犯人、枢木スザクだっけ。あいつ、地下鉄でブリタニア軍に撃たれた名誉ブリタニア人だろ?」

 

『ああ、やはり見ていたか、その通りだ。クロヴィスの死去を報道するのが遅かった理由は、おそらく"コレ"のせいだ』

 

「完全に冤罪だよな、クロヴィスは俺達が殺した」

 

『ああ、そうだ──"コレ"は、仕組まれている』

 

「だろうな、会見してた軍人のこと調べてみたよ。ジェレミア=ゴットバルト、割と有名な軍人の家系で身分は辺境伯。でもって軍部では──」

 

『純血派で通っている。つまり、クロヴィスを殺された市民の怒りをブリタニア軍から名誉ブリタニア人へと移す思惑だろう──奴等からすれば世論の追及を避わせる、おまけに名誉ブリタニア人の軍部撤退のトリガーと成り得る、いわば一石二鳥という目論見なのだろう」

 

 カイトは、そこまで話すとパソコンへ相対する。たしかに一石二鳥に見える計画、しかしカイトは、さらに深く事態を分析していた。

 

 彼がスリープモードへ入っていたパソコンを再起動させキーボードへ指を滑らせると、ディスプレイへいくつかのポップアップが上がってくる。それは、何枚かの顔写真だった。

 

「それだけじゃない、犯人にされた枢木スザクってのは前日本国首相、枢木ゲンブの息子だ。レジスタンスへの見せしめの意味も合わせると、一石二鳥どころか一石三鳥だよ」

 

『────ああ、分かっている』

 

「────え?」

 

 電話口の向こうから聞こえたルルーシュの絞り出すような声、それを聞いたカイトはキーボードへ走らせていた指を止める。

 

『枢木スザクは、俺の友達だ──』

 

 ああ、そうか、とカイトは納得する。ルルーシュは子供の頃、まだエリア11という国がなかった頃に留学という形で日本へ来たという身の上話を思い出したからだ。かたやブリタニアの皇子が、名目はともかく日本へ来るというのなら当時の日本国首相と面識があって当然。

 

 ただ、よりにもよって元首相の子供と友達とは、さすがのカイトも苦笑は隠しきれない。

 

「まいったね、どうも──ってことは?」

 

「ああ、俺はスザクを助けたい」

 

 カイトがキーボードを操作しディスプレイへと表示させたのは、当時の新聞。そこには枢木ゲンブの家族が写っており、首相の子供、幼き日の枢木スザクらしき姿もあった。

 

 さて、とカイトは考え込む。ニュースでは枢木スザクを軍事法廷のために連行する、という予定が報道されていた。これは間違いなく、レジスタンスへの挑発、罠と言ってもいい。

 

 助けたい、という言い方からルルーシュが自分へ助けを求めているのだと感じることはできる。しかし、出来ることなら、そのままスルーしたいというのが彼の本音だ。

 

「────勝算は?」

 

『ある。ブリタニアを叩く計画を前倒ししなければならないが、スザクを助け出す計画は練った──あとは、計画を遂行するための人数が欲しい』

 

 聡明なルルーシュのことだ、すでに何らかの策は用意してあるだろう、というカイトの予想は的中した。彼が言うブリタニアを叩く計画とやらにも興味はあったが、まずは目の前の事柄に対応しなければ。そう考え至ったカイトは、溜め息混じりに天井を仰ぎ見た。

 

──そして

 

「分かった。けど俺だけじゃ無理だろうから、リーダーと話をしてほしい。そうすれば、大手を振って俺も手伝えるからな」

 

『ああ、それで構わない。では、お前達のリーダーへ伝えてくれ。謎の声から連絡が来て、"明日の12時に東京タワーへ仲間と共に来い"と言っていたと──』

 

「ん、了解だ──じゃ、今日はここまでかな?」

 

 話は着いた、そう思って携帯電話を耳から離そうとしたカイトだったが──

 

『ああ────カイト、ありがとう』

 

 小さく、けれど確かに聞こえたルルーシュの感謝の言葉。恥ずかしげもなく聞こえた感謝の言葉は、無意識のうちにカイトの口元を綻ばせる。

 

「どういたしまして。じゃ、また明日」

 

『──ああ』

 

 今度こそ通話を切り、カイトは携帯電話を机上へ置いた。それと同時に腰掛けていた椅子の背もたれへ体重をかけ、薄暗い部屋の天井を再び仰ぎ見る。

 

(さて、どうなることやら──)

 

 言わなければならないこと、やらなければならないこと、それを整理しているのだろう。しかし、それも数分ほど。ようやくといった様子で椅子から立ち上がると、彼はベッドへとダイブ。

 

(あー、眠ィ──)

 

──うつ伏せのままベッドへ横になったカイト

 

──彼は、そのまま

 

──うっすらと襲ってくる眠気に身を任せ

 

──ものの数分で、意識を手放した

 

 

 

~scene out~

 

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